ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方 作:amon
フレイザード率いる氷炎魔団を撃退して数日――また平和なパプニカが戻ってきた。
今回はフレイザードをさっさと倒したおかげで町や城に目立った被害もなく、復興と言うほど大袈裟な作業もなかった。
だがあの襲撃以降、王国側の姿勢は随分と変わっている。氷炎魔団が退却していった後、俺とヒュンケルを交えて軍議が開かれ、今後の方針について話し合われた。
「不死騎団に続き、氷炎魔団をも失った今、流石に魔王軍も事態を重く見ているはずだ。もうこれまでの様に、魔王軍に対して受け身で居続けるのは得策とは言えないだろう」
実際、後手に回ればジリ貧だと俺もヒュンケルの案に賛成した。内に「とっとと平和の世に戻してレストランと宿の経営に戻りたい」という本心もあったが、それは口に出さなかった。
ともあれ、今後の方針はぼちぼちこちらからも反撃に出る事を考える方向で進んだ。
その第一歩として、ヒュンケルが単身魔王軍の動向を偵察に向かった。ヒュンケルの話によれば、魔王軍の本拠地『鬼岩城』はパプニカ王国があるホルキア大陸から海を挟んで北上したギルドメイン大陸の中央を走る『ギルドメイン山脈』の奥にあるという。何か情報を掴んだら、『キメラの翼』を使って報告に戻ってくるという事になっている。
次いでレオナの提案で、装備と人員の充足が図られる事になった。
「今の私達には、武器も人数も足りなさ過ぎるわ。焦って攻め込むより、力を蓄える方が先決よ」
実際、魔王軍の軍団長とまともに戦えるのは俺だけというのが現状……俺を除けばパプニカ最強であるはずの三賢者達は、残念ながら3人掛かりでもフレイザードに手も足も出なかっただろう程度の力量しかない。俺は敢えてこの事実を三賢者達に突き付けた。
「本来パプニカを守る最大戦力であるべきお前達がその程度では、はっきり言って話にならない。恨み言になってしまうが、一応は一般人である俺が戦闘に駆り出されてしまうのはお前達の怠慢が原因だ。もう少ししっかりしろよ」
この様に厳しい言葉をぶつけた時は、流石に3人揃って落ち込んだ様に俯いたが、すぐに筆頭のアポロがこう返してきた。
「エイト殿!恥を承知でお頼み申し上げる!我々を鍛えて頂きたい!!」
その場で土下座をかましたアポロに続き、マリン・エイミの姉妹までが続いて土下座してきた事で断れる空気ではなくなり、俺は溜め息を吐きつつ了承した。『急がば回れ』……ここで三賢者をレベルアップさせておけば、戦闘における俺の負担も少しは減るかも知れないと考え、以降、俺はそこそこスパルタに三賢者を鍛えている。
「「「ゼェ、ゼェ、ゼェ……!」」」
「オラ、この程度で疲れるな。『ハッスルダンス』――そ~れ!ハッスルハッスル♪――さあ回復したろ。立て」
「「「ヒィィ!?」」」
時間が惜しいので効率アップ。体力の限界ギリギリまで訓練させ疲れたら回復させてまた訓練――これを1日中繰り返している。精神も鍛えられて一石二鳥だろう。
「が、頑張って!アポロ、マリン、エイミ!きっともうすぐ勇者が来てくれるから!」
レオナが憔悴する三賢者達を慰めた。
「あ、ああ……いつも話されている少年の事ですね。確か……『ダイ』……」
アポロが絞り出す様に言ったその名前は、俺も以前レオナが店に食事に来た時に聞いた事がある。
「そう!ちょっと背が低いのが難点だけど、それなりに勇者してるし、結構頼りになるはずよ」
「希望の勇者にしては、酷い言われ様ですな」
「「「「はははははっ!」」」」
アポロ達をそんな軽口で笑わせたレオナ。その時も合わせて、ダイ少年の事を話す時のレオナは実に活き活きとした良い表情をする。きっと、そのダイ少年が好きなのだろう。勇者×お姫様は、ドラクエの定番だな。
さておき、実際問題、勇者には早く合流してもらいたいものだ。三賢者達はスパルタ修行の甲斐あって確実に力を付けてはいるが、まだまだ軍団長に及ぶとは思えない。レオナが認める程の資質を備えたダイ少年には期待が持てる。
それにパプニカ王も言っていたが、ダイ少年の元にはその資質の開花を促すべく世界一の家庭教師を送り込んであるとか……。世界一の家庭教師とやらの詳細については聞いていないが、まあ一国の王が世界一と称する以上、相応の教育力を持つ人物だろう。
何にせよ、今はとにかく待つしかない。当分は三賢者の修行に掛かりきりで、レストランと宿はスタッフに任せているが……早く戻りたいなぁ。ウチのスタッフ達を疑う訳じゃないが、長く離れると店に居場所が無くなるのではないかという不安が……。
不安に思うと店に顔を出したくなる――という訳で、マイホーム『双頭のドラゴン亭』の様子を見に、俺は町に降りた。
だが、店に向かう途中、ふと気になる話を耳にする。
「ねえ、聞いたかい?外国の船が港に近づいてるらしいよ」
「まあ、本当?」
奥様方の噂話だが、内容が気になった。このところ魔王軍の影響で、他所から船が来なくなっていた。他の国も魔王軍の侵攻を受けて、渡航船を出す余裕はなかっただろうし、海のモンスターに襲われる危険もある。
そんな中で船が渡って来るという事は……その船の属する国が魔王軍を撃退したか、そうでなくても何か重要な仕事を請け負って渡ってきた船という事だろう。
「見に行ってみるか」
俺は方向転換し、港へ向かおうとした――その時。
『うわあああぁぁッッ!??』『きゃあああぁぁッッ!??』
何の前触れもなく少し遠くの方で爆発が起こり、町民達の悲鳴が聞こえてきた。
「くそ!また魔王軍か!?」
すぐさま近くの建物の屋根の上に飛び上り、確認する。案の定、港へ行く通り道の先で巨体のモンスターが暴れ、町を破壊していた。ドラクエシリーズでは見た事のない黒い牛のモンスターだ。生意気に白に金縁の装飾が入った騎士風鎧を着込み、巨体に見合うサイズのハルバートを振り回している。
「ッの野郎!!」
剣を引き抜き、鎧と盾を呼び出し、脚力と『トベルーラ』で一直線にそのモンスターへ向かう。
「ッ!?」
途中、背中に殺気を感じ急上昇――直後、俺がいた所を青黒い鱗のドラゴンが通り過ぎた。
『ギュワァァァッ!!』
旋回して俺の方を向くドラゴン。背中に剣を持ったガーゴイルを乗せている。ガーゴイルがドラゴンライダー?見た感じ、ドラゴンの方が圧倒的に強そうだが……。
「うおっと!?」
今度は金属の円盤が飛んできた。身体を捻って回避し、飛んできた方を見れば、牛モンスターと同等の巨体を持つ全身甲冑がいた。暗黒闘気の気配から察するに、多分“彷徨う鎧”とかの亜種モンスターだろう。
「うッ!?」
今度は炎と冷気!地面へ高速移動して回避――度重なる不意打ちに軽く頭にきた。
「いい加減にしやがれッ!!」
「フハハハハッ!」
着地と同時に叫びながら顔を上げると、三節棍を振り回す魔族と思しき青い肌の男……目元を隠す仮面をつけ、胸当てのみを装備した軽装、格好も滲み出る雰囲気も軽薄そうだ。
黒牛、ドラゴンライダーガーゴイル、デカ鎧、三節棍男……4体に四方を囲まれる形になった。どいつも並のモンスターではなさそうだ。もしかすると魔王軍の他の軍団の軍団長か?いや、違うか……ヒュンケルから聞いた特徴と一致する奴がいない。
いやいや、何だろうと知った事ではない。こいつらはパプニカに攻めてきた敵――ならば『悪・即・斬』だ。
「『バイキルト』『ピオリム』」
被害を抑える為にも、初めからとばしていく!
「フッッ!!」
先ずは正面にいる三節棍男――超高速の踏み込みで肉薄し、脇から肩にかけて右切り上げでぶった斬る。
「あ……?」
次の瞬間、三節棍男の身体は斜めにずれ落ち、地面に倒れた。
「『「なッ!?」』」
他3体から驚きの声があがるが、その時には既に俺は動いていた。次に近かった黒牛に肉薄し、超高速ですれ違いざまに胴を斬り裂く。
「ガブッ、ォ……!??」
黒牛が上半身と下半身で分断され倒れる前に飛び上り、すかさず『トベルーラ』でガーゴイルへ向かう。丁度ドラゴン首と奴の首が直線状――飛翔の速度をそのままに、刹那の時間差でドラゴン・ガーゴイルの順に首を斬り落とした。
『ギ……!?』「……バカ、なぁ……!?」
最後にデカ鎧、数瞬どう倒すか迷ったが物理攻撃より特技で攻撃する事に決めた。
「『ジゴスパーク』!!」
『ギガデイン』すら超える強力な電撃技をデカ鎧に喰らわす。ただし1発ではなく連発――。
『グガガガガガガガガガガアアァァァァァッッッ!!???』
地の底から絶え間なく次々と呼び出される地獄の雷に曝され、デカ鎧がくぐもった声で絶叫する。この技の利点は、『マホカンタ』等の反射型防御呪文が効かない事だ。故に、仮にこのデカ鎧が『ミラーアーマー』の様な特性を備えていたとしても、『ジゴスパーク』の前には何の役にも立たない。
『………………』
10発ほど撃ち続けると、デカ鎧は全身が黒焦げになり、やがてボロボロと崩れていった。
「よし、始末完了」
『ジゴスパーク』で少々辺りが黒焦げになってしまったが、町民達は既に逃げ出した後で誰もいなかったし、先に瓦礫の下敷きになった人がいない事は確認済み。後は最初の奇襲で出た怪我人を治療すれば、大丈夫だろう。死者が出ていないと良いのだが……。
ともあれ、戦闘終了という事で俺は剣を鞘に納めようとした――だが、それは再度の爆発音で止められた。
「ッ!今度は何だ!?」
納めかけた剣を抜き直し、音の出処を探す。そして異変はすぐに見つかった、王宮の方で煙が上がっている。
「しまったッ!」
瞬時に『ルーラ』で王宮へ飛ぶ。さっきの連中は陽動、本命は王宮の襲撃だったか!くそッ、間に合ってくれ!!
「っ……!」
瞬間移動で王宮の城門前に着いた時、既に戦闘の気配はしなかった。『トベルーラ』で城門を飛び越え、煙の出処――王宮の中庭へ飛ぶ。
「ッ!遅かったか……!」
中庭は既に瓦礫と倒れた兵士達で、惨憺たる有り様だった。敵と戦ったであろう兵士達は殆どが瀕死の重傷……その中には、レオナやアポロ達三賢者も含まれている。
「レオナ!アポロ!マリン!エイミ!」
「ぅぅ……え、エイト、殿……」
「申し訳……ありま、せん……」
「ひ、姫様……が……!」
レオナが……!?待て、話を聞く前に彼らを治療しなければ!
「待ってろ!『ベホマズン』!!」
中庭の中央に立ち、仲間全員を完全回復させる究極の回復呪文を唱え、その場で倒れ伏していた者達を一気に治療する。すると数秒で全員の傷が完治し、それぞれ立ち上がっていく。
「お、おお……!傷が消えた!」
「す、凄い!この人数を同時に回復させるなんて……!」
「なんて呪文だ……!」
兵士達が自分達の身体を確認し、それぞれ感嘆と安堵の声を上げる。そんな中、三賢者達は焦りの表情を浮かべていた。
「ッ、姫ッ!!」「「姫様ッ!!」」
傷が癒えたアポロ達は慌てて立ち上がると、傍らで倒れたままのレオナに駆け寄っていく。何故、レオナだけ目を覚まさない!?気になった俺も、三賢者に続いた。
「姫様!?姫様ぁ!!」
「姫様っ!」
マリンとエイミが、気を失ったレオナを抱き起こし声をかけるが、全く反応が無い。おかしい、『ベホマズン』は確かに効いているはずなのに何故レオナだけが……それに、レオナの顔色も奇妙だ。まるで生気が感じられない。
「一体何があった!?説明してくれ!」
「それが……」
俺がアポロに事情を尋ね、アポロが答えようとした――その時だった。
「レオナぁぁーーーーッ!!!」
『!?』
レオナを呼ぶ少年の叫び声が中庭に響き渡り、その場の全員がそちらへ振り向く。
そこには少年2人に少女1人という奇妙な3人組が息を切らせて立っていた。1人は短い黒髪で頬に小さな十字傷、青い服に軽装の鎧を着込んだ10歳かそこらの小さな少年。1人は少々長めの黒髪で黄色い鉢巻を額に巻き、緑の服に黒のマントを羽織った生意気そうな15歳ぐらいと思しき少年。1人は桃色でセミロングの髪、スカート丈が大胆に短い服を着て槍だかメイスだかよくわからない武器を携えた15歳ぐらいと思しき少女……一体何だ、この子らは?
「……何だ?君達は?」
他より少し早く困惑から立ち直った俺が代表して尋ねた。すると、驚くべき答えが返ってくる。
「おれ、ダイっていいます!!」
「……ダイ!?」
青い服の少年が名乗った名前に、俺もアポロ達も驚かされる。まさか……この子がレオナが言っていた『デルムリン島』のダイ少年!?
今代の勇者?との邂逅の瞬間だった……。