ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方 作:amon
「フレイザード!!」
フレイザードに対した俺の横に、ヒュンケルが走り込んでくる。
「あっ?ヒュンケル、てめえ生きてやがったのか!クックックッ、ざまあねえな!不死騎団壊滅の大失態を犯しておきながら、おめおめ生き恥を曝した挙句、その様子じゃあパプニカ王国に寝返りやがったみてえだなぁ!この裏切り者が!!」
「ふん、何とでも言え」
「クカカカカカッ!丁度いいぜ!!事のついでだ、てめえの息の根も止めてやらぁ!!大体てめえは昔から気に入らな「『ギガスラッシュ』」があぁ――!!??」
ごちゃごちゃ喋りまくって隙だらけだったので、必殺剣をぶち込んでやった。綺麗に決まった。ゲームでは特技に会心の一撃はないが、これは会心の一撃と言って良いだろう。粉塵に姿が隠れて見えないが、まあ仮にも軍団長だ。ダメージは追っても死にはしないだろう。
「え、エイト……?」
「ヒュンケル、このバカの相手は俺1人で充分だ。お前は兵士達を援護しろ」
「し、しかし……!」
「おいおい、お前を1人で圧倒した俺の心配なんて、10年早いじゃないか?」
「っ!……そうだったな。すまん」
「早く行け、兵士達を助けてやれ」
「分かった!」
強く頷き、ヒュンケルはモンスター共と戦う兵士達の方へ駆けて行った。
「……さて、と」
「クワァァァーーーッ!!!」
粉塵を振り払って、フレイザードが姿を現す。『ギガスラッシュ』は完璧に決まったはずだが、見た目は元のままだ。
「はぁ……はぁ……!」
だが、奴の息は荒い。見た目は無事でもダメージは負っている様だ。再生して姿だけは戻したというところか。つまり、エネルギー消費無しで再生するなんてチートな不死身の化け物ではないという事……そして、奴はエネルギー岩石生命体とかいうハドラーが作り出した特殊モンスター……詳細は分からないが、ああいう化け物は大抵、体内にコアだの核だのがあり、それを潰せば死ぬものだ。
つまり倒す方法は2通り――
「はぁ、はぁ……や、野郎ぉ!」
「『ギガスラッシュ』」
「ぐああああッッ!!??」
容赦などしない。再生の隙すら与えず、削り潰してやる……!
「『真空波』」
再び舞い上がった粉塵を吹き飛ばし、フレイザードの姿を確認する。腹の部分がごっそりと無くなり、胸から上と腰から下に分割して地面に落ちていた。
勿論、再生の隙などくれてやらん。
「『イオラ』!!」
「カ――ッ!?」
爆裂呪文を連続で叩き込み、更に細かく粉砕する。あまり呪文のランクを上げたり、込める魔力が多過ぎると周囲に被害が及ぶので、ギリギリの加減を見極めなければならないのが少し面倒だが、この分ならすぐに決着が付く。このフレイザードとかいう奴、ヒュンケルに比べて全然手応えがない。恐らく、戦闘力よりも不死身に近い再生力の方が売りなのだろう。
そんなもの、俺の前では何の役にも立たないがな。
「ガアアアァァァァッッッ!!!!」
ヤケクソ気味のフレイザードの叫びと共に、巻き起こった爆風が俺の『イオラ』の爆発を跳ね除けた。
『ハア、ハア、ハア!……ち、ちきしょうぉぉ……!!』
爆煙が吹き飛んでも、何故かフレイザードの姿が無い。しかし、どこからともなく奴の焦燥に満ちた荒い息遣いと声が聞こえてくるし、気配も近くに感じる。『レムオル』か何かで姿を消しているのか?再生の時間稼ぎか?
「むん!」
試しに指先を前に向け、『凍てつく波動』を放射してみる。だが、フレイザードの姿は一向に現れない……どうやら呪文の類で姿を消しているのではなさそうだ。
『ハァ、ハァ……ク、カカカ、何だか知らねえが、そんなチンケな技じゃあ、ハァ、ハァ……こ、このオレの最終闘法『弾岩爆花散』は破れねえぜ!!残念だったなあ!!クカカカカカッ!!ゼェ、ゼェ……!』
威張っている割には息切れが激しいな。ダンガンバッカザンとやらがどんな技なのかはまだ分からないが、最終と冠する以上、これが奴の奥の手、最終手段なのは間違いないだろう。来たばかりでそれを使わざるを得ない程、既に奴は追い詰められている。
とはいえ、奴がどこにいるのかが分からないと俺も攻撃のしようがないのも事実。さて、どうしたものか……。
「ん?」
上から何か硬い物が降ってきて頭に当たった――と、思った直後、その硬い物が雨の様に降り注いできた。
「な、何だ!?」
よく見れば、降ってきているのは石だ。しかも、触れた瞬間結構な熱さが肌に伝わってくる。
「ぐ!?」
上から降り注ぐのが終わったと思えば、間髪入れずに左真横から石が飛んでくる。この石は明らかに自分の、或いは何かの意思でコントロールされて動いている。という事は……。
「くっ、なるほど……これがダンガンバッカザンとやらの正体か!」
奴は、フレイザードは自分の身体の岩石を小石サイズまで分割し、それを操って俺にぶつけているのだ。
『クカカカッ!やっと気が付きやがったか。そうだよ!この岩の1つ1つが、オレなんだよぉぉぉッ!!』
一瞬、岩石群が助走をつける様に引き、再び俺に向かって飛んでくる。
「く、ええいッ、鬱陶しい!!『ギガスラッシュ』!!」
飛んでくる岩石群目掛けて『ギガスラッシュ』を放つ……が、幾らか岩石が消し飛んでも、すぐにまた石が集まり俺に向かって飛んでくる。『ギガスラッシュ』ですら殆ど効果が無い様だ。
『クククククッ……!無駄だ無駄だ!!テメエが幾ら攻撃を繰り出そうと、この技の前にゃあ何の意味もねえ!砕けば砕くほどオレの数は増えるんだからなあッ!!』
「っ……」
なるほど、つまり飛んでくる石は幾ら砕いても奴にダメージは与えられない。相手を一方的に攻撃しつつ、敵の攻撃は封殺する……一見、無敵の戦法に思える。だが、この技の弱点は既に見えた。
「……くッ、うおおぉぉぉぉッッ!!!」
竜神王の剣を構え、敢えて岩石群に向かって行く。必死な風に叫び声を上げ、飛来する石を剣で虱潰しに叩き砕いていく。
『ククク!バカが!無駄だってのが分からねえのか!!』
さっきまでの焦燥が消え、余裕を含んだフレイザードの声は無視――とにかくフレイザードの身体の石を砕き続ける。
「ふッ!はッ!だぁッ!!」
砕く――。
「せッ!ぬんッ!りゃぁッ!!」
更に砕く――。
「オラララララララァァッッ!!!」
とにかく砕く――!
石が飛んでくる限り、剣を振り、拳を突き出し、蹴りも繰り出し、全てを粉砕するつもりで迎撃し続ける。
『ぐ、ぬ……や、野郎ぉ……ッ!!』
暫く砕き続けていると、フレイザードの声から再び余裕が消え、焦燥が滲み始めた。もう少しだ。
『ふ、ぐ、く……か……カァァ!!』
やがて、フレイザードの叫びと共に宙を舞っていた石が集まり、合体を始める。
俺はこの瞬間を待っていた――集中力を高め、合体していく岩に目を凝らす。すると、目的のものはすぐに見つかった。
「ッ!」
合体していくフレイザードに向かい、高速で走り抜ける。立ち位置が入れ替わり、俺とフレイザードは互いに背中を向け合う形となる。
「がぁ、ぁ……ハァ、ハァ、ハァ……!」
振り返ってみれば、フレイザードが膝と両手を地面につき、これまでで最も荒く息を吐いていた。その姿はすっかり変わり果て、岩石が合体して身体を作ってはいるが、炎と冷気は消えかけ、今にも崩れ落ちそうだ。生命力が明らかに減少している。
思った通り……あのダンガンバッカザンとかいう技は、生命力そのものを大きく削る危険な技なのだ。何の障害もなく身体をバラバラにして活動できるなら、普段人型の身体でいる意味がない。つまりあの状態は、奴にとっても不自然かつ無理をした状態であるという事……あの技を使っている間中、生命力はどんどん消耗していく。下手をすれば自滅の危険を孕んだ捨て身の技と言える。
だから、破るのは実は簡単――防御に徹してフレイザードの自滅を待つか、初めと同じく奴の
「ゼェ、ゼェ……く、くそぉぉ……ッ!!」
限界を感じて自ら技を解いた事で自滅は免れたが、既にまともに戦える力が残っていないのは明白だ。それでも、少し休めば回復もするだろう。休めればの話だがな。
「むん」
俺は手の中にある物を、強く握り砕いた。
「ッ!?ウギャアアアアァァァァーーッッ!!??」
突如響き渡るフレイザードの悲鳴。身体にも異変が起きている……溶岩の身体と氷の身体の接着面から蒸気が噴き出している。
「な、何だっ!?身体が、左右の身体が維持できなくなりやがった……!!?何で急に……はッ!?ま、まさか……!!」
バッと顔を上げて俺を見てくるフレイザード。俺は手を開き、今さっき握り砕いた物を地面に落として見せてやった。
「て、テメエ……!!お、オレの……
「見ての通りだ」
フレイザードは石の弾幕と、合体するパーツを幾つかに分ける事でカモフラージュしていた様だが、合体する際に真っ先に他の石で守る様に囲んでいる石を見分ける事は、今の俺の動体視力なら余裕だ。
そして俺は、合体する石の中から奴の
「ッ!?グアアァァァッッ!??や、ヤベェ……これ以上繋ぎとめておくと、消滅しちまう……!」
そう言って、フレイザードは身体を縦半分に分離した。コアを破壊したのに死なないのか……いや、即死はしないまでも、生命の源であるコアを失った以上、もう再生する能力は完全に失われたはずだ。
なら、後は止めを刺せば終わるか。
「カアッ!」
先ずは氷の半身――『灼熱』のブレスを吐きかける。
「ギャアアァァァ……ァ、ァ……」
フレイザードの氷の半身は一瞬で溶けて水になり、蒸発して消滅した。次は炎の半身だ。
「ヒィィ!?や、止めてく――」
「フハァッ!!」
当然止める訳がない。『輝く息』の極冷ブレスで、再生力の一切を失った半身は瞬間氷結――凍り付いて脆くなった岩石がブレスの風圧で砕けて散っていき……フレイザードはこの世界から完全に消滅した。
『そ、そんな……!?』
『フレイザード様が、やられた……!?』
そんな声に周りを見れば、戦いを繰り広げていた氷炎魔団のモンスター共とパプニカの兵士達が、一様に唖然とした顔でこっちに注目していた。
「はあッ!!」
『ギャアアア!??』
そんな中、ヒュンケルだけが動きを止めず、モンスターを斬り払い続けている。
『に、逃げろぉーー!!退却だぁーー!!』
『『『ワアアァァーー!!??』』』
それが合図になったのかは分からないが、モンスター共は我に返り、一斉に俺達に背を向け、蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
「やったぁーー!!また魔王軍を追い払ったぞーー!!」
「「「「「おおぉぉーーーー!!!」」」」」
兵士達から歓声が上がり、場が一気に勝利の喜びに包まれる。
「ふぅ」
一先ず、危険は去った。一息つきながら剣を納め、負傷した兵士の治療に回ろうとした時――
「エイト殿がいれば、魔王軍なんか恐れる事はないんだ!!」
「そうだとも!エイト殿こそ、我々の英雄だぁーー!!」
「ぶッ!?」
勝利に沸く兵士の中から、そんなとんでもない台詞が聞こえてきた。
「英雄エイト、ばんざーいッ!!」
「「「ばんざーい!!」」」
「やぁめぇろぉぉおお~~~~~~ッ!!」
兵士達の万歳合唱が響き渡り、場は盛り上がりを見せ……羞恥に震える俺の魂の叫びは空高く響き渡るも、誰の耳にも届きはしなかった……。