ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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第9話『氷炎将軍』

 不死騎団壊滅から2週間――パプニカの町は落ち着きを取り戻し、平常運転に戻っている。

 

 あれ以降魔王軍の再襲撃もなく、不死騎団の襲撃から壊滅まで2日というスピード解決で大した被害を受けずに済み、復興が早く終わった結果だ。

 

 パプニカ王の計らいで、俺が不死騎団及び地底魔城を壊滅させた件は機密として扱われ、国民には知られていない。流石に一緒に戦った兵士達には気付いている者達もいるが、そちらも対処してくれたのか、話が町民達に広まっている様子はない。

 

 おかげで、俺も宿とレストランの方に戻れている。有り難い事だ。先日入ったばかりの新入りに指導をしなければならないので人手不足なのだ。

 

「ヒュンケル!そろそろ皿が無くなるぞ!急げ!」

 

「あ、ああ……!」

 

「返事は『はい』だ!!」

 

「は、はいっ!」

 

 キッチンの洗い場で拙い手つきで皿を洗うヒュンケルに檄を飛ばす。あのレオナの見事なお裁きの後、社会復帰の為の奉仕活動として俺が監督を引き受け、町の工事とウチの店の手伝いで扱き使っている。

 

 戦士として身体を鍛えてきただけあり、力と体力は有り余っているようで工事では大いに役立ったが、ウチの店の手伝いは見習いとしても半人前以下という有り様……。

 

「あっ!?」

 

 ヒュンケルの焦りの声の直後に響く皿が割れる音……もう数える気にもならない。そろそろ予備の皿を出さないと、店が回らなくなりそうだ。

 

「す、すまない……!」

 

「気にするな、と気楽に言える状況ではないが……まあいい。まだ想定内だ」

 

 赤ん坊の頃から一般人とは大きくかけ離れた人生を送ってきたヒュンケルだ。父親は地獄の騎士、教育者は勇者及び魔王軍、教わってきたのは戦闘技術……皿洗いの様な日常生活に関する事など、此処に来るまで触れた事すらないのだろう。子供に物事を0から教えるのと同じ、長い目で見なければいけない。

 

「おーい!洗い場代わってやってくれー!」

 

「はーい!」

 

 別のスタッフにヒュンケルと交代で洗い場に入ってもらう。

 

「俺達は休憩行くぞ」

 

「あ……あ、いや!は、はい!」

 

 また「ああ」と答えそうだったので睨むと、ヒュンケルは慌てて言い直す。中々切り替えに慣れない、文字通り不器用な奴だ。

 

「……はぁ」

 

 事務所兼休憩所に入ると同時に、溜息を吐くヒュンケル。

 

「疲れたか?」

 

「……体力には自信があるつもりだったのだがな」

 

「慣れていないからな。体力が幾らあろうが関係ない。精神的疲労が身体に出るのさ」

 

「なるほど……」

 

 疲れ切った様子のヒュンケル。ここで少し意地の悪い質問をしてみる。

 

「何故、俺がこんな事を……とか思ってるか?」

 

「いや、それはない」

 

 おや、予想外の即答。

 

「本来、極刑に処されて然るべき俺に、生きて償う機会を与えてくれたレオナ姫やパプニカ王、そしてお前に報いる為に、俺に出来る事はどんな事でもやる」

 

「……そうか」

 

 これは俺が白旗を揚げる他ない。ヒュンケルの覚悟を見縊り、詰まらない真似をしてしまった様だ。

 

 まあ、その辺りは俺が反省するとして……真面目な話をしよう。

 

「ところで、あれ以来ずっと魔王軍が音沙汰無いが、どう見る?」

 

 ヒュンケルからは既に、現魔王軍について知る限りの情報を聞いている。

 

 頂点に君臨するのは、魂の貝殻にも出た魔界の神こと大魔王バーン。そして、そいつに魔王軍の総指揮を任せられているのが現在“魔軍司令”の肩書を持つ、かつての魔王ハドラー。

 

 魔王軍はモンスターの性質によって6つの軍団に分けられ、それぞれ各軍団長が統率し、世界の主要各国に侵攻している。アンデッド系モンスターの軍団である不死騎団は俺が壊滅させたので、残るは5軍団……。

 

 炎と氷のモンスターで構成された“氷炎魔団”、軍団長は“氷炎将軍フレイザード”――ハドラーが魔術で生み出したエネルギー岩石生命体とかいう特殊なモンスターで、聞いた限り溶岩魔人と氷河魔人を合体させた様なモンスターだと思われる。

 

 魔道士タイプを初め呪文の類を駆使するモンスターの軍団“妖魔士団”、軍団長は“妖魔司教ザボエラ”――小柄で年老いた魔族の男で、多彩な呪文と強力な魔力、そして何より卓越した悪魔の頭脳の持ち主で、魔王軍内では軍師の様な扱いらしいが、ヒュンケルに言わせると「妖魔力と知識はともかく、性格は小狡く卑劣なだけの小物」だとか。

 

 獣系モンスターの軍団“百獣魔団”、軍団長は“獣王クロコダイン”――魔王軍随一の怪力と鋼鉄の肉体を誇るリザードマンで、武士道精神と忠義心に溢れているらしく、ヒュンケルは「尊敬に値する男」と評していた。

 

 暗黒闘気を生命の源にするモンスターの軍団“魔影軍団”、軍団長は“魔影参謀ミストバーン”――正体不明の謎の男……実力も謎。軍団長という立場にいるが、実際は大魔王の腹心の部下でハドラーよりも権威は上だとか。ヒュンケルはこの男に暗黒闘気の扱いを習った。

 

 ドラゴン系のモンスターが集められた魔王軍最強の軍団“超竜軍団”、軍団長は“竜騎将バラン”――外見は人間の男らしいが、正確な種族は不明。軍団と同じくその戦闘力は極めて高く、また人格的にも優れているらしく、クロコダインと同じく尊敬に値する男だとヒュンケルは言った。

 

 最初の布陣として――不死騎団はパプニカ王国、氷炎魔団はオーザム王国、妖魔士団はベンガーナ王国、百獣魔団はロモス王国、魔影軍団はカール王国、超竜軍団はリンガイア王国をそれぞれ攻略する為に出撃したという話だった。

 

「俺が敗れ、不死騎士団が壊滅した事はほぼ確実に伝わっているはずだ。たった2日での壊滅ともなれば全く予想されなかった非常事態だからな……残る全軍団長に緊急招集が掛かる可能性が高い。各地に散った軍団長全員を呼び戻すのに、どれだけ早くとも数日は掛かる。不死騎団の壊滅の後にすぐ招集が掛かったとすれば、今頃は全軍団長が本拠地に集結しているだろう」

 

「という事は、そろそろまた襲撃があるかも……って事か」

 

「可能性は高いだろう」

 

 元軍団長のヒュンケルが言うのだ。見立ては確かだろう。1度、パプニカ王に会って相談しておいた方が良さそうだ。一応、町や王宮ではいつ魔王軍が襲ってきても対処できる様に一定の警戒態勢は敷かれているが、正直、三賢者を初めとして王宮の兵士や魔法使い達では、警備力に不安がある。

 

「ヒュンケル、これから王宮に行くぞ。陛下に話して、今の内に対策を考える」

 

「分かった」

 

 善は急げ――レストランと宿をスタッフに任せ、俺とヒュンケルは『ルーラ』で王宮へ飛んだ。

 

 

 

 

「ふぅむ、なるほど……」

 

 俺の話を聞いて唸るパプニカ王。

 

 パプニカ王への謁見はすぐに許可され、会議室に主要な面子が集まり、緊急会議が開かれた。俺はそこでヒュンケルと話した内容を語り、今後の警備態勢の強化を進言した。

 

「他ならぬそなたの言う事だ。早急に警備態勢の強化を図ろう。協力してくれるな?エイト」

 

「勿論です。ヒュンケル共々、戦列に加わりましょう」

 

 俺の横にいるヒュンケルも、しっかりと頷く。

 

「して、ヒュンケルよ。仮に再び魔王軍が攻めてくるとして、どの軍団が来ると思う?」

 

 パプニカ王が、ヒュンケルに意見を求める。

 

「……あくまで俺の推測ですが、来るとすれば超竜軍団か氷炎魔団のどちらかだと思われます」

 

「ほう、その根拠は?」

 

「魔影軍団が攻めているのは強力な騎士を何十人と抱えているカール王国、勇者アバンの出身国という事もあり騎士の錬度・士気共に高く、苦戦を強いられる事が魔王軍でも当初から予想されていました。そう簡単には落とせますまい。かと言って攻撃を中断すれば、体勢を立て直す時間を与える事になり、その後の攻略がより困難になります。故に、魔影軍団はカール王国から離れられないはずです」

 

「なるほど、確かにカール王国の騎士団は世界最強との呼び声も高い屈強の猛者揃いと聞くな」

 

「それだけじゃないわ!女王フローラ様の優れた統率力の賜物よ!」

 

 パプニカ王に続いて瞳を輝かせてそう言ったのはレオナ。前に聞いた事があるが、レオナはフローラ女王に憧れと尊敬の念を抱いているらしい。旧魔王軍侵攻の時代から既に国の先頭に立ち、女性でありながら国民を見事に統率してきたカリスマ性に強く憧れ、尊敬し、同じ王族として女性として手本にしているとか。

 

 まあ、それはさておき、今はこちらの話だ。俺が先を促す。

 

「で、残り2つの軍団は?」

 

「妖魔士団は、軍団の直接的な戦闘力は大して高くない。どちらかと言えば、戦術や呪法の研究・開発など後方支援を主な任務とする軍団だ。ベンガーナ王国に一応の戦力を送り込んではいるが、大した成果は挙げていない。不死騎団を壊滅させる程の戦力を有する国に、送り込まれることはまずあり得ない」

 

「じゃあ、百獣魔団は?」

 

「こちらはモンスターの性質上、運用の効率が余り良くない。軍団の編成、移動、どちらも他の軍団より時間が掛かる。それ故に、1度送り込んだら目標を制圧するまで別の大陸に移動させる事は考え難い。根拠としては、こんなところだ」

 

 流石は元軍団長、魔王軍の内情を知っているから言葉に説得力がある。情報が正確であれば、対策も立てやすい。

 

 来るとすればドラゴンの群れか、氷と炎のモンスターの群れ……後者であれば、大した事なさそうだが、前者が来たらかなり厄介だ。俺やヒュンケルは大丈夫だと思うが、町の皆や兵士達に大きな被害が出る。こちらが常に後手に回らなければ動けないのが痛い……かと言って、幾らなんでも俺とヒュンケルとパプニカ王国の精鋭?だけで魔王軍の本拠地など攻め入れないし。

 

 理想は、軍団長が直々に、のこのこやって来てくれる事だが……仮にも軍団長ともあろう者が、そんな馬鹿丸出しな真似はしないだろうし……。

 

 何か良い手はないものか――と、腕組みをして考えようとした時だった。

 

「失礼致しますッッ!!」

 

 会議室の扉を弾き飛ばす勢いで開き、慌てた顔の兵士が入ってきた。

 

「何事だ!?」

 

「て、敵襲ですッ!!魔王軍が攻めてきましたッ!!」

 

「「「「「ッ!??」」」」」

 

 噂をすればなんとやら――敵の動きがややこちらの予想より早かった。

 

「敵はどんな奴らだ!?」

 

「フレイムやブリザード、溶岩魔人や氷河魔人の軍勢です!!現在、騎士団が応戦しています!!」

 

 立ち上がった俺の問いに慌てながらも淀みなく答える兵士。その内容を聞いて、ヒュンケルも立ち上がる。

 

「氷炎魔団か……!!」

 

「俺達もいくぞヒュンケル!三賢者は陛下とレオナを安全なところへ!!」

 

「応ッ!」「「「はい!」」」

 

 各々に指示を飛ばし、素早く会議室から駆け出る。

 

 戦闘が行われている場所は気配で分かる、城門から中庭に掛けて兵士や騎士達が侵攻を阻止しようと奮戦している様だ。

 

 俺とヒュンケルは窓から飛び降りる等ショートカットを繰り返す事で、1分と経たず戦場に到着する。すると、そこで目にしたのは――

 

「ぎゃああああッ!!?」「うわああああッッ!??」

 

「クカカカカカァーーッ!!!」

 

 1体の奇妙なモンスターに、兵士が2人同時に燃やされ、凍らされる光景だった。身体が左右半分ずつ、炎と氷で構成されている見た事もない姿形……戦闘力も含めて、明らかに通常のモンスターではない。

 

「っ!あれは……氷炎将軍フレイザード!!」

 

「何!?」

 

 じゃあ、あれが氷炎魔団の軍団長!?まさか……!

 

「クワーハッハッハッ!!脆い、脆過ぎるぜ雑魚共!」

 

 まさか……まさか軍団長ともあろう者が、こんな馬鹿丸出しな真似を本当にやるとは……!確かに笑い方からして下品だし、目付きも全体の雰囲気も頭悪そうだが……。

 

 こんなに都合が良くていいんだろうか?と思ってしまうほど、俺にとって好都合過ぎる状況だ。

 

「おのれ!化け物ぉ!!」

 

「仲間の仇!!」

 

「くたばれッ!!」

 

 おっと拙い――!

 

「待てぇぇッッ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

 いきり立ちフレイザードに躍り掛かろうとする兵士達の動きを、『雄叫び』の特技を応用して止め、俺は戦場に進み出る。

 

「あん?何だテメエは?」

 

「化け物に名乗る名前なんかねえよ」

 

「ケッ!そうかい。だったら……気取ったままくたばりやがれ!!カアッ!!」

 

 フレイザードが口から炎を吐き出してくる。

 

「『追い風』」

 

 空気の流れを操って追い風を巻き起こし、フレイザードの炎を跳ね返す。

 

「何!?うおぉッ!??」

 

 自分の吐いた炎が返ってくるとは思っていなかったか、フレイザードは炎に包まれ後退った。その隙に、俺は兵士達に指示を出す。

 

「こいつは氷炎魔団の軍団長だ!お前達の敵う相手じゃない!こいつの相手は俺がする!お前達は他のモンスター共を討ち取るんだ!!」

 

「「「は、はいっ!!」」」

 

 前の戦いで得た信頼か、兵士達は俺の指示に素直に従ってくれる。兵士達が俺とフレイザードから離れ、他のモンスターに向かって行く。

 

 これで俺は……

 

「くそッ!舐めた真似しやがって……!!」

 

 フレイザードに集中できる――炎を振り払ったフレイザードに、俺は剣を構えた。

 

 

 

 

 


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