Century of the raising arms 作:濁酒三十六
(本編とは一切内容が当てハマりません。)
約一年と半年前、滅びに瀕した世界が融合を果たした。幾つの世界が融合したかは分からないが少なくとも三つの異なる世界は判明していた。
“霧”と呼ばれるオーバーテクノロジーを有した謎の艦隊に世界海域を全支配された“霧の世界”。
謎の“ガストレアウィルス”によって侵され怪物と化した生物達により全人類の存亡が脅かされた“呪われた世界”。
そして謎の敵…“バーテックス”により日本の四国以外が滅ぼされてしまった“神樹の世界”。
融合した世界で人類は先ずはガストレアの脅威に晒された。しかし全世界の海域にて霧の艦隊がガストレアと激突し、人類と協同戦線を張り、地上でもまた様々な謎の不可思議な勢力によりガストレアは次第に地上の隅にへと追いやられ、人類は嘗ての大地を取り戻していった。
しかし、神樹の世界で侵攻し続けていたバーテックスは融合世界が出来てからはその姿をすっかり消してしまい…大赦はその動向を新世界樹となった神樹より受ける事もなくなった。だがガストレアの脅威に備え全ての“勇者候補”に勇者システムを装備させ、此を武力として四国エリアを設立した。更には蒼き鋼と同盟を組み、悪名高い関西エリアの君主…“斉武宗玄”への権勢としたのである。
“蒼き鋼”が海上にてガストレアの群勢と戦い、“関東エリア”の地上ではガストレアが上陸した万が一に備え予測される上陸地点…劍崎灯台跡地と洲崎灯台跡地にて民間警備各五百人程が配置され、東京湾入口の三浦水道には海上自衛隊のイージス艦艦隊が守備にあたっていた。
劍崎灯台跡地では“天童民間警備会社”の現在大隊内で序列最上位の“里見蓮太郎”をリーダーとしてガストレアの上陸を阻止する為に前線にて待機をしていた。
黒の短髪に服も黒を着た少年…里見蓮太郎は険しい表情で東京湾沖を見つめ、彼の傍らには天童民間警備の社長…天童木更と彼女のイニシエーターである金髪の少女…ティナ・スプラウト。うさぎの髪留めでツインテールにした里見蓮太郎のイニシエーター…藍原延珠が心配そうに蓮太郎を見上げていた。共のグループ…アジュバント、蓮太郎より長身で金髪サングラスの青年…片桐玉樹と彼の妹でイニシエーターの弓月が来て先程入った情報を彼に伝えに来た。
「蓮太郎、海上で“蒼き鋼”とガストレアがおっばじめたそうだぜ。」
「本当か?」
蓮太郎は聞き返し、此に弓月が答える。
「えぇ、既に敵の半数をぶっ殺したって話が回ってるわよ。」
「半数じゃと、すっ、スゴいのう!」
延珠はその話に感嘆するが、蓮太郎は眉をひそめ…また沖の方角を睨む。
「“霧”なら遠距離からの火砲攻撃でそれくらいは持っていける。
…だが其れだけで奴等の進軍は止められない!」
蓮太郎がそう独り言を言うと、木更は玉樹の情報に付け加える様に伝えた。
「里見君、此はある筋で手に入れた話だけど…、その蒼き鋼の霧の戦艦にあの“大赦”の娘達が乗っているらしいわ。」
コレには蓮太郎達は只驚くだけであった。融合後のこの世界で四国エリアはまともな武力を持たないのにガストレアの侵攻を防ぎ凌いだのである。たった数十人の少女達だけで数百ものガストレアを相手にしたのだ。
その少女達の総称を四国エリアを取り仕切る“大赦”では敬意を込め、“勇者”と呼んでいた。
「蒼き鋼と大赦が連んでいるのか…。
通りで“聖天子”様がわざわざ横須賀基地まで出向いている訳だ。」
聖天子…、かつての呪われた世界で東京エリアを統治していた若き女性君主で現世界に於いても領土が広がり名を関東エリアと変えた今も君主としてエリアを統括していた。
蓮太郎は確信する。恐らく聖天子は四国エリア…大赦と蒼き鋼との繋がりをより確固たる物とする気なのだろうと…。彼女が直に動く時は大抵良からぬ事件が起きる前兆で、里見蓮太郎は其れを身を持って理解していた。
「ユウシャッ、パアアアアンチイッ!!」
勇者システムを発動させ、桜色のバトルコスチュームに身を包んだ結城友奈が海上を覆ったクラインフィールドに乗り上がった亀型の大型ガストレアの顔面に一撃を喰らわせた。ガストレアの頭は潰れて胴体に押し込められ、其処へ榛名から東郷三森の狙撃がトドメとばかりにガストレアの押し込められた頭に命中して爆ぜた。
友奈は顔をしかめ、ガストレアの死骸から目を逸らし次の目標へと突撃する。
(やっぱり、生きているモノを殺すのは…全然馴れない…。)
しかしその桜色の篭手を握った拳はもう一体の頭を潰し絶命させる。どんなに嫌悪しても人間とガストレアが解り合える訳がなく、友奈は人類を護る為にその拳を血に染めていった。
犬吠崎風が大型ガストレアを大剣にて一振りで真っ二つにし、三好夏凛が二刀流で敵の首を斬り落とした。真っ赤なバトルコスチュームと黄色のコスチュームが背を合わせ、互いに横目で視線を合わせると直ぐに次の標的へと走った。
犬吠崎樹は蛯名型の大型ガストレアの触覚による攻撃を交わし、右手の腕輪より五本の糸を射出してガストレアに絡ませ身動きを封じたと同時に樹は力強く腕輪を引くと絡まめ取った糸はガストレアの外骨格を切断、そのまま全身をバラバラに切り刻んだ。
一年程前、初めてこの勇者の力でガストレアを殺した時は胃の中の物を全て吐き出した。バーテックスとは明らかに違う…生きているモノの命を勇者の力で奪う行為に罪悪感を感じながらも樹は唇を締め、バーテックスと同じ人類の敵であるガストレアを駆逐して行った。
後方に配置された榛名のブリッジ上にて東郷美森はクマのぬいぐるみ…キリシマの索的により友奈達の援護はより精度を上げた精密射撃で行えた。
「凄い…。
コレが貴女達“霧”が視ている“射程圏(セカイ)”なのですね…。」
美森は畏怖と敬意を持って賞賛するが、クマのキリシマはフンッと鼻を鳴らして言葉を返す。
「よく言う、お前こそアタシが指示した標的(ターゲット)に寸分違わず百発百中の狙撃精度を見せてるじゃないか。人間如きがアタシの演算速度に合わせられるなんてソラ恐ろしいものだな。」
そう毒吐き、キリシマは前方一時の方向の敵を伝え、美森は白いライフルを構え獲物をスコープに捕らえて引き金を引いた。
海底より潜水艦“イ401”が敵残存勢力の数を割り出し、戦艦射程外の位地
の距離をイオナが報告する。
「群像、ガストレア群約28体は距離5kmで停止した。」
「そうか…。
イオナ、旗艦を金剛、高雄の間へと浮上。
恐らく敵群隊は撤退する、クラインフィールド上のガストレアを一掃後は金剛に勇者達を回収させ高雄と榛名で周囲の巡回を頼む。」
もう戦いは終わったとばかりに群像は指示を出すが、コレにコンゴウが異を唱えた。
『千早群像、追撃をすれば充分に繊滅可能だ。
敵をむざむざ見逃す手はないのではないか?』
此にハルナとキリシマが同意する。
『私もコンゴウと同じ意見だ。』
『ガストレアを生かしておく理由などあるまい、徹底的に繊滅すればいいではないか!』
霧の戦艦達の好戦的な意見を聴いた友奈達は顔を曇らせる。
「…わたしは…、群像さんに賛成です。逃げる子達を追いかけてまで虐めるのは…イヤです。」
友奈の言葉には反対にコンゴウ達が驚いた。ガストレアは人類を滅ぼすに至る恐ろしい魔獣である。人を喰らい、ガストレアウィルスで接触感染して生物を同じガストレアにしてしまう人間には手にあまる天敵をこの小さな少女は擁護するのだ。高雄はその甘さに対して理解が出来ず、思わずキツい一言を放つ。
『ワタシは最初っから群像の指示に従うつもりだけど…。
結城友奈、アンタのソレって只の偽善じゃないの?
自分はもうガストレアを殺したくありません、だから他の誰かに任せます…。
そんな風にワタシには聞こえるんだけど?』
「そんな、わたし、そんなつもりじゃあ…」
友奈は下を向き口隠ってしまうが、其処に夏凛が討ち損ねたガストレアが友奈に迫った。
「友奈逃げてっ!?」
夏凛の呼び声に友奈は咄嗟に構えるがガストレアの方が早くその触手が振り下ろされんとしたその時、突然触手が千切れ飛びガストレアの心臓部に二発…額に一発と銃痕が刻まれて怯んだ瞬間を夏凛が十字に斬り伏せた。其れをライフルのスコープで確認した美森は銃口を降ろす。
「クラインフィールド上のガストレアは全て繊滅しました。
千早艦長、私達“大赦”は貴方に従います。
…それでいいんだよね、友奈ちゃん?」
友奈は親友の声に安堵し、“うんっ”と頷いて夏凛と一緒に金剛に帰還する。
「やっぱり友奈は甘いわよね、わたしは敵である以上容赦は絶対にしない。
…けど、アンタの甘さは…何かホッとする。」
「…夏凛ちゃん。」
そして風と樹の姉妹も乗り、美森も乗り込んだ。
「友奈、アンタは偽善者なんかじゃないよ。」
「お姉ちゃんの言う通りです。
だって、偽善者さんなら今この場所にいる筈ないじゃないですか。」
「おっ、樹ってばゆー様になったじゃない?」
風は樹に抱きつき、姉妹でジャレ合う。夏凛や二人の気遣いが友奈にはとても心地良く、美森に振り向いた。
「助けてくれてありがとう、東郷さん。」
「後方支援が狙撃手の務め、それに友奈ちゃんが危ない時はいつでも助けに行きますよ。」
彼女のお礼に美森は円満な笑顔をして返した。
コンゴウは五人の勇者達を距離を置いて見つめ、“蒼き鋼”のクルー達と比べてみる。
(実質的なリーダーは犬吠崎風ではあるが、四人の精神的支柱はどうやら結城友奈の様だな。蒼き鋼のクルーが千早群像を信じている様に…。
しかし彼女と千早群像は似てはいるが余りに対照的だ。ガストレアに於いても結城友奈は同情的だが、千早群像は別の理由で擁護しているかも知れない…。)
コンゴウはイ401であるイオナとの一戦で蒼き鋼と和解し、最近は彼等と行動を共にする様になり今回の海戦に参加した。
未だ、人間を計り切る事は出来ない。いや、そんな事は出来ないのかも知れない。だがイオナやタカオ達と歩むには彼等とも歩を合わせなければいけない、人間を理解しなければならない。
この時、彼女に一つの考えが浮かんでいたのであった。
友奈「次回、結城友奈は“魔女”である!お楽しみに♪」
三森「イヤアアアッ、友奈ちゃん私を頭からバリバリと食べてえええっ!!」
夏凛「一体お前に何が起きたんだ東郷っ!?」