柳之助の短編集   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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てんぞー氏より自スレ一周年支援ssです。
感謝を込めて土下座。


老鬼VS鎧姿

「お爺ちゃんお爺ちゃん! 空を見上げれば星が見えるだろう? 貴様の将来の行き先だぁ!」

 

「お星さまになるにはまだ斬りたりないので遠慮しておきます」

 

 老人を中心に放射線状に複数の円が広がっている。円には刃が付随しており、解りやすく危険物であると判断できる。縦横無尽に軌道を走らせる刃の動きはまるで星間図を思わせる様な美しさがあるが、また同時に致命的な美しさを孕んでいるのも見える。振れれば切り裂かれてしまうのは老人の実力と相まって、確定した事象だ。チェインソーの様に回転する刃の軌跡に触れてはならない。故にこの老人に対して接近戦を挑むのは愚の骨頂、絶対にやってはいけないことである。

 

 それを無視し、鎧姿は直進した。

 

 当たり前様に刃が体に食い込み、貫通した。体を真っ二つに切り裂かれ、常人であれば即死する環境の中で、一切気にする事もなく、鎧姿は前へと、切り裂かれた体をそのまま、前へと向かって進んだ。ずぶずぶと体に抉り込む刃を無視し、綺麗な斬撃を通しながら止まることなく、高速で老人へと鎧姿が接近し、拳を突きだす。反応するように居合が星の杖より放たれる。神速と評価できる一撃が鎧を貫通し、体に突き刺さり、そして抜ける。が、その切断面はあまりにも綺麗であり、

 

「ハッハァ―――!!」

 

 綺礼であり―――再生しやすい。美しい斬撃とは即ちそのまま治しやすいとも評価できる。剣術は極めれば極めるほど無駄が省かれて行き、そして美しさと技術が残る。あまりにも凄まじい剣閃は綺麗に斬りすぎる為、異常な再生力を誇る鎧姿からすれば―――なんともない、多少体力を奪われる事でしかない。その為、

 

 斬撃の結界はこの男だけには、全くの無意味だった。

 

 故に老人の切り口が一瞬で変質する。斬りながら捻る事で、切った先から弾き飛ばし、再生を阻害させるように変質させる。それに対応する様に鎧姿が攻撃の回避を始める。回転する刃の内側、老人が杖から引き抜いた刃の射程範囲内、それを巨体と筋力を生かし、そして重量任せに踏み潰しに入りこんでくる。ケ瀬切りに振るわれてくる刃を捻りながら鎧の重量に体を合わせて落とし、直ぐに軌道を変えてくる刃を足で弾きながら捻った腕大地をンぐり、足場を崩すように反応した老人を逃すまいと接近する。

 

「誰ぞ俺を殺す者はいないかぁ!」

 

「ここにいますよ」

 

「反応があるとちょっと嬉しい」

 

「気持ちの悪い事を言わないでほしいですねぇ」

 

 そうくだらない事を言いあいながら、両者の動きは変わらない。鎧が前進し、老人が下がりながら剣を振るう。だがその動きはまるで相手を試すように少しずつ加速する。上から下へ、右から左へ、準に振るわれて行く高速の剣閃を鎧姿は捉え、受け流しながら接近し、すかさず拳を殺す為に叩き込む、素早く反応する老人が逃れる様に動きを取る。

 

「うーん、もう少し踏み込みますか」

 

「お―――」

 

 逃れる様なう語彙を止め、老人が―――ヴィザが踏み込んだ。意識の合間を縫う様に放たれた一瞬の斬撃が鎧姿の体を両断する様に見え―――ズレた。即座ん回避動作に非合った鎧姿が笑い声を響かせながら体を輝かせる。受けていた傷が急速に回復しながら、その戦闘力が上昇する。刃が抜かれた瞬間にヴィザへと接近し、今までと同様、技術も何もない、純粋な”暴力”という拳がヴィザへと向かって叩き込まれる。人間という領域かrア外れ、怪物という領域の中でも最上位に入るその筋力任せの拳はヴィザの素早い回避行動によって回避され、展開されている円―――星の杖の解除と同時に刃が強化される様に集束され、そして刃が体へと半ばまで突き刺さり、

 

 止まる。

 

「―――」

 

 ただ単純に刃を”筋肉で締め上げる”という防御方法は殺しても死なない肉体を持っている怪物的な肉体を保有している鎧姿と、そして老人故に筋力が衰えてきているヴィザだからこそ成立する防御方法。即座にヴィザが筋力ではなく、技術で瞬間的に力を跳ねあげて刃を通すが、その瞬間には拳がその体を捉え、殴りぬいていた。吹き飛ばされる老躯は必殺の一芸を受けた様で、体術を通す事で回転しながら威力を減衰させていた。

 

 それに追いすがる様に鎧姿が背後へと回り込み、その体に一撃を叩き込まんとする、それに対応する様に振るわれる刃は拳とぶつかり合い、弾き、そして受け流し、次の拳がやってくる。星の杖はその機構を発動させる事なく力は形成される仕込み刃に集中されており、それが超高速で拳でぶつかり合う。

 

 剣士である以上、”剣と剣のぶつかり合いは下策”である。

 

 聖遺物やアーティファクト等と呼ばれる一級品を保有しているのであれば話は変わるが、基本的に武器は、剣でさえも消耗品であり、撃ちあえば打ち合う程刃は欠け、そして使い物人ならなくなって行く。その為、剣で戦う戦士はその顔に多くの傷を持っている―――それは未熟な時に剣を振るい、刃と刃を合わせた結果、欠け、そしてその破片が跳ね返って体に返るからだ。故に剣に限らず、武器と武器をぶつけ合わない事はある種の基本的な事であり、可能な限りはぶつけ合うべきではない。それは一級の戦士であればたとえ聖遺物を武器として保有していようと変わりはしない。

 

 つまり、ヴィザはその段階に追い込まれているのであり、

 

「いいですね、楽しくなってきました」

 

 それが老鬼を滾らせていた。

 

「最近のお爺ちゃんは元気だなぁ!!」

 

「ラジオ体操を欠かさない事が秘訣ですよ」

 

 言葉でくだらない事を語り合いながらも、鎧と老人の攻防は更に加速し、激しくなって行く。純粋な技量でヴィザが受け流し、弾き、そして斬撃を体に突き刺し、それを通して行くのに対して、鎧姿の戦術は実にシンプルであった。ノーガードで相手が潰れるまで殴り続ける。そもそも四肢を切断した所で死なないという不死性を孕んだ人型の怪物、切り裂かれただけでは倒れる事さえもできない。足元の大地に眠る鉱物を足で踏み、それを吸収し喰らいながら肉体を再生する鎧姿は人間の形をしているだけで、ほとんど中身はモンスターと変わりはしない。その無尽蔵の体力がヴィザの老体にプレッシャーとなるが、

 

 それをヴィザは笑った愉しみ。

 

 切り応えのある若者だと。

 

「さて、では少々リズムを変えますかな」

 

「は」

 

 ヴィザが加速する。身体能力任せに暴れていた怪物の横を一瞬で取る。長年の件さんから来る、体重移動と足さばき、それから来る高速移動を以って瞬間的に速度を上回りながら斬撃を繰り出し、片腕を刃を絡める様に突き刺し、撥ね飛ばして上げる。それに即座に反応した鎧姿が片手でそれを掴み、押し付ける様に繋げながら蹴りを繰り出す。それをヴィザがライドウ伝統の無敵回避方法”前転”を以って潜り抜ける様に回避し、その反対側へと抜けながら、

 

「ぬんっ!」

 

 周囲を薙ぎ払う様に斬撃を走らせた。素早く反応した鎧姿が飛び上り、停滞した斬撃を足場に超高速で蹴りを叩き込む。反応するヴィザがそれを潜り抜けながら横へと再び回り込み、斬撃を走らせてくる。反応するように身を屈めた鎧姿が今までの身体能力任せの動きを捨て、しなやかに体を滑らせつつ、斬撃を掻い潜り、バク転を披露しながら一旦距離を取る。そうやって着地した鎧姿が覇気を体に通し、刃を星の杖の中へと居合の為に戻した老人へと向ける。

 

「明日、腰、大丈夫か?」

 

「湿布を張って寝ますから大丈夫ですよ。それよりも貴方の方は少々らしくない動きをしている感じですが、宜しいのでしょうか?」

 

「基本喰べる事が戦術の要だからできないとなると……ねぇ? まぁ、もうちょいお互い強く当たるって事で宜しくお願いします」

 

「あ、いえいえ、此方こそ」

 

「んじゃ」

 

「それでは」

 

 一拍の無言。

 

 ―――その後、放たれたのは極大の殺意だった。互いに殺すという意思を込めて放った後。姿か擦れる様に加速する。力任せに大地を蹴った鎧姿の背後の大地が爆散する様に粉砕され、それとは対照的に静かにヴィザが加速する。その速度は鎧姿の方が圧倒的に早い。故に接近は鎧姿の方からなされる。正面から衝突するように見えた瞬間、ヴィザが背後へと瞬間的に加速し、回り込む。一瞬で放たれる居合を胴体で受け止めながら横へと回り込み、拳が二連続で繰り出される。前転しながら横へと抜けるヴィザの動きに合わせて背後へと大地を爆散させながら鎧姿が回り込み、その動きに合わせて大地を空へと巻き上げる。

 

 動きは止まらない。

 

 ヴィザの攻撃と合わさった回避動作に合わせ、星の杖が展開される。落ちてくる土砂や岩塊をそれで防ぎ、破壊しつつ背後へと振り返る事なく完璧な斬撃を繰り出す。それを紙一重で回避した鎧姿が拳ではなく指をかぎづめの様に捻じ曲げ、拳よりも早く、そして拳よりも遠く、引っ掛ける様に掻き切る。筆記勝った服装に引きずられる様に肉が千切れる。それに感想を漏らすまでもなくカウンターが三倍の数の斬撃の嵐となって降り注ぐ。瞬間的に距離を取る様に回避に入った姿が斬撃を前方へと受け流すが、広がった星の杖を再び巻き戻すように、内側に取り込んだ姿を背中から斬りつけるように展開を縮小し、巻き込んで行く。

 

 それに鎧姿は自分から加速してぶつかる事で先に切り裂かれて抜け、僅かに再生する時間を強引に作り出す。それを隙だと理解した老鬼が踏み込みながら斬撃を水平に繰り出す。瞬間てkに体は下へと倒れ、両手は大地を支えながら足は伸び、サマーソルトを繰り出すように上へと蹴り上げられる。スウェイえ回避する動作に入りつつ、前へと踏み出す姿勢をヴィザが取り、そのまますり足で前進する。

 

 一進一退の攻防を繰り広げつつヴィザの口から言葉が零れる。

 

「―――楽しいですが勿体ないですねぇ。対人戦はコンセプト外ですか」

 

「まあな! 殴れば折れそうな爺さんと戦うの給料外だからな普通!」

 

 事実だ。鎧姿は元々対人戦を想定している存在ではなく、その身に宿す暴力の源泉、巨大であり、そして暴食をつかさどる怪物たちを殺す為に生み出された人型の”兵器”なのだ。その存在同様に喰らい、回復し、そして進化を続ける怪物であり、本来は自分よりも遥かに体が大きく、そして不滅の存在と戦うための肉体となっている。自身よりも大きな存在と戦うために体力、そして殺す為の筋力、そして不屈の精神。それが求められているのであり、件の怪物を殺す為だけに特化した肉体をしていると言っても良い。故に、ヴィザと違って対人向けの戦闘技術をベテラン程度にしか持っていないのは当然だと言っても良い。

 

 簡単に表現するなら”プロレスラーと剣道の選手が戦っている”というのが今の状況になる。

 

 故に統率する立場として、判断を鎧姿は形作った。

 

 後ろへと着地するのと同時に、前へと踏み出し、拳を振るった。それに合わせてヴィザが弾くように斬撃を叩き込み、拳を逸らしながらカウンターを叩き込む。それに合わせる様に迎撃の一撃は―――発生しない。

 

 斬撃に対して打撃を返し、

 

 打撃に対して斬撃を返す。

 

 完全なノーガードな戦いが始まり、一瞬のうちに両腕が斬り飛ばされ、蹴りがヴィザに叩き込まれ、その引き換えに足が落ち、体が落ち、四肢を欠損した状態で噛みつくために体が跳ねれば首が落とされる。完全にバラバラになった状態の姿をヴィザは確認し、そして星の杖の底で軽く散らばっている体を弾き、一か所に集めておく。

 

「後続に任せる戦い方ですか。私にはどうも縁がなくて……あ、これだけ体集めておけば大丈夫ですか? 死にそうです? ……まぁなんとかなるでしょう。えぇ、それでは御機嫌よう」

 

 鼻歌を浮かべる様にヴィザが更に奥に、戦いを求めて突き進む―――。

 


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