影の軌跡 〜鉄血の子供たち〜   作:もっさん。

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二十六話 災厄までのカウントダウン

 

 

 

 

 

 

「て、テロリストっ!?」

 

大きな机に椅子が囲まれた一室。

Ⅶ組の生徒が椅子に腰掛け、俺やクレア姉、サラは正面のホワイトボードの傍に立っている。

その部屋に響くマキアスの大きな声。

 

「ああ、そういった呼称で呼ばざるをないだろうな」

「ですが、所属メンバーや活動拠点も不明…名称すらも確かではない組織です」

「―――ノルド高原において紛争を起こそうとしていた男ですね」

 

―――そう。こいつらはノルド高原で謎の男と出会っていて。

俺も、その組織のメンバーであるであろう一人、Mという少女に出会っている。

あの場には、少なくとも二人は同じ組織の人間がいたことになる。

無関係とは、言いがたいだろう。

 

GとM。

俺が手に入れた情報どおりなら、Gは魔獣を呼び出す謎の魔笛。

そして、Mは俺と同じ、天ヶ瀬の使い手。

Gの本名、「ギデオン」は意味深な言葉を残し、去っていったという。

 

「その男が、明日の夏至祭初日に何か引き起こすと…?」

 

エリオットの疑問に、頷いて答える。

 

「ええ、我々はそう判断しています」

「帝都の夏至祭は三日間…しかも、他の地方とは異なって、盛り上がるのは初日ぐらいだからな」

「そして、そのギデオンという男も、わざわざ名前を明かした以上、何かが起きると考えるのが妥当ね」

ノルドの事件から、約一ヶ月。

テロリストの習性から、仲間を集め、力を溜めるにはちょうど良い時間。

そして、夏至祭という、帝都に侵入しやすくなる出来事が重なる。

何も起こらないほうが、逆に不自然というだろう。

 

「最初は水面下で同士と武装を整え、そこから派手に決起して一気に動くのはテロの基本」

「そ、それで私たちにテロ対策への協力を……?」

 

フィー、アリサの言葉に頷くクレア姉

 

「ええ、鉄道憲兵隊も、帝国軍対暴徒鎮圧部隊と帝都憲兵と協力しながら警備体制を敷いています。ですが、とにかく帝都は広く、警備体制の

 

穴が存在する可能性は否定できません」

「そこで、お前たちには、遊軍として協力を要請、ってことだな」

 

そう。レーグニッツさんと話をした内容にも出てきていた。

俺が行うはずの遊軍をⅦ組にやらせる。

おそらく、今はクレア姉の判断で動いているだろうが、これを断ったところで、例の実習課題として知事から渡されるだけだろう。

 

そのことを察知したのか―――

 

「Ⅶ組A班、テロリスト対策に協力させていただきます」

「同じくB班、協力したいと思います」

 

リィン、アリサは即決だった。

 

「…そっか…」

「ありがとうございます、皆さん。…それでは、当日担当していただくルートの説明に入らせていただきます」

 

その後、クレア姉による説明を受け、Ⅶ組の面子は帰っていた。

そして、この場には俺を含め三名。

俺、クレア姉、そしてサラ・バレスタイン。

 

「いいのか?教え子にこんな危険なことやらせて」

「良い、といえば嘘になるわ。でも、あの子達は選んだ。私はそれを邪魔する権利はないもの」

「しかし、彼らの協力が無ければ、帝都の警戒網が緩まってしまうのも事実。彼らには協力をしてもらう必要がありました」

「…あーあ。帝都の協会があれば、少しはやりやすかったのに」

「それは心強いですが…。あの、サラさん。遊撃士協会の撤退に鉄道憲兵隊は一切関与していないのですが…」

「そうかしら?…少なくとも親分と兄弟筋はいまだに露骨なんだけどね~。それに、あんたもよ。トーリ・X・アイゼンブルグ?」

「…ふっ、どうだろうな」

 

俺たち『鉄血の子供たち』のこと、やはり快くは思っていないみたいだ。

…ま、一回戦っちまってるしな、俺なんて。

 

「…今度はあのときのようにはいかないわよ」

「はいはい、楽しみにしてるぜ。紫電」

「言ってなさい。死人造り…それじゃ、私はもう行くわ。それじゃあね」

 

最後に物騒な言葉を掛け合ったあと、部屋を出て行くサラ。

あいつ、まだ根に持ってんか…

 

「クレア姉」

「はい?」

「飯でもいかね?」

「…ふふ、そうですね。ご一緒させてもらいます」

 

明日に備えて、旨いものでも食べに行くかな。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

同日25:00

 

深夜の港に、怪しい格好の男が一人、歩いている。

 

「―――時は至った。今こそ我らが鉄槌をもって赤き都の眠りを覚ます刻だ」

「そこは、神刀、じゃあないか?」

「ふふふ…そうだったな。」

 

不審な男の傍に突如現れたローブの男。

その男には、紅く、今にも燃え盛りそうな太刀を手にしていた。

 

「同士G、我々の準備は既に完了している」

「しかし、肝心の貴方の手勢はあまりにも少ない…」

「もう数名、他から回すべきではないのか?」

「なに―――心配は無用だ。この笛さえあれば鉄道憲兵隊も恐れるに足りん。それに、我々の手には神刀がある」

「勘違いするなよG。我々は利害が一致しているだけに過ぎん。神刀は、お主らだけの力では無いと言うことを忘れるな」

「分かっている。だが、情報提供までしたのだ。その分はしっかり動いてもらうぞ…?―――アーリィ・X・サザンドフ」

 

アーリィと呼ばれた男は不敵に笑い、こう答える。

 

「…任せておけ。トーリ・X・アイゼンブルグは、私が片付ける。…のう?ジェイド」

「…はい、アーリィ様」

 

甲高い音と共に出現した男。

その手には、蒼く輝く一振りの刀。

 

 

 

 

深夜の港に、二本の神刀が、揃っていた。


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