機動戦士ガンダム---ジオンの軍師---   作:ジョミニ

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一週間戦争---4

連邦軍は会戦の開始から僅か20分ほどで、連合艦隊の前方集団を壊滅に追い込まれた。

 

ジオン軍を率いるキリング中将は、この機に敵艦隊を無力化しコロニーの安全を完全に確保するべく、護衛部隊から部隊の抽出を行い、突撃を行わせることを決断。

 

戦史上初めてのMS部隊による艦隊への大規模な強襲はしかし、陣形を再編したティアンムの指揮の前に、三度の失敗をみる。

 

突撃の指揮を取るグスタフは僅かな隙を衝き、他の部隊の全てを陽動に回すという奇策によって第二教導連隊の連邦艦隊右翼への突入に成功、乱戦に持ち込みつつ敵旗艦へ接近しつつあった。

 

「くそっ!こいつら、連携が上手い!」

 

苛ついた声のバルビエ中尉。

 

連邦艦隊はマゼラン一隻とサラミス二隻を一単位とし、互いの死角を補うことでミノフスキー粒子によって無効化されたファランクスシステムの穴を埋め、更にその三隻を三つ組み合わせることで点でなく面での制圧射撃を試み、MSの浸透を阻んでいた。

 

MSによる攻撃を完全に防ぐには至らないものの、その突破力を確実に削ぎ、消耗を誘うような戦術。

 

先鋒艦隊の経験のみからほぼ未知の敵に対してこれほどの対応策を即座にとってくるとは、ティアンムは猛将なだけでなく知将でもあるようだ。

 

「大佐、このままでは敵中で弾薬を失って孤立するはめになりかねません。一時後退を進言します」

 

第四中隊の中隊長、アンドレ・ソシュール中尉。

 

冷静な判断力に信頼を置くこの人物に後退を提案され、グスタフは僅かに突撃の続行を俊巡する。

 

「そら、沈みやがれ!」

 

バルビエの第三中隊がなんとか敵の対空砲を掻い潜り、マゼランをバズーカの直撃によって沈める。

 

躊躇いから僅かに足を止めていたそのお陰で、グスタフは防空の穴を埋めようとする敵艦の動きに生じている、ほんの少しのタイムラグに気付いた。

 

敵艦の動きは第二教導連隊の突入した右翼で最も鋭く、離れるほどに緩慢になっている。

 

更に右翼集団の中でも、敵の部隊行動には差が生じている。

 

ミノフスキー粒子によって通信が通常のように使えない以上、ノータイムでの指示の伝達は不可能。

 

すなわち、敵艦隊の動きの最も鋭い部分こそ。

 

「ティアンムの旗艦の位置、ということだな」

 

遂に小さな勝利の糸口は見つかった。

 

後はそれを広げるのみ。

 

「大隊、俺に続け!ティアンムはすぐそばにいるぞ!」

 

とは言うものの、ティアンムの元へたどり着くには、敵の迎撃が最も激しい部分を突破していかなくてはならない。

 

弾薬も推進剤も残り少ない以上、まともに戦っていては不可能である。

 

「第三、第四中隊は転進、敵艦隊中央部へ向かえ。指揮はソシュール中尉に任せる。第一、第二中隊は俺に倣え」

 

グスタフはそう命令を下すと、敵艦の残骸の影に身を隠すと、転進した中隊を追撃するために敵の陣形が伸びたところで一気に当たりを付けた部分に突っ込んだ。

 

敵艦のレーダーが意味を成さなくなる、ミノフスキー粒子によって強いられた有視界戦闘において成り立つ戦術だが、どうやら上手くいったようだ。

 

「どけ!」

 

ザク・バズーカの残弾は残り三。

 

そのうちの一発で敵の中枢をなすマゼラン級への道を遮るサラミスに直撃弾を与え、轟沈させる。

 

サラミスの爆発によって生まれた閃光に飛び込み、対空砲火の目を眩まし、抜け際に更に一発。

 

進路上のマゼランの砲座に一撃を加え、無力化し、更に先へ。

 

最後の一発で、ティアンムの旗艦「ティターン」と思しきマゼラン級の艦底部に狙いを定める。

 

「これで!」

 

しかし、その弾が目標に届くことはなかった。

 

一隻のサラミスが射線上に割り込み、マゼランを庇ったのだ。

 

グスタフは舌打ちする。

 

バズーカの弾が残っていない以上、あとは近づいてヒート・ホークを使うしかないが、それが叶う敵とは思えない。

 

更に悪いことに、後方の味方艦隊、キリング中将より、途切れ途切れの通信が入った。

 

「……大佐、一部部隊……てくれ。繰り返す。グスタ……ク大佐、……敵分艦隊の襲撃を……急襲は……中止……」

 

「くそっ!」

 

グスタフは目の前のモニターを拳で叩く。

 

無防備なコロニーと、鈍重な作業部隊、敵に砲で劣る艦隊が敵の攻撃を受けた以上、損害は防ぎようがない。

 

早くMS隊を戻さなくてはコロニーを破壊され、作戦全体の失敗を招く。

 

再び周囲を護衛艦に守られ後退していく討ち損じたマゼランを憎々しげに睨み、グスタフは機体を返した。

 

 

 

u .c 0079、1月10日 8時35分

 

遮るもののなくなった「アイランド・イフッシュ」が地球に落下していくのを、グスタフは乗機のモニターで見ている。

 

戦艦の核弾頭も南極基地のミサイル攻撃も、コロニーの破壊には至らなかった。

 

あとはこのままジャブローへ落下し、分厚い岩盤ごと連邦軍中枢部を押し潰せばこの戦争は終わる、はずだった。

 

「コロニーが……割れる」

 

破壊には至らなかったものの、「アイランド・イフッシュ」の内部骨格は大きなダメージを受けていた。

 

大気圏突入の熱に耐えきれず、崩壊していく「アイランド・イフッシュ」を呆然と見つめる。

 

崩壊したコロニーは、バラバラになりながら地球に落下していく。

 

グスタフはその光景に、命を落とした連邦軍人達の執念がコロニーを引き裂いているような錯覚を感じた。

 

「っ……」

 

急に、名状しがたい感覚に襲われる。

 

分類するとすれば「気持ち悪さ」に属するそれは、しばらく目を瞑っていればやり過ごせるものだったが、これまで生きてきた中で初めての感覚だった。

 

ーーこの日、ジオン軍によるジャブロー壊滅を目的としたコロニー落とし作戦「ブリティッシュ作戦」は終了した。

 

コロニー「アイランド・イフッシュ」を食い止めようとしたティアンム艦隊はジオンの新兵器「MS-06」「MS-05」に翻弄され、艦隊戦力の7割を失い後退。

 

しかし、ジオン艦隊にチベ級重巡5隻大破、ムサイ級巡洋艦4隻轟沈、11隻大破という損害を与えた。

 

また作業に当たっていたMSを含め約140機を撃墜することで、「ジャブロー壊滅」という最悪の事態を防ぐことに成功する。

 

地球に落下したコロニー各部は各地に落ち、甚大な被害を与えた。

 

ジオン公国の宣戦布告からコロニー落下まで続くこの期間の戦闘を通常は「一週間戦争」と呼ぶ。

 

開戦からこの日までに戦闘で、毒ガスで、コロニーの落下で失われた30億もの人命は、戦争の終結に何らの寄与もしなかった。

 

この戦いから一週間もしないうちに両軍は体勢を整え、再び雌雄を決するべく、サイド5「ルウム」宙域において激突するのである。

 

 


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