機動戦士ガンダム---ジオンの軍師---   作:ジョミニ

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戦後処理---6

公王庁にたどり着き、やっと一息付けた心地になる。

 

自分の命が狙われた事情は分からないが、一応撃たれる危険はなくなったからだろう。

 

ここまでグスタフを連れてきてくれたフリーダも流石に疲労困憊の様子だ。

 

「何がなんだかわからないが、とにかく感謝する。ありがとう、フリーダ」

 

「礼には及びません。私は自分の任を果たしただけですから」

 

「タンネンベルク准将、レーシュ中尉。公王陛下が謁見なさるそうです」

 

衛兵が二人を呼びにくる。

 

「そうか、わかった。では准将、こちらです」

 

フリーダは勝手知ったるとばかりにグスタフを先導する。

 

「あ、ああ」

 

フリーダの後を付いていくと、中央に長い階段のある部屋に着いた。

 

恐らくは、ここが謁見の間なのだろう。

 

階段の下に跪いたフリーダにならい、グスタフも同じ姿勢を取る。

 

「公王陛下。宸襟を騒がせ奉り、恐縮です」

 

「うむ。構わん。ご苦労だった。その男がタンネンベルク准将か」

 

階段の上、豪華な椅子に座る男がデギン・ザビなのだろう。

 

グスタフの位置からでは顔はよく見えないが、声はほとんどメディアで聞いた通りのものだった。

 

「はっ、グスタフ・タンネンベルクにございます。公王陛下」

 

「うむ。キシリアが迷惑をかけたな。これからもドズルを助けてやってくれ。頼むぞ」

 

それだけ言うと、デギンは杖を付いて引っ込んでしまう。

 

拍子抜けしたような心地になりながら、再びフリーダに連れられ、別の一室に通される。

 

「で、一体どういうことなんだ」

 

どうやら、やっと落ち着いて話を聞ける状況になったようだ。

 

やたらと豪奢なソファーに身を沈ませつつ、説明を求める。

 

「わかりました。全てをお話致します」

 

そう前置きしてから、フリーダが話しはじめた。

 

「つい先日のことですが、公王陛下はレビル将軍との間に、非公式な会談の場を設けられました。レビル将軍の真意を確かめるためです」

 

「真意?」

 

「はい。陛下は現在行われている条約交渉、このためにレビル将軍をわざと解放し、連邦内部から休戦を訴えさせるということをお考えになりました。そのために将軍の考えを見極める必要があったのです」

 

ひどく遠大な策だが、交渉の決め手としては有効かもしれない。

 

正しくレビルの真意を見抜ければ、という前提はつくのだが。

 

「その結果陛下は将軍に戦争続行の意思がないと判断して、連邦の特殊部隊の手引きを行った、と?」

 

フリーダは目を丸くする。

 

「はい。まさか特殊部隊のことをご存知だったとは驚きです」

 

「特別なツテがあってな。それで、陛下はキシリア少将に計画への協力と実行を命じた、というわけだ」

 

新しく与えられた情報を整理し、脳内で冷静に状況を分析する。

 

「俺が追われたのは……そうか。スケープゴートが必要だったから、で合っているな?」

 

レビル将軍が連邦の特殊部隊に奪還されたとなれば、誰かがその責を負わなくてはならない。

 

移送の情報を与えたのも、グスタフに「連邦に内通した」という容疑をかけて処断する際の証拠にするためだったのだろう。

 

准将の位置にある人間が内通していたのならば将軍の奪還はやむを得なかったことになり、警備を管轄していたキシリア少将はお咎めなし、ということだ。

 

「ええ。予め拘禁しておくことでドズル閣下の助けが及ばないうちに即決裁判のもと処刑を行うつもりだったと考えられます」

 

「なるほど、な」

 

結局、自分だけではなすすべもなくキシリアに捕らわれ無実の罪で死ぬことになっていたわけだ。

 

「だが、一つ分からないことがある。君は、正確には公王陛下は、なぜ俺を助けた?准将一人失ったところで国全体としてはさほど痛くもないだろう?」

 

デギン公王にしてみれば、グスタフに責任を被せて消してしまった方が後腐れもなく、またキシリアの機嫌を取ることもできて得だと思える。

 

「准将は、宇宙攻撃軍のNo.2と目されています。その准将が国家反逆罪に問われることになれば、どうでしょう」

 

「当然、ドズル閣下の責任も問われる」

 

「それも狙いの一つなのです。ドズル閣下を失脚させ、自らの権力を伸長させるキシリア少将の目論見の元、閣下が選ばれました。しかし、少将の権力が大きくなれば、ザビ家は二つに割れることになります」

 

ジオンの軍権の多くを握るドズルが失脚すれば、末弟ガルマがまだ若年である以上、ザビ家がギレン派とキシリア派に分かれるのは明白だ。

 

「故に、陛下は急遽犠牲にされる恐れのある高級士官に自らの配下を秘書官として配置したのです」

 

ジオンの権力を三分させ、その上にある自らの権力を安定させ続けるという政略の一つだったのだ。

 

准将だの少将だのと言っても、結局はザビ家の手の内で転がされるだけの存在にすぎないのだと思い知らされる。

 

「そういうことだったのか。……あの夜君と出会ったのもシナリオ通りか。素晴らしい演技力だったな」

 

名乗ったグスタフのことを知らない振りをし、わざわざドズルの前でさえとぼけてみせたのも、全てが芝居だったのだと納得し、その名演技に感心の意を抱く。

 

「いえ、前触れのない話でしたから、どなたに付くのかは本当に知らされておりませんでした」

 

「……つまり、本当に俺の名を知らなかったわけか」

 

「……申し訳ありません」

 

ここで浮かぶ、一つの疑問。

 

「俺との接触が目的でなかったなら、どんな任務であんな場所にいたんだ?」

 

「いえ、あの……それは」

 

「ぜひ聞かせてもらいたいのだが」

 

「人には話せない任務」と言っていたが、ここまで話してしまったのならば聞いても構わないだろう。

 

ザビ家の思惑に振り回された憂さをほんの少しだけでも晴らしたい気持ちもあり、ばつの悪そうにしているフリーダに重ねて聞いてみる。

 

「…………ので」

 

絞り出したような答えは、小声でよく聞き取れない。

 

「すまない、もう一度言ってくれ」

 

「……あの近くに安くて味のいい食堂があると聞いたので」

 

「任務」の内容が食べ歩きだったとは。

 

予想外の答えに言葉を失う。

 

「し、仕方がないではありませんか。格闘術や護衛術の訓練で空腹だったのですから」

 

「そ、そうか。うん。それで、結局その店は見つけられたのか?」

 

「はい。ですが食材が不足していたらしく、残念ながら開店してはおりませんでした」

 

「戦争の影響だろうな」

 

「ですが、レビル将軍が戦争終結を訴えれば、戦争も終わりです。公王陛下がそう仰っていました」

 

正直なところ、グスタフはデギンの見解に賛意を示すことはできない。

 

それでも、命の恩人の期待の言葉を否定する気にはなれなかった。

 


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