ハリー・ポッターと虹の女神   作:セバスチャン

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※5/26:文章をより読みやすいように一部修正しました。ハリーとイリスの甘々シーン追記しました。


Petal5.アラスター・ムーディ

 ホグワーツ特急は徐々に速度を落とし始め、やがてホグズミード駅に停車した。列車の扉が開いたとたん、濃灰色の空がパッと明るく輝き、その直後に凄まじい音量の雷鳴が轟いて、イリスは思わず首を竦めた。外は土砂降りで、みんな背を丸め、目を細めて降りた。まるで頭から冷水をバケツで何杯も浴びせかけるように、雨は激しく降り続いている。嵐の音に紛れ、ハグリッドの声が聴こえたような気がして、イリスは前方に目を凝らした。ハグリッドがランプを振り回し、一年生達を引率していくのが見える。――伝統に従い、一年生達をボートに乗せて湖を渡らせるのだ。

 

「こんなお天気の時に湖を渡るなんて、ホントに可哀そう」ハーマイオニーが呻いた。

 

 イリスもこれには同感だった。こんな嵐のような天候では、ホグワーツ城の美しい景観なんてろくに見る事が出来ないのに違いない。四人は人波に混じって暗いホームをのろのろと進み、なんとか駅の外に出ると、ずらりと居並ぶ馬なしの馬車の一台にいそいそと乗り込んだ。そしてびしょ濡れの顔を突き合わせて、雨に打たれる事なく快適にホグワーツへ行ける事を感謝した。

 

 羽根の生えたイノシシの像が両脇に並ぶ門を通り、嵐のように激しく吹きすさぶ雨風に耐えながら、馬車は正面玄関のがっしりした樫の扉へと上る石段の前でピタッと止まった。四人は無言で目線を交わしたあと、示し合わせたように馬車を飛び降り、石段を一目散に駆け上がった。玄関の中に入ってから、四人はやっと顔を上げた。

 

「さあ、止まらずにどんどん進みなさい!」

 

 玄関ホールではマクゴナガル先生が待ち構えていて、余りの寒さに震えるばかりの哀れな濡れ鼠達に向け、容赦なく言い放った。四人は一息吐く間もなく、水でできた大きな足跡を残しながら玄関ホールを進み、途中で悪戯ゴースト・ピーブスによる赤い水風船爆撃を受けながら、なんとか大広間へ辿り着いた。大広間は例年通り、見事な飾り付けが施されている。各寮の長テーブルには生徒達がぎっしり座り、杖を振って体を乾かしたり、衣服を絞って水気を取ったりしながら、他愛無いお喋りに興じていた。

 

 グリフィンドールのテーブルに向かい、それぞれの定位置に腰掛けると、四人はやっと人心地付いたような気がした。イリスは早速マントを脱ぎ、ギュウと絞って水気を取りながら、職員テーブルを見た。嵐と戦いながら一年生を連れて来るハグリッドを手伝うためなのか、軽い洪水状態のホグワーツ城を掃除するためなのか、理由は分からないけれど、半分ほどの空席がある。テーブルを端から端まで眺めていると、スネイプがこちらをじっと見つめているのに気が付いて、イリスはちょこんとお辞儀をした。スネイプは良く注視していなければ分からないほど、かすかな動きで黙礼した後、「天文学」を教えるシニストラ先生との会話に戻った。

 

「”闇の魔術に対する防衛術”の新しい先生はどこかしら?」

 

 豊かな栗色の髪をギュッと握って水気を取りながら、ハーマイオニーが言った。彼女の言う通り、去年「闇の魔術に対する防衛術」を担当していたルーピン先生は皆に惜しまれながらも退職してしまったので、今年もまた新しい先生が教鞭を取る手筈となっている。――そう言えば「闇の魔術に対する防衛術」の先生は不思議な事に一年以上続いた試しがない。イリスは空っぽのお腹を摩りながら思った。もしかしてこれもホグワーツに秘められた謎の一つなのだろうか。

 

「たぶん誰も見つからなかったんじゃないかな」

 

 ハリーがスニーカーを脱ぎ、ひっくり返して中の水を捨てながら言った。テーブルの中央にはダンブルドア校長先生が座っていて、半月眼鏡の奥から天井を見上げて、何か物思いに耽っている様子だった。イリスもつられるようにして天井を見上げた。天井は魔法で本物の空と同じに見えるようになっているが、こんなにひどい荒れ模様の空は初めてだ。どす黒い色の暗雲が渦巻き、外でまた雷鳴が響いたとたん、天井に木の枝のような形の稲妻が走り、みんなが床に捨てた水で創り出された、小さな湖を輝かせた。

 

 その時、大広間の扉が開いて、みんなしんと静まり返った。マクゴナガル先生を先頭に、一列に並んだ一年生の長い列が大広間の奥へと進んでいく。一年生の状態は、イリス達よりもずっとひどかった。湖をボートで渡って来たというより、泳いできたみたいにずぶ濡れだ。マクゴナガル先生が三本足の丸椅子を一年生の前に置いて、継ぎ接ぎだらけの古い三角帽子、”組分け帽子”を置く。かくして帽子は歌い出し、組分けの儀式は滞りなく行われた。

 

 一年生が一人ずつ呼ばれては、叫んだ寮のテーブルへ駆けていく様子を、イリスはぼんやりと見守っていた。マルコム・バドックという生徒が、今回の組分けで初めてスリザリン寮に選ばれた時、イリスは何気なくスリザリンのテーブルを見てしまい、慌てて顔を戻そうとした。

 

 その時、拍手を送る人々の端の方で、小さな人だかりが出来ている事に気づき、イリスは目を凝らした。人々の中心には一人の少女がいて、具合が悪そうに俯いて、両手で口元を抑えている。”深窓の令嬢”という言葉が良く似合う、儚げな雰囲気の少女だった。やがて監督生に連れられてスネイプが大股で歩いて来ると、少女を連れてどこかへ去って行った。きっと医務室へ行ったのだろう。

 

 ――大丈夫だろうか。きっと嵐のような天候に影響を受けて、気分不良を起こしたのだろう。イリスがそう思って心配していると、俄かに目の前の金の皿がご馳走でいっぱいになった。組分けの儀式は、無事に終了したらしい。よほどお腹が空いていたのか、ロンは猛烈な勢いでステーキを切り分けて口いっぱいに頬張り、早速喉に詰まらせて、呆れ顔のハーマイオニーに介抱されている。ハリーは大皿に沢山の料理を載せ、イリスの隣にやって来た。イリスは自分とハリーのゴブレットにかぼちゃジュースを注ぎ、二人で仲良く並んで、他愛無い会話を楽しみながら美味しい料理に舌鼓を打っていた。するとグリフィンドール付きのゴースト、”首無しニック”がやって来てこう言った。

 

「今晩はご馳走が出ただけでも運が良かった。さっき厨房で問題が起きましてね」

「もんひゃい?」ハリーがステーキの塊を口いっぱいに頬張りながら訊いた。

 

 ニックが言うにはこうだった。――悪戯ゴースト、”ピーブス”が、祝宴に参加したいと駄々をこね始めたため、彼を参加させるべきかどうかを『ゴースト評議会』で吟味した。しかしスリザリン付のゴースト、”血みどろ男爵”が頑なに拒否し、ピーブスの願いは叶わぬ夢となってしまった。今までのピーブスの行いを鑑みれば当然の結果ではあるのだが、その事に機嫌を損ねた彼は、あろうことかホグワーツの厨房に忍び込み、盛大に暴れ回ったのだと言う。調理器具も料理も何もかもひっくり返しての大暴れで、厨房で働いている屋敷しもべ妖精達は幸いな事に怪我こそなかったものの、皆物も言えずに怯え切ってしまったのだとか。

 

「ちょっと待って」

 

 その時、ハーマイオニーが恐怖に引き攣った声で叫んだ。その尋常ではない声色に、イリスはヨークシャープティングを切り分ける手を止めて、彼女を見た。――ハーマイオニーの知性に輝く顔は、今や大いなる絶望に染まり、青白く光る目がニックを凝視している。彼女の取り落した金のゴブレットからオレンジジュースが零れて、テーブルクロスにじわじわと広がっていったが、その事を気に留める余裕すらないようだった。

 

「屋敷しもべ妖精が、このホグワーツにもいるっていうの?」

「さよう」ニックは当然至極といった調子で応えた。

「イギリス中のどの屋敷よりも大勢いるでしょうな」

「だけど、今まで私、一人も見た事ないわ!」ハーマイオニーが猛然と言い返す。

「そう、日中は滅多に厨房を離れることはないのですよ」

 

 ニックは、ハリーがかぶり付いているキドニーパイを羨ましそうな目でじっと見つめながら言った。

 

「夜になると、出て来て掃除をしたり、火の始末をしたり・・・つまり姿を見られないようにするのです。良い屋敷しもべ妖精の証拠なのですよ。”存在を気づかれない”というのは」

 

 ニックの言葉に、イリスは納得して一人頷いた。――いつも談話室の暖炉の火を熾してくれたり、部屋をきれいに掃除してくれたり、いくら食べてもお皿から湧き上がって来る料理を作ってくれたりしているのは、ホグワーツ城にかかった魔法ではなくて、大勢の屋敷しもべ妖精達だったのだ。イリスはプティングを切る作業を再開しながら、マルフォイ家で過ごした記憶を思い返していた。

 

 屋敷の中で時々見かける妖精達は皆、家の人々に対していつも忠実で、命令された以上の事をテキパキとこなしていた。だがマルフォイ家の人々は、そんな健気な彼らを労ったり、感謝の言葉を送ったりする事は一度としてなかった。ハーマイオニーはごくりと生唾を飲み込み、確かめるような口調でニックに尋ねた。

 

「でもお給料はもらってるわよね?お休みとか、病欠とか、年金とかも色々と」

 

 その言葉がよほど面白かったのか、ニックは豪快に笑い出した。あんまり高笑いしたので、ひだ襟がずれ、真珠色の薄い皮一枚でかろうじて繋がってる首が今にも落ちそうにグラグラしている。

 

「屋敷しもべ妖精に給料ですって?」ニックは涙を零しながら言った。

「彼らは自分の働きに報酬を望んでいません。主人に無休無償で奉仕する事が名誉なのですから。ましてや病欠や年金なんて、彼らには生涯縁のないものですよ!」

 

 恐らくニックの言う通り『屋敷しもべ妖精は主人に奉仕する事こそが名誉だ』という考えが魔法界の常識として根付いているのだろう。しかし中には、彼らの献身に礼を尽さぬどころか酷い虐待をしたり、不当な理由で解雇するような心無い主人達もいる。せめてホグワーツに勤める屋敷しもべ妖精達が悲しむ事のないように、目の前にある料理を感謝して食べなくては。

 

 イリスが決意を新たにし、一口大に切ったプティングを咀嚼し始めた一方で、ハーマイオニーは恐ろしい程の無表情で、ほとんど手を付けていない自分の皿を見下ろしていた。ニックが去って行ってしまってから、彼女はナイフとフォークを置いて皿を遠くへ押し遣った。ハーマイオニーは料理を食べない事で、屋敷しもべ妖精の不当な待遇に抗議する意志を示したのだ。色んな味のソーセージを一口ずつ食べ比べようと、嬉々として切り分けていたイリスはそんな彼女に異議を唱えた。

 

「勿体ないよ、ハーミー。せっかく作ってくれたのに」

「そうだぜ」ロンが牛肉の煮込みをかっ込みながら援護した。

「君が絶食したって、屋敷しもべ妖精が病欠を取れるわけじゃないよ」

「”奴隷労働”よ」ハーマイオニーは気色ばんで言い放った。

「このご馳走を作ったのが、それなんだわ。奴隷労働!」

 

 ハーマイオニーはそれ以上、一口も食べようとしなかった。やがて皿の料理が種々様々なデザートに代わり、イリスが幸せ一杯の表情で、焼き立ての糖蜜パイにアイスクリームをたっぷり添えて食べようとした時、ハーマイオニーが待ったを掛けた。

 

「”奴隷労働”なのよ、イリス」

 

 イリスは口をあんぐり開けたまま、ピタッと動きを止めた。ハーマイオニーはほとばしる情熱を込めた声で追い打ちをした。

 

「可哀想なウィンキーを思い出して!」

 

 イリスの頭の中に、クラウチ氏に縋り付いて泣きじゃくる、哀れな屋敷しもべ妖精の姿が思い起こされた。――可哀想なウィンキー。彼女は今、どうしているだろう。確かにハーミーの言いたい事は分かると、イリスは思った。屋敷しもべ妖精は、無休無償の過酷な状態で日々働いている。しかし目の前の糖蜜パイを食べない事が、彼らの不当な扱いに抗議する事と同義だとは思えない。イリスはそう決断を下し、溢れる食欲のままにパイを味わった。

 

「どうして食べるのよ!」

 

 ハーマイオニーの猛烈な怒りを物ともせず、イリスは口の中のパイとアイスクリームの魅惑的なハーモニーを楽しみ、しっかりと飲み込んでから、本来大人しい気質の彼女にしては珍しく熱弁を飛ばし始めた。

 

「ハーミー。確かに屋敷しもべ妖精はとても可哀想だって思う。だけど、その事とお料理は別だよ。このお料理の一つ一つは、屋敷しもべ妖精が私達のために心を込めて作ってくれたものだよ。食べれば”愛情の篭もった味”だって、決して嫌々作らされたものじゃないって、ちゃんと分かる。それを食べないっていう抗議はダメだよ。本当にそうするつもりなら、何か別の方法を考えた方が良い」

「ワーオ。君って食べ物が絡むと、ホントに必死だな」ロンがドン引きしながら言った。

 

 ハーマイオニーは親友の言葉を受け、何事かを考えているようだった。やがてデザートもきれいさっぱり平らげられ、最後のパイ屑が消えてなくなると、ダンブルドアが立ち上がった。大広間を満たしていたざわめきが一斉に止み、聴こえるのは風の唸りと叩きつける雨音だけになった。ダンブルドアは例年通り、管理人のフィルチの場内持ち込み禁止品が一部更新された事、禁じられた森は立ち入り禁止だという事、ホグズミード村への観光は三年生から許される事を告げ、最後に特大の驚くべき爆弾を放った。――なんと『寮対抗のクィディッチ試合は、今年度は取り止めになる』と言うのだ。

 

「エーッ!」

 

 ハリーは絶句した。彼は優れたシーカーであると同時に、クィディッチに関してはウッドに負けない位の情熱と努力を注いできた。イリス達もハリーの活躍する姿を見るのが大好きだった。それなのに今年いっぱい中止だなんて。イリス達も戸惑いを浮かべた表情で目線を交し合う。今までクィディッチは余程の緊急事態でなければ、嵐だろうが何だろうが開催されていたのに、一体どうしてなんだ?チームのビーターを務めるフレッドとジョージに至っては余りの衝撃に言葉を失くしたのか、ダンブルドアに向かって、酸欠の金魚のように口を空しく開閉させる事しか出来ないようだった。ダンブルドアはそんな二人の様子を労りに満ちた目で見守り、言葉を続けた。

 

「これは十月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。しかし、わしは皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びをもって発表しよう。今年、ホグワーツで――」

 

 その時、耳をつんざく雷鳴と共に大広間の扉がバタンと開いた。

 

 ――戸口に一人の男が立っている。長いステッキに寄りかかり、黒い旅行マントを纏っている。男はフードを脱ぎ、馬のたてがみのような長い暗灰色の髪をブルッと振るうと、教職員テーブルに向かって、ぎこちなく体を引きずりながら歩き出した。片足は義足で、一歩踏み出す毎にコツッという鈍い音が、静まり返った大広間に響いた。稲妻が男の姿をくっきりと浮かび上がらせ、その歪な顔が一ミリの隙もないほど傷で覆われていることを映し出した。最も不気味なのが男の目だ。片方は黒く小さな普通の目だが、もう片方は明るい青色をしていて絶えずグルグルと動き回っている。とても迫力のある、恐ろしい風貌の男だった。イリスは椅子に縛り付けられたかのように固まって、男の様子を見守る事しか出来なかった。

 

 大広間中の誰もが口を閉ざし、男に視線を注いだまま、ピクリとも動けなかった。男は教職員テーブルまでやって来て、ダンブルドアと握手をし、示された席に座ると、目の前に置かれたソーセージの皿を持ち上げて匂いを嗅ぎ、ポケットからナイフを出してソーセージを刺して豪快に食べ始めた。その間もブルーの目は休む事なく動き回っていたが、ふと目がこちらを見て、そのままピタッと静止した。イリスは飛び上がるほどびっくりして、ハリーの背中にさっと隠れた。

 

「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生を紹介しよう」静まり返った中で、ダンブルドア先生の明るい声が言った。

「ムーディ先生です」

 

 しかしダンブルドアとハグリッド以外は、誰も握手をしなかった。二人の拍手だけが静寂の中でパラパラと寂しく鳴り響き、すぐに止んだ。他の全員はムーディの余りに不気味な有様に言葉もなく、ただじっと見つめるばかりだった。

 

「ムーディって、マッド・アイ・ムーディ?」後ろ手でイリスの膝をポンポンと優しく叩きながら、ハリーがロンに訊いた。

「もしかして、君のパパが今朝助けに行った人?」

 

 ロンは魅入られたような眼差しでムーディを一心に見つめながら、「たぶん」と頷いた。――それを聞いて、イリスは思い出した。今朝早くに、アーサーは魔法省に早朝出勤したエイモスに緊急要請を受け、”マッド・アイ・ムーディ”なる人物を助けに行ったのだ。彼は往年は優秀な闇の魔法使い捕獲人、つまり”闇祓い”だったが、現在は心を病んで引退しているとビルから聞いた。まさかムーディがこんなに迫力のある人で、おまけに「闇の魔術に対する防衛術」の新しい先生だなんて。

 

「なあ。なんであんなに傷だらけなんだ?」ロンが目を凝らしながら呟いた。

「知らないわ」ハーマイオニーが囁き返した。

 

 ムーディはお世辞にもあたたかいとは言えない歓迎ぶりにも、全く無頓着のようだった。目の前のかぼちゃジュースのジャーには目もくれず、ポケットから携帯用酒瓶を取り出してグイグイと飲み始める。やがてダンブルドアが咳払いし、みんなの注目は彼へ戻った。ダンブルドアはキラキラと光る青い目で生徒達を見渡し、朗々とした声で語り始めた。

 

「さて、これから数ヶ月に渡り、我が校は誠に心躍るイベントを主催するという光栄に浴する。この催しはここ百年以上行われていない。この開催を発表するのは、わしとしてもおおいに嬉しい。

 今年、ホグワーツで”三大魔法対抗試合(トライウィザード)”を行う」

 

 その瞬間、大広間中が大きな歓声と笑い声に包まれた。さっきまで絶望に打ちひしがれていた筈のフレッドとジョージまでが「御冗談でしょう!」と言って笑い転げている。――”三大魔法対抗試合”って何だろう。イリスが首を傾げていると、ダンブルドアが和やかになった場の雰囲気を楽しむかのように笑いながら、説明を始めた。

 

 ――”三大魔法学校対抗試合”とは、およそ七百年前、ヨーロッパの三大魔法学校の親善試合として始まったものだった。ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの各校から代表選手が一人ずつ選ばれ、三人が三つの魔法競技を争うのだ。五年ごとに三校が回り持ちで競技を主催した。若い魔法使い、魔女達が国を越えての絆を築くには、これが最も優れた方法だと、皆が信じていた。しかしある年に夥しい数の死者が出る事件が起こり、競技そのものが中止された。それから何世紀もの時が過ぎ、その間に何度もこのイベントを復興しようという試みが起きたが、どれも失敗に終わった。しかしこの夏、イギリス魔法省の『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』が結束し、選手達の安全を守るために万全な体制を整え、各校との綿密な話し合いを乗り越えて、いよいよ数世紀越しの”三大魔法学校対抗試合”を再興する運びとなったのだ――

 

「パーシーが言ってたのは、このことだったんだ」ロンがイリス達を見て、興奮した顔で言った。

「”鍋底展覧会”よりずっといいや!」

 

「十月にはボーバトンとダームストラングの校長が、代表選手の最終候補性を連れて来校し、ハロウィーンの日に学校代表選手三人の選考が行われる。優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人に与えられる賞金一千ガリオンを賭けて戦うのに、誰が最も相応しいかを公明正大なる審査員が決める」

 

「立候補するぞ!」フレッドが立ち上がり、力強く吼えた。

 

 今やグリフィンドールだけでなくどの寮のテーブルでも、栄光と富とを同時に手にする期待に熱く燃え、顔を輝かせる生徒や、熱っぽい表情で夢を語り合う生徒達の様子を見る事ができた。しかしダンブルドアはそんな彼らに警鐘を鳴らすかのように厳格な口調で、言葉を続けた。

 

「ただし代表選手になれるのは、十七歳以上の生徒だけじゃ。このことは我々がいかに予防措置を取ろうとも、試合の種目が難しく危険であることから、必要な措置であると判断したためじゃ。年少の者がホグワーツの選手になろうとして、時間を無駄にせぬよう、わし自ら目を光らせることとする」

 

 ダンブルドアの目が、たちまち反抗的な顔つきになったフレッドとジョージを捉えて、悪戯っぽく笑った。

 

「ボーバトンとダームストラングの代表団は十月に到着し、今年度はほとんどずっと我が校に留まる。外国からの客人が滞在する間、みんな礼儀と厚情を尽すことを信ずる。ホグワーツの代表選手が選ばれた暁には、みんな心からその者を応援するであろうということも。さあ、夜も更けた。明日からの授業に備えて、ゆっくりお休み」

 

 ダンブルドアの号令で、生徒達は一斉に席を離れ、玄関ホールへ繋がる二重扉へ向かって歩き始めた。イリス達はその流れに乗る事なく、立ち尽くしたままダンブルドアを睨み付けるフレッドとジョージを見つけて、立ち止まった。

 

「そりゃ、ないぜ!」ジョージはイライラしながら言った。

「僕ら、四月には十七歳だぜ。なんで参加できないんだ?」フレッドが続ける。

「二人とも。さあ、早く行かないと」ハーマイオニーが急き立てた。

「ここに残ってるのは私達だけになっちゃうわ」

 

 イリス達は二人を引きずるようにして連れ出し、グリフィンドール塔へ向かった。タペストリーの裏の隠し戸を通り、悪戯階段に嵌まったネビルを助けつつ、数ヶ月振りの再会を果たした「太った貴婦人」と挨拶を交わし、穴をくぐって懐かしい談話室へ帰り着いても、皆の話題は”三大魔法対抗試合”でもちきりだった。フレッドとジョージは真剣な話し合いの末、”老け薬”を使って少しばかり年を誤魔化し、審査員の目を掻い潜る作戦を思い付いたと言い、イリスに向けて魅惑的なウインクを放った。

 

「イリス。俺の可愛い子猫ちゃん」フレッドが猫撫で声でやって来て、イリスの顎をくすぐった。

「大好きなスネイプの保管庫から材料をいくつか取って来てくれよ」

「絶対にいやだ」イリスは即答した。

「タダでとは言わないさ」

 

 ジョージは追い縋り、イリスにポケットから取り出した金色のカードを手渡した。カードの表面には”WWW・VIPカード”という赤い文字が躍っている。――そう言えばWWWとは何だろう。以前もカナリア・クリーム入りのケーキを食べた時、彼らがその名前を出して笑っていた。

 

WWW(ウィーズリーウィザードウィーズ)って何?」

 

 イリスが率直に尋ねると、”よくぞ聞いてくれました”とばかりに、ジョージが自慢げに鼻を擦った。

 

「僕らが創立した”悪戯グッズ専門店”さ。そしてこれは、僕らの商品が半額になる魔法のカード」

「どんな商品があるの?」

 

 イリスが好奇心に駆られて訊くとと、ジョージがローブのポケットから丸めたカタログを取り出し、見せてくれた。――そこには面白そうな商品が沢山載っていた。食べると舌が伸びる「ベロベロ飴(トン・タン・トフィー)」、半分を食べると気絶・鼻血・発熱・嘔吐などの症状が現れるが、もう半分を食べると回復するようになっている、なりたい症状別のお菓子が入った「ずる休みスナックボックス」、手に取ると動物の鳴き声がしてその動物(※但しゴム製)になる「騙し杖」・・・などなど。かつてイリスが引っかかった「カナリア・クリーム」も掲載されている。面白そうな商品ばっかりだ。彼女は顔を上げて、賞賛に満ちた眼差しでフレッド&ジョージを見つめた。

 

「二人共、凄いなあ。こんなに面白そうなものを沢山開発できるなんて」

「まあ、それほどでもないさ」フレッドはイリスの肩を抱き、誇らしげに笑った。

「今回の件で君が協力してくれるってんなら、半額どころか、もっと興味深い僕ら秘蔵の商品を・・・」

「やめて、イリスを巻き込まないで!」

 

 ジョージが熱心にイリスを口説いていると、その様子を見咎めたハーマイオニーがすかさず彼女の肩をグッと掴んで引き離し、二人に凄んだ。

 

「もう、みんな危機感がなさすぎるわ。()()()()()()()()

 

 WWWの若き店主達は「”マクゴナガル先生”が来た!」と言って笑い、イリスの手からカードとカタログをちゃっかりと抜き取って去って行った。残念そうな顔をするイリスを引き連れ、女子寮に続くドアを開けて入っていくハーマイオニーを見送りながら、ロンがぽつりと言った。

 

「僕、立候補するかも。フレッドとジョージがやり方を見つけたら。やってみないと分からないしな。・・・一千ガリオンだし。君はどうする?」

 

 ハリーは頭の中に次々と浮かんでくる輝かしい姿に翻弄されていたので、ロンの言葉にきちんと応える事が出来なかった。――彼が夢見ていたのは、審査員を出し抜いて代表選手に選ばれ、大歓声を上げる全校生徒の前で、勝利の印に両手を上げて校庭に立つ自分の姿だった。そこには賞賛に顔を輝かせたイリスがいて、うっとりと自分を見つめている。ハリーは力強く彼女を抱き寄せ、熱い口づけを・・・そこまで考えて、我に返ったハリーは慌てて首を横に振り、馬鹿げた妄想を打ち消した。けれど一度高まった想いはなかなか消えず、ハリーはせっかく屋敷しもべ妖精が忍ばせてくれた湯たんぽを放り出し、ベッドの上で眠れぬ夜を過ごすこととなった。

 

 

 嵐は翌朝までには治まっていた。しかし大広間の天井には、まだ鉛色の重苦しい雲がどんよりと渦巻いている。イリス達はいつもの席で朝食を摂りながら、配られたばかりの時間割を確かめていた。四人から少し離れた席で、フレッド&ジョージとリー・ジョーダンが、どんな方法を使えば首尾良く代表選手になれるかを討議している。

 

「うわ」ハリーが顔をしかめながら、時間割の一部を指差した。

「ここ「占い学」が二時限続きだ」

「ご愁傷さま。貴方達も「占い学」を止めればよかったのよ。私達みたいに」

 

 ハーマイオニーはトーストにバターを塗りながら、イリスに向かって親しみを込めてウインクして見せた。イリスは四年生次より「占い学」を止めて「数占い学」を履修することにしたのだ。あの水晶玉に映った恐ろしい幻覚に戦いたイリスは、ハーマイオニーの勧めで、彼女と同じ授業を取得する手続きを取ったのだった。ともあれ、ハリーの落胆する気持ちはイリスも良く分かる。「占い学」の教室の――あの異様な暑さとむせ返るような香の匂い、そして不吉な事ばかりを口走るトレローニー先生の三重苦を二時限ぶっ続けで耐えるのは、かなりの苦行に違いない。

 

「ハリー。元気出して」

 

 イリスがハリーの皿にソーセージを入れながら明るく言うと、彼は少し考えるような素振りを見せたあと、悪戯っぽい笑みを浮かべてこう返した。

 

「君が()()食べさせてくれたら、元気になるかも」

 

 ハリーが”それ”と指さしたのは、イリスが入れたばかりのソーセージだった。――どうしてハリーが自分に食べさせてもらったら元気になるのかは分からないけれど、そんな事くらいお安い御用だ。イリスは快諾し、ソーセージを一口大に切り分けフォークで刺して、ハリーの口元へ持っていった。

 

「はい」

 

 ハリーは戸惑ったような表情を浮かべ、イリスとソーセージを交互に見た。まるで自分の言葉が本当になるなんて思いも寄らなかったと言わんばかりの様子だ。しかしやがて顔を赤らめながらも口を開けて、差し出されたソーセージを食べた。――イリスに食べさせてもらえるなんて。彼は夢心地で咀嚼し、ごくんと飲み込んだ。胸がいっぱいで味なんて分からないけれど、ハリーは束の間の幸せに酔いしれていた。向かいの席では、イリスが今度は目玉焼きを切り分け、フォークに差して自分の口元に持って行こうとしてくれている。

 

 ――その時、ゾッとするような殺意の籠もった視線が背中に突き刺さり、ハリーは思わず振り返った。そのまま注意深く周囲を見渡すが、どのテーブルの寮生達もこちらを見る事無く食事をしたりお喋りをしたりしているばかりだ。さっきのは気のせいだったのだろうか。ハリーは首を傾げながら元の位置に戻り、幸せの続きを堪能した。

 

 しかし、それは”ハリーの気のせい”ではなかった。スリザリン寮のテーブルから、密かにイリスの様子を見守っていたドラコが、彼に向けて殺気を飛ばしていたのだ。ハリーは近い未来、ドラコが買収したお騒がせ記者、リータ・スキータの手により、好き放題のでっち上げ記事を盛大に書かれる事となるのだが、現在の彼はそんな事を知る由もなく、イリスが差し出したパンを幸せ一杯の気分で咀嚼するばかりだった。

 

「おーや、また食べるようになったじゃないか」

 

 ロンはハーマイオニーの食事風景を見て、勝ち誇ったように笑った。

 

「何とでも言いなさい」ハーマイオニーはピシャリと言い返し、トーストを齧った。

「屋敷しもべ妖精の権利を主張するのには、もっと良い方法があるって分かったのよ」

「”もっと良い方法”って何?」

 

 イリスがハリーと半分こした林檎をかじりながら尋ねると、ハーマイオニーは「まだ秘密よ。()()()()()()()()」と囁いてにっこりした。ますます訳が分からない。イリスは首を傾げながら、みずみずしいプラムを手に取った。

 

 

 朝食が終わると、学校の日常――つまり授業が始まった。四人は沼地と化した野菜畑を通り、第三温室に辿り着いて、スプラウト先生の指示の下で、”腫れ草(ブボチューバー)”――真っ黒な太い大ナメクジが土を突き破って直立しているような外見で、テラテラと光る大きな腫れ物が吹き出し、その中に液体のようなものが詰まっている――の膿を集める作業をした。この膿は頑固なニキビを治す薬の原材料となるのだと、スプラウト先生が教えてくれた。膿絞りは癖になるような楽しさがあった。ドラゴン皮の手袋をして腫れたところを突くと、黄緑色のドロッとした膿がたっぷり溢れ出して、強烈な石油臭がした。

 

 次は「魔法動物学」だ。イリス達は芝生を下り、禁じられた森の外れに立つハグリッドの小屋へ向かった。ハグリッドは足元に木箱を数箱、蓋を開けた状態で置いている。近づくにつれ、奇妙なガラガラと言う声が聴こえて来た。時々、小さな爆発音のような音もする。

 

「おはようさん!」ハグリッドは不気味なほどに清々しい笑顔で四人を迎えた。

「スリザリンを待った方がええ。あの子たちも、こいつを見逃したくはねえだろう。”尻尾爆発スクリュート”だ!」

「ゴメン、もう一回言って?」ロンが耳をかっぽじりながら尋ねた。

 

 勇敢にも箱の中身を見に行ったラベンダーは、覗き込むなり凄まじい悲鳴を上げて、近くにいたパーバティにしがみ付いた。イリスもこわごわ箱に歩み寄り、そっと中を確認する。――”尻尾爆発スクリュート”は、殻をむかれた奇形のエビのような姿をした、なんとも形容しがたい奇妙な生き物だった。ひどく青白いヌメヌメとした胴体からは、勝手気ままな場所に足が突き出し、頭らしい頭が見えない。一つの箱におよそ百匹ほど、ひしめいている。体長約十五、六センチほどで、重なり合って這い回り、闇雲に箱の内側にぶつかっていた。体臭は腐った魚のような匂いで、時々尻尾らしいところから火花が飛び、パンと小さな音を上げて、そのたびに十センチほど前進している。

 

「こ、こんにちは」

 

 イリスは恐る恐る挨拶したが、スクリュート・ベイビー達はガヤガヤと好き勝手な事を話すばかりで、ろくに返事もしなかった。ハグリッドは生徒達の引き攣った表情が『スクリュート大好き!』という顔に見えているのか、自信満々な口ぶりで『この生き物の好む餌を見つける事が今日の授業だ』と言い放った。

 

 自分の担当する箱にハグリッドが準備した様々な餌を差し入れながら、イリスは思案した。――この子達はまだ幼すぎて会話も出来ないから、好みの食べ物が何であるかを聞き取る事が出来ない。それにこんな狭いところで密集させていては可哀想だ。現に今も、小規模ではあるが仲間外れやイジメが起きているのが確認できる。イリスは顔を上げ、ハグリッドに言った。

 

「ハグリッド。この子達、もう少し広い場所で過ごさせてあげた方がいいんじゃないかな。お散歩させてあげたりとか」

 

 次の瞬間、イリスの箱からパンと大きな音がして、スクリュートが数匹、大きく飛び上がった。――イジメに耐えかねたスクリュートが、他の者達を巻き込んで反乱を起こしたのだ。不幸な事にハリー達を含む他の生徒は、それぞれの担当する箱内のスクリュートに手一杯で、この事態に気付いていなかった。興奮したスクリュート達は空中で大きく弧を描き、赤々と熱されている鋭い針がびっしり付いた尻尾が、茫然と座り込むイリスに向かって襲い掛かった。

 

 その時、誰かがイリスの腕を強く掴んで引っ張り、彼女はコロンと地面に転がった。イリスの前に着地したスクリュート達はすかさず誰かの足に力の限り蹴飛ばされ、彼らはパンと爆発してネビルのところへ一直線に飛んで行った。

 

「待って!そんな、ひどいよ・・・」

 

 蹴飛ばすなんて、と言い掛けたイリスは、足の持ち主を見上げて、ピシリと石像のように固まった。――ドラコだった。怒りに燃える灰色の目が、スクリュート・ベイビーに塗れて慌てふためくネビルを冷たく睥睨している。

 

()()()()()()()()()。あのスクリュートが」

 

 ドラコはイリスを見る事無く陰湿な怒りに満ちた声で言い、そのまま去って行った。一連の彼の不可解な行動に、イリスは思わず首を傾げた。ドラコの持ち場は自分と離れている。スクリュートは間違いなく、自分に向かって襲い掛かって来た。恐らくドラコはたまたま自分の傍を通りかかったのだろう。イリスはそう結論付け、束の間の幸せ気分に浸った。ほんのわずかではあるが、彼の近くにいて言葉を交わせたからだ。イリスはお騒がせなスクリュートを少し好きになった。

 

 

 ――あの忌々しい化け物め!図書室で本を探しながら、ドラコは小さく悪態を吐いた。僕がイリスに目を光らせていなければ、もう少しで彼女が怪我をするところだった。ドラコはハグリッドの能天気な笑顔を思い出し、イライラと歯噛みした。どうやらあの愚かな木偶の坊は、もう一度痛い目に遭いたいらしい。今度またあの不気味なモンスターを授業に出したら、僕は父上に抗議の手紙を書いてやる。ドラコはそう決意を固めると、高ぶった感情を深呼吸して鎮め、目の前の本の題名を確認する事に意識を集中した。――”記憶の一部が思い出せない”という自分の状況と、他者の記憶を想起させないようにする”忘却術”とを結び付けたドラコは、手がかりを求めて”記憶に関する魔法”に関する書物が集められた区域に立ち寄っていたのだ。

 

 ドラコは『忘却術の全て』という医学書を見つけて抜き取ると、周囲に人がいない事を確認してから、真剣に読み始めた。聖マンゴに勤める癒師が、実際に忘却術を掛けられた患者の症例を基に執筆したものだ。読み進めていく内に、やがて彼は興味深い一文に辿り着いた。

 

 ――”非常に大切な記憶を忘却させた場合、患者は、稀に術者に対し、激しい憎しみ、怒り、喪失感、不快感を感じ、術者を攻撃することがある”――

 

 ドラコは震える指先で文章をなぞった。――激しい憎しみ、怒り、喪失感、不快感、この症状は全て思い当たる。”イリスを見た時に起こる感情”だ。力を失くした彼の手から本が滑り抜け、ドサッと床に落ちた。しかし彼はそれを拾う余裕すらなく、茫然と虚空を見つめ続ける事しか出来ない。――本当にこの本の記述を信じるならば、僕は忘却術を掛けられた可能性が高い。そしてその術者は()()()だ。だが何故、彼女は僕の記憶を消した?答えのないその問い掛けは、ドラコの心の奥底に沈み、澱のように留まった。

 

 

 それから二日間は、イリスにとって大きな事件もなく、平和に過ぎ去った。「数占い」はとても面白かった。「魔法薬学」の授業では、スネイプはますますハリーを毛嫌いするようになっていた。ロン曰く、ハリーが自分の髪を整えようと手グシで掻き雑ぜる度に、スネイプの肌に尋常ではない量の鳥肌が立っていたという。それを聞いたハリーはいよいよ挑戦的になり、スネイプをより不快な気分にさせるための”効果的な身だしなみの整え方”を極めるようになった。

 

 そして木曜日の昼食後は、あのムーディ先生の「闇の魔術に対する防衛術」が予定されていた。彼の授業はとても刺激的で面白いらしい。一足先に受講したフレッド達からそう聞いて以来、イリス達はこの日が来るのをずっと楽しみにしていたのだった。四人は最前列の机の真正面に陣取り、先生を待った。やがて廊下をコツコツと歩く音がして、ムーディが教室へ入って来た。右足の義足をキラリと光らせながら、彼は教科書をしまうように命じると(ロンが顔を輝かせた)、点呼を取り、嗄れた声で唸った。

 

「このクラスについては、ルーピン先生から手紙をもらっている。お前達は”闇の怪物”と対決するための基本を満遍なく学んだようだな。まね妖怪(ボガート)赤帽鬼(レッドキャップ)水魔(グリンデロー)など。そうだな?」

 

 みんながガヤガヤと同意すると、ムーディは節くれだった両手をパンと叩いた。

 

「宜しい。この一年でわしが教えるのは、”闇の怪物”ではなく”魔法使い同士”の対決についてだ。わしらがどこまで呪い合えるものなのか、お前達を最低線まで引き上げる。魔法省によれば、わしが教えるものは反対呪文であり、そこまでで終わりだ。違法とされる”闇の呪文”がどんなものか、六年生になるまでは見せてはいかん事になっている。

 しかし、見た事がないものからどうやって身を守ると言うのだ?今しも違法な呪いをかけようという魔法使いが”これからこういう魔法をかけます”などと教えてはくれまい。お前達の方に備えがなければならん」

 

 ムーディはそこで一旦話を区切り、好き勝手に動き回るブルーの目でラベンダーをじろりと睨め付け、彼女がテーブルの下で「占い学」の宿題を広げてパーバティに披露している事を注意してから、再び口を開いた。

 

「さて、魔法法律により最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」

 

 ――”最も厳しく罰せられる呪文”、その言葉を聴いた瞬間、イリスは徐々に心臓の鼓動が早まってくるのを感じた。理由は分からない。けれど、足の先からじわじわと不安感や焦燥感が込み上げて来て、イリスは余りの不快さに身震いし、椅子の上で小さく縮こまった。二つ隣に座るロンが手を挙げて、自信のなさそうな口ぶりで応える。

 

「えーと、パパから聞いた事があるんだけど、確か”服従の呪文”とかなんとか?」

「その通りだ。お前はウィーズリー家の息子だな?」ムーディはロンを褒め、彼は照れ臭そうに頷いた。

「数日前、お前の父親のお蔭で窮地を脱した。・・・そう、彼なら確かにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省を手こずらせた事がある」

 

 ムーディはグイと勢いを付けて立ち上がり、机の引き出しからガラス瓶を取り出した。――黒い大蜘蛛が三匹、中でガサゴソ這い回っているのが見えた。蜘蛛が苦手なロンは、ぎくりと体をこわばらせた。イリスは一瞬、瓶の中に閉じ込められた彼らが自分の姿に見えて、強い吐き気と眩暈を覚えた。――違う、あの蜘蛛達は私じゃない。イリスはギュッと目を瞑り、自分自身に何度も言い聞かせた。ムーディは瓶から蜘蛛を一匹掴み出し、掌に載せて、みんなに見えるようにした。そして杖を向け、呪文を唱えた。

 

「インペリオ、服従せよ」

 

 その呪文を聴いたとたん、イリスの体からサーッと音を立てて血の気が引いて、頭の中が真っ白になり、呼吸がしづらくなった。――彼女は深い恐怖と絶望に喘ぐ中で、ルシウスやピーターにその呪文を唱えられた事を思い出した。あの蜘蛛も、かつて自分が与えられた”自我を失う程の圧倒的な多幸感”を感じているのに違いない。蜘蛛は細い絹のような糸を垂らしながら、ムーディの手から飛び降り、糸を切って机の上に着地したかと思うと軽快なタップダンスを始めた。イリスにはそれが、ルシウスやピーターに操られ、意志を失くした人形のように動く自分の姿にしか見えなかった。陽気な蜘蛛のダンスを見て、イリスとムーディ以外の皆が大笑いする。

 

「面白いと思うのか?」ムーディが低く唸った。

「わしがお前達に同じ事をしたら、喜ぶか?」

 

 皆の笑い声が一瞬にして消え、後味の悪い沈黙が訪れた。噛み締めるように、ムーディは言った。

 

「完全な支配だ」

 

 ――”完全な支配”。その言葉が、イリスの背中にずしっと圧し掛かった。そう、イリスは抗う事ができなかった。日記を自分のものだと思い込み、ピーターの下へスニジェットに変身して飛んで行った。ムーディは蜘蛛に掛けた魔法を解除し、瓶の中にしまいながら、『ヴォルデモートの全盛期、誰が無理に動かされているのか、自らの意志で動いているのか、そこを見分けるのが魔法省にとって一仕事だった』と締めくくった。

 

「”服従の呪文”と戦う事はできる。これからそのやり方を教えていこう。ただ一筋縄ではいかん。強い意志が必要だ。できれば呪文を掛けられぬようにした方が良い。油断大敵!」

 

 突然のムーディの大声に、皆びっくりして飛び上がった。そんな様子を気にする事無く、ムーディは厳しい表情で生徒達をぐるりと見渡した。

 

「他の呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」

 

 ハーマイオニーの手が挙がると同時に、ネビルの手も挙がった。ハリー達は驚いて目を見張り、少しざわめいた。彼がいつも自分から進んで応えるのは、他の科目よりも得意な「薬草学」の授業だけだったからだ。何よりもネビル自身が、手を挙げた事にびっくりしている様子だった。

 

「何かね?」ムーディは唸った。

 

 イリスは今すぐここを飛び出したい、と強く思った。体じゅうから冷たい汗が吹き出してきて、とても気分が悪い。でも目の前にはムーディ先生がいるし、両隣にハリーとハーマイオニーが座っているので、簡単には出られない。何より、みんな集中して話に聴き入っている。”逃げたいのにそうする事ができない”という状況は、過去のトラウマに苦しむイリスを追い詰め、激しいパニック状態へ追いやっていった。――お願い、ネビル、答えを言わないで。イリスは震える両手を組んで、願った。きっとその答えを私は知ってる。

 

「”磔の呪文”です」

 

 しかしイリスの願いは通じなかった。ネビルは小さな、けれどもはっきりと聴こえる声で応えた。ムーディはしばらくの間、何も言わずにネビルをじっと見つめていた。

 

「お前はロングボトムという名だな?」やがて魔法の目を名簿に走らせ、ムーディは言った。

 

 ネビルはおずおずと頷いたが、ムーディはそれ以上追及しなかった。そしてガラス瓶から二匹目の蜘蛛を取り出し、机の上に置いた。蜘蛛は恐ろしさに身が竦んだらしく、じっと動かない。そしてイリスだけに聴こえる小さな声で、助けを求めている。

 

≪助けて、誰か助けて≫

「やめて・・・」

 

 イリスは恐怖に見開いた双眸から涙を流し、蚊の鳴くような声で囁いた。涙でぼやける視界の中で、テーブルの上で立ち竦む蜘蛛と、ピーターに”磔の呪文”を受けて床に転がる過去の自分の姿とが重なって見えた。ムーディは目の前にいる彼女の様子に気付いていた筈なのに、作業を止めようとはしなかった。彼は蜘蛛をより状況を分りやすくするために肥大化させ、杖を振り上げる。

 

「クルーシオ、苦しめ!」

 

 たちまち、蜘蛛は脚を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、痙攣し始めた。イリスの耳に、蜘蛛の声にならない絶叫が突き刺さる。――その時、何の前触れもなく、()()()()()()()()()()()()。思い出したくもない、毒ナイフで何度も体を突き刺されるかのような、あの悪意に満ちた痛みだ。イリスがまだ痛みの弱い箇所に縋ろうと無意識に身を捩るたび、面白がるようにそこを激しく責め立てる。”磔の呪文”とその犠牲となった蜘蛛は、イリスの心から恐ろしい記憶を引き摺り出し、かつてピーターから受けた拷問の痛苦を()()()()()()。その耐え難い痛みにイリスはたまらず身を捩り、泣き叫んだ。

 

「ああああああああっ・・・!!」 

 

 イリスの尋常ではない事態を察して、ハリー達は口々に何かを叫びながら取り押さえようとした。しかし激しい錯乱状態にあるイリスは、今自分の周りにいる全ての人間がピーターに見えて、自分自身が傷つくのも構わず、無茶苦茶に暴れ回った。その時、ネビルが蒼白な表情で、イリスを助けようと近づくハリーを力任せに押しのけた。

 

「どいて!」

 

 ネビルは切羽詰まった声で叫び、イリスの懐に入り込むと、彼女の口にシュッと何か液体のようなものを吹きつけた。彼女は無意識の内にそれを飲み込んだ。するとたちまち意識はぼんやりと霞み、硬直していた体の力は急速に緩んでいった。――真っ白な世界の中で、温もりと共に優しい男の子の声がする。

 

()()、大丈夫だよ。ゆっくり呼吸して」

 

 やがてイリスは自我を取り戻し、そっと目を開けた。すぐ目の前にネビルがいて、自分を抱き締め、涙を浮かべて心配そうに見つめている。彼だけではない、今やクラス中の人々がイリスを取り囲み、痛々しいものを見るような眼差しを向けていた。

 

 ムーディは静かな口調でイリスとネビルに教室の外で待つようにと指示したため、二人はふらふらとした足取りで教室を出た。イリスは物も言わずに廊下の窓に飛びつき、大きく開けて、みずみずしい外の空気を思いっきり吸い込んだ。そして何度も頭を振るい、脳裏にこびりつく拷問の記憶の残滓を追いやった。まだ体じゅうがズキズキと痛くて、気持ちが悪い。過去のトラウマに苦しむイリスの様子を見て、とうとうネビルはこらえきれずに声を上げて泣き始めた。

 

「ご、ごめんね!」ネビルはしゃくり上げた。

「僕が答えを言っちゃったから。怖い思いをさせて、本当に、本当にごめん!君がペティグリューに・・・まさか、”磔の呪文”を受けてたなんて知らなかったんだ!」

「ネビルのせいじゃないよ」イリスは我に返り、慌てて取り成した。

「授業だったんだもの。それより、助けてくれて本当にありがとう」

 

 ネビルはイリスの傍にそっと座り込み、背中を優しく撫でてくれた。そしてローブのポケットから小さな硝子製の香水瓶を取り出して、じっと見つめた。中には透明な液体が詰まっている。――イリスはおぼろげな記憶の中で、何かを飲み込んで気分が楽になった事を思い出した。きっとこれがそうなのだろう。ネビルはチラッとイリスを伺い見てから、今にも消え入りそうな声で話し始めた。

 

「これ、”安らぎの水薬”を含んだ鎮静剤なんだ。ママがパニックになった時に使うんだよ。・・・僕のパパとママ、聖マンゴに入院してるの。

 僕がまだ小さい頃に、”死喰い人”に”磔の呪文”を何度も掛けられて、心を壊しちゃったんだって。もう僕の事を覚えてないし、ずっとボーッとしてる。そう言えば、最近ロックハート先生が同じ病室に入ってきて、僕びっくりしちゃった」

 

 ネビルはふっと笑った。その言葉を受け、イリスはロックハートの病室へお見舞いに行った時の事を思い起こした。――彼の病室には、分厚いカーテンが閉じられたままのベッドが二台あった。ろくな見舞客の来ない彼を哀れんだ癒師は『あのベッドにいる両親は良く家族が会いに来る』と言っていた。

 

「ママが怖い夢を見てパニックになる時があるんだ。その時にこれを使ってあげたらいいって、知り合いの癒師さんがくれたんだ。

 これを口に吹きかけて、ギュッて抱き締めてあげるの。”ママ大丈夫だよ”って。そうしたら、安心してまた寝るんだ。きっとママは覚えてないだろうけどね」

 

 ネビルは寂しそうに微笑んで、硝子瓶を大切そうにポケットに仕舞った。――イリスは何も言えなかった。自分の事を覚えていない両親を、それでもネビルは大切に想っていて、労わり、無償の愛を捧げている。自分がもし彼と同じ境遇に立たされたとしたら、果たして彼と同じように行動する事が出来るだろうか。イリスはネビルをとても愛情深く、強くて優しい人だと思った。イリスはネビルの手を取り、真摯な気持ちで言った。

 

「そんなことない。私、ネビルにそうしてもらった時、とても楽になったよ。きっとネビルのお母さんは感謝してる。絶対に忘れっこないよ」

「ありがとう」ネビルは顔を真っ赤にさせ、もごもごと言った。

「このこと言ったの、君が初めてなんだ。お願いだから、他の誰にも言わないで」

 

 やがて授業終わりの鐘が鳴り、ムーディが生徒達より一足早く教室を出て、杖を手に下げて足を引き摺りながら、こちらへやって来るのが確認できた。イリスはびくりと大きく体を強張らせた。――あの呪文が引き金になったのか、今は杖を持っている男の人を見るだけでも強い恐怖を感じる。ムーディはいつもの唸り声よりずっと低く、優しい声で話しかけた。

 

「ゴーント、おいで。お前に話さねばならん事がある。・・・ロングボトム、お前は大丈夫だな?」

 

 ネビルはムーディに気圧されたように、何度も頷いた。イリスは本当は早くハリー達のところへ帰りたかった。拝むような目でムーディを見たが、彼の意志は変わらないようだった。やがてイリスは観念したように立ち上がり、彼の跡に続いた。

 

 ムーディはイリスを自分の部屋まで連れて来ると、寛ぐように言った。部屋の中は色んな不思議な道具がひしめいていた。扉の横にはくすんだ色の鏡があり、窓際には錠前が沢山付いた、とても大きなトランクが置いてある。所在なげに立ち竦むイリスを見て、ムーディは一唸りした。

 

「ゴーント。わしが怖いか?」

 

 イリスが素直にこくんと頷くと、ムーディは言った。

 

「お前がペティグリューからどんな仕打ちを受けたのか、ダンブルドアから聞いている。何度も”磔の呪い”を掛けられたそうだな。お前のように呪いを受けて心を壊した者を、わしは大勢見て来た」

 

 ムーディはそこで一旦言葉を区切った。イリスの頭の中に、先程のネビルとの会話が蘇る。――彼の両親は”死喰い人”に拷問を受け、精神を壊してしまったと聞いた。

 

「呪いをかけようとする者は、お前が恐怖心に飲み込まれ、震えて縮み上がっている様子を哀れんで、落ち着くまで待ってくれるような事などしない。涎を垂らして無力なお前に襲い掛かり、いたぶって殺すだけだ。

 お前は一刻も早く、恐怖心を克服せねばならん。過去に”磔の呪文”を受けた時の記憶が心に強く焼き付き、フラッシュバックしている。過去と現実の区別がついていない、危うい状態だ」

 

 そう言うと、何の前触れもなくムーディは杖を構えて、イリスに”磔の呪文”を唱えた。――とたんにイリスの体をあの悪意に満ちた痛苦が再び埋め尽くし、彼女はたまらず床に転がって泣き叫んだ。

 

「やめてぇ!」イリスは余りの苦痛にのたうち回り、悲痛な声で喘いだ。

「ゴーント!」ムーディは轟くような大声で唸った。

「わしはお前に”磔の呪文”を掛けていない。()()()()()()()()()()。今お前が感じている痛みは、過去の記憶からなる幻覚だ。これは過去の出来事、もう終わった事なのだと、自分に言い聞かせ続けろ!」

 

 ――この痛みは過去の出来事、もう終わった事。今、受けている事じゃないんだ。恐ろしい辛苦の中、イリスは必死でムーディの言葉にしがみ付いた。やがて次第に痛みが遠のいていくのを感じて、イリスはそっと目を開けた。涙でぐしゃぐしゃになった視界の中で、ムーディが自分に対して杖を向けているのが見える。けれど、もうあの痛みは感じない。イリスの様子が一段落した事を確認すると、ムーディは杖を下ろして穏やかな口調で言った。

 

「危険はどこにでも潜んでいる。人間は危険な目に遭うと、もう二度と同じ轍を踏むまいと、その経験を恐怖心と共に記憶に刻み付ける。それらは自分の身を守るために必要なものだ。だが、()()()()()()()()()()

 

 ――ムーディはとびきり荒療治ではあるが、イリスのトラウマを克服する手伝いをしてくれたのだった。その事を理解したイリスがお礼を言うと、彼はふっと笑った。笑ったせいで傷跡だらけの顔が歪み、恐ろしい形相がますます迫力を増したが、イリスは不思議なあたたかさを感じて、つられたように微笑んだ。

 

 ムーディはイリスに”談話室へ戻って体を休めるように”と言い、扉を開けて部屋の外へ送り出してくれた。最後に一礼をして塔へ向かって歩き出そうとしたその時、不意に手をグッと掴まれて、イリスはよろめきながら止まった。思わずびっくりしてムーディを仰ぎ見ると、彼は物も言わずに厳しい顔つきで自分の手を見つめている。

 

 イリスは目を凝らして、アッと小さく声を上げた。――先程暴れた拍子に傷つけたのだろう、左手の甲の一部が切れて、血が滲んでいる。しかし”平気です”とイリスが言う前に、ムーディはその手を口元に持っていくと、血を丁寧に舐め取った。

 

「勿体ない。大切な血、大切な身体だ」イリスの腰を掴んで力強く引き寄せ、ムーディは唸った。

「大事にしろ」

 

 その後、ムーディは一旦自室に戻って救急箱を取ってくると、傷の手当てをしてくれた。イリスは塔に向かいながら、包帯の巻かれた掌をぼんやりと見つめた。――血を舐めるなんて、もしかして先生は吸血鬼なのかな。ムーディの行動は不可解だが、彼は自分の恐ろしいトラウマを治療してくれた良い先生でもある。嫌な気持ちはしなかった。寮に帰ったら、この事をハリー達やネビルに伝えなきゃ。イリスはそう思い、タペストリーの裏の隠し戸を通った。




ロードオブザリング観始めてしまった…。今から約20年前の映画だなんて信じられないよ。大好きなガンダルフを堪能できて幸せです。

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