ハリー・ポッターと虹の女神   作:セバスチャン

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File13.ミッドナイト・ドラゴン

 イリスは次の日の朝になってやっと、ナルシッサからもらったリボンが無くなっている事に気づいた。きっと喧嘩の時に落としてしまったのだ、と唇を噛む。授業の合間の休み時間を利用して競技場へ何度も探しに行ったが、残念な事にリボンは見つからなかった。あの時共に戦ったロンやネビルに聞いても「知らない」と答えが返って来たし、ドラコに聞くのは論外だった。――あの日以降、ドラコはイリスを無視するようになっていたからだ(ドラコに腹を立てていたイリスにとっても、それは願ってもない事だったが)。

 

 四階の廊下を通る度、四人は扉に耳をつけて、三頭犬フラッフィーの唸り声が聞こえるかどうかを確かめた。毎週金曜日に魔法薬学の補習授業のあるイリスは、三人からスネイプの偵察係を任命された。イリスが補習から解放され三人の待つ談話室に戻る度に、スネイプは今日も変わらず不機嫌だったという事を伝えると、それこそまだ『賢者の石』が無事な証拠だと三人はホッとしていた。

 

 

 やがて試験まで三か月を切るようになると、ハーマイオニーは自らも含めて全員分の学習予定表を作り、ノートにマーカーで印を付け始めた。そして予定表の通りに勉強するよう、三人に口酸っぱく勧めた。

 

「おいおい、ハーマイオニー。試験はまだずーっと先だよ」

「十週間先でしょ。ずーっと先じゃないわ。フラメルの時間にしたらほんの一秒でしょう」

 

 ロンが非難の言葉を向けるが、ハーマイオニーはにべもなく言い返す。

 

「僕たち、六百歳じゃないんだぜ」

「あのね、ロン・・・」

 

 懐かしのロン対ハーマイオニーの戦いの幕が、今まさに切って落とされようとしていた。すかさずイリスは膝の上に載っていたスキャバーズを持ち上げ、片手を銃の形に見立てて指先をスキャバーズに押し当て、睨みあう二人の間に入り込むと、ロンに芝居がかった低い声で言い放った。

 

「ロン、スキャバーズの命が惜しければ、ハーミー先生の言う通りに勉強するんだ!」

 

 イリスは勉強が原因でハーマイオニーと喧嘩したトラウマがあるため、勉強に関しては全面的にハーマイオニーの味方だった。イリスの一発ギャグにハーマイオニーとハリーは合点が行った顔をしてクスッと笑ったけれど、純粋な魔法界育ちのロンは『銃』を知らないので、ポカンとして「何だいそれ」と言った切りだった。滑ったイリスはたちまち恥ずかしくなって、人質のスキャバーズを解放した。

 

 

 復活祭の休みは山のように宿題が出た。試験も――ハーマイオニーが言うには――間近に迫っているため、イリスは久々に勉強尽くしの日々を送る事となった。ハーマイオニーと一緒に宿題を片付けながら、試験に向けてドラゴンの血の十二種類の利用法を暗唱したり、杖の振り方を練習したりした。再び、四人は図書館に通い詰めるようになったが、四人のうち、とりわけロンは早くも我慢の限界が近づいていた。

 

「こんなのとっても覚えきれないよ!」

 

 とうとうロンが音をあげ、羽根ペンを乱暴に投げ出した。イリスは『魔法薬調合法』の内容を血眼で暗記していたため、余計なもの(ロンの魂の叫び)を頭に入れないように聞き流した。ロンは図書館の窓から忘れな草色に澄み渡った空を恨めし気に睨み、再び視線を机の上に戻そうとしたところで――不意に素っ頓狂な声を上げた。

 

「ハグリッド!図書館で何をしてるんだい?」

 

 ――ハグリッド?途端にイリスの集中力は霧散し、慌てて教科書から顔を上げる。そこには本当にハグリッドが、バツの悪そうにもじもじしながら立っていた。図書館とごわごわした素材の上着を着た大きなハグリッドは、とてもミスマッチだった。背中に何か隠しているようで、両手は不自然な程後ろに回っている。

 

「いや、ちーっと見てるだけ」

 

 ハグリッドの声は明らかに何かを誤魔化すように上擦っていたので、結局ロンとイリスだけでなくハリーとハーマイオニーも顔を上げて、ハグリッドに注目する事となってしまった。

 

 ハグリッドとの出会いは、彼にとっては不幸な事だったかもしれないが、ここのところ勉強三昧で辟易していたハリーとロンにとっては、幸運な事――良い気分転換だったようだ。二人とも怒涛の勢いで、ハグリッドに『賢者の石』を守っているものは他に何があるのか、追及していく。彼らの敏腕刑事さながらの手腕に、イリスは思わず舌を巻いた。取り調べの末、一時間後小屋で落ち合う事を約束させられ、疲労困憊したハグリッドはよろよろ去って行った。

 

「ハグリッドったら、背中に何を隠していたのかしら」

 

 ハーマイオニーの疑問に、ロンが素早く立ち上がり、ハグリッドがいた書棚の方へ早歩きで向かった。程なくして、ロンはどっさり本を抱えて持ってきて、テーブルの上にどんと置いた。

 

「ドラゴンだよ!」ロンが興奮しながらも、マダム・ピンズに咎められないような声量で叫ぶ。

「ドラゴンって本当にいたんだ!」

 

 イリスは胸をときめかせながら、ロンの持ってきた『ドラゴンの飼い方―卵から灼熱地獄まで』という本を手に取った。そういえば、ダイアゴン横丁でハグリッドがそんな冗談を言っていたっけ。気が付くと、ハーマイオニーが「ドラゴンがいる事は、とっくの昔に授業で習ったわよね?」と言わんばかりのジト目でイリスを見ていたので、イリスは慌てて目を逸らした。

 

「初めてハグリッドに会った時、ずーっと前からドラゴンを飼いたいって思ってたって、そう言ってたよ」とハリー。

「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だよ。一九七〇年のワーロック法で、ドラゴン飼育は違法になったんだ。みんな知ってる。まあ、どの道凶暴なドラゴンを手なずけるのは無理だけどね」とロンが冷静に続けた。

「・・・エッ、法律違反なの?」とイリス。

「じゃあ、ハグリッドは一体何を考えてるのかしら」最後に、ハーマイオニーが呟くように言った。

 

 

 一時間後、四人はハグリッドの小屋へ向かった。驚いた事に窓のカーテンは全て閉められており、中を覗き見る事はできない。イリスが代表して扉をノックすると、ハグリッドがほんの数センチ扉を開けて四人の顔を確認するや否や、四人を中に入れすぐ扉を閉めた。――中は窒息しそうな位、熱い。季節ももう春の半ばで随分と温かくなっているというのに、暖炉には轟々と火が燃えている。ハグリッドは四人のために熱い紅茶を淹れ、イタチサンドを勧めたが、イリス以外の三人は流れ落ちる汗を拭いながら断った。

 

「それでお前さん、何か聞きたいんだったな?」ハグリッドがハリーに尋ねる。

「ウン。フラッフィー以外に、『賢者の石』を守っているのは何か、教えてもらえたらなって」とハリーは単刀直入に聞いた。

 

 当然ハグリッドはしかめ面をして「教える事はできん」とかぶりを振ったが、選手交代したハーマイオニーが今度は優しい声音で言葉巧みにおだて始める。イリスが一つ目のイタチサンドをたいらげる間に、彼女は見事ハグリッドから情報を聞き出す事に成功した。三人は涼しい顔をしてみせるハーマイオニーに「よくやった」と目配せをした。彼女の言葉に気を良くしたハグリッドは『石を守るために誰が魔法の罠をかけたのか』得意げに語り始めた。それはいずれもホグワーツの教師達だった――ハグリッドとダンブルドア校長、スプラウト先生、フリットウィック先生、マクゴナガル先生、クィレル先生、スネイプ先生・・・。

 

「スネイプだって?」聞き捨てならないと、ハリーが声を上げる。

「ああ、そうだ。まだあのことにこだわっとるのか?スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずはない」

 

 イリスは二つ目のイタチサンドに手を伸ばしながら、三人とほぼ同時に目を合わせた。――みんな同じ事を考えていた。もしスネイプが石を守る側にいたならば、他の先生の守る方法についても簡単に把握できるはずだ。――恐らく、クィレル先生とフラッフィーに関してだけはまだ分からないのに違いない。

 

「ねえ、ハグリッド。ハグリッドだけがフラッフィーを大人しくさせられるんだよね?誰にも教えたりはしないよね?・・・例え、先生にだって」

 

 ハリーが心配そうに聞くと、ハグリッドは安心させるような笑みを浮かべた。

 

「ああ、俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん」

 

 四人はホッとした。ハリーが「それなら安心だ」と三人に呟く。

 

「あのさ。熱いんだけど、窓開けてもいい?」

 

 ホッとしたついでにロンが聞くと、ハグリッドが暖炉をチラリと見ながら断った。イリスが彼の視線を追いかけると、暖炉の炎の中にヤカンがあり、その下に大きな黒い卵があった。――イリスの脳内で、図書館でハグリッドの見ていた本と卵がバチッとリンクする。

 

「ねえ、これってドラゴンの卵?!」

 

 イリスが興奮して叫ぶと、ハグリッドは露骨に目を逸らし、曖昧な返事をしながら髭をいじった。そんなことはおかまいなしに、イリスはロンと一緒に火の傍に屈み込んで、卵をもっとよく見ようと目を細めた。ハグリッドは「高かっただろう」というロンの問い掛けに対して『昨日の夜、村へ出かけて酒を飲んだ後、知らない人としたトランプの賭けに勝ってもらったのだ』と誇らしげに答えた。

 

「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」

 

 ハーマイオニーが冷静に尋ねるが、ハグリッドはルンルン気分でドラゴンの種類とその飼い方を話すばかりだ。「この家は木の家なのよ」と彼女が念を押すように言っても、ハグリッドはどこ吹く風で暖炉に薪をくべている。・・・イリスは何となく嫌な予感がした。

 

 

 ある朝、ハリーのふくろうのヘドウィグが、ハリーにハグリッドからの手紙を渡した。それにはたった一行『いよいよ孵るぞ』と書いてあるのみだった。何が孵るのかはすぐ分かった。ロンは薬草学の授業をさぼって小屋に向かおうと主張したが、当然ハーマイオニーが却下して、二人は口論になった。しかし、すぐさまハリーが二人を制止させる。――ドラコがほんの数メートル先にいたためだ。ドラコは四人とすれ違う時、イリスにだけ見えるように、彼女に向けて思わせぶりな笑みを見せた。・・・聞かれていた?イリスの嫌な予感はさらに強まった。

 

 結局、四人は話し合いの末、午前中の休憩時間に急いで小屋へ行ってみようという事になった。扉を開けてくれたハグリッドの顔は、興奮で炎の様に真っ赤に染まっていた。

 

「もうすぐ出てくるぞ」といそいそ四人を招き入れる。

 

 黒い卵はテーブルの上に置かれ、すでに深い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。こつん、こつんと内側から音がしている。椅子をテーブルの傍に引き寄せ、みんな息をひそめて見守った。

 

 突然、黒板を引っ掻くような耳障りな音がして、卵がパックリと二つに割れ、赤ちゃんドラゴンがテーブルに飛び出した。――イリスは絶句した。よくアニメや子供向けの絵本で見るような、クリクリした目の可愛らしい外見を想像していたのに、実物は皺くちゃの黒い蝙蝠傘のようで全然可愛くない。赤ちゃんがくしゃみすると鼻から火花が散ったので、イリスはびっくりして椅子を蹴倒す勢いで飛びのいた。

 

「すばらしく美しいだろう?」ハグリッドはご満悦だ。

「う、うーん。そうだね。なんていうかその・・・前衛的な、美しさ?」

 

 誰もドラゴンを褒めなかったので、イリスが代表して必死に言葉を探していると、ハーマイオニーが冷静に突っ込んだ。

 

「ハグリッド。このドラゴンって、ノルウェー・リッジバック種って言ってたわよね。どれぐらいの早さで大きくなるの?」

 

 ハグリッドが嬉々としてその質問に答えようとした途端、彼の顔から血の気が引いた。弾かれたように立ち上がり、窓際に駆け寄った。

 

「どうしたの?」ハリーが聞いた。

「カーテンの隙間から誰かが覗いておった。・・・子供だ・・・学校の方へ駆けていく」

 

 四人は一斉に立ち上がり、我先に扉へ駆け寄って外を見た。――イリスの嫌な予感は大当たりしてしまった。遠目にだってわかる。ドラコにドラゴンを見られてしまったのだ。

 

 

 次の週から、ドラコは含みのある薄笑いを浮かべて四人を見るようになった。不安になった四人は暇さえあればハグリッドの小屋に行き、ドラゴンを放してあげるよう説得したが、ハグリッドの態度は煮え切らない。それどころか、ドラゴンに『ノーバート』という名前まで付けて、完全に母親気取りだった。イリスは心配そうにドラゴンを見た。たった一週間で三倍ほどの大きさに成長している。ハリーに聞いたら、二週間もしたらノーバートは小屋ぐらいの大きさになるんだそうだ。イリスでも、ハグリッドがもうノーバートを育てるのは無理だということはよくわかった。イリスは意を決して口を開いた。

 

「ハグリッド。ノーバートが可愛いのはわかるけど、ハグリッドが大切にしてたファングや他の動物たちはどうなるの?ノーバートに食べられたりするかもしれないんだよ?」

「ノーバートがそんなことするもんか!俺がちゃあんと言ってきかせるさ」

 

 イリスは辛抱強く言った。

 

「ねえ、ハグリッド。ドラゴンを飼うことは法律違反なんでしょ?もしノーバートが小屋より大きくなったら、もう隠しきれない。学校にばれたら、ハグリッドは逮捕されちゃうんだよ。そうしたら、ノーバートともファングたちや私たちとも、お別れになっちゃう。ファングをこの小屋で一人ぽっちにさせるの?私もハグリッドと会えないのは絶対に嫌だよ」

 

 ハグリッドは黙り込んだ。ハリーは考えた末、閃いた。以前ロンから聞いた――ルーマニアでドラゴンの研究をしている――彼の兄のチャーリーに、ノーバートを預けたらいいのではないか。ハリーが提案すると、ハグリッドはイリスの顔をおずおずと見てから、断腸の思いでチャーリーにふくろう便を送ることに同意した。

 

 

 その次の週から、ロンはハリーの透明マントを借りて、夜遅くに談話室を抜け出し、ノーバートのエサやりを密かに手伝うことになった。

 

「噛まれちゃったよ」

 

 ある晩、透明マントを脱いだロンは、待っていた三人に痛そうに顔をしかめながら血だらけのハンカチに包んだ手を見せた。イリスが慌ててローブのポケットから手持ちの薬とハンカチを取り出して、ハーマイオニーと協力して応急手当てを施していると、こんこんと窓をつつく音がした。――ヘドウィグだ。ハリーは急いで招き入れ、手紙を受け取った。

 

「チャーリーからの手紙だ!」

 

 みんな頭をくっつけあって、手紙を覗き込む。そこには『今週土曜日の真夜中、一番高い塔にノーバートを連れてくるように』と書き付けてあった。四人は互いに顔を見合わせ、頷いた。

 

 

 ロンの怪我は悪くなる一方だった。イリスたちの介抱も空しく、やがて腕は二倍くらいの大きさに膨れ上がり、傷口は気持ちの悪い緑色に変わってしまった。もうドラゴンに噛まれた事を発覚するのを恐れ、医務室に行くのを我慢できるような状態ではない。その日の授業が終わった後、三人はロンの見舞いに医務室へ飛んで行った。ロンはベッドに力なく横たわりながら、悪いニュースを三人に伝えた。

 

「悪い事が起きた。――マルフォイが来たんだ。あいつ、僕の本を借りたいって医務室に入って来て・・・何に噛まれたか本当のことをマダム・ポンフリーに言いつけるって脅すんだ」

「土曜日の真夜中にすべて終わるわよ」

 

 ハーマイオニーの言葉は逆効果だった。ロンは突然バネ仕掛けの人形のようにベッドに飛び起き、冷や汗を大量にかき始めた。

 

「どうしよう!大変だ・・・チャーリーの手紙をあの本に挟んだままだ。僕たちのしようとしていることがマルフォイにばれてしまう」

 

 三人がそれぞれ反応するよりも早く、マダム・ポンフリーはロンを安静にさせるため、三人を追い出してしまった。

 

 

「今更計画は変えられないよ」

 

 寮への帰り道、ハリーは頑なな表情でイリスたちに告げた。イリスは頷きながら、ふと中途半端に扉の開いた空き教室に目線をやった。――そこにきらりと光るものを見つけて、無意識に足を止め、目を凝らして、息をのんだ。イリスが探していた、銀色のリボンだ。それは黒板近くの机の上に置かれ、窓から差す日光に反射して、輝いている。きっと誰かが落ちたのを見つけ、あそこに置いておいてくれたのだ。そう思ったイリスは迷わず教室へ入った。

 

「こんなところにあったんだ・・・よかった」

 

 近づいてみると、本当に自分のリボンだった。大事そうに掴み上げた時、ドラコに投げかけられた言葉が頭の中で響いて、胸がチクリと痛んだ。イリスは迷ってから、髪に付けずローブのポケットに入れた。――不意に後ろでドアが閉まり、鍵の掛けられる音がした。イリスが弾かれたように振り返ると、そこには「馬鹿め」とでも言わんばかりの嘲笑を浮かべたドラコが立っていた。

 

 ――罠だ!!イリスは気づいたが遅すぎた。ドラコは扉の前に立っているため、彼をどかさない限り自分は出られない。となれば、やる事は一つだ。イリスは咄嗟にファインティング・ポーズを取った。

 

「な、何だよ?あの続きでもしようってか?!」

 

 イリスの挑発をドラコは完全に無視して、ロンの本から取ったのだろう、チャーリーからの手紙をこれ見よがしにひらひらさせた。イリスは何も言えなくなった。

 

「今週の、土曜日の零時。お前たちはドラゴンを一番高い塔へ連れていく。・・・さあ、どの先生に言ってやろうか?選ばせてやるよ」

 

 ドラコは気取った調子で言いながらイリスに近づき、「どうすればいいか、わかるよな?」と薄笑いを浮かべて彼女に尋ねた。

 

「え?どうすればいいの・・・?」

 

 イリスは尋ねた。ハグリッドの将来がかかっているのだ。ひいては自分たちの学生生活も。ドラコは我が意を得たりとばかりに笑みを濃くすると、こう言った。

 

「ポッターと友達付き合いをやめろ。――あいつの金魚のフンのウィーズリーやマグル生まれの女ともだ。今後は僕と一緒に行動しろ。そうすると約束するなら、ドラゴンの件は誰にも言わない」

 

 イリスは意味がわからなかった。ドラコとはもう絶交した筈なのに、何故いまさら一緒に行動しろと言われるのか理解できなかったからだ。

 

「何で?」

「理由なんかどうでもいいだろ!」

 

 イリスは率直に聞いたが、ドラコは露骨に目を逸らしながら、そんな答えにならないような事を腹立たしげに叫んだので、話にならなかった。イリスは考えるまでもなかった。自分にとって、ハリーやロン、ハーマイオニーは大切な友達だ。たとえドラゴンの件をドラコが言いふらして、学校で問題になり退学になったとしても、これからするイリスの選択を三人は納得してくれる筈だ。イリスは三人と友達をやめるつもりはなかった。

 

「ハリーたちは大事な友達だから、そんなことできない」

 

 きっぱり断ると、ドラコはイリスを見下したような目で一睨みし、思いもよらない言葉を言い放った。

 

「そうかい。君の友情は本当に素晴らしいな。・・・君の大好きなスネイプ先生によーく言っておくよ」

「・・・エッ?!ちょっ、ちょ、ちょっと待って!!なんでそこでスネイプ先生が出てくるの?!」

 

 イリスはクィレル先生に匹敵するくらい、どもり狼狽したが、ドラコはそれには答えず異様に爽やかな笑顔を浮かべると、鍵を開けてドアを開け、出て行ってしまった。

 

 

 土曜日がやって来た。イリスはハリーたちにドラコの件を話したが、もう今更計画を変える事等できなかった。イリスは、ハリーやハーマイオニーと比べて機転の利いた行動や機敏な動きができない事から、ひとり談話室で留守番をすることになった。

 

 イリスは二人を待つうちに、ついうとうとと眠り込んでしまった。人の気配に気づいて目覚めると、ハリーとハーマイオニー・・・何故かネビルも、談話室に戻って来ていた。三人共、思いつめた蒼白な表情をして、押し黙っている。

 

「ど、どうしたの・・・?」

 

 イリスが問いかけると、ハーマイオニーは顔をくしゃくしゃにさせながらイリスに抱き着いて、号泣し始めた。それだけで、何か大変な事態が起きた事は十分理解できた。イリスがハーマイオニーの豊かな栗色の髪を撫でながら、もう一方の手であやすように背中を叩き、ハリーを気遣わしげに見やる。ハリーはイリスに「明日話すよ」と暗い声で言って、シクシク泣き始めたネビルと共に男子寮へ続く階段を駆け上がって行った。


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