オリジナル成分増し増しの4話です、どうぞ。
日が沈もうとしている時間に、我が家へ帰ってきた俺。
ただ、その状況はいつもと違う。
いつもならいない人間が一人いるからだ。
「母さんに…気付かれないように、そっと…な」
普段、喫茶店の入り口から堂々と帰宅している俺だが、今日はそれができない。
絶対、母さんにバレてはいけない、母さんにバレてしまえば、それは死と同等の意味を持つからだ。
全神経を集中させ、裏口のドアを開ける。
「おじゃましま~…っぐぅぅぅっ!!」
トゥアールの
…やっぱり、外国人との意志疎通は難しいなぁ…
「あら、総ちゃん?お帰りなさい」
台所から声が聞こえた。
母さんの事だから、裏口から入っても疑われる事は無いだろうけど、後ろに知らない女の子を連れている分、緊張してしまう。
「た、ただいま!」
「おばさん、お邪魔します!」
後ろで愛香が大きな声を出してくれたお陰で、はーい、といういつも通りの返事が返ってきた。
「これでいい?」
「ありがとう、愛香」
本当に細かい所まで、気を配ってくれるな…愛香は。
これなら、結婚しても、俺は幸せな生活が送れそうだ―――って、何を考えてるんだ俺!?
「そーじ、赤くなってるけど、調子悪いの?」
「え!?いや、なんでも…」
愛香の言葉に顔を赤くするが、何とか誤魔化した。
そして、俺はトゥアールを連れて自室へ向かう。
途中で愛香が母さんの目を引く為に台所の方へ行ってくれた。
…俺は愛香にどれだけ恩返しをすればイーブンになるんだろう。
階段を上って、部屋に入ると、トゥアールが突然そわそわし始めた。
少し気になったが、そこへ紅茶を淹れた愛香がやってきたので、一旦考えるのをやめる。
そして、俺達三人はテーブルを囲んで座った。
「かなり強めにやったんだけど、ケロッとしてるわね」
「チッチッチッ…この程度でくたばっていては、いざ総二様にもっと凄いモノをぶちこま―――」
何か意味深な言葉が聞こえたが、愛香が手刀の構えをしたので、トゥアールが言い淀んでしまい、結局最後まで聞けなかった。
よし、本題に行くか。
右腕の腕輪―――というより、ブレスレットか―――を見つめてから、トゥアールに向かって話しかける。
「さてと、俺が貰ったこの力、それとあの変態達について教えてほしい」
「すみません、どうしても落ち着かなくて―――私、男の人の部屋に入るの初めてで…」
「というか、それ以前になんで俺は女になるんだ!?やっぱりそっちから説明してくれ!!」
「い、いや…胸のトキメキが止まらないよ!」
「あんたら、何話してんの…?」
謎会話を聞いていた愛香が呆れた声で言う。
明らかにおかしいのはトゥアールの方なんだが。
「愛香さん、お疲れでしょうから、今日はお休みした方が…」
「あたしも聞かせてもらうわよ。そーじの為になるなら」
俺の為にどこまで尽くしてくれるんだろう。愛香、絶対に幸せにするから…待っててくれ。
俺はそう、心に誓った。
「愛香さんには後日書面にしてお渡ししますので、今日は」
「早く話さんかい!!」
「あぁ~頭がぶるんぶるんしますぅ~!!」
いつまでも話さないトゥアールに対して、キレた愛香が胸倉を掴んで揺さぶる。
このままだと、トゥアールの容態が心配なので、愛香を止めなきゃな。
「愛香、とりあえず一旦落ち着け。これはきっとトゥアールの気遣いだから…」
「私の心の中までお見通しだなんて…総二様にはかなわないなぁ…」
嬉しそうに銀髪を
いや、心の中までお見通しとか、そういうのじゃない。
「そーじ、この部屋に武器とか無い?
「そんなもんねーよ!?つか、そのチョイス自体おかしい!!」
何をするつもりなんだ愛香!?
まさかトゥアールを…いや、そんな事はさすがに無いよな…多分。
「こほん…茶番がすぎましたかね、では本題に入りましょうか」
突然、真面目な口調になったトゥアール。やっとか。
「それでは、まずはこれ…テイルギアについて説明いたします」
「そうか。何で俺が女になるんだ?」
トゥアールは白衣から紙片を取りだし、それを広げる。 すると、それが液晶端末に変化した。
…何だこの無駄に進化した技術は。
というか、何故俺が女になるのって質問したのにスルーされたな。
気を取り直して、液晶画面に表示されたテイルレッドの全身図を見る。
各部分にラインが引かれ、説明が書かれていた。
…ふむ、なるほどな。
「なげえよ!!」
「ひえっ!?」
思わずツッコんでしまった、というよりも、ツッコミ所しかない。
まず、一つ一つ説明の長さもそうだが―――
「このスピリティカフィンガーとスピリティカレッグ…パンチ力100トンにキック力150トンって…こんなに出力大きくする必要あるのか!?」
「そ、それは中二臭さを演出する為に書いた物なので…!出そうと思えば出せると思いますけど…」
中二臭さって。
まあ、ただの紙をタブレットに変えるくらい、トゥアールは摩訶不思議な技術力を持ってるから、本当に出せそうだけど。
「あたしはこのフォースリヴォンが腹立つわね…何よリヴォンって!リボンじゃダメなの!?そこまでヴにこだわる必要性があたしには分かんないわ!!」
「何を言っているんですか!?年頃の男子はヴに誰もが魅力を感じるんです!どうせそんな事は男を知らないメンヘラ処女の愛香さんに言っても無駄でしょうけど!!」
「何よ!?あんたそんなにたくさん経験があるの!?というか、あたしは処女じゃないわよ!!!!!!」
時が、止まった。
気付いた愛香が顔を真っ赤にしている。
勿論、俺も赤くなってしまった。
「私は処女ですが―――え、愛香さん、経験がおありで?」
「――――――そーじとよ」
「ぷ、ぷぷっ!!な、何を言っているんですかっ、冗談きついですよ。ねぇ、総二様?」
「―――お―――おぉう?」
誤魔化す為に、肯定の返事をしたが、何故か疑問形になった挙句、顔が熱くなっている。
目の前にいるトゥアールの顔は徐々に悲壮感を増していった。
「総二…様…冗談…です…よね…?」
「…トゥアール―――言ってなかったけど、俺は愛香と付き合ってるんだ。それで、その…もうお互いの…は、初めても…」
顔を真っ赤にしながら、トゥアールに全てを話した。
トゥアールの瞳からは涙が流れているように見える。
「えっと…本当にすまん!」
「…と…とり…あえず…この話はっ…後に回してっ…総二様の体が何故女性になるのかについて…」
「トゥアール…」
愛香も罪悪感があるのか、心配そうな顔をしている。
トゥアールは涙を流しながらも、説明を続けるつもりのようだ。
「トゥアール無理すんな…な?」
「で、でもこれだけは―――総二様が…女性になってしまうのは…私のせいなんです!!!!私の…幼女趣味のせいなんですぅ…すいませんでしたぁぁ!!!!」
号泣するトゥアール。
幼女趣味って…社会的な意味でかなり危ない。
けど、今の俺達はそんな事にツッコめる状況ではなかった。
「トゥアール…ごめんね。あたしも厳しくあたりすぎたかも」
「愛香さん…」
「それにさ―――あんたの目、見てて分かったわ。あんたもそーじの事―――一人の男として好きなんだよね?」
「えっ!?」
愛香が衝撃的な言葉を口にする。
あんだけの間に俺はトゥアールに好意を
いやそんな事はさすがに―――
「はい…」
「…マジかよ」
それが事実と知って、頭を
後もう少し、早くここへ来ていればトゥアールと付き合っていたかもしれない。
だけど、それだと愛香が―――
そもそも、俺はトゥアールから力の事と敵の事、変身すると女になる理由、その3つを聞くだけだったのに。
何故、それらの事よりも、恋愛面で苦悩しているんだ、俺。
「えっと―――私はこの世界の人間ではないんです。異世界からやって来ました」
「え、そうなの?」
そして、また唐突に説明再開してるし。
異世界って事は…やっぱり外国人か。
「はい。けれど、異世界といっても、平行世界のようなものですので、名称は違いますが、一応日本人です」
「「嘘!?」」
思わず声が出てしまった。
苦悩していたので、色々スルーしたけど、さすがにそれは信じられない。
「本当なら説明の後に話すつもりでしたが―――私の世界は…変態達に滅ぼされてしまったんです」
「滅ぼされた!?変態って、あの怪物にか?」
「はい。私達の星が滅ぼされた後、地球が狙われているという事を知った私はテイルギアを開発し、これを扱う事ができる強力なツインテール属性を持つ人間を探す為、地球へやって来ました。そして、総二様を…初恋の人を見つけたんです」
「そうだったのか…」
初恋の…人。
更に罪悪感が増すじゃないか。
だけど、かなり壮大な話になってきたな、トゥアールの星が滅ぼされたとは…
「そういえばトゥアール、テイルギアは他に無いの?」
「一応…もう一つあります。適格者も判明してますが、できる限り渡したくありません」
「え、どうしてだ?」
「実は……その適格者というのが、総二様もよく知っている方で、その方まで危険に巻き込みたくないんです。総二様を巻き込んでしまった事は本当にすみませんでした」
「俺の事はいいよ、ツインテールが取られたら嫌だし。というか、俺の知り合いに適格者がいるのか…」
ツインテールにしている知り合い―――
まさか…と思って、つい恋人の方を見てしまった。
違うよな、多分。
俺達はこの後、変態な侵略集団…アルティメギルの事、奴らが求める
「今日はこの程度にしときましょうか、時間も遅いですし」
「そういえば、トゥアールは住む所ってあるの?」
「あっ―――そうでした。総二様、この家に基地を作らせていただいてもよろしいですかね?完成次第そこに住みますので」
「えっ!?基地!?」
基地作れるのか、この子。
本当に技術力半端無いな。
「そーじの家に作れるの!?」
「ええ、私の技術力を持ってすれば、こんなの一晩で終わります。あ、後、あくまで総二様のサポートという意味なので…」
「心配しないでいいよ、あんたの話聞いてて信用してもいいと思ったから。よろしくね」
「はい…!」
愛香とトゥアール、最初かなりいがみ合ってたのに、すぐ仲良くなったなぁ。
「あ、でも母さんが…」
「未春おばさんは多分大丈夫なんじゃない?適当にごまかしとけば」
「そ、そうか…じゃあ、俺行ってくるわ」
俺が部屋を出ると、目の前にその人はいた。
「話は聞かせてもらったわ」
「って、母さん!?
「うーん、総ちゃんが変態達について教えて欲しいって言った辺りからかな?」
「最初からじゃねーかよ!!!!」
「だって、愛香ちゃん以外の女の子を連れてくるなんて、絶対面白い展開になると思ったんだもの~」
小悪魔的な笑い顔を見せる母さんを無理やりリビングに引っ張っていく。
この人に聞かれてはいけなかったのに―――!
「ニュースで流れてた事件、あなた達が解決したんですってね。しかし、ついにこの日が来てしまうなんて…」
「え、まさか…母さん、俺がテイルレッドになる事を…」
「え?全然知らないわよ?」
「じゃあなんでその台詞言ったんだよ!!」
紛らわしいからやめていただきたい。
「うそうそ、
「いやああああああああああん全部理解されてるううううううううううう!!」
もう、俺に残された選択肢は、死だけか。
「総ちゃんがね、こういった形でもヒーローになってくれる事が夢だったのよ」
「そ、そうなのか…」
「亡くなった父さんも、あなたにそうなってほしいと願っていたわ」
「へ、へぇー…」
どうしてだろう、いい話のはずなのに悪寒が。
何かこう、聞いてはいけない事を話しそうな予感、ならぬ余寒がする。
「あ、そうそう。父さんで思い出したけど、私とあの人、共に中二病こじらせてたのよ」
「父さんもかよ…!!!!」
悪寒の正体はこれだったのか…!
「私達は学校生活でどんどん愛を深めたの。彼との方向性の違いで何度も別れそうになったけれど、中二をぶつけあえたのは確かよ」
「ごめん、意味わかんない」
中二ぶつけ合っても何も起きないから。
あんた達の頭に何か起きてるから、きっと。
「それで、大学3年生の時に望むシチュエーションの違いで本当に別れそうになった時、総ちゃんがお腹の中にいる事が分かったの」
シチュエーションの違いって…一体何のシチュエーションだ。
デートか、キスか、セ―――げふんげふん
危ない、変な言葉が
「それから私達は中二をぶつけ合いながらも、シチュエーションで喧嘩してたのが嘘のように仲睦まじくなったのよね~」
「デキ婚しても中二ぶつけ合ってたのかよ!!」
もっと早く言われてたら、間違いなくグレてたな。
「あ、総ちゃん。そういえば、長男なのになんで総"二"なんだと思う?」
確かに、それは不思議だと思った。
長男で名前に数字を入れるなら、"一"が妥当なのだが。
「え、まさか産まれる前に亡くなった兄さんや姉さんが―――まさか隠し子…!?」
「いいえ、中二の頃が一番楽しかったという、父さん母さん共通の思いが"二"という字を付けさせたのよ!」
「聞きたくなかった!そんな理由なら聞きたくなかった!」
「本当はもっと自由に付けたかったんだけどね、
「総二になった理由が
キラキラネームとか美化できない、明らかな
「あ、あの」
ふと、後ろを見ると、トゥアールがドアに半身を隠しながらこちらを覗いていた。
「トゥアールちゃん、話は聞かせてもらったわ。ほら、愛香ちゃんも後ろにいるんでしょ?入って入って」
「お母様、その」
「良いわよ良いわよ、どんどんやっちゃって。地下何百メートルでも構わないから、完成したら見せてちょうだい」
「承知致しました」
「は!?」
即、承諾。むしろ歓迎している。
しかも地下数百メートルって、どんだけ深いんだ。もう、話についてけないぞ。
愛香も止まってるし、俺らダメだな。
「あ、後、トゥアールちゃん」
「はい?」
「一度失敗しても、めげずに次の恋をする事が大切よ」
「はい―――!」
思わず涙目になるトゥアール。
こういう所だけしっかりするのが、母さんなんだよな…。
「愛香ちゃん」
「は、はい」
愛香は総二との会話を終えた未春に呼び止められた。
そのままリビングの隣の部屋に連れていかれ、未春は扉を閉める。
「良かったわね、愛香ちゃん。おばさん、全然気付かなかったわ」
「は、はい…ありがとうございます。実はそーじから告白されたので…」
「あらまぁ、総ちゃんが告白したの!それは凄く嬉しいでしょう?」
「はい…夢でしたから」
涙を浮かべる愛香。
総二からの告白、愛香にとって何度夢に見た事か。
「これからも、総ちゃんをよろしくね愛香ちゃん。夜の方も♪」
「ふぇっ!?お、おばさんっ!」
未春からの意味深な言葉に、愛香の顔はまた赤く染まってしまうのだった。
「あ、トゥアール。気になってる事があるんだけど」
「何でしょう、愛香さん」
(――――――)
未春との会話を終え、二人きりになったタイミングで、愛香はトゥアールに話しかけた。
トゥアールの返事を聞いた後、すかさず耳打ちをする。
その言葉に、トゥアールの表情が変わった。
「はい、それは、本当ですね」
「…本当にそうだったのね…じゃあ、そーじはあんたの…」
「ええ。そこまでしないと、アルティメギルの侵略は止められませんし、総二様の役に立つのなら…」
悲しい表情でトゥアールは語る。
聞いている愛香も悲しくなってきた。
「じゃあ、こちらもお返しを…」
(――――――)
今度はトゥアールが耳打ちをする。
その言葉に、愛香は驚きを隠せなかった。
「えっ!?あ、あ、あああ!?」
「落ち着いて下さい、愛香さん。確かに驚かれるとは思いますが、事実なんです」
「あ、あたしもそーじの役に立てるなら、何だってするから…!」
「でも、あくまで切り札ですよ。テイルレッドがどうしようも無くなった時に…ですからね。それだけは覚えておいて下さい」
「わ、分かったわ」
口ではそう言いつつも、愛香は嬉しさを隠せていなかった。
トゥアールさんは新しい恋ができるのかどうか。
はたまた、犯罪者の道を突き進んでしまうのか…
最後の意味深な会話は…まあ、なんとなく内容、想像できますよね。
さて、予告しておくと、次回はアルティメギル側の様子からスタートします。
今回書けなかったので…w
おまけコーナー
「一話一人」~登場人物紹介~
津辺愛香
系統 脳内桃色格闘少女
その他属性傾向 幼馴染 貧乳 恋愛 エロ
秘密 総二での妄想が日々エスカレートしている。
趣味 格闘技 総二での妄想
特技 格闘技
好きなもの ずっと大好きな人
弱点…? 夜な夜な艶のある声が周囲にだだ漏れになっている事(時々総くんの名を呼んでるんですよ、何してるのかは分かりませんけど... 恋香・談)