俺、ツインテールになります。lover   作:金細工師

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R-15ってどれぐらいの範囲なんでしょう(2回目)
ギシアンがアウトなのは分かってるんですが。

さて、出そうか出そうかと思ってたオリキャラが今回から出るという事に。
どう物語に絡めるか、判断が難しいですが、できる限り頑張ります。

では15話、メイドさんも出るよ!


15話~嫉妬と、二人の転入生と~

「ここをこうすると…ほうほう…なるほどな」

 洗面所の鏡の前、映るのはテイルレッドに変身した俺。

 頭頂から垂れ下がる二対の魂(ツインテール)を丁寧に触り、一人感嘆の声を上げる。

 何故こんな事をしているのかというと、あの出来事があったからだ。

 先日、ショッピングモールに現れたエレメリアンを倒した後、俺は救出した生徒会長のツインテールを無意識に触ってしまい、愛香を悲しませた。

 もう、愛香を悲しませたくない。そう思った俺は、もう一度ツインテールを見直してみる事にした。

 自分のツインテールを愛香のツインテールに見立て、どこを触ってやると気持ちがいいか、どう触れば喜んでくれるか、色々、一人でツインテールを触りながら考えていた。

「――――――そーじ」

「!!愛香!?」

 その時、背後から冷たい声が聞こえた。

 まさかのご本人登場。

「あたしのツインテール―――やっぱり飽きたの―――?」

「い、いや、愛香。そういう事じゃなくて」

「…いいもん、あたしがどれだけ頑張っても、テイルレッドのツインテールには敵わないって知ってるし」

 ぷいっと、そっぽを向いてしまった愛香。うん、嫉妬してる愛香も可愛い。

 しかし、このままだと本当に誤解を招いたままだ。

 俺は変身を解き、洗面所から出て行こうとする愛香を無理やり抱き締めた。

「そ、そーじ!?…ふああ」

「愛香、気持ちいいか?」

「う、うん…いつも触られてる時より、気持ちいい…」

 さっきまで考えていた事を思い出しながら、愛香のツインテールを丁寧に触る。

 恍惚の表情を浮かべ、愛香は言葉を漏らした。

 一安心した俺は更に言葉を続ける。

「さっきまでテイルレッドのツインテールを触ってたのはな、愛香にもっと喜んでもらおうと思ったからなんだ。だから、愛香のツインテールに飽きたわけじゃないし、むしろ大好きだから―――拗ねないで欲しいな」

「うん。ふあ、そーじ…もう少し下、お願い…」

「ここか?」

「あ、そこ…そこが凄く気持ちいい…」

 顔を赤く染め、愛香は気持ちよさそうにしている。

 しかし、愛香が漏らす言葉がいちいち意味深に聞こえてくるな。

 俺の身体も熱くなり、それに比例するように強く愛香を抱き締める。

「ふあぁ…っ、あ、そ、そーじ…そこはツインテールじゃないよぅ…」

「?なっ―――!?」

 愛香がそんな事を言ったので、ふと手の在り処を見る。

 すると、ツインテールを触っていたはずの手が、愛香の胸にあった。

 ―――いつの間に動いていたんだろう。

「あ、愛香、ごめん。無意識にやってた…」

「本当に無意識なの―――?そ、その…下、見てよ」

「下?―――あ」

 また愛香が恥ずかしそうに言ったので、更に目線を下に落とす。

 そこには、『親父!俺は今日も朝からヤる気満々だぜ!』と言わんばかりに目立つ息子がいた。

 しかも、愛香と密着しているから―――。

「こ、これはあくまで生理現象であって、仕方のない事というか―――!」

「そーじがしたいなら、あたしはしてもいいけど」

「え」

「『そーじ、ツインテールだけじゃ物足りないんだな』って思ったから、少し期待してたんだよ?」

「そ、そうなのか…」

 愛香が悲しそうな顔をして言う。期待させてたのか、ならば―――。

「分かった。愛香、そこ閉めてくれるか?」

「うん」

 その期待に応えるまで。

 愛香に洗面所の扉を閉めてもらう。

「愛香…扉に手、突いて」

「う、うん…」

 愛香の体を安定させる、そして、二人きりの空間を邪魔させない。二つの意味で扉に手を突かせる。

 これでだいたいの準備はできた。

「愛香。下、脱がすよ」

「うん」

 パジャマの下を脱ぎ、愛香のパジャマも脱がす。

 そして、俺は愛香の最終防壁である、縞柄の可愛らしい下着に手を掛けた。

「そーじ―――きて」

「!!ああ」

 顔を赤く染めた愛香がこちらを向いて、俺を求めてくる。

 その姿に愛香への想いが止められなくなり、俺の脳内は愛香と早く交わりたいという願望で占められてしまった。

 

 

 

「まさか、あんな所で行為(こと)に及んじゃうなんて、母さんビックリよ~」

「もうやめてくれよ母さん…」

 愛し合う事しか頭に無かった俺と愛香。それが仇となってしまった。

 扉越しに母さんが行為(こと)を聴いていたのだ。

「愛香ちゃんも可愛い声上げちゃって、気持ちよかった?」

「も、もう恥ずかしいから聞かないでくださいよぅ…おばさん」

「もー、照れちゃって。本当に可愛い♪」

 相変わらず真っ赤な顔で俺と同じような事を話す愛香。

 母さんの言う通り、照れてる愛香も可愛い。

 しかし、母さん楽しんでるな…どっちが子供なのか分からないぞ。

「…あれ?トゥアールは?」

「トゥアールちゃん?そういえば起きてないわね。今日転入でしょ?」

「ああ。遅刻しないといいんだけど」

「二人は先行っていいわよ、遅れると大変だし。私がなんとかしとくから」

 不敵な笑みを浮かべて、母さんが言う。

 ―――何故不敵な笑みを?

「え、任せて大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫、行為(こと)を聴いちゃったおあいこって事で」

「お、おばさん!―――じ、じゃ、そーじ、そろそろ学校いこ」

「了解。ごめん母さん」

「オッケー、行ってらっしゃい、新婚さん♪」

 最後の最後まで母さんにからかわれ、俺は愛香と顔を見合わせながら赤くなった。

 

 

 

 

「ひええ――――――!!!!」

 転入初日、いきなりピンチを迎えた銀髪の美少女トゥアール。

 新緑に満ち始めた通学路を食パンを(くわ)えながら全力ダッシュ。

 まさに、遅刻しそうな少女にありがちなテンプレにテンプレを重ねたと言っても過言ではない。

「まずいですよ、さすがに初日から遅刻はまずいですよ!!」

 トゥアールがそう呟いているが、全力ダッシュしたお陰か、まだまだ時間に余裕があったりする。

 もはや完全にパニックになっているだけだった。

「…えーと…ここを曲がればいいんだっけ」

「遅刻はいや――――――っ!」

「「!?」」

 パニック故に気づいていなかったのだろう。

 角から現れた少年とぶつかってしまった。

「いてて、大丈夫?ケガとか無い?」

「大丈夫で!?っ、痛いっ…!」

 全力で走っていた代償か、トゥアールはぶつかった際に足を(くじ)いてしまっていた。

 思わず地面に(うずくま)る。

「ほら、背中乗りなよ」

「…いいんですか?」

「いいよ。か弱い女の子を放ってなんかおけないしね」

「あ、ありがとうございます!」

 頬を朱に染め、笑顔で感謝するトゥアール。

 それに対して同じように顔を赤くしながら答える少年。

「ど、どういたしまして」

(か、かわいいな…この娘)

『!?龍、彼女は…』

(あ、どうした。まさかお前と何か関係あるのか?)

『つい先日話しただろう、我と昔戦った戦美姫(いくさびき)よ』

(なんだって!?)

 この出会いが、二人の運命を、そしてツインテイルズの運命を大きく変える事になる。

 

 

 

「それでは~、今日は転入生を紹介します~」

 HR。樽井先生の間延びした声でそう告げられると、ゆっくりとドアが開けられた。

 すると、見慣れた銀髪の少女が教室へ入ってきた。

 大きく実った胸を揺らしつつも、優雅に歩く姿はまさに美少女。

 男子からも女子からも感嘆の声が漏れる。

 ただ、予想外だったのは、転入生がもう一人いた事だった。

 トゥアールに負けないぐらい、容姿端麗な男子生徒。

 何処からどう見てもイケメンという言葉が似合う。

『観束トゥアール』『双崎龍』

 白いチョークで黒板に綴られた文字に声が上がった。

「観束だって!?」

 一斉に俺に向く視線。

 ざわざわとしてきた教室。

 それでも、テイルレッドとして好奇の目を向けられている所為か、俺は動揺しなかった。

「トゥアールさんは~、観束君の親戚で~、海外から引っ越してきて今は一緒に住んでいるそうで~す」

「えっと、皆さんのクラスに一日でも早く馴染める様に頑張るので、これからよろしくお願いしましゅ!」

 あ、噛んだ。

「次に~、双崎君ですが~、双崎君も海外から引っ越してきた帰国子女だそうで~す」

「トゥアールさん同様、僕も海外から引っ越してきたばかりです。右も左も分かりませんが、これからよろしくお願いします」

 優等生って感じだな。

「え~っと、じゃあ~、二人はあそこの席に座ってください~」

 転入生二人が隣同士の席か、まあ仕方ない。

「トゥアールさん、緊張してる?」

「え、あ、はい…ちょっと噛んじゃいました…」

 ―――やたら仲良さそうだけど、何かあったのか…?

「では~、今日はもうお一方~、紹介する人がいます~」

 樽井先生がそんな事を言うと、同時に教室のドアが開けられる。

 堂々とした足取りで女性が入ってきた―――って、あれ?

 この人―――なんでメイド服を着てるの―――?というか、一昨日見たような。

「本日から陽月学園の体育教師として赴任された桜川尊先生です~」

「うむ!よろしく!」

 クラスを沈黙が包む。

 そりゃあ、メイド服の女性が急に入ってきたんだし、仕方ないか。

「―――」

「―――えーっと、樽井先生。あの」

 女子生徒の一人が恐る恐る腕を挙げると、先生は知らないふりをした。

「私はしりませんよ~、なんにもしりませんよ~」

 空気を読まず、事なかれ主義とは相当厄介な本性を現してきてるな、樽井先生。

 しかし、よく見ればメイドさん綺麗な人だな、ツインテールもよく似合ってる。

 会長の美しさが際立って、なかなか目が行かなかったのだが、あのツインテールは簡単に作り出せるような物じゃない。

 間違いなく、ツインテールのプロだ。

「皆もよく目にしてたと思うが、私はこの高等部の生徒会長、神堂慧理那様の警護を一任されたメイドだ。しかし、ただ校内でじっとしている事をお嬢様が気遣われるのでな。理事長と学園長に相談して、非常勤の体育教師をする事になった。ちゃんと教員免許も持っているぞ」

 スーツやジャージではなくメイド服の体育教師。

 確かにエレメリアンへ生身で立ち向かっていくぐらい、運動神経は相当な物を持っているのだろうが、いくらなんでもおかしい。

 一体この学校は何処へ向かっているんだろう。

「フッ、しかし君達は大人しいものだな。普通、美人の教師が赴任してきたら、スリーサイズやら彼氏の有無やら質問攻めにする所だろう。慧理那様のメイドだからといって、遠慮する必要はない。さあ!質問は無いか!?」

 促されても、無言を貫く。

 無茶苦茶な事を言われて、皆戸惑っているのは明らかだった。

 愛香ですら、状況についていけず、ポカーンとしている。

「む?なんだか物凄く熱い視線を感じるな。君は―――おお、観束君じゃあないか!」

 何故か名指しされ、半分ぼんやりしていた意識が引き戻された。

 でも、部室で会った程度なのに何故俺を―――まさか、無意識にツインテールを直視してたのか!?ガン見か!?いや、確かにツインテール馬鹿でもあるが俺は―――!

「え、いやー、その」

「せんせー、観束はツインテールも好きですよー」

 おい誰だあっさり密告しやがった不届者は。

 お前かクラスメイトA!名前は覚えてない!

「そうか!それは素晴らしい。ならば、ツインテールが好きな君へ私からのささやかなプレゼントだ」

 俺の席まで歩いてくるメイド先生。

 ポケットからA6サイズの紙を取り出すと、それを俺に渡してきた。

 A6サイズという事は…写真か?いや、写真にしてはやけに柔らかいぞ。

「紙―――って!?」

 折り畳まれた紙を広げる。

 そして、そこに書かれていた文字を見て、俺は驚いた。

「あのー、先生」

「ん?どうした観束君?」

「婚姻届って書いてあるんですけど、これ、幻覚ですかね?」

「その年で幻覚が見えるのはちょっと心配だな。正しく書いてあるぞ、婚姻届と」

「妻の欄に先生の名前が書いてありますが」

「当然だ、白紙のまま出す方が失礼だからな。婚姻届は夫と妻の名前が書いてあって、初めて成り立つ物だ」

「えーっと、一応聞きますけど、相手って…?」

「君に決まっているだろう」

「やっぱりか!!」

 思わず叫んでしまう俺。

 おかしい、おかしすぎるぞ。非常識にも程がある事をなんで堂々と言えるんだこの人は。

「君はツインテールが好きなんだろう?なら、私と結婚しても問題ないじゃないか!!」

 ツインテールの端をちょこんとつまんでひらひらさせる先生。

 まずい、今のはちょっとドキッとした。

 でも―――俺には!!

「問題大有りですよ!!総二様は既に売約済みです!!」

 後ろの席で親戚(トゥアール)が声を上げた。

「総二様、そんなもの破り捨てて下さい!貴方には愛を誓った永遠の姫(プリンセス)がいるでしょう!?」

「!!そ、そうだぞ観束!!お前、ここで飲まれたら津辺はどうなるんだ!!」

「「愛香を捨てたらあたし達が許さないわよ!」」

 トゥアールの発言がクラスメイトに飛び火した。

「ほほう、確か君はこの前部室で見た―――噂の編入生、トゥアールだったか。編入試験を満点で合格したと聞いている。だが、考えが甘いな!今、観束君に恋人がいようと、それは求婚するに辺り何の障害にもならん!!求婚というのは皆平等なのだ!!」

「な―――!?これが、婚期を逃した大人の論理思考(ロジック)とでも言うのですか―――!?」

 トゥアールの動揺に女子がざわめき始める。

 ―――トゥアールは発信源か何かなのか?

 しかし、メイド先生は異様とも言えるその気迫を引っ込めるどころか、さらに全開にした。

滑稽(こっけい)に見えるか、女子達よ。だがな、この年で独身でいると、中途半端に焦るという事はもはや時間の無駄なのだ。冷静に、そして全力で焦る。独身という大きな(おもり)を背負って、毎日を死ぬ気で生き抜くのだ!!それこそが、三十路射程内(アラサー)になっても結婚できなかった女の業だ!!」

「い、イヤー!イヤー!」

「彼氏なんていないわよあたしー!!」

「今すぐ結婚しなきゃ―――大変、まだ十六の誕生日まで半年ある…!」

「うあおー!うあおー!」

 女子達が火に油を注いだように騒ぐ。

 まさか、平日の朝のHRに結婚観について考えないといけないなんて。

 三十路射程内(アラサー)の女、恐ろしや。

「うむ、うむ。よく学びなさい、若人(わこうど)よ。反面とはいえ、私は教師だ」

 嫌な教育だな、こりゃ。

「というわけで観束君、そろそろ君の名前をこの紙に書いてくれたまえ。君が結婚できる年齢になるまでの二年半、私がしっかりと保管しておこう」

 あ、矛先が戻ってきた。

 ―――仕方がない、というか、もうこれを出すしかない。

「すみません、先生。俺、先生とは結婚できないです」

「!?何故だ!?」

「まあ、まずは落ち着いて―――これです」

 俺は机の中にあるパスケースから、先生が出した婚姻届と同じようなA6サイズに折り畳んだ紙を取り出し、机の上に置いた。

 これこそ、俺の切り札。

「ん?―――な、婚姻届じゃないか!?」

「なんだって!?」

「え、どういう事!?」

 永遠の姫(プリンセス)発言、三十路射程内(アラサー)論理思考(ロジック)以上に教室がざわつく。

 まあ、仕方ないか。

「俺、3年後の誕生日に結婚する事が決まってまして」

「なん、だって―――!?誰と」

「妻の欄見ればわかるでしょ…」

「津辺…愛香…!?」

「「「ええええええええええっ!?」」」

「「「マジかよ観束!!」」」

 クラスメートの大歓声が上がる。予想通りだ。

 一応、婚姻届は役所等の窓口や自治体のHPで手に入れる事ができる。

 ―――いつでも結婚できるように、二人であらかじめ書いておいた。

「観束、やるなぁ」

「俺達も負けてられんぞ」

「愛香、おめでとう。結婚式行くね」

「おしどり夫婦、(うらや)ましいな」

 男子は俺への称賛の声を漏らし、後ろでは愛香が女子から祝福の声を貰っている。

「これで分かったでしょう。申し訳ないですが、俺は貴女と結婚できません」

「―――フッ、この年で許嫁(いいなずけ)を持つとは―――やるな。だが、私は諦めんぞ!!」

「はあ!?」

 まだ諦めないのかこの人は!?

 どんだけ結婚したいんだ、マジで。

「これまで配った婚姻届五二六枚全て本気だ!!ただちょっと相手の都合が悪かっただけだ!!」

「それ尚更ダメな奴でしょ!!」

 よく見ると、この婚姻届、プリントアウトした紙ではない。

 つまり、役所の窓口等で貰える正式な書類だ。

 という事はこれまで書いた婚姻届ってのも、まさか―――。

 ある種の狂気を感じる。

「無論、私も教師として赴任した以上、分別はしっかり(わきま)える。教師と生徒の男女交際はご法度ならば、付き合う等くどい真似はせず、即座に結婚するだけだ!!」

「させるかああああああああああああああああああああああ!!!!」

 絶叫と共にメイド先生に向かって、俺の嫁(あいか)が鉄拳を放った。

「ちょ―――!?」

 だが、その拳はクロスされたメイド先生の腕に阻まれた。

 メイド服の袖が破れ、破片が宙を舞う。

 ―――教師に向かってどんな力で殴りかかってるんだ、愛香。

「ほほう、君だな。観束君の嫁になる予定の津辺愛香君は。なかなかの功夫(クンフー)じゃないか」

「強い―――!」

 すかさず距離を取り、両腕を構える愛香。

 その時、チャイムが鳴った。

「いや、ここまでだ。ホームルーム終了の鐘が鳴ったからな」

 鳴っていなかったらどうなっていたのだろうと、考えるのも恐ろしい。

「ところで男子諸君。観束君のように婚姻届の欲しい者はいないか?念のためこの学園の男子生徒全員分の枚数は持ち歩いている。遠慮はいらんぞ?」

 クラスの男子達は猛烈な気迫と共に教科書を開いて顔を伏せる。

 自分達には関係ないと思っていた事の矛先が突然向いたのだから、この反応は仕方ない。

「嫌だ…!俺はテイルレッドたんと結婚する!婚姻届なんて目に映しただけでレッドたんが悲しむ!」

「そうか、これは罰なのか…!まだ俺がテイルレッドに相応しい男になれていないのに、愛だけは一丁前だという!ならば、俺は学年主席を目指す!!テイルレッドたんに認めてもらうんだあああああ!!!!」

「待ってて、テイルブルーちゃん。僕が迎えに行くから…!」

「おい待て、テイルブルーは俺のだゾッ!!」

 誰がなんて言おうと、テイルレッドもテイルブルーも俺のだけどな!!

 しかし…この状況を見てると、本当に世界を守れてるのかな、俺。

 ツインテール属性以外にも、何か広めてるような気がするよ。

「ふむ、まあ今日はいいだろう。津辺君、いずれまた、語り合おうじゃないか」

 末尾に拳で、と付きそうな雰囲気を(かも)し出しながら、メイド先生は教室から出て行った。

 まさに嵐のような人だった。学校で会長の付き人をしている時や、戦場でエレメリアンに立ち向かう姿とは全く違う。

 会長のメイドという重責から解放されている辺り、あれが本当の姿なのかもしれない。

 教室に残ったのは破れたメイド服の破片と婚姻届だけだ。

「絶対に―――そーじは渡さないんだから…!!」

 その婚姻届も今、愛香によって破られてしまった。

「愛香すごーい」

「さすが愛香!!」

 それを見て、女子の声が飛んだ。

「そーじ―――」

「ん?どうし―――」

 婚姻届を破り終えた愛香に呼ばれ、顔をそちらへ向ける。

 すると。

「ん―――!?」

「っ…」

「「「キャ―――――――――ッ!!!!」」」

「うおおおおおおおおっ!?」

「マジかよ!」

 愛香に唇を塞がれ、俺は微動だにできなかった。

 そして、クラスがまた沸いている。

「はぁっ―――ごめんね、急にしちゃって」

「あ、ああ」

 席に戻る愛香を目で追いながら、唇を指でなぞる。

 絶対に、愛香と結婚しよう。

 俺はもう一度決心した。

 

 しかし、あのメイド先生、この学園の男子生徒全員分の婚姻届を持ってるとか言ってたな。

 まさか全クラスであんな自己紹介をするつもりなのか?

 いや、それは―――無いよな。

 ―――無いといいんだけどなぁ。

 

 

 

「えっと、観束君?」

「あれ、君は確か―――双崎君だよね?」

 昼休み、愛香、トゥアールと弁当を食べていると、もう一人の編入生である双崎君が声をかけてきた。

「俺も混ぜてもらえないかな?」

「いいぞ、話したかったし」

「サンキュー総二!」

「お、おう」

 あっさり観束君呼びから呼び捨てになった。

 案外こういうキャラなのか、双崎君。いや、龍は。

「お前がツインテール好きだって聞いてさ、びっくりしたんだよ。まさか似たような奴がいるなんて」

「え、お前もなのか?」

「おう。ツインテールってのは果てなき(スピリッツ)だと俺は思ってる」

「なるほど、気が合いそうだな、俺達」

「頼むぜ、相棒」

「はぁ、馬鹿が増えた―――こりゃ、大変ね」

「「馬鹿とはなんだ!?」」

 将来の夫に向けてなんてことを言うんだ愛香!!

 ついでに龍にも!

「―――」

「あれ?どうした、トゥアール。おーい?」

 さっきから全く動いていないトゥアールに呼び掛けるが、赤くなって無言を貫いている。

「トゥアール?」

「はっ!!私は一体何を!?」

「固まってたよ、あーちゃん」

「「あーちゃん!?」」

 龍の呼び方は本当に不思議だ。

 後、親しくなるとすぐ変わるのな。

「トゥアールだからあーちゃん。ダメ?」

「いや、トゥアールさえいいならいいんじゃないか?」

「私は―――そう呼んでほしいです」

「そっか。ありがとな、あーちゃん」

「は、はい」

「んー?」

 愛香がにやけた顔でトゥアールを見つめている。

 そういえば、さっきからトゥアール赤くなってばっかりだ。

 まさか、いやそのまさかか―――?

 そんな事を考えつつ、俺は新しい友達と熱く語っていたのだった。




総二の部屋
ツインテール部部室
観束家の洗面所 ← NEW!!
これがナニを表した物かは読者の方ならもちろん。

さて、今回の目玉であるオリキャラの龍君。
死んだはずの『あいつ』と喋ってます。
『あいつ』もいつか出さないといけないので、そこがちょっと大変です。
これからの龍君は俺次第だ!

メイドさんも今回やってきましたが、会長共々厄介な存在です。
これも俺次第だ!

これからの展開は俺次第という事でまた次回、お楽しみに。

おっと、トゥアールの話を忘れてた。
トゥアール、頑張れ。

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