ソードアート・オンライン ~一閃の両手剣~    作:七海香波

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 今回の話は主に作者が「あれ?コレ出来るんじゃないか」と思った妄想をぶち込んだだけの話です。
 それでも良いと思われる方は、本編へどうぞ。


第四話 抜け道とロマン

 翌日。

 クエストか何かでキリトがホルンカの村の一軒に入って薬鍋かき回してる奥さんにネペントから落ちた胚珠を渡して奥の方の娘さんに頭を撫でて貰いつつガチ泣きするなんてだ誰得イベントがあったものの――何はともあれ、翌日である。

 結局その日はそのまま村の宿屋で一夜を明かして、現在午前五時半。

 アラームの音で目が醒めた俺たちは早速宿を出て、彼方に浮かぶ太陽と青い空を眺めつつ、この村の中央広場へと来ていた。キリトは昨日使っていた初期剣とはまた違った剣を背の鞘に吊り下げている。

 肝心のイベントはどうやら序盤でまあまあ使っていける片手剣が報酬だったらしく、キリトは元々持っていた剣をサブに回して新たにそれを装備し直していた。銘は《アニールブレード》とか何とか。意味は分からない。

 彼の背に納まった鈍い黄色の光沢を持つ剣は、朝日を浴びて静かに輝いていた。

 

「で、キリト。早速だが、この村の武器屋を教えてくれ」

「ああ、分かってるよ」

 

 ベータテスターであるキリト先導の元、二人で村に装備屋を構える男の元に足を進めた。

 

 それから話したのだが、どうやらキリトは俺をベータテスターだと思っていたらしかった。当然俺はそんな幸運に恵まれていた覚えは無い。とりあえず素直にここに来るまでの全て話してみたら、聞き終わった頃にはキリトはそこまでのイメージとは真逆に口をポカンと開けていた。その数秒後まくし立てるかのように一気に言われたのだが、「デスゲームで武器買わないで素手で来るとか馬鹿なのか!?」「それになんで膨大な地図の中で的確にこの村近くまで来れるんだ!?」とか色々と突っ込まれた。

 とりあえず「ま、終わりよければ全て良しって言うだろ。HAHAHA」と笑ってみたらリズベットと同じような顔をされた後で一発殴られた。解せぬ。

 

 とまあ、そんな感じで村の中を少し歩いたら、そこまで広い所でもなかったらしく、俺たちが止まっていた宿屋に数件隣にキリトが言う武器屋が存在していた。

 様々な武器が吊り下げられたり立てかけられたりで、錆び付いたり新品同様だったりと多種多様のものが並んでいる。その店頭には数種類の新しそうな武器が並んでおり、見慣れた片手剣の他に両手斧、片手鎚なんてのも売っていた。その奥の方に、主人らしき白い帽子を被った若者が胡座を掻いて座っている。

 

「あの、済みません。武器を買いたいんですが」

「へい、らっしゃい!どうぞどうぞ、好きなのを選んでくれよ!」

 

 声を掛けると主人は立ち上がり、気楽にこちらへと声を返してきた。まるでNPCとは思えない話し方に、気が抜ける。と同時に、手元に薄いウィンドウが拡がり、店で売っている品物の一覧が表示される。

 

「ん、おいキリト」

 

 リストを見ていてちょっとした疑問が浮かび上がったため、俺の後ろで適当に手持ちのアイテムを眺めていたらしきキリトに声を掛ける。

 

「この両手剣とか細剣とかってなんなんだ?昨日スキル一覧見たときにはこんなの無かったんだが。これってなんだ、片手剣とかそう言うのに統合されるのか?」

 

 そうリストを眺めながら問いかけた俺に、キリトは苦笑した気配を漏らしながら応えてくれた。

 

「いや。確かにその二つは最初は出てないけど、《片手剣》スキルの熟練度を上げていけば後々リストに出現するよ。ベータじゃそんなに高い要求じゃなかったし、もし欲しいんなら片手剣でしばらくやって、スキルが出た頃に近い村で武器を買えばいいと思う。そっちの方が強力な武器があるし。わざわざ今ここで買う必要は無いよ」

 

 なるほどね。だったら、そうだな……筋力値極振りだし、一撃が重そうな《両手剣》が一番合ってるってことになるか。《両手斧》とかどう見ても剣、って感じじゃないし。ソードアート、っていう限りはやっぱり剣と言える物が良いと思う。

 つまり、そう考えれば、しばらくは《片手剣》スキルを上げなきゃならないわけで……。

 

「ってことは、片手剣か……キリト、確かそのアニールブレードってのはクエの報酬だって言ってたよな?しばらく使えるとか言ってたけど……もしかしてネペントの《胚珠》納品クエだったりする?もしそうだったら、俺今胚珠一つ持ってるんだが」

 

 そう気楽に呟いて、ふとキリトの方を覗いてみる。

 適当に口走ったその一言に――同じくウィンドウを操作して自身のアイテムをチェックしていたらしきキリトの指が止まる。

 そしてギギギ……と錆び付いた機械のように、ゆっくりと首から上をこちらに動かして、彼はその目を大きく見開いた。まるで、信じられないものを見たかのような目つきだ。

 何かを言おうとしたのか、キリトはしばらく口をモゴモゴさせた挙げ句、結局その言葉を喉の奥の方に飲み込んでしまったらしい。俺に頷いた後、クエの回し方を軽く教えてくれた。

 

 全てを聞いてから俺は、キリトの言った通りに昨日訪ねた家をもう一度訪れ、奥さんに話しかけてクエストを受けた。そして一旦出て入り直して、奥さんに胚珠を渡してクエストクリア。彼女はその胚珠を大事そうにまな板の上に置いてから、どこからかキリトの持っているものと同じ《アニールブレード》を俺に渡す。それを丁寧に受け取ってからメニューを操作して装備し、武器屋の前で待っているキリトの所へ戻った。

 後に聞けば、キリトは「お前ホントリアルラック高いな、ウザイくらいに」と当時の心情を素直に吐露してくれた。半眼でこちらの方を軽く睨みながら。

 

「えーと、クリアおめでとう、とでも言えば良いのか……?」

「ははっ……ま、どうでもいいだろどうでも。そんなことよりキリト、ついでにポーションとか売ってる所も案内ヨロシク」

「ああ……」

 

 どうしても納得がいかないといった風情のキリトだが、素直に俺の要求に応じて村の道具屋にも案内してくれた。

 そこでキリトの薦め通りにポーションやら何やらを揃えつつ、俺とキリトは自然と攻略の話題にシフトしていた。

 

「そういやアトラ。お前、結局これからどうするんだ?」

「俺か?俺はもちろん早速あの塔目指して攻略する予定だが」

 

 すっかり晴れ上がった青空の向こうに浮かぶ浮遊城の柱。恐らく次の階層へと続く階段であり、攻略するには欠かせない要であろう所を顎で指し示す。

 ちなみにキリトは俺の事をアトラと呼ぶ事にしたらしい。なんで一文字だけ省略するんだ。

 俺の当面の目標を聞いたキリトは、腕を組んで少し逡巡した後「……そうか」と呟いた。

 

「ああ。多分あそこが二階層への入り口だと思うから、とりあえずあそこまで行ってみる。違ったらしらみつぶしにこの層を散策するかな」

「いやアトラ、その考えは合ってるよ。あの塔が二階層へ続く階段っていうのは間違ってない」

「お、マジか」

 

 意外にも自分の方向性があっていたことに心の中でガッツポーズする。いやはや、この調子なら大した考え無しでも攻略できるかも知れないな。

 

「サンキュ、キリト。だったら早速あそこ目指していってみるわ」

「一応言っておくけど、あの塔――迷宮区には最上階にボスがいるんだよ。間違っても一人で行くとか止めておけ。初見で一人はまず死ぬぞ」

 

 ようやく必要最低限の品を揃えたため販売リストを消し、振り返り様に俺がそう告げるとキリトは何故かついでにあそこの詳しい情報を教えてくれた。

 

「更に言わせて貰うなら、ソロで大丈夫か?ここから先はMobは大して変化がないけど、予め知識がなかったら大変だぞ」

「ふっ、甘いなキリトよ。俺にだってちゃんと考えがあるんだよ」

 

 は?とでも言いたげな顔でキリトはこちらを見る。

 俺はそれに笑いながら、さっき思いついた考えを話してみる。

 

「《隠蔽》スキルで適当な集団の後ろをストーキングしていけばいいのさ。同じ初期だったら《索敵》じゃ《隠蔽》を破れないだろ?大概のモンスターは集団が狩ってくれるから、俺はその後ろを《隠蔽》スキル使いつつのうのうと着いていけばそれだけで簡単に次の町にたどり着けるって言う寸法だ。後はその村の近くで狩りをしつつ同じ事を続けて行けば、熟練度もレベルも上がるしやがてはゴールにたどり着けるだろ。これぞ完璧な作戦(パーフェクトプラン)!」

「……」

「ん?なんだキリト、その此奴だったら別に心配しなくても勝手にゴールに辿り着くんじゃねとかわざわざ心配して損したとか思っている目は?」

「はは……別にそんなことを思った訳じゃないんだが……」

 

 俺の予想に言葉で否定しながらキリトは首を横に振る。やけにリアクションが大きく、実に怪しい。

 

「ま、大丈夫だって。何を考えてるかはこの際置いておくとして、お前はベータテスターだからソロで向こうまで着けるだろうし、俺だって何とかしてあの塔に辿り着いてみせる。それで良いだろ?」

 

 そう言った俺に、キリトは確かに頷いた。

 

「そう、だな」

「ああ。だから、絶対に生きてまた会おうぜ。とりあえずフレ登録、な」

 

 俺たちは互いにメニューを開いてメッセージを飛ばし、フレンド登録をする。

 どうやらフレンドは名前順に並ぶらしく、予め登録してあった《Rizbeth》の上に《kirito》の文字がピコンと表示された。同じようにキリトの欄にも《Atlas》の文字が登録されているだろう。

 

「それじゃあ、また。早速行ってみる。せっかくだしいけるところまでソロで先行してみたいしな」

「ああ。……じゃあな、アトラ。絶対に生きてこいよ」

「当然。そっちこそ死ぬなよ?」

 

 俺たちは互いに右腕を差し出し、しっかりと握り合った。

 そしてその直後、俺たちは互いに別れるように進路を取り、同時に次の町へ向けて走り出したのだった。

 

 

 

 

 俺は早速、林の隙間に一体で彷徨うリトルネペントを捉えた。周囲にはネペントの気配はなく、恐らく目の前の一体しか近くにはいないようだ。音で判断しているため確実に壮だとは言い切れないのだが。だって《隠蔽》取っちゃったし。次の《索敵》までまた数レベ上げないといけないんだよ。

 さて肝心のネペントはと言えば、昨日(自殺志願者(コペル)のせいで)散々狩ったというか一旦ホルンカ周辺を刈り尽くしたため、その動きは既に記憶済みだ。別に手こずるほどでもない。

 俺は左手にアニールブレード、右手にアイアンソードを十字に構えつつ二刀流でネペントに向かって特効を仕掛けた。

 ネペントが未だこちらに気付いて居ないうちに、俺は振り抜きざまに右手の剣を相手の弱点である茎の根本に投擲する。静かに大気を斬って飛翔した剣は目標とは若干外れて胴体の上半身に突き刺さった。突然の襲撃に驚いたらしいリトルネペントは、触手の一本を動かして突き刺さった剣を抜きにかかる。

 

 ベータテスターたるキリトによると、突き刺した後も貫通ダメージを与える武器があるらしいが、どっちにしろ刺さった武器はモンスターは痛みを感じないため素直にそれを引き抜いて何処か近くに捨ててしまうらしい。そこで俺は考えた。

 そこ、どう考えても隙じゃね?――と。

 武器を抜くその間に最大火力のソードスキルをぶち当てれば、俺の筋力値であれば確実に一撃でHPを刈り取ることができる。

 視界の中のネペントが触手で剣を引き抜こうと柄に触れるその前に、俺は左手に持っていたアニールブレードを瞬時に右手に持ち替える(・・・・・・・・)。そしてそれを肩の高さにまで持ち上げ、片手剣突進系ソードスキル《レイジスパイク》を立ち上げた。鍔から切っ先へとオレンジ色の光が素早く刀身を染め上げていく。

 

 実はSAOでは《二刀流》スキルはないらしく、それどころか両手に二つの剣を構えればソードスキル不可というデメリットが存在するのだ。まあ確かに両手で剣振れば単純にダメージが二倍になるし考えてみれば当たり前だ。

 しかし、今の俺は剣を一本しか装備していない。正確に言えば、右手にあった《アイアンソード》の装備者情報を左手の《アニールブレード》を改めて右手で握ることで打ち消したのだ。よってソードスキルは発動可能となる。

 

 片方を投擲して陽動に使用し、もう一本で確実に決める。

 

 オレンジ色の光を纏った剣がシステムと共に俺の身体を後押しする。俺は木々の隙間から勢いを得て真っ直ぐに駆けだし、剣を蔓で引っこ抜いたばかりのネペントを腹の中心から貫いた。

 頭上に表示されたHPバーが一気に削られていき、ゼロに達して、ネペントは爆散する。

 俺は表示された報酬を確認しつつ、近くに落ちていたアイアンソードを拾って左腰に吊り下げた鞘に納刀した。

 

 ……案外これはこれで良いのかもしれない。結構スムーズに決まるし。

 が、やはり俺が求めているのはあくまで一撃の威力を追求した剣であるわけであって。正直一々剣を拾ったり持ち替えたりするのも面倒だしなぁ。システム的な抜け道もアレだし、そんな効率厨よりもロマン溢れる極振り両手剣の方が楽しいに決まってる。簡単に倒せるってだけだし、そのうちキリトにでも教えてさっさと両手剣に踏み切りたい所だ。

 

 未だ遠い目標へと手を掲げ、空の彼方に朧気に浮かぶ塔の姿を捉えつつ、俺はその下へ向けて足を一歩踏み出した。

 

「今は双剣な訳だが、さっさと両手剣欲しいなぁ……。溜め3とか打ってみたいし。しかし、片手剣も純レアがあるくらいなんだから、両手剣とかもあるハズだよな。いや、有るに違いない。絶対にある。さっさとあの塔まで行けば……宝箱とかあるって言ってたし、その中ならきっと武器の一つや二つぐらい眠ってるだろ。よし、そうと決まれば熟練度稼ぎつつ一直線に突っ走るか」

 

 ……よし、前言撤回。

 俺はここに来るである新たなプレイヤーに寄生するのを止め、先に迷宮区(宝箱)へ到達するために、急遽駆けだしたのだった。

 

 

 

 




 次からは原作的に『星無き夜のアリア』辺りの時系列かな……。
 キリトと組んでないからソロの話になるでしょうし。
 原作みたいにヒロイン出すも何も、誰とくっつくとかどうとか考えてないのでどうしようも無いんですが。ま、なるようになるかと思います。
 迷宮区の話になるか、攻略会議の話になるか。
 まあ、お楽しみにということで。

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