お気に入り登録などなど有り難うございました。
また、前回の感想で指摘があった所を修正しました。どうも有り難うございました。
今回も主人公が変な行動を取ってます。
それではどうぞ。
リーン、ゴーン……リーン、ゴーン……。
柔らかくも何処か寂しげな音色が森の中に響く丁度その時、俺の目の前で通算二〇体目のリトルネペント通称粘液植物(俺命名)が最後のうめきと共に青いポリゴン片となって散った。
「っ……あー、疲れたぁー……」
鐘の音によって集中力に限界が来た俺は一気に緊張が解け、近くにあった木に手を掛けて荒い息をつく。身体が疲れないのを良いことにひたすら目に入ったモンスターを倒しており、気付けば今に至るまでになっていた。ずっと開いたままにしてあったアイテムポーチには、散々倒した相手からの報酬が溜まり込んでいる。
「蔓に胚珠に葉に根……取れる素材はコンプしたかもな。つーかあの花の奴って明らかにレアだよな。二〇体倒して一体しか出てきてないし……だったら運が良かったのかねぇ……」
気付けば結構な量を倒していた自分の実績に、俺はなんとなく笑う。
良くソロでここまでノーダメでクリアできたものだ。自分で自分を賞賛したくなるぐらいにはよく頑張った方だと思う。ここまで身体を動かしたのも、ゲームに熱中したのも久しぶりだった。普段だったらこういう作業めいたことは二、三回で飽きるのに。
「ふぁぁ……」
手を掛けた木の幹に背を預けるようにして、俺はその根元の辺りに座り込んだ。
そして両手を上の方へと思いっきり伸ばし、ぐぃっと背伸びをする。こった肩が解れるバキバキッという音はないが、それでも積もり積もった疲労感が一気に消え去るこの動きは俺に一種の達成感を与えてくれた。
「あぁー、気持ちいいー」
両手を伸ばしたついでに上を見上げてみると、既に空は紅く染まりかけていた。
現実時間的にはそろそろログアウトした方が良いのかな――そう思った瞬間、突然現れた謎の光に俺は包まれたのだった。
「……はい?」
一瞬光に包まれたと思ったら、次には一番最初の広場に戻ってきてしまっていた。
モ○リ玉使った覚えは無いんだが。ってことは、バグか?
……いや、そうでもないみたいだ。
周囲を見る限り、俺だけではなくこの広場に次々と他のプレイヤー達が湧き出てきている。正確に言えば強制転移とかその辺りに見えるが。何にしろ、ってことは運営側からのサプライズとか何かか?初日だし確かにそんな事があるのかもしれない。他にこういうのやったことないから言い切れないけど。
というかそれよりもだな。
ほとんどみんな何かしら武器を身につけてるんですけど。
何なのお前ら、武器なしでやってる俺が馬鹿みたいじゃないか。
で、結局この状況は一体何なんだ?
プレイヤーで広場が埋まってきているのは分かったけど。そろそろ広場が完全に埋まりつつあるんだけど。「な、で、出れねぇぞ!?」とか言ってる声があるけど一体何を言ってるんだか訳が分からないよ。彼は一体何と戦っているんだ。この魔法科学なしの世界でATフィールドとでも相対してんのか。
――一分後。
てっきり責任者とか開発者とかその辺りが出てきて「ようこそ、SAOへ――」とかいったりするのかとでも思ったが、何も起こらない。
正直、暇だ。
よし。
「寝るか」
そう言えば昨晩はモンハンやってて寝てないんだっけ。
アレも次回作はVRらしいし、その情報調べと今のを進めるので気付いたら夜明けだったんだよな。……よく考えたらなんか眠くなってきた。どこか寝られるとこないかな。どうせゲームで顔も弄ってあるし、見られても問題は無いだろ。
適当に周囲を見渡すと、ざわめく群衆の隙間に広場の中心に立つ塔が見える。その台座の下の辺りの段差は丁度良い感じの幅になっており、背をもたれかけて寝るぐらいなら出来そうだった。
「えー、ちょっとすいません」
人混みの中をかき分けて、お目当ての台座の所へと向かう。
途中途中で「何やってんだコイツ」のような不思議なものを見る目が向けられたりしたが、そんなものは気にしない。「そもそもなんで武器持って無いんだ」との男の声も聞こえない。聞こえないったら聞こえない。バーカバーカ。どうせお前の隣の女子なんかネカマだよ(笑)。けっ。爆ぜろ。
そんな感じで近くまで来てみると、うん、本当に丁度良さそうに座れそうだった。
適当に座るところの上を手で払い、俺はその上にゆっくりと腰掛けた。背を後ろの壁に立てかけると睡魔が急に強くなってくる。視界がゆっくりとぼやけていき、頭のスイッチがオフに切り替わる。
ふわぁ……。軽く欠伸をし、背伸びして。腕と膝を組んで、目を閉じる。
そして俺は意識を手放した。
「きゃぁあああぁぁぁ!!」
「うぉっ!?いきなりなんだなんだ!?」
いきなり耳元で聞こえて来た甲高い女の悲鳴に、俺の意識が一瞬で覚醒する。というか耳が痛い。キィーン、と耳が嫌な感じに突っ張った。
頭の中がぐわんぐわんと揺れ、悲鳴が頭の中で反響するかのように延々と鳴り続ける。
「いやぁぁぁぁああぁぁ!!」
五月蠅いな、なんなんだコイツ。
「とりあえず――いやいや五月蠅いわこの野郎ッ!!」
とりあえず元凶らしき目の前の女を思いっきり蹴飛ばして黙らせた。
蹴り込む際になにか壁のようなものの感触がしたが、そのまま無理矢理蹴り抜く。微妙にクセのある焦茶色の髪の毛にそばかすらしきものが見えるその女……女の子。その身体は、筋力値に極振りした俺の脚力に為す術無く、軽く宙を舞った後、数回バウンドして転がっていき、止まったかと思えば石畳の上で動かなくなった。
……あ。
やっちゃった。
今更気付いたんだが、流石に五月蠅いからと言って女子を蹴飛ばすのは色々とアブナいよな……。ふと周囲を見渡していると、その場にいたほとんど全員が、信じられないようなものを見たとでも言うような目をこちらの方に向けてきている。
とりあえず。
「逃げるか」
蹴っ飛ばした女の子の身体を拾い担ぎ、俺は一目散にこの広場から逃げ出した。
つーか一体何があったんだ?
視界に入った一部の人が超絶望的な顔してたんだけど。球磨川の旦那でもログインしてたのか?
しばらく適当に町の中を走った後、俺は先ほどの女の子を背負ったままひとまず適当に人気のなさそうな町の裏道に入った。ある程度奥の方に入り込むと、ある程度広い空間とそこに据え付けられたいくつかのベンチを見つけたので、彼女をそこに下ろした。
肩に背負っていた女の子をゆっくりと下ろし、背をベンチにもたらせかける。念のためその顔を確認してみると、幽かに息をしているのが分かった。何の反応もないと思ったら、先ほどの一撃でどうやら気絶してしまったらしい。
さて、起きるのを待つのも面倒なので起こすか。
「おーい、起きろ」
ペチペチペチペチ。
女の子だからと遠慮することなく、軽く顎を持ち上げてその可愛らしい頬を空いている方の手で交互にはたく。俺の辞書に他人への遠慮などはない。
「……ん?」
往復一〇回ほどやってみたところで起きたので、手を離す。
「お、やっと起きたか」
彼女は目の前にいた俺の顔をしばらく見つめ、そして周囲を素早く見渡したかと思うと、急に後ずさりしようとした。
「え、な、何があったのよ!?」
「……」
言えない。五月蠅いからとりあえず蹴っ飛ばしたなんて言えない。
そう思って気まずいながらも彼女の方を見ていると、向こうの方から明確に俺に目を向けて声を掛けてきた。
「ちょっとそこのアンタ!!何か言いなさいよ!」
「メンドイ」
“何か”言うように言われたので、とりあえず今の俺の心情を率直に表してみる。
こちらとしては今すぐこの場から逃げ出したいのだが。しかし目の前の彼女はそんなことを許してくれそうもない。
俺の一言にしばらく絶句した後、彼女は鋭いツッコミをこちらに寄越す。
「――馬鹿なの!?この状況でそんなこと言えるアンタって馬鹿なの!?」
「バカバカ五月蠅いな。馬鹿って言った奴が馬鹿なんだよ」
「うっさいわね、これでも学力テストは問題無いわよ――ってなんでこんな話になったの!?」
「知らん。とりあえずもう良いか?俺は腹が減ったんだ。メシでも食いたい」
「どこまで脳天気なのこの男!?」
……ま、目は覚ましたことだしもういいか。ログアウトしても良いだろう。もう午後五時ぐらいだろうし、そろそろ小腹も空いてきたからな。カップ麺でも食って再ログインしよう。
騒ぐ彼女を無視して右手を振り、メニューを開いたのだが……。
「あ?ログアウトボタンが無い……なんだその馬鹿を見たかのような目は」
本来有るべき場所からは、ログアウトの文字が消えてしまっていた。
しばらくその場所を見てから顔を上げると、彼女は目と口をポカンと開けてこっちを見ていた。
「……アンタ、さっきの話聞いてなかったの?」
「話?――ああ、あのイベントみたいな奴か。そう言えばあれってもう終わったのか?広場に来てすぐに待つのめんどくさくなったから寝たんだが」
頭をポリポリと掻きながらなんでもないかのようにそう話すと、彼女は何故か突如虚ろな目になりながらブツブツと暗い表情で呟く始めた。
「一体何なのよコイツ信じられないわあの話の間ずっと寝てたとかマジで有り得ないんだけどどこまで馬鹿なのよ馬鹿の金賞よそうよそうねそうに違いないわここの人がみんなコイツみたいに馬鹿な訳はないわだから落ち着いて私」
「……頭打ったか?」
そう心配して声をかけると、突如彼女はがばっと身体を起こして俺の顔面一センチ手前まで顔を近づけてきた。
「誰のせいだと思ってんのよ誰の!?」
「システム」
「確かにそれはそうだけれども!半分くらいはアンタのせいよ!なんであんな空気の中で堂々と寝るなんて出来るのよ!?」
「俺のスルースキルは天元突破グ○ン――」
「知ったこっちゃないわよ!!」
ぜぇー、ぜぇー、とおよそ女の子らしくない動きで彼女は息を落ち着ける。
意外とからかいがいがある性格だというのは分かった。
「……もういいわ。アンタにどうやら普通の話は通じないみたいね」
「これでも世界一常識人だと自負していてな」
「……アンタ、なんでそのログアウトボタンが消えてるか分かってる?」
無視するなよと思ったが、何故か彼女は急に表情を真剣なものへと変える。なのでさすがに、ふざけるのを続けるわけにはいかなかった。
何を言わんとしているのか分からないが、思った通りに答えてみる。
「そうだな……単に運営かなんかのミスだろ?」
「……ハァ、どうやら本当に何も聞いてなかったのね。――いい?それはミスとかじゃないわ。茅場晶彦曰く、それが『このゲーム本来の仕様』らしいわ」
茅場晶彦。その名は一応記憶の隅に残っていた。VRの第一人者で量子学者でソードアート・オンラインの開発者の一人。大体そんな感じだった気がする。
しかし。
「茅場晶彦本人が現れてそう言ったのか?」
「アンタが寝てた間に起きてた全員の前に出てきたのよ、本人」
「……ソウデシタカ。って、それ要するにどういう事なんだ?ログアウト出来ないのが本番仕様……あれか、一昔前のネット小説みたいにクリアするまで脱出禁止とかの?」
「大体それで正解よ。ただし、そこに『死ねない』っていう条件が入るけどね」
「ああなるほど、所謂デスゲームって奴か」
俺がそうアッサリ言うと、目の前の彼女は半眼になってこちらを見る。
「……やけにアッサリしてるわね」
「そりゃそうだろ。ゲームがクリアされない限りあの現実に戻らなくて済むんだぜ?就職が厳しくて政治家の不祥事ばっかりが報道されて一日中勉強漬けじゃないと碌な未来がない現代日本に戻るぐらいなら、シンプルに剣を振ってゲーム内でのんびり暮らす方が良いに決まってる。それに、まともに将来どうするかを考えずにただ勉強するより、ゲーム攻略って言う明確な目標を掲げて日々を過ごす方が遥かにマシだと思うがな」
「……」
訳が分からない、という顔をする彼女。
確かにたかがゲームで死ぬなんていきなり言われてみれば、まず死にたくないって考えるのが普通だろうな。
しかし。
「つーかよく考えてみろよ。単純な話だ。最大限の努力をしたとして、このゲーム内でHP0になって死ぬ確率と、現実でトラックに轢かれて死ぬ確率とどっちが高い?どう見ても現実で出歩く方が死ぬ可能性が高いぜ」
かなり無茶な話だが、別に間違ってはいない。
このゲームでは一定の圏内(大きな町の中とか)では基本的にHPが経ることはないと説明書に書いてあった。だったらその中からでなければ死ぬ確率なんて0だろう。さらに飯や風呂を抜いて適当な部屋に永遠に閉じこもっていれば完璧だ。
ゲーム攻略に励まない限りは死ぬことはない。
「というわけで、まあ、そんな考え方をすればそう悲観的になる事もない。OK?」
「……普通、そんな考えなんて出来ないわよ?」
「肝心のところで寝てたからな。ぶっちゃけ他人事のようにしか思えなかった」
直接聞いてても大して変わらなかったろうが。
「というか茅場本人が出てきたみたいだが、誰かそこに物理的ツッコミを入れる奴とかいなかったのか?俺だったら「精神病院にでも行ったほうがいいですよ」とか気の利いたツッコミを入れてやるが。他はそうだな……さっき拾った石ころでも顔面に投げつけるか」
「ぷ……あははっ!」
そうやってアホな事ばかり呟いていると、彼女はいきなり笑い出した。
「なんかアンタを見てたら、悲しんでた自分が馬鹿らしくなっちゃったわ」
「あ。ほら、やっぱり」
「ん?」
「『馬鹿と言った奴が馬鹿』って……」
「アンタここでそれを言う!?どんだけ前の事を持ち出してんのよ!?――って危ない危ない、またアンタのペースに乗せられる所だったわ。……とりあえず、有り難うね。おかげでなんとかやっていけそう」
「ふーん。まあ頑張れ」
「え、まあ頑張れってどういうことよ?」
「いやだってお前、どうせしばらく今後の行動を考えるためにこの町にいるだろ?俺はもう攻略するって決めたからここで別れる事になる。だから頑張れ、って」
「……行くの?」
「最低限どう進んでいくべきかぐらいは分かってるからな。とりあえず道らしい道をあの塔に向けてしらみつぶしに潰していけば、そのうち遠目に見えるあそこにたどり着けるだろ」
今も、建物の隙間から赤い夕焼けの中にこの第一層のラストダンジョンである塔がボンヤリと見える。あそこに向かって走っていけば、いずれはたどり着くはずだ。序盤からそんな細かいキークエストとかがあるとも思えない。
「む。確かに、言ってみればそれもそうよね……」
「とは言っても実質無理矢理だからお勧めできる方法じゃないが。ヘタしたら塔直下の町に辿り着くまで一睡もできないなんて可能性も有る。探索マップには通ったルートは解放されてくから一応ここに戻れるけど、一々戻るのも効率が悪いからな。ま、ゆっくり考えるんだな。俺はさっき寝たから、今晩から明日一日は寝なくても何とかなるし今からこの町を出ていく」
「そう……ま、分かったわ。とりあえずここで一旦お別れってことね」
「ああ」
「んじゃ、せめてフレ登録ぐらいはしましょうよ。そうすればメールも送れるし、最低限の遣り取りは出来るようになるから」
「……わかった」
《 Lizbeth からフレンド登録要請が届いています》。
そのウィンドウの『OK』を押すと、俺のリストに新たに彼女の名前が刻まれる。
「リズベットって読むんだけれど……リズで良いわ。アンタのは……《
「ああ、問題無い。アトラでもトラでもアとでもなんでも好きに呼んでくれ」
「そうね……アトってのでいい?」
「好きに呼んでくれと言ったからな。それでいいぞ」
「おっけー、それじゃあしばらくよろしくねアト」
そう言った彼女は手を差し出してきた。
その手を握りかえしながら、俺達は軽い挨拶を交わした。
「ああ。よろしくなリズ」
そのまましばらく握手した後、手を離す。
「んじゃもう、俺行くわ。そろそろ暗くなってきてるし」
「普通ここで一泊してから朝に出るんじゃないの?」
「いや、俺の感が訴えてるんだ。今行けばきっと面白そうなことに出会えるとな。じゃあな、リズ」
「じゃあねアト!」
笑うリズを後ろに、俺は町の外へと掛けだした。
前回とは違い、塔の見える方向にある門から外に出る。その先に広がるのは広い草原で、その奥の方になだらかな丘が続いていた。
敏捷値ゼロで走るその足を止めないまま進んでいくと、しばらくして俺はまた違う草原の道のステージに出た。その脇の丈の高い草むらから、一匹のモンスターが出てくる。
小さい狼型の相手で、口の隙間から鋭い牙を覗かせてこちらへと向かってくる。
あんなのを一々相手にしていたらキリがない。
一撃で、潰してやる。
もはや随分前に思える自立型植物モンスターとの戦いの際に気付いたのだが、SAOのモンスターは恐らくモンハンみたいに肉質設定もしくは明確な弱点がある。あの時は頭部辺りの茎が弱点だった。
狼型モンスターで考えたら、恐らく頭部――それも鼻の先だろう。
「邪魔だ!!」
正面衝突時に、右足の蹴りを狼の鼻、その頂点に思いっきり喰らわせる。
現在の俺のレベルは三、その全筋力値を込めた蹴り。
確かな手応えを得て脇の草むらの遠くに吹き飛ばした狼にはもう目を向けない。僅かに聞こえた狼の身体が砕けた音で、相手が死んだことを確認する。
そのまま足を止めないまま、俺はひたすら目先の塔へと翔る。
武器もない、防具もない。有るのは唯、極振りして手に入れた馬鹿げた筋力値だけ。
そんな明らかに無謀な状態で、俺はうっすらと月が出てきている道を走っていったのだった。
タイトルに有るとおり主人公の武器は両手剣なんですが、あれって片手剣スキルをある程度上げないとスキル使えないらしいのでまだ出ません。第一層ボスの頃には出したいと思っています。
次回はキリトやコペルとの接触(?)の予定です。
不思議に思った所などは感想で指摘して下されば訂正したりしますので、よろしくお願いします。