海賊系白髪無口っ娘   作:ひょっとこ_

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 投下ー。


第九話

「俺は、偉い……!!」

 

 己の権力(ちから)を誇示するようにそう宣った短髪の偉丈夫は、執務室の扉手前で待機する傍付きの海兵をぎろりと睨み付けた。

 傍付きの海兵は、慌てた様子で軍式の敬礼を行い、先程の言葉を肯定する。

 

「はっ、なにしろ大佐でありますから、モーガン大佐!」

「あぁ、その割りには近頃町民共からの貢ぎ(・・)が少ねぇんじゃねぇか?」

「その……、大佐への納金に関しましては、なにぶん町民たちの懐事情にも限界がありまして……」

 

 海兵は、元より正義感から海軍に志願した一兵卒であった。少年の頃の夢が未だに胸中に逆巻いていたことも要因の一つであったといえる。

 一般民を守るために訓練を積み、日々を精進してきた彼が数年前、この海軍第一五三支部に配属されたときは心が踊ったのをよく覚えている。

 海軍第一五三支部の斧手のモーガン。

 イーストブルーにおいては珍しく腕っぷしだけで――あくまで地方支部の、だが――大佐にまで昇り詰めたかの豪傑と仕事ができる。うまくすれば薫陶を受けられるかもしれない。そう思うと、なおのこと気合いが入ったものだ。

 が、現実は違った。

 憧憬していたモーガン大佐は地方支部の最高責任者として思うがままに職権乱用を繰り返し、滅茶苦茶を地で行く無法者の暴君であった。

 恐怖支配。逆らう者は片端から死を持って償わせる。

 正義感に溢れる若き海兵も歴戦の将校に敵うはずもなく、やがては上っ面だけでも従順なふりをしてみせるようになった。

 

「町民共の懐具合なんぞ知ったことじゃねぇんだ。……要は、この俺への敬服度だ」

「っ……」

 

 町民を守るべき立場にある人間がその立場こそを逆手にとって町民を苦しめ、己の自尊心と優越感を満足させるための道具としか見ていない。

 歯がゆかった。苦しんでいる人々のためになにもできない無力な自分が。

 悔しかった。幼い頃に夢見た幻想が所詮幻想でしかなく、自分には他人を守る力などなに一つないことが。

 

「親父っ!」

 

 その人影が執務室に入ってきたのを確認した傍付きの端的な気持ちを表せば、うへぇ、という実に率直なもので、そのような感情を向けられる人間が好意的に他人に受け止められる人物ではないということを如実に示していた。

 

「騒々しいぞ、ヘルメッポ」

「ぶっ殺してほしい奴らがいるんだよ!」

 

 また犠牲者が出る。

 傍付きはただその事実を認識して、それ以上は考えないようにした。この数年ですっかりこのような状況に慣れてしまったかのように感じる自分自身に激しく嫌悪を抱きながら。

 

 

 

 

 

 磔場から解放された翌日のこと。私は、ルフィと連れ立って磔場へととんぼ返りしていた。

 

「よっ」

「また来たのか。……、海賊の誘いなら蹴ったはずだぜ」

 

 目的はもちろんのこと、ゾロである。どうもルフィは彼のことが気に入ったらしい。

 ちなみにコビー君は新しい仲間ではなく、同行者としてこのシェルズタウンまで船を共にしてきたらしかった。なんでも海兵になり、将来的には海軍将校になりたいとか。旅路の中でルフィになにやら感化されたようで、お互い敵同士の立場を目指すくせにいやに熱く語り合っていた。

 

「おれはルフィ! 縄といてやるから仲間になってくれ!」

「昨日の話聞いてなかったのか、てめぇ! 俺にはやりてぇことがあると言ったはずだ。誰が好んで海賊になんてなるか」

「別にいいじゃんか。お前元々悪いやつだって言われてんだろ?」

「ちっ、だから世間への体裁など知ったことじゃねぇと言ったろうが。海賊なんてまっぴらだぜ」

「……、知らんっ! おれはお前を仲間にするって決めた!」

「勝手なこと言ってんじゃねぇ!」

 

 ルフィ相手になにを言っても骨折り損のくたびれ儲けってやつだと思う。

 雪片が暇そうに体を擦り寄せてくる。離ればなれだったからか、いつもよりだいぶ素直に甘えてきてくれる。意地っ張りで寂しがりやとか……、可愛いなぁ、もうっ!

 

「お前、刀使えるんだってな」

「あぁ……?」

 

 思うがままに会話を進めるルフィ。付き合わされているゾロはすでに疲労してきているようだった。

 

「まぁ……、なにかに体をくくりつけられてなきゃ、一応な」

「刀は?」

「ちっ……、取られたよ。あのバカ息子にな。……、命の次に大切な、俺の宝だ……!」

 

 思わず、どきっとした。

 命の次に、いや、あの様子からして命と同等くらいの価値を見出だしているんだろう。

 そんな風に思えるものがあるっていうことはとてもかっこいいことなんじゃないかなぁ、と思う。

 ルフィにしたって、あのトレードマークの麦わら帽子がなににも代え難い宝の一つだって言ってたし。もういくつかあるの、と聞けば、仲間って答えられて顔が赤くなってしまったのは、記憶に新しいことだったはずだ。

 私もそんなものができるかなぁ、と少しばかりルフィやゾロのことが羨ましくなって、ふと思い直す。

 ふふっ、私って、ちょっとバカだなぁ。もういるじゃない。

 雪片、ルフィ、リカちゃん、リリカさん、それから、ゾロも。

 なんというか、そう、人とのつながりが私にとっての宝なんだ。……、なんてね。

 ぎゅっと、雪片の体に腕を回す。

 

「えへへ……」

 

 もう少し、強くなりたいな。私の宝を守り抜くために。

 

 

 

 

 

「よし! おれが刀を奪ってきてやるよ!」

 

 妙案だとばかりにルフィが言った。

 

「あぁ……?」

 

 胡散臭げな眼差しでゾロは、自分の計画を得意げな顔で話し出すルフィを見やる。

 

「そして! おれから刀を返してほしけりゃ、仲間になれ!」

「たち悪ぃぞ、てめぇ!」

「はっはっは。よし、行ってくる!」

「おい、待て!」

 

 なにやら助けを求めるような目で私を見られても困るんだけど、ゾロ。あの船長を止められるわけないよ。

 まぁ、えっと、ご愁傷さま……?

 

「てめぇな……、はあぁぁ……」

 

 先輩船員からのアドバイスとしては、頑張ってね、だとか、元気出してね、とかぐらいしか言えることないけど。




 べ、べつにうちのカノンはちょろい娘じゃないですよ……?

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