恋より   作:わか

9 / 12
7話

そろそろ桜が散ろうとするこの時期。

出会いや別れ、再会を繰り返すこの時期。

 

僕の出会いは、これ以上ないだろう、という時期に。

 

一人の女の子と出会った。

 

その子は、おでこを出した特徴的な女の子で、柔らかい雰囲気で、なんだか気になって。

 

 

放課後になった。

僕は洋榎たちに別れを告げ教室を出る。

いつもならそのまま家に直行で帰るのだが、最近空き時間が多いことに悩んでいた。

家では勉強がある。と言っても集中力はそんな持続するわけもなく。

 

なんだかんだで、空き時間が増えていく。

朝、教室へ着いた後のホームルームのチャイムが鳴るまでの時間。

誰とも話さない時の休み時間。

授業で余った時間を生徒にくれる優しい先生。

そして、家。

 

部活をしないだけでこんなに空き時間が増える。

前いた学校でもそれが悩みだった。

 

だから、僕は決意する。

 

「本を読もう」

 

部室棟の最上階である四階の一番隅に位置する図書室。

広さはそれなりにある。

 

もっとこじんまりとしたイメージだったが、ここなら何か気になる本が見つかるかもしれない。

 

僕は、何か役に立つんじゃないか、と思い歴史の棚を覗いてみる。

 

「眠くなりそうだ」

 

もっと軽く読めるのがいい。

おすすめと書かれた棚を見てみる。

 

何となく惹かれたタイトルを手にとってみる。

 

「「あ」」

 

僕ともう一人の声と手が合わさる。

小さな手をした人はすぐに手を引っ込める。

 

「ごめんなさい」

 

僕はようやく置かれた状況に気づき、隣を見る。

 

「あぁ、いえ、こちらこそすみません」

 

そこにいたのは、背の小さい、おでこが広い、少女、と言ってもここの制服を着ているのなら、少女というのは失礼か。

僕は、彼女が取ろうとした本を持つと、彼女に渡す。

 

「どうぞ」

 

「え?へ?いやいや、そんなお構いなく」

 

「読みたかったんでしょ?」

 

「あの、私は大丈夫です」

 

ひどく動揺している彼女に、なんだか申し訳なく思ってしまう。

僕は何かしてしまったのだろうか?

だから、この平行線を終わらせるべく、僕は彼女に提案する。

 

「じゃあ、一週間後。君が返したら、次は僕が読むよ」

 

「そんなん、もしかしたら、誰かがすぐ借りかもしれんし」

 

「そうだね。じゃあ、知らせてくれるかな?」

 

「えーと」

 

あぁ、名乗るのを忘れていた。

 

「僕の名前は一場駆って言います。二年一組です。良ければあなたの名前を教えてくれませんか?」

 

「はい!私は、上重漫言います。あ、一年三組です」

 

上重漫……。

 

「可愛い名前だね」

 

僕は、自分でも何を言っているのか、と思わず思ってしまったが、彼女を見るとそれに見合った、お似合いの名前だと思った

だから、似合ってますね。と言うのもなんかおかしい。

 

可愛い、というのが適切なんじゃないか?と思ったら、つい口が滑ってしまった。

 

「えーと、その」

 

上重さんも困った風な表情を浮かべ、ついには本で顔を隠してしまった。

自爆してしまった。後悔しつつ、話を先に進める。

 

「僕の提案、受け入れてくるかな?」

 

「はい、わかりました。絶対にお伝えします」

 

「うん。よろしく」

 

僕の笑顔に、彼女も笑顔になる。

しかし、上重さんは何かに気づき、時計を確認する。

 

「しまった、部活!!」

 

部活?

どうやら、彼女を引き止めていたらしい。

 

「ごめん。引き止めちゃったね。早く行って」

 

「はい。ありがとうございました」

 

上重さんは、頭を下げ、司書さんのいるカウンターに行く。

学生証を提示し、機会に通する。

すぐに処理を終わり、彼女は本を鞄に入れずに、そのまま走って行く。

 

「不思議な出会いだ」

 

この桜が散ろうとし、出会いと別れと再会の象徴の役目を終えようとしている、この時期に。

 

僕は、上重漫と出会った。

 

 

そして、ゴールデンウィークに差し掛かろうとする日の前に、最後の桜を見ようと僕たちは集まった。

洋榎たちとは部活終わり後に会い、桜を見に行くはずだった。

 

だけど、何の運命なのか、夕方から降りだした雨により、この話は流た。

でも、約束したのだから、何か食べに行こうと言う洋榎に提案に僕たちは、晩御飯を食べに行くことに。

 

高校生が晩御飯を食べに行くというのに、親は何も言ってこなかったのか。

しかも、女子の中に、男子一人というこの図。

 

まぁ、僕の場合、この話をじいちゃんに言ったら、喜んで送り出してくれたが。

洋榎の先導で一軒の店に着いた。

 

「お好み焼きか」

 

「そう、ここ後輩の店やねん。もしかしたら、割引してくれたりして」

 

「さすがにないよ、おねえちゃん」

 

「先輩だからって理由で割引にしてもらったら、申し訳ないでしょ」

 

「だめだよー」

 

周りからの攻撃に「冗談や」と明らかに本気だったのに虚勢を張る洋榎を無視し、店の中に入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

「何名様ですか?あれ?先輩?」

 

「よー漫。五名や」

 

「はい、では、こちらへ……?あれ?」

 

「ん?どうしたの、漫?」

 

恭子がそう尋ねる。

僕はというと、何の運命なのか。

 

「えーと、本読んでる?」

 

「はい、一場先輩」

 

「なんや、こいつら」

 

この春が終わり、この雨で散る桜の最後のいたずらか、僕は上重漫と再会した。

 





漫との出会いでした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。