そろそろ桜が散ろうとするこの時期。
出会いや別れ、再会を繰り返すこの時期。
僕の出会いは、これ以上ないだろう、という時期に。
一人の女の子と出会った。
その子は、おでこを出した特徴的な女の子で、柔らかい雰囲気で、なんだか気になって。
◆
放課後になった。
僕は洋榎たちに別れを告げ教室を出る。
いつもならそのまま家に直行で帰るのだが、最近空き時間が多いことに悩んでいた。
家では勉強がある。と言っても集中力はそんな持続するわけもなく。
なんだかんだで、空き時間が増えていく。
朝、教室へ着いた後のホームルームのチャイムが鳴るまでの時間。
誰とも話さない時の休み時間。
授業で余った時間を生徒にくれる優しい先生。
そして、家。
部活をしないだけでこんなに空き時間が増える。
前いた学校でもそれが悩みだった。
だから、僕は決意する。
「本を読もう」
部室棟の最上階である四階の一番隅に位置する図書室。
広さはそれなりにある。
もっとこじんまりとしたイメージだったが、ここなら何か気になる本が見つかるかもしれない。
僕は、何か役に立つんじゃないか、と思い歴史の棚を覗いてみる。
「眠くなりそうだ」
もっと軽く読めるのがいい。
おすすめと書かれた棚を見てみる。
何となく惹かれたタイトルを手にとってみる。
「「あ」」
僕ともう一人の声と手が合わさる。
小さな手をした人はすぐに手を引っ込める。
「ごめんなさい」
僕はようやく置かれた状況に気づき、隣を見る。
「あぁ、いえ、こちらこそすみません」
そこにいたのは、背の小さい、おでこが広い、少女、と言ってもここの制服を着ているのなら、少女というのは失礼か。
僕は、彼女が取ろうとした本を持つと、彼女に渡す。
「どうぞ」
「え?へ?いやいや、そんなお構いなく」
「読みたかったんでしょ?」
「あの、私は大丈夫です」
ひどく動揺している彼女に、なんだか申し訳なく思ってしまう。
僕は何かしてしまったのだろうか?
だから、この平行線を終わらせるべく、僕は彼女に提案する。
「じゃあ、一週間後。君が返したら、次は僕が読むよ」
「そんなん、もしかしたら、誰かがすぐ借りかもしれんし」
「そうだね。じゃあ、知らせてくれるかな?」
「えーと」
あぁ、名乗るのを忘れていた。
「僕の名前は一場駆って言います。二年一組です。良ければあなたの名前を教えてくれませんか?」
「はい!私は、上重漫言います。あ、一年三組です」
上重漫……。
「可愛い名前だね」
僕は、自分でも何を言っているのか、と思わず思ってしまったが、彼女を見るとそれに見合った、お似合いの名前だと思った
だから、似合ってますね。と言うのもなんかおかしい。
可愛い、というのが適切なんじゃないか?と思ったら、つい口が滑ってしまった。
「えーと、その」
上重さんも困った風な表情を浮かべ、ついには本で顔を隠してしまった。
自爆してしまった。後悔しつつ、話を先に進める。
「僕の提案、受け入れてくるかな?」
「はい、わかりました。絶対にお伝えします」
「うん。よろしく」
僕の笑顔に、彼女も笑顔になる。
しかし、上重さんは何かに気づき、時計を確認する。
「しまった、部活!!」
部活?
どうやら、彼女を引き止めていたらしい。
「ごめん。引き止めちゃったね。早く行って」
「はい。ありがとうございました」
上重さんは、頭を下げ、司書さんのいるカウンターに行く。
学生証を提示し、機会に通する。
すぐに処理を終わり、彼女は本を鞄に入れずに、そのまま走って行く。
「不思議な出会いだ」
この桜が散ろうとし、出会いと別れと再会の象徴の役目を終えようとしている、この時期に。
僕は、上重漫と出会った。
◆
そして、ゴールデンウィークに差し掛かろうとする日の前に、最後の桜を見ようと僕たちは集まった。
洋榎たちとは部活終わり後に会い、桜を見に行くはずだった。
だけど、何の運命なのか、夕方から降りだした雨により、この話は流た。
でも、約束したのだから、何か食べに行こうと言う洋榎に提案に僕たちは、晩御飯を食べに行くことに。
高校生が晩御飯を食べに行くというのに、親は何も言ってこなかったのか。
しかも、女子の中に、男子一人というこの図。
まぁ、僕の場合、この話をじいちゃんに言ったら、喜んで送り出してくれたが。
洋榎の先導で一軒の店に着いた。
「お好み焼きか」
「そう、ここ後輩の店やねん。もしかしたら、割引してくれたりして」
「さすがにないよ、おねえちゃん」
「先輩だからって理由で割引にしてもらったら、申し訳ないでしょ」
「だめだよー」
周りからの攻撃に「冗談や」と明らかに本気だったのに虚勢を張る洋榎を無視し、店の中に入る。
「いらっしゃいませー」
「何名様ですか?あれ?先輩?」
「よー漫。五名や」
「はい、では、こちらへ……?あれ?」
「ん?どうしたの、漫?」
恭子がそう尋ねる。
僕はというと、何の運命なのか。
「えーと、本読んでる?」
「はい、一場先輩」
「なんや、こいつら」
この春が終わり、この雨で散る桜の最後のいたずらか、僕は上重漫と再会した。
漫との出会いでした。