──洋榎side
「あ、おねえちゃん。今日は遅かったね。早くしないとお昼休み終わるで」
駆の馬鹿に時間を取られて、一時間ある休みもあと半分のところで部室に帰ってこれた。
「うん、そやな。早く食べるわ。今のままうっても調子でぇへんし」
うちは絹恵に促されながら、隣教室の休憩室に入る。
「なんかあったの?」
ついてくる絹。
どうやら、うちを待ってたみたいやな。
「あ、悪い。待ってたんか?」
「うん。おねえちゃんと食べた方がご飯も美味しくなるしね」
嬉しい事を言ってくれる絹に、申し訳ない気持ちになってくる。
なんで、うちあんな事で怒ってたんやろうか。
絹に見られたよな、あんな不機嫌そうな顔……。
だんだん恥ずかしくなってきた。
「よし、さっさと食べて、午後から頑張るで!!」
うちの調子が戻ったんだろうか、絹の顔に笑顔が戻る。
「そのいきだよ、おねえちゃん!!」
「よっしゃ!!燃えてきた!!」
◆
──絹恵side
「おねえちゃん、ちょっとトイレ行くね」
「おおー」
私はおねえちゃんにそう言うと休憩室から出ます。
末原先輩を捜します。
「あ」
と思ったらちょうど前方からやってきました。
「あの、末原先輩!!」
「どうした、絹恵」
「あの、おねえちゃんの様子がおかしいんですけど!何か知りませんか?」
「洋榎?んー」
「嫉妬だよー」
と横にいた真瀬先輩がそう言います。
え?嫉妬?嫉妬とは、あの男女間で起こる特殊な感情の嫉妬?それとも、おねえちゃんが末原先輩や真瀬先輩の才能に嫉妬した?
いやいや、自信家のおねえちゃんが人に嫉妬するはずもないし……。
「由子!!余計なこと言わない!!」
末原先輩の顔が赤い……。
ますます話がわからなくなってきた。
何が起きてるんや?
「たぶんだけど、昨日転入してきた男の子のことでしょうね」
「へー誰か転入してきたんですか?」
「なんでも、昔馴染みの子みたいよ」
昔馴染み?
「ちなみに名前なんていうんです?」
「一場駆いう子なんやけど……。知ってる?」
「え?一場駆って……。はい、知ってます。よくおねえちゃんが遊んでた男の子ですよ。仲良かったん覚えてます」
「洋榎、その子にどう接すればいいか悩んでるみたいよ。なんか洋榎態度悪すぎるから、絹恵からも言ってあげて」
「わかりました。帰ったら話し合いします」
「じゃあ、ご飯食べるから」
「あ、止めてすみません。ありがとうございました」
先輩たちが休憩室に入っていく。
うーん。
まさか、昨日見てたのって、一場先輩を見てた?
久しぶりに会って、昔の恋心が蘇ったとか?
いや、まさかおねえちゃんに限ってそんなことあらへんやろう。
まぁ、帰ったら問いただそう。
◆
──絹恵side
おねえちゃんと二人で帰宅する。
着替え終えると二人で居間に行く。
さぁ、おねえちゃん勝負!!
「おねえちゃん、私に隠してることあらへん?」
「んーなんもないで」
おねえちゃんは寝転んでテレビのチャンネルをいそいそと変えている。
「一場駆って人、転入したきたんやろ」
チャンネルを変える手が止まる。
「おーそういえばそんなこともあった気がする」
「なんで隠すの?私も昔遊んでたんやけど?」
「隠してへん!!」
明らかに動揺してる。
「そういえば、昔、一場先輩と遊びに行って、帰ってきたらすごい喜んでた時あったよな?あれは結局なんやったん?小さかった私もあれだけは鮮明に覚えてるよ?」
おねえちゃんが黙った。
「な、なんもないで」
すごく動揺してる。
「一場先輩に冷たくあたったらあかんで?」
「な!?あたってへん!!」
おねえちゃんが立ち上がる。
「そんな怒らんでも」
「いや、怒ってない。ただ、その……。なんて話せばいいかわからへんね」
「そんなのいつも通りでいいやん。いつも通りのおねえちゃんでいれば、一場先輩も受け入れてくれるよ」
「そうかな……」
「なんも心配することないよ」
私はおねえちゃんを抱きしめる。
「大丈夫。気づいたら昔通りの仲いい二人になっとる」
「うん」
わたしたちはいつまでも抱き合っていました。
「なにしてるん?」
のわけがなく。お母さんが帰ってきました。
気づかんかった。
洋榎改心するの巻でした。