恋より   作:わか

4 / 12
3話

「ただいま」

 

「おかえり」

 

ばあちゃんが台所で料理の準備をしている。

 

「手伝うよ。米はやった?」

 

「まだだよ」

 

「じゃあ、それやるよ」

 

米を洗い、水を測り、炊飯器のスイッチを入れる。

 

「ありがとうね。もういいから、あとは私がやるよ」

 

「いや、手伝うから。僕は大丈夫だよ」

 

「そうかね」

 

 

目覚まし時計の音がする。

 

ゆっくりと瞼を上げる。

開けても自然と下がっていく。

 

それに抗うように、一階に行き、顔を洗う。

冷たい水がしみて、一気に覚醒していくのがわかる。

 

「ばあちゃん、じいちゃん、おはよう」

 

「おう、おはよう」

 

「おはよう」

 

台所へ行き、パンを焼く。

ジリジリ焼かれていくパンを見ながら、今日から授業というのに憂鬱を覚える。

 

焼き終わり、居間に行く。

テレビから流れる今日のニュースを見ながら食事をする。

高校生として時事問題を覚えておいた方がいいと理解しときながら、淡々と流れるニュースを聞いていると、瞼が落ちてくる。

しかし、それを見計らったかのように、ばあちゃんが話しかけてくれる。

 

「今日から授業かい?」

 

「うん。でも、昨日と同じ午前だけだから、早く帰ってくるよ」

 

「そうかい」

 

それから食べ終えるまで他愛もない話をした。

 

自室へ行き、準備をする。四時間しかないから、鞄は軽いかな、と思ったらそうでもなく。

そこそこの分厚さを誇る教科書により、それなりの重さの鞄を持つ。

 

ばあちゃんたちに挨拶をして、家を出る。

 

「行ってきます」

 

扉を締め、自転車を引っ張りだす。

 

今日も桜を見ながら、自転車を漕ぐ。

時々花びらが顔に当たる。

 

「そろそろ散り時なのか」

 

特別に桜に思い出があるわけではないが、なんだか寂しい気持ちになる。

いつの間にか学校へと着き。

昨日と同じように動く。

昨日と違うのはそのまま教室へ行くことだ。

 

教室に着くと、雑談に花を咲かせているクラスメイトたち。

 

そして、僕に気づくと挨拶をしてくれる優しいクラスメイトたち

 

でも、それ以上の関係にはなれないだろう。

二年生からの新参者の自分という立場、女子ばかりのクラス、そして、僕から放たれる一人にしてくれオーラが悪いのだろうか。

 

すでに隣の席には末原さんが来ていた。

 

「おはようございます」

 

「うん?あぁ、おはよう。敬語じゃなくてもええよ?同級生なんやから」

 

「そうですね」

 

「ふふっ、直らないね」

 

「そ、そうだね」

 

「ん、面白い人」

 

末原さんに二回笑われ席につく。

 

斜め前の洋榎はまだ来ていない。

 

特にやることがないことに気づく。

早く来すぎた、と頭に浮かぶ。

友達がいないのは、それはそれで大変だ。

読書を趣味にしようか、末原さんを見ると勉強している。

 

僕も明日の一年生の復習テストの勉強をするか、と思ったが体は動かず。

 

こうして少し早く来て、先生が来るのを待つ。

これを二年間繰り返す。

そうして僕の高校生活は終わるのだろう。

 

なんて無駄なことを考えつつ、チャイムを待つ。

 

「おはようさん」

 

後の扉から入ってきた、この特徴的な挨拶。

そっと目線をそちらに向ける。

 

案の定愛宕洋榎、その人だった。

 

席に着き、すぐに寝る。

 

僕もあれを見習うかな。

 

 

 

初授業はつつがなく終わった。

今日は午前の授業で終わり。

 

昨日と同じように何も変わらない一日。

教科書を詰め、帰る支度をする。

 

「えー、でわ。一場くんに学校案内してくれる人、私の独断で選ぶ」

 

え?

 

「じゃあ、末原。頼む」

 

「わ、私ですか?まぁいいですけど。じゃあ、ついでに愛宕さんもお願いします」

 

「裏切ったな、恭子!?よし、かかってこい!!」

 

「何がよ……。先生いいですか?」

 

「おう、じゃあ麻雀部繋がりで真瀬も連れてけ」

 

「へ?」

 

 

先生のありがたいお助け、いや、彼女たちからしたら悪乗りで僕の学校案内係に任命された。

 

「で、あんたはどこがわからへんね」

 

「洋榎ちゃん、言葉きついよー」

 

「そうよ、もうちょっと言い方ってもんが」

 

「うっ。すまん」

 

洋榎はグラウンドで二人きりの時は自然に話せてた思うのに、なんでだろうか?

他の人がいると急にそっけないというか、なんというか……。

 

「まずは簡単に説明すると、この校舎は四階建て、四階が一年、三階が二年、二階が三年、一階が職員室や保健室があります」

 

以前居た学校が三階建てだったが、配置は変わらない。

 

「今いる校舎が南校舎、または本校舎と言う。で、あっちが北校舎、調理室、実験室とか文化系の部室、麻雀部もあそこにあります」

 

「もう一つ、旧校舎があるんだけど……。そこでは昔、肝試しように生徒内で秘密裏に使われてます。まぁ、あくまで昔の話です」

 

へー。この学校って旧校舎があるのか。

で、あっちが部室棟と言えばいいのかな?

 

「じゃあ、説明も終わったところで」

 

「解散!!」

 

「待て」

 

洋榎が末原さんに襟元を捕まれ、変な声を出す。

 

「なにすんねん!!早く部活行こうや!!」

 

「先に案内でしょ。まぁ、本校舎はいいとして、北校舎に行こう」

 

「はいですー」

 

真瀬さんは笑顔だな。

あまり嫌そうじゃない、がこっちは……。

すごく苛ついてらっしゃる。

 

 

「あ、ここが麻雀部です」

 

「へー」

 

「じゃあ、ここで失礼」

 

「待て」

 

洋榎が再び変な声を出す。

苦しそうだ。

 

「ちょっと、外に出て、旧校舎の場所だけ見る?」

 

「あ、じゃあ、お願いします」

 

僕たちは本校舎に戻り、靴に履き替え、北校舎の裏へと行く。

その途中にグラウンドを紹介された。

そして、旧校舎へ。

中庭のような場所を通り、木造建ての建物の前に来た。

 

たしかに日の当たりが悪く、かなり雰囲気は出ていると思う。

過去の先輩たちはここで肝試しをしていたのか、あまりやりたくないな。

 

「ここで、肝試しを?」

 

「まぁ、そうなんやけど、去年もやってないし、今年もやらないんじゃないかな?ここでは」

 

「ここでは?」

 

「そう、林間学校ではやると思うよ。特に今年は君が来たからね。いい男が来たって、女子がはしゃいでたよ?誰が君とペア組むんやろうね?」

 

そんな事を本人に言われても困る。

どう答えればいいのかわからない。

 

真瀬さんは頷いている。

 

洋榎を横目で見ると、さっきまでのイライラしていた雰囲気がなくなり、ただただ無表情で立っていた。

何を考えているんだろうか?

再会してから、ひたすら突き放され、僕もどういう態度をとったらいいのか測りかねている。

 

「男とくめー男とー」

 

洋榎があんな態度をとる、その反対に末原さんが優しすぎる。

なんで僕みたいな人間に、こんなに優しくしてくれるのだろうか。

 

彼女はお人好しという人種か。

 

僕は彼女にどう接すればいいのか。

 

「えーと、末原さん」

 

「あと、普通に恭子でいいよ。恥ずかしかったら末原でもいいけど、そのさん付けやめて。なんかむず痒い」

 

「え、えーと。末原……さん」

 

「道のりは長いね」

 

「つまらなそうな顔だねー、洋榎ちゃん」

 

「そんなことない。由子にはそう見えるだけや」

 

「そうかなー」

 

「もうええやろ、そこのカップル。案内終わり。おつかれさん」

 

洋榎は手をはたはたと振りながら、帰っていく。

恐らく部室へいくのだろう。

 

だが、そんな爆弾発言残して帰るなよ。

そんな発言すると……。

 

末原さんの方を見ると、顔を真赤にして、プルプルと震え、黙って俯いている。

真瀬さんはニコニコしながら、そんな様子を見ている。

 

僕は、どう対処すればいいのか、困る。

 

とりあえず。

 

「ここまでありがとう」

 

お礼を言う。

 

明日から顔合わせづらいな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。