恋より   作:わか

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2話

「一場くん、これ部活動一覧のプリント」

 

門崎先生がプリントを渡してくる。

ざっと目を通すが僕が気になる部活はない。

 

「前の高校では……えーと、陸上部?に入ってたんだよな?ここでもどう?なんでも、すごかったって聞いたんだけど……」

 

「いえ、陸上はやめたんで。失礼します」

 

先生に頭を下げ、帰り支度をする。

 

「うーん。でも、ちょっとだけでも見ていかないか?」

 

「すみません」

 

深く頭を下げ、教室から出て行く。

 

陸上部……。

近い高校ということでこっちを選んだけど、失敗だったか。

でも、どこの高校に行こうにも、絶対に陸上部はあるだろう。

無関心だ。

陸上はもう忘れた。

走り方も覚えていない。

 

もう、僕は走れないだろう。

 

でも、なぜか、なぜか、声に惹かれるように。

僕は、グラウンドへと足を向ける。

 

 

アップ中だろうか?

陸上部の人たちがグラウンドをゆっくりと走っている。

まとまって走っているわけではなく、個々で準備運動という名のアップをしている。

 

綺麗なフォームだ。

そう思う。

 

終わったのか、それぞれの個々の競技の準備に入る。

気づけば、僕は階段のところで座っていた。

 

短距離、中距離、長距離、その他の陸上競技。

結構部員数がいる。

 

短距離の選手がセットに入る。

 

そして、パンッと。

 

なった瞬間、4人の選手が走る。

風を切り、ただ己の身体を前と、前と進める。

いつしか、周りの音も、自分の呼吸さえも聞こえなくなるであろう。

 

気づけばゴールしていた。

 

あぁ、選手と自分を重ねていた。

自分の心臓がドクンドクンと鳴っている。

 

もう一度、自分もあのグラウンドで。

そう一瞬思うが、すぐにその思いを忘れる、忘れようとする。

 

僕に、あそこに立つ資格はない。

別に誰に強制されたわけではない。

 

でも──。

 

「なんや、そんな陸上部見て。入りたいんか?」

 

頭上から声をかけられる。

 

その独特な訛り。

僕の知る限り、一人しかいない。

 

「洋榎か……」

 

「なんや、その残念そうな顔は。恭子に来て欲しかったか?残念ながら、先輩と卓に着いとる」

 

「自分はやらなくていいのか?」

 

「休憩中」

 

「そうか」

 

洋榎は僕の隣に腰を下ろす。

 

「まだ、休憩中か?」

 

「もうちょっとや」

 

「そうか」

 

一瞬間が開く。

 

「で、陸上部に入りたいんか?」

 

いや、とすぐに否定の言葉が浮かんだが、口が動かない。

 

「無視か?まぁ、答えたくないんやったらええけどな」

 

「いや」

 

今度はすぐに否定の言葉出てくる。

 

「陸上部に入るつもりはないよ。ただ、頑張ってるなって思って見てただけ」

 

「当たり前や。どの部活も、うちらも一生懸命にやってる。なんやったら、今から部室来るか?歓迎するで?」

 

「誘ってくれて嬉しいが、遠慮するよ。麻雀のルール知らないんだ」

 

「そんなん、一週間もあれば、完璧マスターオッケーや!!」

 

「なんだそれ。じゃあ、帰るよ」

 

「そうか。またな。おつかれさん」

 

洋榎は立ち上がり、スカートをはたくと僕に背を向け棟の中に入っていく。

 

「洋榎。ありがとう」

 

ピクッと、一瞬反応し、手を掲げ、後ろ向きに振るう。

クールなやつだな。

 

もう一度、グラウンドを見る。

汗をかきながら、ただひたすら走り、時々談笑し、もう一度身体を痛めつけ、鍛えている。

それを繰り返しているさまを見続ける。

 

もういいだろう。

そう自分に言い聞かせ、帰路に着く。

 

 

──絹恵side

 

 

「あ、おねえちゃん。どこいってたの?トイレにしては長かったような?」

 

「絹。女性にそんな事聞くのはあかんで、デリカシーつうもんがな」

 

「私も女性なんだけど……。なんか窓の外ずっと見てたけど?」

 

「あぁ、実はな。おったんや」

 

「な、何が?」

 

「恭子の霊体が!!」

 

「勝手に殺すな」

 

「いた」

 

後ろから、末原先輩に叩かれるおねえちゃん。

 

「いいから、入って。先輩たちの相手、頼むわよ。私、トイレ行くから」

 

「任せとき、恭子の無念を晴らすために、やるでーやるでー」

 

「無念って……。まぁ、いいわ。頑張ってね」

 

おねえちゃんが先輩たちの卓に着く。

 

「うーん。何を見てたんやろう?」

 

おねえちゃんが見ていた窓の景色を見てみる。

 

グラウンドが見える。

それだけ。

うーん。

 

はっ!?

 

まさか、おねえちゃんの好きな人がグラウンドのどこかに!?

でも、陸上部しか……。

 

はっ!?

 

まさか、好きな人が走っているのを見て、それが見たくなった!?

おねえちゃんって案外乙女なんだなー。

 

「愛宕妹?やらない?」

 

「は、はい!!」

 

なんで、まだ正式な部員でもないのに、私は麻雀部にいるのか、疑問はつきへん。

仮入部は来週からやったはずなんやけど……。

 


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