恋より   作:わか

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1話

今日から学校。

憂鬱だ。

 

僕が一年の時から通っていたなら別だ。

しかし、今日が初登校。

転入初日だ。

 

食事を終え、ばあちゃんたちに行ってきますを言い、家を出る。

 

自転車に乗り、一〇分の道のりを行く。

 

気合を入れて、髪を切ったので髪はあまりなびかない。

でも、春風が顔に当たり、気分がいい。

風が桜の花びらを届かせる、気分がいい。

川の流れる音が気持ちいい、気分がいい。

 

とか独り言を呟きながら走っていると、学校につく。

 

女子比率がかなり高いこの姫松高校。

なんだかすごく緊張してきた。

 

事前に調べた自転車置場に自転車を置き。

人の流れに乗る。

 

まずは職員室を目指す。

前の高校とは違う匂いに、ようやく自分が違う学校へ通うんだと認識してきた。

 

職員室に入ると、先生たちが忙しそうにしているのが目に入る。

 

えーっと、誰に声を掛ければいいんだ?

早く来すぎたか?

右からゆっくりと見回すと一人の女性教諭と目が合う。

あぁ、あの女性は編入手続き時にいた。

女性教諭は、僕の方へとやってくる。

 

「お、一場くん。おはよう、早いね。まだ時間あるから……。どこで待ってて貰おうかな……。じゃあ、私の椅子に座って待っててもらおうかな」

 

かなり男勝りな性格なのだろうと、この短い言葉に詰まっている気がする。

 

「え、はい。わかりました。えーと、門崎先生?」

 

「お!覚えててくれたんだね。よろしく。じゃあ、こっちに来て」

 

門崎先生の後に着いて行く。

先生の席に座る。

男勝りの性格とは違いデスクはかなり片付けられている。

周りの先生の机を見ると、プリントや書類が乱雑に置かれている。

もう一度、先生の机を見る。

 

「綺麗だ」

 

そんな言葉が自然と出てくる。

 

「一場くん。これクラスメイトの名前の一覧表、この空席が君の席だ。まぁ、周りの子の名前だけ覚えていたら困らないだろう。じゃあ、ちょっと席外すから」

 

そう一方的に言うと、職員室から出て行く。

嵐のような女性だ。

 

クラスメイト表を確認する。

僕の隣は、末原さんと田山さん。

 

少し視線をずらすとその名前が入ってくる。

 

「愛宕」

 

「失礼しまーす」

 

扉の方に目を向ける。

 

「え?」

 

「ん?」

 

僕たちの間に沈黙が流れる。

 

「か……一場」

 

「えーと、愛宕……さん」

 

昨日は下の名前で呼び合ってたのに、同じ学校で、偶然会ってしまった途端、なんだか、他人行儀になってしまった。

というより、向こうが先に苗字で呼んできたから、つい自分も上の名前で呼んでしまった。

 

洋榎は僕に頭を下げ、門崎先生の元へ行く。

何か話をして、職員室を出て行く。

 

愛宕さんがこの学年に二人いるとは思えないし、やはり愛宕洋榎なのか?

まさか洋榎と同じクラスになるなんて思いもしなかった。

 

 

 

「準備はいいか?」

 

門崎先生が教室の前で僕に聞く。

ここからは戦地だとでも言いたげな、いや、僕から見たらその通りだ。

転入なんて初めてだし、小学生の頃眠たげに見ていた転校生の小学生の子と今同じ立場になるなんて……。

これほど緊張するもなのか、緊張で身体が熱くなってくる。

 

「緊張してるな、少年。まぁ、すぐ終わる。そう気張るな」

 

「はい、大丈夫です」

 

教室の中から生徒の声が聞こえてくる。

 

さぁ、今日から僕の第二の人生が始まる。

 

先に門崎先生が中に入る。

 

僕もその後に続く。

 

入った瞬間、空気が変わるのがわかる。

さっきまで雑談に花を咲かせていた生徒たちが静かになる。

 

僕の目の前に広がったのは、ほぼ女子。

 

圧倒される。

 

視線が痛い。やめて。

 

弱音を吐きたくなる。

 

先生が自己紹介のフリをくれる。

 

「えーと、一場駆です。よろしくお願いします」

 

頭を下げ、自己紹介を終える。

 

クラス中から拍手を貰い、なんとか終えることができたんだと安心する。

 

「じゃあ、一番うしろのあそこの席に座ってくれ」

 

「はい」

 

僕は言われた席。

窓側から二番目の席に座る。

 

その左側、窓側に座っていたのは、昨日洋榎といた、恭子と呼ばれていた人だ。

さっき空き時間にクラスの名簿を確認した。

そして、洋榎も。

 

洋榎は右斜め前の席に座っていた。

 

「ねぇ、君。昨日洋榎を呼び捨てにしてた人だよね?」

 

「え?いや、あれは事故というか……」

 

洋榎の方を見ると、ただ正面を見据えたまま動かない。

朝を思い出す。

 

あぁ、そういことか。

面識があるって思わせたくないんだな。

そりゃあそうだよな。

何かうわさ話とかになるの嫌だろうし。

 

「ちょっと子供の頃遊んでただけだよ。そんな何かあるわけじゃないんだ」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

末原さんはあまり納得していない雰囲気だ。

そりゃああんな再会劇を繰り広げたら、何かあるって思われるよな。

 

先生が一学期の予定を言っていく。

大きなイベントは林間学校くらいか。

これは仲良くなるためのイベントみたいなものだ。

でも、ここは元女子高というだけあり、圧倒的に男子比率が少なすぎる。

正直友達なんて出来る自信がないし、必要とは思わない。

ただ、静かに暮らせればいいんだ。

 

今日は始業式とこの二時間目の連絡事項などの授業と言っていいのかわからないもの。

暫く連絡事項が続き、林間学校の班決めに移る。

 

「えー先生。みんなのためにくじ引き作ってきました。八種類の文字が書いてあるので、ここは四十人クラス、一班五人となります。はい、というわけで出席番号順に取りに来て下さい」

 

「じゃあ、愛宕から」

 

「はい」

 

洋榎が前に行き、くじを引く。

 

「ん?よっしゃ!!王者や!!ってなんやねん、王者って!!先生どんな文字書いてんねん!!」

 

「えー、好きな文字を適当に」

 

クラス中から笑い声が上がる。

洋榎ってムードメーカーなのか?

いや、あれは地ぽかったな……。

 

「次、一場くん」

 

「はい」

 

どこでもいいけど、まぁ、気楽にやれそうなところでお願いします。

心の中でそう祈るが、自分が二番目でまだ班が作られてない事に気づく。

気を取り直し、引く。

 

「……えーと。王者です」

 

「な!?」

 

「どうした、愛宕?」

 

先生が驚いている洋榎に聞く。

 

「いや、なんでもないです」

 

洋榎はなんのことやらといった風に、何事も無く席に戻っていく。

 

その後もくじ引きは続き、僕の班は……。

 

「一場くん、一緒やね」

 

末原さん。

 

「よろしくね」

 

右隣りの田山さん。

 

「よろしくね、みんなー」

 

同じクラスの真瀬さん。

 

そして。

 

「班長は、恭子な」

 

「え!?」

 

洋榎の五人。

 

「私もいいと思うなー」

 

真瀬さんがそう言う。

 

これは班長決定かな。

 

 

 

「じゃあ、顔合わせも住んだことだし。後五分あるな。じゃあ、自由。寝るのも読書するのも自由。ただし、静かに、な?」

 

クラス中騒ぎ始める。

 

まぁ、こうなるよね。

だって、女の子だもんね。

 

そのすぐに、先生がキレる。

まぁ、あの男勝りな性格ならそうなるよな。

でも、生徒たちはは笑っている。

あぁ、この先生はそういうキャラなのか。

愛されているな。

 

叱られた生徒たちは、静かに読者や、勉強、睡眠に興じる。

平和なクラスだ。

 

 

「恭子、部室行くで」

 

「うん」

 

部室?洋榎が末原さんに、そんな事を言う。

 

部室というよ部活だよな?もしかして……。

 

「麻雀、部?」

 

「一場くん、よくわかったね。そうだよ、麻雀部」

 

末原さんがご名答といったふうに、拍手をくれる。

だが、簡単だ。種明かしをする。

 

「あぁ、その愛宕さん小さい頃からやってたからね」

 

「あぁ、なんだ」

 

がっかりとした様子。

 

「昔話はもうええやろ。行くで。由子も行くで」

 

「うん」

 

由子……?変わった髪型をした女の子だ。

彼女も麻雀部なのか。

 

「え?ちょっと待ってよ。じゃあね、一場くん」

 

それにしても、なんでこんな嫌われてるんだろう?

僕、何したんだ?

 

 

──洋榎side

 

「洋榎?そんな冷たい態度とらんでも」

 

「そんなつもりはない……んやけど。今更恥ずかしいやんか。幼なじみがどうとか。あれでええねん。絹恵迎えに行くで」

 

洋榎は今更どう接すればいいのか悩んでいた。

これで、仲良くして噂にでもなれば、特待生としても立場が悪い。

 

『大きくなったら──』

 

一瞬、一瞬だけ、子供の頃の洋榎の声が聞こえてくる。

だけど、洋榎はその声を押しとどめる。

それ以上言ってはいけない。

 

洋榎はインハイの頂点に立つためにこの高校にやってきたのだ。

 

だから、洋榎に過去の約束などいらないのだ。


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