恋より   作:わか

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最終話

テレビがここ一週間の予報を伝える。

雨、雨、雨……。

うんざりする傘マークの連続。

梅雨に入ったんだと実感する。

一年に一回しかない、と言えば聞こえはいいが、登校するには不便極まりない。

今は自転車に乗らず、歩きで登校している。

 

家を出ると、パラパラと降っている雨。

 

「はぁ……」

 

一つため息をして、今日も雨の中、学校へと行く。

 

 

教室へ着く。

しかし、目にいいのか、悪いのかわからないが、女子生徒の多いこのクラス。

雨に濡れた靴下を脱いで、脚を椅子に乗せ「うわ~結構濡れてる」なんて会話している。

なんか、もう心臓に悪いから。つい目が見えそうで見えないところに吸い込まれそうになるから。

 

「おい、そこの変態」

 

誰だよ変態って。僕じゃないぞ。

 

「僕じゃないぞと思ってそうなそこの君や」

 

「心を読むな!!」

 

「よ!おはよう」

 

洋榎は挨拶すると席に着く。

 

「びしょびしょや、気持ち悪い」

 

洋榎はわざとなのか、こっちに向きながら、脚を上げると靴下を脱ぎ始める。

 

緑か……。

 

いやいやいやいや!!!!

見えてる!!見えてるって!!

どうするんだ、これ。

言えばいいのか?僕は彼女にパンツ見えてるって言えばいいのか!?

 

洋榎は気づいてるのか、気づいていないのか、鞄から新しい靴下を取り出すとそれに履き替えようする。

その時、再び脚を上げる。

 

緑だな。

 

だから!!そうじゃなくて!!

 

「洋榎。見えてるよ」

 

「ん?」

 

横で予習していた恭子が洋榎に告げる。

洋榎はゆっくりと下を見ると、慌ててスカートを押さえる。

そして、俯いたまま、ぽつりと呟く。

 

「見た?」

 

「見てない」

 

「見てるやないか!!!!」

 

相手が主語(パンツ)を言ってないのに、反応したため思いっきりバレてしまった。

 

「もう、お嫁に行けへん」

 

「そうか」

 

「「…………」」

 

ここは、もしかして、僕が貰うから心配するなって言うところか?

いや、待て。そもそも僕は洋榎が好きなのか?

まずそこから問題を解決しなければ、ここは打開できない。

 

言っていいのか?ちゃんと責任取れるのか?

 

「そんなマジに考えやんでも。なんか、うちが恥ずくなってきた」

 

洋榎にそんな事を言われ、僕はただ机に伏せるだけだった。

 

災難の日だ。

 

 

今日は、調理実習ということで。

早速、僕達一班、番号順、一から五番のメンバーが料理にかかる。

そのメンバーには洋榎もいて。

 

女子たちが淡々と料理していく中、僕は何をすればいいのかと置いてかれていた。

 

「一場くんは何もしなくてもいいよ」

 

「あ、はい」

 

僕は厄介者みたいで。まぁ、邪魔だよな。

でも、なんで。

 

「洋榎は何もやらないんだ?」

 

「まぁ、うちは最終兵器やし?みんながピンチの時に駆けつけるっていうか?」

 

「要するに料理ができないということか?」

 

吹けてない口笛で誤魔化す。

 

「そういう自分もできないんやろ?」

 

「……。あのー僕キャベツの千切りします」

 

僕は洋榎を置いて料理に参加する。

後方で裏切ったな、なんて声を荒らげているが、ほっとく。

 

そして、できた料理は、美味しかった。

キャベツは、ちょっと千切りと言い辛い。

 

「キャベツでけぇ」

 

「悪かったな」

 

洋榎がこう言うということはみんなも同じ事を思っているんだろうな。

とりあえず、謝っておこう。

 

「ごめんなさい」

 

 

放課後、僕は図書室に行った。

 

そして、気づけば、もう下校の放送がかかる。

そんなに長いこといたんだろうか?

僕は時計を確認する。

 

「もう締めますよ?」

 

司書にそう言われ、僕は部屋を出る。

窓の外を見れば、雨が降っている。それも結構な勢いで。

 

「帰るのだるいな」

 

昇降口に行く。

外はさっきより大雨で。

 

「なんや、駆も今帰りか?」

 

「洋榎か」

 

洋榎が後ろからやって来る。

洋榎は一人だけだった。

 

「他のみんなは?」

 

「先帰ったで。うち鍵当番やねん」

 

「絹恵ちゃんも?」

 

「先帰らせたわ。あの時はまだましやったし。これ、今急に大雨になったんやな」

 

「そうみたいだね」

 

僕たちは、雨が降りしきる外を眺めながら、肩を並べる。

僕たちの声以外、すべての雑音が消えていく。

なんだろうか、雨で温度は下がっているはずなのに、体は熱くて……。

 

「な、なんか暑いな」

 

「そうだな、なんでやろうな」

 

その理由はお互いわかっているはずなのに、誤魔化して。

これは緊張しているんだろう。

思えば、僕達が二人きりになったのは再会したあの日以来じゃないか?

いつも誰かがいた。

 

でも、今は……。

 

「帰るか」

 

僕の問いに、こくりと頷く洋榎。

 

僕たちは肩を並べ、帰る。

傘に大粒の雨が当たる。

 

無言で歩く、僕たち。

前方に大きな水たまりがある。

一列になり、僕が先に行く。

その時、後ろからトラックが駆けていく。

大きな水たまりは容赦なく、跳ね、僕はずぶ濡れになる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

洋榎が慌てて、ハンカチを取り出し、僕の体を拭く。

 

「あ、あぁ。大丈夫。ちょっと濡れただけ」

 

「ちょっとどころやないで!?」

 

洋榎はいくらやっても水分が取れない服は諦めたのか、僕の顔を優しく拭いてくれる。

 

「いや、ほんと、大丈夫だから」

 

「うちに来い。乾かそ」

 

「へ?」

 

 

子供の頃以来の愛宕家。

僕は緊張した体を動かし、家の中に入る。

 

「おかえり、おねえちゃん……?あれ?一場先輩?」

 

「どうも、絹恵ちゃん」

 

「絹。お風呂沸かして」

 

「わ、わかった」

 

洋榎は脱衣場らしき場所に行き、タオルを取ってきてくれる。

渡されたタオルで体を拭く。

 

「ほら、中入り。うちのジャージ貸すわ」

 

「え?」

 

 

もちろんジャージは入るわけなく、今僕はタオルに包まれ、洋榎の部屋にいる。

タオルの下は裸で、何か今からイケナイ事をするんじゃないか、と思ってしまう。

 

洋榎は僕の服を乾かしに行った。

中々戻ってこない。

 

「遅くなった。風呂沸いたで。早く入り」

 

「うん」

 

 

「人様のお風呂にいるというのがなんだか変な気分だ」

 

僕は肩までゆっくり浸かる。

いいんだろうか?こんなゆっくりして。

早く出て、半乾きでもいいから服を来て帰った方がいいのでは?

 

そして、僕は今気づく。

そういえば、ジャージ持ってたなー自分の。

 

お風呂出たら早々に退散しよう。

 

僕は、バスルームから出る。

 

「ん?」

 

「あ」

 

僕は、洋榎と、目が合う。

 

「「うわああああああああ」」

 

洋榎は「ごめんなさい」と言って、脱衣場から出て行く。

どうやら乾かした服を取り出そうとしていたみたいだ。

 

「これ、アイロンかけなきゃな」

 

僕は現実逃避するように、持ってきていた鞄からジャージを取り出し、着替える。

 

 

帰るため、洋榎に挨拶をしに行く。

居間に行ったら、絹恵ちゃんが部屋にいると思うと言ったので、僕は部屋へと出向く。

 

「洋榎いる?」

 

何回かノックすると、ガチャと開く。

 

「そのごめん。さっきは」

 

「う、うん。うちも悪かったしな」

 

「……。見た?」

 

「見てへん!!?」

 

見たんだな。

僕はそう確信し、顔が熱くなる。

はぁ……。やってしまった。

まさか、こんな漫画のような展開になるとは……。

見られたキャラの気持ちがよくわかる。

 

「その……。実はジャージがあったんだ。忘れてた。だから、もう帰るよ。お風呂ありがとう」

 

それだけ言うと、部屋を出ようとする。

そんな僕に「待って」と言い、立ち上がる。

 

そして、そこからはスローモーションだった。

洋榎が立ち上がり、机に足をとられ、躓き、そのまま僕に倒れこむ。

洋榎を受けるのが精一杯で、僕もそのまま倒れこむ。

 

そして、目を開けたら、目の前に洋榎の顔があって。

お互いの体は密着し、洋榎のそれなりにある胸が当たっていて。

 

柔らかくて、温かい。

 

そう思ったら、心臓が早くなるのがわかり、この密着度から、僕の心臓音が聞こえてるんじゃないか?と考えてしまう。

そして、気のせいか?洋榎の心臓音も聞こえてくる気がする。

 

洋榎の吐息が鼻に当たる。

洋榎の目はまっすぐに僕の目を見ていて、でも、顔は赤くて。

 

「ごめん」

 

そう小声で呟く洋榎。

 

「うん」

 

僕もそれだけ絞りだす。

でも、洋榎は中々退く気配がなく。

 

思考がどんどん低下していく中、僕の中に浮かぶの一つ。

僕は洋榎を好きなんだろうか?

 

「なぁ、洋榎?」

 

「うん?」

 

「昔の約束覚えてるか?」

 

昔の約束──。

それは、所詮子供の約束であり、いわばおままごとの延長だ。

でも、今聞いておかないとダメな気がするんだ。

 

「結婚の約束の事か?覚えてるよ、と言うても君と再会してから思い出したことやけど」

 

「僕も最近思い出したから」

 

そうか、でも覚えててくれたんだ。

すごくうれしくて、だから聞かなくちゃ。

 

「洋榎。ぶっ飛んだ質問していい?」

 

「なんや?」

 

洋榎の鼓動が、体温が伝わってくる。

すごく緊張しているんだ。じゃあ、これから何を言うか、期待してるのか。

薄々気づいているのかもしれない。

 

僕はさっきまでの思考停止状態と違い、今は冴えていて。

 

「結婚しよう」

 

洋榎はわかっていたのに、動揺している感じで。

 

「付き合う段階は無視か?」

 

「それもそうだな。じゃあ、付き合って欲しい」

 

洋榎は真正面に僕を見据え。

 

「無理や」

 

そして、僕は振られた。

 

「理由、聞いてもいいか?」

 

「恋より、インハイの方が大事」

 

それだけ、と最後に付け足す。

そうか、恋よりインハイをとったか。

だから、僕は提案するんだ。

 

「じゃあ、インハイ終わったら、付き合ってくれ」

 

「いや、それは……。来年もあるし……」

 

「じゃあ、その直前になったら一旦別れよう。だから」

 

「そんな強引に来られても!!……。はぁ……。でも、こうなったら男はしょうがないよな」

 

洋榎は何か諦めたように、でも、嬉しそうに、僕の上に被さる。

 

「好きって言って」

 

さっきまでの刺々しさが一転、甘えてくる。

 

「好きだ」

 

「もっと」

 

もっと、と甘えてくる洋榎の顔は見えない。

その顔は今は僕の耳元にある。

ぎょっと抱きしめてくる洋榎。

だから、僕は洋榎の背に手を回し、強く抱きしめながら言う。

 

「大好きだ」

 

「うん」

 

ぽつりと呟く。

洋榎がどうしても可愛くて、もっと洋榎の事を愛したいと思ってしまった。

 

「じゃあ、証をくれないか?」

 

「証?」

 

「インハイが終わったら、付き合えるっていう証拠」

 

洋榎は僕のジャージをぎゅっと強く握りしめ。

何かの覚悟を決める。

 

「ええよ。うちの処女あげる」

 

いや、待て。

僕はキスが欲しいと思っただけで、そこまで飛躍した意味ではなかった。

慌てて訂正を入れる。

 

「いや、僕はキスだけのつもりだったんだ!!」

 

「キスだけじゃ、収まらんやろ?」

 

耳元で囁く洋榎に、僕の理性が持つわけもなく。

だから、その前に誓いを立てる。

 

「絶対に離さないから」

 

「当たり前や。ずっと後追いかける。離さへん」

 

そうして、僕達の幸せが始まる。





ここまで読んでくださった方、お気に入りに入れてくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました!
この物語はここで一旦終わりです。
この後のイチャイチャを書くかは未定です。
書くなら、ここでafterとして書くか、R-18で書くかのどちらかです。

ここで終わる理由ですが。
本当は恭子たちの修羅場や色々と展開を予定していましたが、そこまで行くのにモチベが保てない可能性。
一つの作品を完結させてから次作へ行きたい。
まぁ、作者の事なんてどうでもいいですよね。すみません。


長くなりましたが、無事完結出来ました。

ありがとうございました!!

この後主人公の過去が一話あります。
オリ主の過去なので興味無い方は読まなくても大丈夫です。
でも、最後の終わり方とあらすじを見ると少しおもしろい終わり方になっています。


では、ここらへんで。
永水女子で一つアイデアがありますが、これはどうするか未定。
つまり次作は未定です。

すみません。なんかすごい長くなりました。
ここで本当に終わります。

では、またどこかで!!

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