恋より   作:わか

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8話

ゴールデンウィークがやってきた。

四月、色々あったがなんとか乗り切った。

疲れた体を癒すには絶好の休養日だ。

 

洋榎たちは、最後の日しか休みがなく。それまで合宿だと言っていた。

 

そして、その最終日に僕たちは遊ぶことになった。

 

 

「なぁ、ゴールデンの最終日暇か?」

 

昼休み。

いつものメンバーで食事をしている時、洋榎が僕に聞く。

 

「ゴールデン?」

 

「ゴールデンウィークのことじゃない?」

 

あぁ、ゴールデンと言われ、何のことかと思ったら、ゴールデンウィークの事か。

冷静に考えると、明日からゴールデンウィークだ。

連休と聞くと、それだけで心が軽くなる。

 

「あぁ、別に予定はないけど」

 

「じゃあ、遊びに行こう!!」

 

僕の答えに嬉々として、有無を言わせず、予定が埋まった。

そして、未だ答えない僕に、下から上目遣いで見てくる洋榎に、一瞬心がぶれるのがわかる。

 

「いいよ、遊ぼう」

 

思わず、洋榎に可愛いと言いたくなるのを抑え、それだけを絞り出す。

 

「恭子、由子、絹、うち。そして、君。この五人で行こう」

 

「わかった。でどこに行くんだ?」

 

「そんなん、男が決めるもんやんか」

 

洋榎の当たり前だろ、という顔で僕を見てくる。

そんな馬鹿な話はなく、僕が提案したならともかく、誘われて、僕が決めるというのはなんだかおかしい気がする。

 

「僕が決めるのか?」

 

「なぁ、恭子」

 

僕の表情に何を思ったのか、恭子に同意を求める。

 

「え、私にふらんといて」

 

「な、由子?」

 

「のよー」

 

「…………。というわけで、頼んだ」

 

色々言いたいことがあるが、とりあえず、これはすべて僕に丸投げされたと認識していいんだろうか?

こんな重大案件、任せられても困る。

これで、僕が選んだところが不評なら、一生癒えない傷、もといトラウマとして、僕は女性をデートに誘えなくなるだろう。

 

「なぁ、やっぱり洋榎が決めてくれないか?」

 

「よし、食べ終えた。お先~」

 

「…………。なぁ、恭子?」

 

「ごちそうさまでした」

 

「…………。真瀬さん?」

 

「またねー」

 

…………。

どうなっても知らないぞ

 

 

「はぁ……。どこがいいんだ」

 

女の子の好きそうな場所ってどこだろうか?

食べる場所が多いところとか?

うーん、なんか食べるというイメージでもないし。

祭りとかあればいいんだけど、こんな時期にはないよな。

 

「動物園……とか、いいんじゃないか?」

 

いや、動物園と来たら水族館も捨てがたい。

 

「はぁ……。さっきからため息ばっかだ。どっちがいいんだ?」

 

「そういえば、みんなのケータイ番号とか知らないな……」

 

出会って、もうすぐ一月になろうとするのに、まだ知らないなんて、我ながら馬鹿だ。

普通、真っ先に聞くものではないか?

でも、あの時は友達とか作る気はなかったし、仕方ないのかもしれない。

 

「待ち合わせ場所は、一〇時に駅。それだけだったな」

 

洋榎の事だ。着いてからのお楽しみ、なんて思っているんだろう。

 

雑誌を眺めて目に入ったのは『デートならココ!!今ココが熱い!!』。

 

「デート……。じゃないよな」

 

変な意識させないでくれ、あくまで友達同士の遊びに行くという範疇だ

決してデートなんかではない。

 

でも、悲しいかな。

一瞬でも意識すると、彼女たちの顔が一人一人思い浮かぶ。

 

「洋榎、変わってなかったな」

 

久しぶりに再会した少女は、立派な女性へと成長していた、か。

桜が舞い散るなか、太陽の光を浴びて輝く川に反射され、輝いていた少女が洋榎。

しかも、その少女は昔、遊んでいた幼なじみで……。

 

あまり、こんな言葉は使いたくないというより、なんだかむず痒くなるが、これは……。

 

「運命」

 

思わず口に出し、顔が熱くなる。

何、自爆してるんだ、僕は。

 

でも、これを運命と言わず、なんて言えばいいのかわからない。

他の言い方としたら、神様のいたずら、とか?

 

「はぁ……。やめだ」

 

僕は思考を停止し、少し早い眠りにつく。

 

「水族館でいいや。涼しそうだし」

 

春と梅雨の狭間を揺れる、この微妙な季節に、水族館の涼しさはちょうどいいだろう。

僕は、ゆっくりと闇に落ちていく。

 

 

「全中中距離で三位よ!!高校ではもっとすごい選手になるわ」

 

「しかも、あの子推薦蹴って、自分の学力で行きたい高校に行くなんて、本当すごい子になって……。すごく嬉しい。誇らしいわ」

 

 

僕は、ゆっくりと瞼を上げる。

夢だ。

あぁ、夢だ。

頭は冴えている。

 

体を起こす、そして、自分が震えている事に気づく。

 

夢だ。

夢だ、と思うのに、それは今でも鮮明に思い出せて。

 

「寒い」

 

 

九時三十分。

僕は家を出る。

 

洋榎の話では、昨日のうちに合宿から帰ってきてるはずだ。

だから、待ち合わせ場所に行って、誰も来ない。なんていう事態にはならないはずだ。

 

「行ってきます」

 

自転車に乗り、川沿いを行く。

 

木々は緑づき、夏の気配を感じるようになる。

ついさっきまで春だった気がするのに、もう夏の気配を感じるとは、時が流れるのは早いということか。

 

駅前に着き、自転車を自転車置場に止める。

 

「まだ、誰も来てないのか」

 

駅の待合室に入り、椅子に座る。

時計を見ると、五分しか経ってない。

 

「あのー」

 

今更になって、水族館から動物園に変更したくなってきた。

動物園は今の時期が一番適しているのではないだろうか?

 

「先輩?」

 

いや、一度決めたことだし、変えるのは良くないな。

 

「一場先輩?」

 

え?さっきから誰か呼んでるなーと思ったら、まさかの僕の名前が出る。

何かの間違いじゃないか?

でも、たしかに一場と言った。

僕は声のした方を振り向く。

 

そこには麦わら帽子を深くかぶった少女が立っていた。

そして、少女はゆっくり顔をあげる。

僕は思わず「あ」という声が漏れる。

この特徴的なおでこ。僕の事を知っている女の子。

この二つでピンとくる。

 

「えーと、上重さん?」

 

「はい、覚えててくれましたか」

 

上重さんは緊張してた面持ちから一転、笑顔になる。

 

「上重さんも誰かを待ってるの?」

 

「はい、先輩たちを」

 

先輩?部活動の先輩か?

 

「おーい、駆!漫!」

 

洋榎の声が聞こえる。僕は立ち上がり、待合室から出る。

こちらに向かって歩いてくる、洋榎、絹恵ちゃん、真瀬さん、恭子。

ただ、僕の聞き間違えでなければ、漫という言葉も聞こえた。

そして、僕の記憶が正しければ、上重さんの下の名前が漫だったような?

 

「よし、全員揃ってるな」

 

「洋榎?上重さんも来るのか?」

 

「うん」

 

いや、何言ったやん、っていう顔してるんだよ。

言われてないぞ。

いや、別に上重さんが嫌とかじゃなくて、って誰に弁明してるんだ。

 

僕が心の中で慌てていると、上重さんが不安そうに言ってくる。

 

「すみません!!おじゃまでしたか?」

 

「いやいや、そんなことないよ!!むしろ嬉しいよ。ただ、聞いてなかったから驚いていただけなんだ」

 

「そうですか」

 

良かったと、胸を撫で下ろす上重さん。

 

「で、どこいくん?」

 

発案者が行き先を知らないというのは斬新だな。なんて思いながら、僕は行き先を告げる。

 

「水族館だよ」

 

「八十点!!」

 

「え!?」

 

まさかの採点されるという行為に驚きながら、八十点って結構いいんじゃないか?と思ってしまうのは洋榎に毒されているせいなのか。

 

「じゃあ、決まったことやし、行こうか」

 

恭子がみんなを先導し、ホームに入っていく。

 

「そういえば、恭子は電車通学なのに、なんでここにいるんだ?」

 

「昨日、夕方に学校に着いて、そのまま洋榎の家に泊まったの。後、やっぱりこういうのってみんなで行ったほうが楽しいじゃない」

 

照れくさそうに笑う恭子。

真瀬さんも笑顔で頷いている。

 

「ま、そういうことや」

 

一人偉そうにしているが、こうまで楽しみにされたら、僕も気合を入れなくちゃな。

 

 

水族館に着いたのが、十一時。

 

「ここ、水族館内に食事するところがあるから、このまま入ろう」

 

僕はみんなの分の入場料を貰い、まとめて会計を済ます。

その際、学割があると言われ、あそこにいるのみんな高校生ですと言うのが恥ずかしかった。

それに「はい」と了承してくれる受付さんに感謝した。

それぞれにチケットを渡し、入場する。

 

入ってすぐに暗所だった。

そして、それぞれ水槽に入れられた、小さい海生物たち。

珍しい形をした魚たちに興味津々の彼女たちに、ここで正解だった、と自分に言う。

 

「なぁなぁ、駆も見てみぃ。おかしいよ、こいつら」

 

「一場先輩、あっちにエイが泳いでいますよ」

 

洋榎と上重さんに同時に言われる。

二人はお互いの顔を見ると、おかしそうに笑う。

 

「愛宕先輩のを先に見ましょう」

 

 

十二時になったので、内部に設置されている昼食エリアに行く。

そこは水槽に囲まれているレストランだった。

 

「すごいところだな」

 

「ほんまやな」

 

僕たちは店員さんに案内され、水槽を間近にできる席に着く。

 

「いい席に座れましたね」

 

絹恵ちゃんがメニューを見ながら呟く。

 

「うち、ラーメン」

 

「あ、じゃあ私も」

 

洋榎と恭子が注文を決める

 

「カレー」

 

「あ、真瀬先輩と同じものにします」

 

「私はおねえちゃんと同じラーメンで」

 

真瀬さんと上重さん、絹恵ちゃんが注文を決める。

僕はというと、ラーメンでいいかな、と思うのだが、このメニューを見ていると、どれも魚介、シーフードが頭についていて、少し色々考えてしまう。

水族館の魚たち大丈夫かなって。

 

店員さんに注文を頼み、待つだけとなった。

 

「なぁ、駆。なんで水族館にしたんや?」

 

洋榎が今日の行き先について尋ねてくる。

僕もなんでここを選んだのかと言えば、特に理由もなく。

動物園を思い浮かべたら、水族館も一緒に浮かんだ。

必死に考え、出した結論。

 

「特に理由はない」

 

うん、ないんだ。仕方がない。

 

「ちなみに他の候補先はどこやったん?」

 

今度は恭子が聞いてくる。

これもない。

いや、動物園があるか。

 

「動物園」

 

「あ、いいですね」

 

上重さんが呟く。

それにみんなが反応し、上重さんの方を見る。

見られた上重さんは縮こまる。

ごめん。

 

上重さんを助けるためか、同学年の絹恵ちゃんが話す。

 

「動物園にしなかった理由はなんですか?」

 

「そうやな、なんでや?そこに水族館を選んだ真意が隠されるんやないか?」

 

動物園にしなかった理由。

日々夏に向けて、暑くなってくる。

だから、先取りして涼しいところに行きたかった。

あ、たしかに洋榎の言う通り、これが僕が水族館を選んだ理由か。

 

「涼しいところに行きたかった」

 

悲しいかな。僕の口下手では、この気持を短い言葉に収められなかった。

でも、言いたいことは伝わっているだろう。

 

みんなの表所が「そんな理由~?」という表情をしている。

そもそもデート経験がない僕に何を期待していたんだ。

声を大にして言いたい。でも、これを言ったら恥ずかしいのは僕の方で。

それから僕は黙って食事を口にするだけだった。

 

 

くつろぎ過ぎたのか、もう一時を回っている。

まぁ、僕がくつろいでいたわけではなく、彼女たちがゆっくりしてただけだ。

僕はじっとジュースを飲みながら、一人静かにしていた。

 

午後一番でやる、イルカショーを見に行く。

もう座る席はなく。立っている人たちが見受けられる。

僕たちは階段を登り、一番上で鑑賞することにする。

 

様々な芸をしてくれるイルカに、みんなは大いに盛り上がる。

洋榎の「そこや!」「やっちまえ!」など意味の分からない応援もあったが無事終わった。

 

再び内部に入る。

最後の大目玉、螺旋階段。

円柱の水槽に螺旋上の少し下った坂をひたすら下っていく。

 

僕たちはゆっくり下っていく。

 

みんなが先行するなか洋榎が僕の隣に来る。

 

「ありがとうな」

 

「え?」

 

「こんな素敵な場所に連れてきてくれて、ありがとう」

 

最初は丸投げされて、多少はむっとしたが、彼女がこんな素直に感謝を述べる。

そして、洋榎に「ありがとう」を言われると、なんだか、よくやった僕、なんて思ってしまう甘々な自分がいる。

つまるところ。

 

「どういたしまして」

 

嬉しいということだ。

 

 

帰り道。

先に降りた恭子と真瀬さんを除いた僕たちは帰路に着く。

僕たちとは向きが違う上重さんと別れる。

 

残ったのは僕と、洋榎と絹恵ちゃん。

いつかの帰りもこの三人だったな。

 

自転車を押しながら、夕日を背に歩く。

そして、別れる。

 

と後ろから走ってくる音が聞こえる。

振り向くと洋榎だった。

 

「どうした?」

 

「なぁ」

 

「なんだ?」

 

「こんど、動物園にも行こな!!それだけ!!じゃあ!!」

 

本当にそれだけ言うと、待っている絹恵ちゃんの元へと走って行く。

自然と顔がにやけるのがわかる。

向こうにいる彼女に向けて、でも聞こえない声で。

 

「必ず」

 

一人約束をするのだ。

 

 





林間学校は諸事情により飛ばします。すみません。

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