インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~   作:kageto

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捏造設定が増えていく。

あと、第02話を改訂しています。そちらもちょろっと見てくれると幸いです。


第12話

 四月最終週日曜日。午前。五反田食堂。

 

 弾と蘭は前日から友人宅に泊まりに行かせてるそうで、夜までは絶対に戻るなと言い含めてあるらしい。厳さんは一番離れたテーブルに座り、水を飲みながらいつも以上に険しい顔をしている。

 

 蓮さんはいわゆるお誕生日席に座り、いまだかつて見たことのない険しい顔だ。威圧感がハンパない。

 

「単刀直入にいきましょう。織斑千冬さん。一夏君の保護責任者としての責務を果たしていると認められませんでしたので、以前に取り交わした通り、五反田蓮さんに保護責任者を変更していただきます」

 

 隣に座る弁護士の伊達さんが何枚かの書類を、向かいに座る織斑先生に差し出した。覗き見る限り、保護責任者変更に関する手続き書類と、蓮さんと織斑先生の署名入りの誓約書のようだ。

 

 ざっと読んだところ、保護責任者を織斑千冬に変更するが、その責務が果たされないようなことがあれば、五反田蓮に保護責任者を戻す。ということらしい。

 

「私はきちんと責任を果たしていたはずです」

 

 えぇー。

 

 いや、えぇー。よく言えるなそんなこと。

 

「織斑千冬さん。あなたは三年前に私と五反田蓮さんの三人で話し合いをしたときに『一夏君の保護管理は出来るのか』という問いかけに、『大丈夫です』と答えましたね。ですが、この三年であなたが帰宅された日数を把握されていますか?五十日もないんですよ。しかも丸一年ドイツに向かわれて、一度も帰国されていない」

 

 実際は四十日にもぎりぎり届いてないんだけどな。

 

「さらに、生活費すら渡していませんね」

 

「生活費はちゃんと振り込んでいた」

 

「行政からの給付金の受け取りをあなたの口座にしたまま、通帳その他をもってドイツに向かわれてるでしょう?こちらで受け取りを五反田さんに変更するまでの間、一夏君は自身で貯蓄していた小遣いを切り崩して生活していました。一夏君が家計簿を詳細に記してくれていましたが、一般的な男子中学生の食事量を下回る食生活です。さらに言うなら家事をすべてこなしています。足りない食事量で学業をこなし、家事すべてをこなす。これのどこに中学生らしさがあるんですか」

 

 さらに趣味の時間を入れると、ねぇ。

 

「そもそも、未成年者をひとりで生活させるような人間を保護責任を果たしている者とは判断できません」

 

「わ、私にも都合がある!」

 

 あ、それは駄目だわ。

 

「千冬さん」

 

 蓮さんが口を開いたが、怖すぎる。伊達さんの顔が一瞬引きつったよ。

 

「子供を育てるって言うことはね。その子の人生を決める十数年間の責任を背負うということよ。勉学の道、運動の道、芸術の道。どういう人生を歩んでいくのかを決める時間を守ってあげるの。生半可な気持ちでなんていられないのよ。自分の都合なんて、それこそ二の次なくらいに。なんでかわかる?子供が大事だからよ。自分の都合がと言ってる時点で駄目なのよ」

 

「で、ですがっ」

 

 蓮さんの正論に織斑先生は反論しようと声を上げる。反論の余地ねぇだろ。

 

「三年前ね。あなたが、頑張ります。って言ったときに、成長したんだって嬉しかったのよ。あなた達姉弟の保護責任者をかってでた時、あなたの大人を信じられないといわんばかりの目を思い返して、本当に嬉しかったわ。それこそ自分の子供のように。それがこんなことになって、本当に残念よ。こんな誓約書なんて必要ないと思ってたのに」

 

 蓮さんが悲しむような、哀れむような、そんな目で織斑先生を見る。

 

「千冬嬢ちゃんよぉ。今の蓮の言葉に、おまえさんが反論できるわけねぇんだよ。それがわかってねぇ時点で、おまえさんは駄目だな。ガッコのセンセになったんだってなぁ。御国の作ったガッコらしいじゃねぇか。よくやったよ。あんなマセたがきんちょだったのがよぉ。成功したじゃねぇか。でもよ、親になるにはまだ若造過ぎるわ。いろいろと足んねぇよ」

 

 厳さんが織斑先生の横に立った。

 

「とっととサインして、保護者ごっこを終わりにしな。そんでよぉ。もっと人生学んでこいや」

 

 織斑先生は項垂れて、伊達さんの示すがままに書類にサインをしていく。

 

 蓮さんが視線で、何か伝えるかと促してくる。

 

 目を閉じていろいろ考える。今までのいろいろ。

 

「それでは、失礼します」

 

 席を立つ織斑先生に、声を、かける。

 

「千冬姉ぇ。小さい頃、本当に小さい頃、大切にしてくれたのは、ありがとな。そして、さよならだ」

 

「あぁ。さよなら一夏。こんなでも愛していたぞ」

 

 

 

 

 これで俺らは織斑姉弟じゃなく、織斑千冬と織斑一夏の個人と個人なわけだ。俺が望んでこうしたわけだけどさ、なんか重いな。ホントに重てぇ。

 

「一夏君。後は私達がやっておくから、今日はもう帰りなさい。どこか散歩でもして、気でも晴らしてから」

 

 三人に頭を下げてから店を出る。出しなに厳さんにポンと叩かれた肩が、暖かかった。




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