インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~ 作:kageto
買ってきた食材を片付けて、目的のものを袋に移し変えて部屋を出る。自分の部屋から少し離れた目的の部屋のドアを叩く。
「いないのか?」
念のためにもう一度ドアを叩こうと思ったときに、横から声をかけられた。
「・・・何の用?」
のほほんさんに『かんちゃん』と呼ばれていた女子だ。
「のほほんさんに用があって来たんだけど、反応なかったから一応もう一回だけノックしてから戻ろうかなって思ってな」
「本音ならもうすぐ戻ってくるから、中で待って」
「いや、出直してくるよ」
「私が聞きたいことがあるから、本音が戻ってくるまで付き合って」
眼鏡越しに何かしらの決意を感じたので、とりあえずうなずいて、部屋について入る。
「そこ座って。飲み物入れてくる」
かんちゃんの机の椅子を指されたので、おとなしく座る。いろいろと押され気味な気がする。いや、気がするんじゃなくて押されてるな。
戻ってきたかんちゃんに渡されたグラスに口をつける。程よく冷えた緑茶だ。
「更識簪。はじめまして」
なるほど、簪(かんざし)だから『かんちゃん』なわけだ。
「あぁ、どうも。俺は」
「知ってる」
「いや、相手が知っててもちゃんと挨拶するのが礼儀だろう?というわけで、織斑一夏です」
「確かに礼儀は大切だね。早速で悪いけど、聞きたい事があるの」
「おう。おれに答えられることならな」
「優秀な姉を持つとストレスたまらない?」
は?
「聞きたいことってそれ?」
「私にも姉がいる。ここの生徒会長」
ここって
「IS学園の?」
「そう。そのうえロシアの国家代表。あと、更識家現当主」
「なにそのいんちきスペック」
「あなたの姉も負けてないと思うけど」
「まぁ、肩書きだけ見ればなぁ。でも、いろいろと駄目だぞ。アレ」
「噂は耳にした。生活能力皆無だって。だからあなたに聞きたい。ストレスどうやって発散させてたのか」
「あぁ、ってことはそっちの姉もアレなんだ」
そう聞いたら、簪のストッパーが壊れた。
「自己中心的過ぎる。昔からそう。何でもできるから勝手が許されてて、そのくせ変にシスコンで過保護だから、私のことまで手を出して私に何もさせないし、挙句が『あなたは何もしなくていいのよ』って。冗談じゃない。私の人生は私のだ。勝手に決めないでよ。確かに私は姉のように何でもできないけど、努力してるし、結果も少しずつ出てきてるのに。私はベッド脇に飾られてるお人形じゃない。距離をとろうとしてもチラチラチラチラこっちの様子を見に来て。私はあんたの娘じゃない。むしろ娘だったらもっと早くにぐれてる」
簪が、自分のグラスの緑茶を一気に呷った。
ってか、ほとんど一息で今の言い切ったよ。
「しかも、生徒会長の癖に仕事を放り出して私の様子見に来るから、仕事が滞るって虚さんがこぼすし、思いつきでイベントやったりして被害を被ったって先輩たちから、入学早々言われるし、私関係ないじゃない。本人に言ってよ。私悪くないじゃない。間接的にも迷惑かけないでよ。私、この春から専用機の設計で忙しいんだから。余計なことに時間を取らせないでよ。真面目にやってれば誰にも迷惑かけないんだから。おとなしくしててよ。皺寄せが私に来てるんだって」
「はい。飲むか」
「ありがと」
俺の分の緑茶まで一気に飲み干して、深く息を吐いた。
「ごめんなさい。なんか箍がはずれて」
「いいって。少しすっきりしたろ?おれもダチに愚痴言いまくったからな」
ホントにその辺のことに関しては弾たちに助けられたからな。
「確かに少しすっきりした・・・かな?」
「だろ?愚痴を溜め込みすぎてつらくなったら、吐き出せばいいんだよ。吐き出し方だって、今みたいにぶちまけてもいいし、カラオケで叫んでもいいし、ボーリングとかのスポーツでもいいしな」
「そうす・・・。友達作るところからだ。先輩たちへの対応と、専用機作りに追われてクラスに馴染めてる自信がない」
さっきまでの勢いが嘘かのごとく沈んでる。クラスでボッチなのかよ。
「何言ってんだ。俺たちもうダチじゃんか。同じ悩みを持つさ」
能力だけは優秀な姉を持って苦労する仲間が見つかるとは思っても見なかったけど。
「とも・・・だち。いいの?」
何この上目遣いの可愛い生き物。この子の姉がシスコンになるのもわかる気がする。過保護はどうかと思うが。
「おう。よろしくな。簪」
「よろしく。織斑君」
「一夏でいいって」
「うん。一夏」
「あ、そうだ。のほほんさんに返そうと思ってた分だけど。この間カップ焼きそば分けてもらったからお礼に買ってきた」
「カップ春雨?焼きそばって、あのおっきいの?」
「そうそう。それ」
「アレが無くなってるのに気が付かなかった。いつの話?」
「簪がたぬきだった日」
瞬間、簪の顔が沸騰した。あれはのほほんさんの趣味らしい。