まさか六話でここまで伸びるとは思っていませんでした。
本当にありがとうございます。
それから、
昨日、一昨日と事情があり筆が取れませんでしたが今日からまた更新を再開します。
……やっと横須賀提督sideが終わったなぁ。次はあの人を焦点に当てて書こう。
○月£日、晴天
前日の演習。その結果は直ぐさま本部へと伝えられた。
多くの提督が見る中での、ましてやハンデ戦での戦いに勝利。
そしてその相手が元帥である事、戦闘内容なども事細かに説明され、九条の有用性が確固たるものに変わった。まぁ、そこは流石元帥と言うべきか。俺もえっ?って思うくらいすんなりいったしな。恐らく裏で手を回したんだろう。
……そういう点で考えると、今の俺にゃぁ元帥は無理だ。比喩でもなんでもなく。
そう考えると、改めて九条が異常に思えてくる。アイツはまだ十五、六そこらのガキの筈なのにな。
「この度、新鎮守府提督及び、大佐として海軍に着任しました。九条日向と申します。若輩者……いえ、短い間ですがよろしくお願いします」
式中は流石の九条もふざけた事は言わなかった。恐らくここで変な動きを見せるのは不利になると判断したのだろう、
「九条大佐と共に新鎮守府に第六駆逐隊も移動になるが、その点はよろしいか?横須賀大佐提督」
「ハッ!異論ありません。彼女達のさらなる活躍を期待します。そして、横須賀鎮守府での任を解く事を許可します」
途中でウチの第六駆逐隊が九条と共に移動となる事も触れられたが、コレに関しては少し前に暁達、第六駆逐隊に伝えたので問題は無い。少しオリジナルを加えつつ、定例文を述べた。
「それから九条大佐。後、数人の艦娘も送られる事となるがそれに関しても異論ないか?」
「ありません」
一言で答える。その顔は少し面倒そうに眉を潜めていた。……胃が痛ぇ。
すると横からヤジのような声が飛んだ。
「お待ち下さい元帥!どうやら九条大佐はやる気が無い様子、でしたらこの私を!」
アレは……元帥の座を狙っていた大将か?あぁ、なるほど。ここで九条を認めてしまえば恐らく元帥は何が何でも九条を後任に任命しようとするだろうし、大将からしたらそれを避けたいのか。
「武蔵野鎮守府大将殿、ここは任命の場である。慎みたまえ」
元帥が宥めるように声を上げた……が、
「しかし彼は未だ高校生!まだ十五の若輩にこのような重要な役割を「くどい」えっ……?」
武蔵野提督は元帥の決定を九条の年齢を持ち出す事で覆そうとしたが、その途中で元帥の低い声が響いた。
その声に驚いたかのように大将が顔を上げる。だが、元帥は追撃を掛けるかのように声を発した。
「では、聞こうか武蔵野鎮守府大将提督殿。貴殿は、練度の低い艦隊で私の第一艦隊に勝てるのかね?」
「……ッ!」
……まぁ、そう言う反論を通さない為に昨日の演習を行ったんだからな。本当に凄いモンだ。
そして元帥は続けた。
「……軍に年齢は関係無い。有能か、無能か。彼の場合は有能だ。それも私を既に超えていると言っても良い」
元帥が顔を上げる。その目は鈍い光を帯びていた。
しわがれた声で九条を賞賛する姿はまるで、自分よりも優れた後任を見つけ、安心して引退するような。そんな雰囲気。
そしてこれが最後だ。と言わんばかりの覇気を纏い、ゆっくりと口を開いた。
「……私は、彼をこう評価した。
ーー彼は、人類の希望だ。
深海棲艦を打ち破る人類の希望だ……とな」
その言葉にその場に集まっていた提督達が息を呑んだ。
元帥の言葉。
それはすなわち、九条日向という人間は自分より。
提督達の頂点とも言える元帥よりも優れた能力を持っている。
ーーそれも、圧倒的なまでに。
……少しの間とはいえアイツと暮らしていた俺はともかく、他の提督にとっちゃああり得ねぇと思うのも無理無い。
だが、九条は確かに見せた。
敗北した筈の戦いにたった四隻の駆逐艦で完全勝利。
数時間で数十Kmに渡る新海域の解放。
少将との演習での完全勝利。
そしてーー、元帥とのハンデ戦で勝利。
信じられるか?こんな事を一週間でコイツはやってのけたんだぜ?
「ック………」
すると、九条が笑い声のようなモノを漏らした。
「何がおかしい!」
先程の大将が叫ぶ。
その声を嘲笑うかのように九条は口を開けた。
「あぁ、これは失礼。面白いな、と思っただけですから」
「面白い……だと?」
俺にゃぁ九条の言葉は理解出来ない。だからこそ、無言のまま次の言葉を待つ。
「まず俺。いえ、僕が提督なんかに選ばれた事も疑問なんですけどね?貴方が何故、そこまで騒ぐのかが分からなくて、酷く滑稽に思えたんですよ。気に障ったら申し訳ありません」
ニタニタとした笑みを顔に貼り付け、言ったその言葉は大将を嘲笑するものだった。
そして的を射たその言葉に元帥の座を狙っていない提督達が笑い声を漏らす。
「き……貴様!」
「アッハッハ!怒らないで下さいよ。思った事を口に出しただけですし。
それにーー、さっき言ってたじゃないですか?僕が
笑いながら九条は大将を馬鹿にするような言葉を紡いでいく。……周りは笑っているが、俺にとっちゃ胃が痛い原因でしかないんだが。
……あぁ、後でなんて謝るべきか。一応九条はウチが預かっているし、俺が責められるよな?
クッソー、何で面倒を背負ってまで責められなくちゃならないんだよう!
「黙れ!大佐如きが無礼だぞ!」
「だ、そうですが元帥。僕は黙るべきですか?」
「ッッーー!!」
楽しそうに元帥に尋ねた。九条の質問に元帥は首を横に振る。
弄ばれている事に気付いた大将が顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべた。
「っこのーー「そこまでだ、武蔵野鎮守府大将殿。先も言ったが、今は神聖なる任命式である。口を慎め」
「……チッ!」
そして何かを叫ぼうと口を大きく開けたところで元帥がストップをかけた。
……まぁ、なんだ。ナイスです元帥と言えば良いのか?
あのままじゃ式は滅茶苦茶になってただろうし。
舌打ちをして引き下がった大将を確認した元帥はゴホン、と溜息を吐いた。
「では、改めて。九条大佐。新鎮守府への着任の儀。受けてくれるね?」
「それが罪の償いだと言うのなら」
そして九条は任命書と提督としての身分を証明するバッジを恭しい手つきで受け取った。
その様はまるで、王からの命令を受けた騎士の如く。
俺たちなんかじゃ表現出来ない美しさ……それがそこにあった。
「では、これにて」
そして九条は誰に話しかけるでもなく、大佐のマントを翻すとその場を後にした。
その余りにも堂々としたその姿に誰も話しかける事は出来ず、そのまま彼の姿が視界の端に消える。
……後に残されたのは静寂だった。
そして任命式は"無事"、終わった。
○月○日、晴れ
俺の胃や頭が痛い元凶、九条と会った。
また問題を起こしたのか……、と若干投げやりになりつつ話しかけると、何かを察したように胃薬を渡されたのを覚えている。
……正直、驚いたというのが本音だ。
そもそも九条が周りの人間を気にかけるようなタイプだとは思っていなかったのもあるが。
「最近お疲れのようですし、良かったら愚痴を聞きますよ」
ニコニコした表情でそう言った九条に少し腹が立った俺は、意趣返しに九条へと愚痴を吐いた。
……まぁ、アレだ。お前がやった事はこんなにも俺の頭や胃が痛くしているんだ、って言う事を改めて教えるってのもあるけど。
「まぁ、それでソイツが元帥に勝利してな?」
九条の名を出さなかったのは単に俺の怨みというか私怨だ。鬱憤を晴らすためとも言える。
だが、九条は俺の言葉を他人事のようにふーん、と聞いていたので少しムカついたと言えばムカついた。……まぁ、俺程度の言葉なんて気にする男じゃねーしな。
そんな事を考えていると、
「凄いですね。俺もそんな才能を分けて欲しいな」
よりにもよってこんな事をほざきやがった。
コイツ……確信犯か!つーかお前の事だっつーの!!
ってかコイツ知っててやりやがっただろ!もっと俺みたいな下っ端を優しく扱ってくれぇ……。
ンな感じの会話をしていて気が付いたら夕方まで話し込んでいた。
……何つーか、少し仲良くなれた気がする。少なくとも軽口を叩けるくらいには。
気も楽になったし。
「愚痴に付き合ってくれてありがとう九条君、気が楽になった」
「いえ、気にしないで下さい。これからも頑張って下さいね」
そして俺達は互いに背を向けたのだが、一つ思い出した俺は気が付けば九条にこう言っていた。
「一人か二人、九条君と一緒に無人島に行く艦娘を選抜しておく!楽しみにしていてくれ」
俺の声に九条はただ、お礼を言うかのように右手を上げると、振り向く事なく去っていった。
……キザな野郎だぜ、全く。
○月+日、晴れ
今日は一日中書類を片付けていた。最近の様々な出来事のせいで溜まりに溜まった書類である。
秘書の霧島も疲れた表情を浮かべていたので休憩時間中に肩を揉むと喜んでくれた。
なんか暇になったらしい理沙先輩が来て、手伝ってくれたのでお礼を言うと飯に誘われたので、仕事が終わった後に適当な居酒屋に足を運んだ。今回は霧島も一緒に行っている。
んで、案の定潰れた。あぁ、潰れた。
グデングデンになった理沙先輩がはだけた服のまま抱き付いて来た時は流石に童貞卒業を覚悟したが、鋼の理性で押さえつけた。
……意外だったのは霧島だ。冷静な感じがあったのだが、そこまで飲める人ではなかったらしく彼女もまた潰れた。
ついでに絡み酒。何で俺の周りの女は絡み酒ばかりなんだ。
「提督〜、理沙提督と私のどっちなんですかぁ〜?」
「あぁ、そうだぜ冬夜ぁ〜、どっちを選ぶんだ〜?」
「あぁもう!選ぶとか何言ってんだ!俺なんかにゃ勿体なくて選ぶ選ばないの問題じゃねぇっつの」
全く面倒なものだ。結局連れ帰るのは俺の仕事になるんだろ?
ついでに支払いも俺になりそうだし。
「おやっさーん!勘定ー!」
「あいよ!冬夜坊も大変だねぇ、ったく羨ましい!美女二人も連れて」
「馬鹿言うなっておやっさん、女二人に挟まれて肩身が狭いぜ全くよー」
提督仲間からはこのハーレム野郎とか言われたが意味が分からん。
そもそもハーレムなんか作ってないし、俺の状況がハーレムだと言うにしても、確かに良い部分もあるが、大半は面倒ばかりだ。
チャリン、と札の上に小銭を置きながら俺がそう言うと、
「オメェこそ馬鹿言っちゃぁいけねぇよ。冬夜坊は若いからまだ分からんが、俺くらいの歳になると羨ましいモンだ。そこまで尽くしてくれる女なんか中々居ねーよ。理沙ちゃんにしても霧島ちゃんにしても、何時もお前を助けてるだろーが。現に、今日の朝だって理沙ちゃんの手料理だろ?仕事中だって最近は忙しいお前の分まで霧島ちゃんが処理してるし。
っかぁ〜、愛されてるねぇ。
倦怠期に入ったウチのオカンと違って羨ましいモンだ」
そう言っておやっさんは頭を撫でた。かなり後退しているその生え際が妙に寂しい。
すると、
「いやいや源さん。時江さんだって充分アンタに尽くしてんだろう」
近くの座敷から声が響いた。見ると、そこにはおやっさん。つまり、源さんと半世紀近い親友らしい勝さんの姿が見える。
……どちらも、俺が小さい頃からお世話になった方々だ。
「違ぇねぇ!ガッハッハ!」
勝さんの言葉に源さんが頷く。そしてひとしきり楽しそうに笑った後、真剣な声色でこう言った。
「……、冬夜坊よ。ちゃんと二人共守ってやるんだぞ?それが男として最低限の甲斐性ってもんだ」
「……ッ、………………はい」
……本当に、この人達は暖かい。何がって言われたら、心がだ。
この居酒屋には良く足を運ぶがいつも繁盛している。恐らくその理由はここにあるんだな……、となんとなく理解した。
「良し!明日からも頑張れよ冬夜坊!おっちゃんは応援してるかんな」
そうやっておやっさん流の発破をかけられた俺は居酒屋を出た。
二人に肩を貸し、街を歩く。
……あぁ、なんつぅか。
今日は良い日だった……と、思う。
○月*日、快晴
明日。明日の早朝が、九条の出立する日だ。
夕方頃に皆でお別れのパーティを開いた。元帥からも大々的にやれ!と笑顔でオッケーを貰ったので出来る限り大きなパーティにしたつもりだ。
「……んで、何でここに居るんですか?魔理沙、じゃなかった。理沙先輩」
「魔理沙って……。まぁ良いぜ、私がここに居るのはパーティがあると聞いたから。そして、冬夜が居るからに決まってるんだぜ」
「あぁ、さいですか」
「あー!なんだよ、反応が冷たいな」
そう言って俺の肩をバンバンと叩く理沙先輩。……もう少し女らしさというかが無いのかな?この人には。
すると、横からチョイチョイと肩を突かれたのでそちらを振り向く。
「提督、お飲み物を」
「ん?あぁ、霧島か。ありがとな、……これは?」
「ローズライムジュースです。チャンドラーの『ロンググッドバイ』という小説の中で書かれていた事で有名ですね。多めにジンを入れましたのでスッキリ美味しく飲めますよ」
「ロンググッドバイ……?まぁなんだ、美味いんだな?」
「えぇ、まぁ味覚が合わない方も居ますが基本的には美味しいかと」
霧島から貰った飲み物をグビッと煽る。うーん、ちょっとすっぱいな。
まぁ美味いけど。
「お酒は入ってませんので、酔いの心配もありませんし」
「あぁー、まぁお前の場合は結構重要だな」
「……恥ずかしながら」
下戸……ってまでじゃねぇが、そんな強くないんだよなぁ。何でだろ?
「オー、中々良いアピールですネー!提督は単純なので結構良いと思いますヨー!」
すると、横から茶々を入れるように横槍が入った。
見ると、ヤケにニタニタした表情の金剛が此方を、正確には霧島を見つめている。
「なっ……姉様!そんな事は」
「霧島ちゃんは恥ずかしがり屋ですネー!もっと理沙提督ぐらいスキンシップを取るべきデース」
チッチッチ、と人差し指を振る。そして理沙先輩を見ると、ニヤリと笑った。
「言っておきますけど、理沙提督!霧島ちゃんは負けませんからネー!」
「フッ、宣戦布告か、まぁ私は別に良いぜ。そっちが私をなんとかしようとしている内に落としちまえば良いし」
「でも、落とせていませんので、心配はありませーん、良かったデスね!霧島ちゃん!」
「なっ……ぐぬぬ」
……落とすって、何をですか?なんか怖い。いきなり海に落とされるとかマジ勘弁なんですが。
そして理沙先輩と霧島がそろって顔真っ赤にして、金剛が楽しそうに笑っているんだがこの状況をどうすればいいと?
だがその時二日前に九条とした約束を思い出した俺は二人を一旦置いて、金剛に話しかけた。
「あっ、そうだ金剛。今、九条と一緒に行く艦娘を探しているんだがお前、行く気とか無いか?」
結構駄目元である。まぁ、ウチは金剛四姉妹揃っているし、離れたくないと思うだろうからどうせ答えはNOだろうが。
しかし、出てきたのは予想外の言葉だった。
「OH?あぁ、九条さんの所ですネー!オッケーデース!あの人の淹れる紅茶はとっても美味いネー」
「まぁそう言うよな…………あ?え?良いのか?」
……なんというか意外だった。
「まぁ、ここに居ても私はお邪魔虫ですからネー。遠くからそっと応援する事にします」
チラリと理沙先輩と霧島の方を見つめてそう言った。
うーん、寧ろ主力だからお邪魔虫では無いと思うが。
「それに!私だって恋愛してみたいですから!アッチの方が良い人と出会えそうデース!九条さんも中々良物件ですしネー!」
「あ、そうですか」
なんと言うか……逞しいな。俺だったら自分から好んで九条のとこになんか行かんぞ。
「まぁ、私はティータイムの時間が何より大切ですからネー」
「出たな紅茶妖怪」
「提督は酷いのデース」
そんなお話をしたりして、数時間ほどパーティは続いた。
時刻は夕方。真っ赤に燃えたオレンジの太陽が輝いている。
水面もキラキラと太陽な光を反射していて、とても綺麗だった。
「俺の為に、この度はありがとうございます」
九条が頭を下げた。今、パーティの最後の挨拶を行っているところである。
「このようなパーティを開いて下さるとは思ってはいませんでした。とても嬉しく思います」
そんな感じの挨拶が続き、一人ずつ九条に声を掛けていく。
そして俺の番が来た。
「提督さん」
「あぁ……まぁ、なんだ。九条君には色々と面倒を起こされたが、それでも今日という日を無事に迎えられて良かったと思う」
無難な滑り出しだ。俺自身そう思った。
「私が……いや、俺が言える事ではないが、キミはまだ子供だ。技術はともかく大人としての経験は俺達の方がある。何かあったら頼ってくれ。きっと、助けになろう」
いや……、実際にそんな事があったら困るが。
「まぁ戦いでは助けになるとも思えないが戦術でも援軍くらいなら送れるだろうし……な」
なんつーか、こんなのは俺の柄じゃない。
もっと俺はいい加減だった筈なんだがなぁ。
「うむ、とにかく頑張れや。若者よ」
そう言って手を差し出す。その事に驚いたのか、俺の顔を見つめた九条だが、直ぐに口元を整えると笑顔で俺の手を握り返した。
ギュッと、強く握手をする。
そして、俺達は同時に呟いた。
「「暁の水平線でまた会おう」」
次に会うのは……戦いの時だ。
だが、恐らく次に会うのは俺が。
そうだな……、
大切なモノを守れるくらい強くなったら……だな。