主人公の日記2話に対し、説明っぽくすると倍の4話くらい掛かりそうです。
今回は試験的な意味も込めて
2日分くらいを日記風にしてみましたがどうでしょうか?
○月!日、雨
今日は有休を取った。正直、このまま一ヶ月くらい不貞寝したい。
……いや、まぁ無理なんだけれども。
にしても、久々の休みだったからか疲れが取れたように感じる。
今日の事を丸投げ……もとい、任せた秘書艦、霧島は真面目だし何かあっても問題無いだろう。
あぁ、本当に心が軽い。
まぁ、明日からの事を考えりゃ直ぐに暗くなっちまう訳だが、それでも束の間の休日に野暮な考えは必要ないだろう。
俺だってゆっくり休みたいのだ。
そしてゆったりと朝食を取っている時だった。
「邪魔するぜー、冬夜ぁ」
突然、ドアが開けられると共に響いた声に俺は慣れたようにそちらへと視線を向けた。
……そこには、
「またですか、理沙先輩」
「先輩とかいらねぇって!私とお前の付き合いだろ?」
「そう言われましてもねぇ」
俺を何かと面倒見てくれた先輩である彼女。
そしてドカッとソファに腰掛けると、テーブルの上を見て途端に苦そうな表情を浮かべる。
「まぁた、
「だって面倒じゃないですか……」
突然の入室に慣れているのはこういう事が今までに何度もあったからだ。よく、俺の元を訪れる先輩は一緒に朝食をとったりする。
……まぁ、その度に俺の不健康な生活に目くじらをたてるわけだが、仕事はともかく生活面まで面倒見られるのは流石にアレだと思った俺は溜息を吐きつついつも言い返しているのだ。つまり、ここまでがお決まりのコースというヤツである。
「そもそも、ただでさえ頭や胃が痛い事ばかり起こってんのに飯なんか作る気になれませんよ」
「あぁ、それには同情するわ。それって昨日、私をボコボコにした奴の事だろ?」
俺がそう言うと、あぁ、と納得した声を上げる理沙先輩。
男勝りな彼女は昨日の敗戦を何一つ気にしていないらしい。
「いやー、流石に驚いたぜ。私の放った弾幕がことごとく回避されるなんてな。まぁ、お陰で色々と欠点が見つかったんだけど」
そしてニカッと笑う先輩に思わず俺はこう言った。
「いや、本当にどこの普通の魔法使いですか先輩は」
「私は魔法使いじゃないっての!……そう言えば最初に会った時もそんな事言ってたよな」
……先輩と初めて会った時。それは、俺がまだ提督ではなくただの海兵だった頃だった。
色々な事があって、今の関係に落ち着いているがあの時は本当に酷かった。……主に俺への被害が。
「特徴もさることながら口調や言動まで一致してるのは流石におかしいと思うんですがそれは?」
「そんなの知ったこっちゃないぜ。私は私なんだからな」
……まぁ、彼女との会話は今の俺にとってはとても良いものだった。九条の件で色々と俺も辛かったし。特に俺の胃と頭が。
「まぁ冬夜がそんな事言うって事は相当な奴なんだろうな。ソイツ。いつか私も会ってみたいぜ。結局バトル中に会えなかったしな」
「……似たタイプである先輩"は"大丈夫でしょうね。後先考えないから。その代わりそうやって俺に被害が……あ、」
その時、俺は気付いた。理沙先輩と九条を会わせてはならないと。
会ったが最後、俺の胃は穴が開く。間違いなく。
九条の問題に頭を悩ませている所に理沙先輩という問題児まで加えてしまっては本格的に鬱になる。もしくは胃に穴が開く。
この時の俺の顔は真っ青だったに違いない。
よって、前言撤回しよう。理沙先輩との会話は俺にとって余りよろしくはなかった。
○月?日、晴れ
電から、釣りをしたいとお願いされた。
……電が頼み事をするとは珍しい、そう思った俺はそのお願いを受けた。
……………………受けてしまった。
待ち合わせ場所は鎮守府前の堤防、そこに電、それから第六駆逐艦隊。つまり雷、響、暁の三人。
そしてーー九条が居た。
「ーーヴェ?」
思わずそんな声を上げてしまった俺は決して悪くない。確かに、俺は九条と上手く関係を築くつもりではあるが、いきなり釣りに行くというイベントに巻き込まれるとは思っていなかった。
前にも言ったけど、電。空気を読んでくれ、もしくはせめて死ぬ覚悟を……。
「さて、じゃあ提督さん!早速釣りを始めたいのですが……良いですか?」
俺の顔を覗き込むようにして電が尋ねた。その質問にやっとの思いで俺は答える。
「お……おう、も、勿論だぜ」
その返答に第六駆逐艦隊の四人が変な目を俺に向ける。うん、明らかに挙動不審なのは自分でも分かってる。分かってるからそんな目を向けないでくれ。
「もしかして、提督さんは釣りは初めてで?」
すると、九条が俺に声を掛けた。その時ビクッと身体が反応してしまったが、俺は首を横に振る。
「いや、経験はあるから大丈夫だ。それよりも早く釣りを始めよう」
もう、こうなりゃヤケだ。釣って釣って釣りまくって忘れてやる。もうキャラ崩壊なんて知ったことか。俺にとっては今日を生き残り、胃に穴を開けない事が先決だ。
そして俺達は釣りを始めた。……運の良い事に、開始から五分で一匹目を。それを境に二匹目三匹目と次々と釣れる。
九条も真剣に釣りをしているようで、声を掛けてくることは無かった。
そしてある程度釣った頃、九条がポイントを変える、と言い残し鎮守府の端の方の堤防へと向かって行った。
助かった、そんな思いが俺の脳内を覆う。それが引き金になってか、ようやく俺の緊張というか頭痛の種も消え去った。
それからは特に何が起こるでもなく普通に楽しく釣りを終える事が出来たが、本当に良かったと思う。
……そういや、何か知らんが理沙先輩がその日の夜に艦娘達から魚をおすそ分けして貰ったから、とか何とか言って夕食を作ってくれた。
思わず、「手作りですか!?」と尋ねると少し恥ずかしそうに頷いたのだが、どうしてなのだろうか。
○月$日、晴れ
昨日の釣りが終わった後、元帥に再び九条に演習を行うよう伝えろと言われた。
何故俺に?と思ったのだが、そんな事は口に出せず九条へと伝える。
二つ返事で引き受けてくれたので良かった。
そして演習に関しては特に語るべき所は無かった。
強いて言うなら対戦相手は俺と同じ大佐で、序でに理沙先輩の事を火力馬鹿と馬鹿にしているような奴だったので寧ろ清々したとも言える。
しかし、その実力は確か。レベルも高く、容赦しないその指揮は確かに敵艦を沈没させ、戦果をあげていた。
……だが、九条にとってはその程度。倒すのは非常に簡単な事だったらしい。
実際、奴の艦娘達は彼の指令通りに動けずに直ぐさま大破させられていた。それこそ、一片の容赦も無く。
……一応対戦に至った経緯についてだが、その提督は昔からブラックなのでは?と噂されている提督だった。
そりゃそうだ、彼が持つ艦娘達は何れも傷だらけだったのだから。
俺としてもその噂は聞いていたし、尻尾を掴もうとした事もあった。
だが、自身に不利な事を隠蔽するのが上手く、証拠が無いため調べる事も出来なかった鼻のつまみ者だったその男は、のらりくらりと俺達の捜査の手を回避し続けた。
そして何を思ったのか今回。彼は元帥にこんなお願いをしたそうだ。
「あの火力馬鹿……おっと失敬。あの主砲ガン積みの少将を倒した彼と手合わせ願いたい」
元帥から一字一句違わぬその言葉を伝えられた時は流石の俺もプッチリと切れそうになったが、そこで元帥はこう言った。
「……ワシは。ワシが思う海軍には奴は必要無いと思う。ここいらで消そうと思うのじゃが、お主はどう思う?」
消す、その言葉の真意は聞いても教えてくれなかった。が、海軍から奴を追い出せるならば、と思い演習中に奴の本拠地を調べるという事を秘密裏に行う事が決定。そして決行された。
別の鎮守府が主となり、横須賀鎮守府はそのサポートに当たったが。
……その結果はクロ。奴はブラック主義だった。
普段から戦いを強いられていた艦娘達は解放されたそうだが、殆どの艦娘はみずから解体を望んだらしい。
……可哀想な話だ。
だが数名の艦娘は別の鎮守府で働く事を望んだらしく、その内の一人がウチに来る事になった。
そしてその男は海軍本部に拘束された。とは言え、そのような実態を報道で流すわけにはいかないのでこれまた秘密裏に処理された。
今回、九条には敢えて何も言わずにこのような事を頼んでしまった事は、決して良くない事だったのだろう。
……だが、今はまだアイツを鎮守府の闇に触れさせるわけにはいけない。
ーーそう、まだ、提督になっていない今はまだ。
○月$日、晴れ
九条に出撃をさせる事にした。
勿論、元帥には承諾を貰っているので問題も無い。
そしてパソコンを渡したのだがーー、
「敵艦隊発見。駆逐艦魚雷発射、戦艦はBー54地点へ撃て」
次々と音声認識で伝えられるその指示は正に圧巻の一言だ。そして哀れにも敵艦はゾウに踏み潰されるアリの如く、現れた瞬間に轟沈していく。簡単なシューティングゲームのノーミスクリア動画でも見せられているかのような気分である。
そして音声認識だけではない。その手も絶えず、艦載機の動きや回避行動の指令を送り続けている。
「チェックメイト」
そして九条はターン、と軽快にEnterキーを押した。恐らくそれがこの戦いにおける最後の命令という事なのだろう。
画面に目を向けると、そこには敵艦を轟沈させた艦娘達の姿が映されていた。
時間にして……、戦闘開始から九分四十秒。完全勝利、それも速攻だ。
相変わらずの実力に内心溜息を吐いた。
「終わりましたよ、これで仕事は終わりですか?」
「……いや、出来れば中破が出るまでは続けてもらいたいのだが」
「了解、中破が出るまで……ですね」
それから四時間か、五時間が経過した頃。
俺に待っていたのは資源が切れたという九条の言葉と、数十㎞に渡る新海域の解放の報せ。
……当然、「資源が切れた」の言葉に絶叫した俺は絶対に悪くない。
だが、一つだけ言わせて欲しい。
ーー誰が資源を尽きるまでやれと言った。
○月¥日、晴天
とうとう元帥が九条を提督に推薦する事に踏み切った。
九条には前日にその旨を伝えたのだが、生返事だったのが気になる。意味が分かっているのだろうか?
そして会議にて元帥が九条を提督にする事について審議をしたのだが、当然の如く多くの提督から反対された。
まぁ、彼らは九条の指揮を見ていないので仕方ないだろう。当然、それは元帥も理解していたらしく、今日。この日に元帥と九条の演習を行い、その上で判定するように元帥は言った。
そしてその編成は……、
元帥、第一艦隊。九条、ウチの艦娘六隻。
レベルの面だけで見れば誰がどう見ても元帥の勝利だ。
日々の鍛錬を欠かさず、何十年という期間を元帥と共に戦い続けた歴戦の艦娘達。
それとは対照的に九条の編成は、本当に適当に選んだ六隻。レベルもまちまちだ。
つまり、圧倒的格差が両者の間で生じていた。
当然、反対していた提督は勿論、賛成していた提督達だってそんな条件じゃマトモに戦う事すら出来ない。
当たり前だ。弾が掠っただけで大破する。それほどの差があるのだから。
……そして、演習は始まった。
開幕の攻撃。艦載機の攻撃を滑るように避けきると九条は距離を取りつつ魚雷をばら撒いた。
そしてそのまま背を向けて脱兎の如く逃げる。
そのおかしな指揮に提督達は皆、疑問を浮かべた。敵に背を向けるという事は敗北を意味すると言ってもいい行動だからだ。
「…………………………、」
何時もとは違い、ただただ無言で九条は手元のキーボードから命令を送り続けていた。
殆どが避けるか逃げる。偶に、魚雷をばら撒く程度。
その戦い方に多くの提督は失望した事だろう。あぁ、この程度か、と。
……だが、それが三十分も続くと反応は変わる。
「二隻大破、一隻中破」
三十分。それも、圧倒的レベル差があり、尚且つ指令が元帥である異常な敵を相手にしてたったそれだけの被害。
……それも、九条本人のミスではなく艦娘達がバランスを崩すなどの予想外の事態を起こした時のみの被弾である。
ーーそして、恐るべきは、
「元帥、一隻小破」
小破。つまり、とても小さな。とても小さな細かいダメージを少しずつ蓄積させた。
そしてその一隻とは……、
「旗艦、長門」
元帥の旗艦である長門だった。
……そして、結果はタイムアップ。
最終的には
九条、大破三隻、小破一隻。
元帥、大破一隻。
残りは無傷だ。そして九条はハァ、と少し疲れた溜息を吐くと、俺達に向かってこんな事を言った。
「では、俺は邪魔な様なので」
そう言うと九条は勝敗を確認する事なく部屋を後にした。
……そして、九条が部屋を出ると同時にパソコン画面に勝敗が映る。
モニターに映る二つの結果。
それを見た元帥は笑った。
「元帥、戦術的敗北」
静かになった会議室。そこでは、元帥の笑い声だけが響き渡った。