とある提督の日記   作:Yuupon

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お気に入り3000突破ありがとうございます
ついでに初めて小説を書いてから地味に一周年……。

今回は電ちゃんです。にしても電ちゃんの話は書きやすいですね

そう言えば、活動報告に書かれたコメントが見れないバグ? が起こっているんですがどうやったら直るのやら……。

追記、活動報告のバグはとある方のアドバイスを受け無事に直りました。


19 駆逐艦・電の日記

 過ぎていく日常。新たな鎮守府での事件。

 九条と出会ってからしばらく経った駆逐艦、電は今ーー

 

 

 

 

 ☆月D日、満天の星空だったのです

 

 

「……………………」

 

 前日の土砂降りで起こった土砂崩れを片付けた日の夜。

 一度寝た私は、とある夢を見て飛び起きました。

 

「タスケル……フザケルナ。キサマハソウイッテミステテイルジャナイカ」

 

 その夢は、傷だらけになった深海棲艦さん。

 沢山。本当に沢山の。

 血を流していて、無事な深海棲艦さんは一人もおらず、私を囲んで恨み言を言う。

 口だけ偽善者、クズ、殺し、お前のせいで、嘘吐き。

 中心にいた私はただ、その言葉の嵐に耳を塞いで地面に座り込んで目を瞑って。

 怖くて、ただ怖くて。でも、逃げたら深海棲艦さんと向き合う事が出来なくなりそうで。

 

 そんな思いで私は必死に耐えている、そんな夢でした。

 

「……ッ! ……ひっぐ」

 

 夢の中で私は逃げませんでした。いえ、ただしくは逃げられませんでした。

 

「ニゲルノカ?」

 

 そんな声が、私を逃げさせてくれませんでした。

 

「ニゲルノカ? ワタシタチヲコロシテ。アンナコトヲイッテオイテ」

 

 その理由は、その通りだったから。

 深海棲艦さんが言っていたのは全て本当だったから。

 沈んだ敵も出来れば助けたい。そんな事を言っておきながら、実際に助けた事はなかったから。

 だから、私は……。

 

「やっぱり……無理ですよね」

 

 気付けばそんな言葉を口にしていたのです。

 

 人間、艦娘、深海棲艦。

 三者三様。それぞれが全く別の知的生物。

 当然、それぞれ別の考えがあり相手と接しています。

 私達、艦娘は人間に味方していますが深海棲艦は人間と艦娘に敵対していて。

 三つの種族がそれぞれに話し合い、平和を保つ。

 私。(いなずま)が目標としている世界。

 目標は分かっています。目指すべき人物も居ます。それなのに、私には何をどうすれば平和を実現出来るのかが分かりません。

 

「なんで……だろ」

 

 沈んだ敵も出来れば助けたい。

 そんな事を私はよく言います。でも、一度だって沈んだ敵を助けた事なんてありません。

 助けたい、と思っても。周りの目が気になって、周りが見ていないか怖くて。助けているところを見られて捨てられるのが嫌で。

 結局は、逃げていました。周りの目を気にして、私はずっと(・・・)見捨てていたのです。

 

「……ぅ」

 

 そう考えていたら、またあの夢が鮮明に脳裏を過ぎりました。

 沢山の深海棲艦さん達が、私の足を掴み腕を掴み。罵倒や恨み言を口にしながら私の四肢を……、

 

「ぁ……ぁ」

 

 深海棲艦の血だまり。

 縋り付くかのように迫る沢山の深海棲艦。

 動けない私。ゾンビのように壊れている身体で私を弄ぶ。

 深海棲艦の一人一人が私に嘘吐き、死ね、口だけ、殺したな? と口々に語りかけてくる。

 

「あ……ぁ……いや」

 

 身体は動かない。既に自由などない。

 あるのはただ、絶望の渦。深海棲艦達の、死の恨み。負の思い。

 真っ暗な世界に一人私は存在し、その周りには今まで私が手に掛けた深海棲艦が。

 夢の世界は正にそうだった。

 

「ぁ……ぇっぐ……ぅっぐ」

 

 知らず知らずのうちに私は泣いていました。

 それが恐怖からくるものなのか、それとも自分が情けないと思ったのか。はたまた、自分の精神を守るためか。

 頭の中には、泣いて誤魔化すのか? という沢山の声が響いて、その声の持ち主が今にも現れそうで。

 そんな不安定な状態でした。

 と、

 その時でした。

 

「電ちゃん……? こんな時間に何を」

「……ひっぐ……えっ?」

 

 九条提督。

 人間として私達を指揮してくれる人で、私が尊敬する人。

 不思議そうに近寄ってきたあの人は、私の顔を見てこちらへと早足で歩いてきました。

 

「……て、てーとく……?」

「…………、」

 

 慌ててゴシゴシと目を擦って涙を拭いたのですが、拭いても拭いても涙は止まりませんでした。

 提督は、ただ。

 分かっているよ、というように優しい表情を浮かべて私の前で立ち止まりました。

 

「ーーえっ?」

 

 次の瞬間、私が感じたのは温もりでした。

 暖かくて、優しくて。さっきまで頭の中で浮かんでいた映像の中に提督が浮かんで。

 ギュッと。

 強くはなく、それでいて弱くもない。強さと優しさを兼ね揃えたような抱擁。

 提督は私を抱き寄せて、呟きました。

 

「……ゴメンな、電ちゃん。悩んでたんだな」

 

 私の勝手な思いなのに。

 深海棲艦さんと人間と艦娘(私達)が仲良く出来る未来を創りたい、と私は自分で考えて、勝手に落ち込んで。

 関係無いのに、それでも提督は私を励ますように抱きしめてくれました。

 

「てい、とく」

 

 顔を上げると、提督は辛そうな表情で私を見つめていました。そしてそのまま提督は私の頭を撫でて、こう言いました。

 

「俺も協力するから。電ちゃんが悩んでいる事の解決策を一緒に考えるから。だから、俺にも手伝わせて欲しい。一人で勝手に悩まないで、一人で突っ走るんじゃなくて。皆で悩もう。少なくとも俺は電ちゃんの味方だから。これから先もずっと。ずっとね」

 

 その時の提督の姿は、提督ではなく九条日向。提督という職業だからじゃなくて、私の目には九条さんが手伝ってくれる。そんなように聞こえました。

 そして九条さんはこう締めくくりました。

 

「だから……もっと頼ってくれ。俺だけじゃない。電ちゃんには一杯仲間が居る。暁も響も雷ちゃんも。大和に金剛に島風、それから間宮さん。皆、皆、電ちゃんの味方だから。だから、一緒に頑張ろう」

 

 何故だか、その言葉は私の胸に響きました。

 

 

 

 

 

 ☆月E日、元気出して頑張るのです!

 

 

 昨日、提督の胸で一杯泣きました。

 これ以上無いくらい、一杯泣いて。涙が枯れるくらい泣いて。

 今日はとてもスッキリと目が覚めたのです。

 

 周りの風景が何時もと違って見えました。何かフィルターを通して見ていたような景色が急にクリアになったような。そんなように思えたのです。

 元気、出てきました。

 深海棲艦さんと、これからはしっかり向き合うつもりです。

 今はまだ助けられないかもしれません。ですが、いつか絶対に共存の道を歩めるように頑張りたいです!

 

 だから、今日も元気で頑張るのです!

 

 

 

 

 

  ☆月F日、提督の節操なし! なのです!

 

 

 朝、提督の悲鳴のような叫び声で私は目を覚ましたのです。

 慌てて司令室へと駆逐艦のみんなと一緒に行ったら……、

 

「ネー、提督ゥ! 触っても良いけどさ、場所を弁えなよ〜!」

「ウソだ……いくら性欲を発散出来ないからって、夜中に無意識のうちに女の子をお持ち帰りするほどの欲求不満だなんて、そんなのウソだーッ!」

 

 うわあ! と提督は頭を抱えてそんな叫び声を上げていました。

 その隣にははだけた服装の金剛さんの姿……。

 その事から予想出来る事は……にゃっ!?

 

「なのでででで提督!? ままままさか!」

「待て! 頼むから待って! 俺はやってないから! 『まだ』やってないから!」

「つまり提督はこれからヤるつもりだったの?」

「ち、違うッ! 断じて違うよ雷ちゃん! それは綾! 言葉の綾だから!」

 

 呼吸が止まりそうな勢いで提督は否定します。その顔は真っ青になっていて、死刑を待つ犯罪者のような。そんな雰囲気でした。

 

「あ……えっと、提督の節操無し!」

「えへへ、提督がそう言うなら私……」

「暁ちゃーん!? 俺は無罪だから! ついでに金剛! 時間と場所を弁えるのはお前だーッ!!」

 

 そう言って提督はゼェゼェハァハァと疲れたように息を吐きました。

 そして窓の外を見上げて、

 

「あーもう! 何つーか不幸だーッ!!」

 

 その言葉を聞いて私は提督のバカーッ!! と叫びたい衝動に駆られたのを覚えています。

 その後、金剛さんが提督の布団に潜り込んだ事が分かり、提督が説教していました。

 ……提督が変態じゃなくて良かったのです。

 

 

 

 

 

 ☆月G日、晴れなのです!

 

 

 

 今日は以前攻略した鎮守府前海域をもう一度攻略したのです。とは言っても敵艦は少なかったので直ぐに終わったのですが。

 さて、今回の作戦の本内容なのですが『監視塔』の建築だそうです。

 何でも、敵艦が来た時の備えだとか。

 

 特に何があるわけではなく建築は終わりました。

 島風ちゃんがやたら楽しそうに海を滑っていたのですが何だったのでしょう?

 ……にしてもあの速さは少し羨ましいのです。

 

 で、監視塔なのですが、普段は妖精さんが居てくれるそうです。

 働き者ですね、提督みたいなのです!

 

 にしても妖精さんは何処から来たのでしょうか?

 良くよく考えれば、私達も何処から生まれたのとかよく分かっていません。

 最近では私達は『建造』することで生み出されているようなのですが……、提督なら何か知っているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 ☆月☆日、……提督はやっぱり、凄い人なのです

 

 

 提督がふらりと、外へ向かったのを見て気になった私は響ちゃんと一緒にコッソリとついて行きました。

 

「こちらスネークではなく響。ターゲットは歩いている、どうぞ」

 

 響ちゃんはどこからかダンボールを取り出すと、その中に入ってトランシーバーのようなモノを使って誰かと会話していました、……スネークって誰なのかな?

 

「ふっふっふーん。ふっふっふーん」

 

 そして九条提督は楽しげに鼻歌を歌っていたのですが、その足が堤防に差し掛かったその時でした。

 

「 久シブリダナ。九条日向」

「ふっふっふー、ん? 久しぶりだね深海棲姫さん。日本語上手くなった?」

「ーーーーーーッ!!」

 

 現れたのは真っ白い人間。いや、深海棲姫。

 それも前に横須賀鎮守府で見た『あの』深海棲姫でした。

 しかし、驚くのはそこではありません。

 

「あげた日記帳どう? 書いてる?」

「マァナ。書クノハ久々ダカラ楽シカッタ」

 

 九条提督(・・・・)深海棲姫(・・・・)とフレンドリーに話している事。それこそが、私にとって最も驚いた事でした。

 

「な……何で深海棲姫が? 電、下がって。私が

「待って響ちゃん! あの深海棲姫さんは前に見たことがあるから、もしかしたら提督の知り合いかもしれないです」

 

 飛び出そうとした響ちゃんを慌てて私は止めました。その理由は邪魔したくなかったから。

 提督が私に見せてくれている可能性(・・・)の邪魔をされたくなかったから。

 私は我儘を言いました。

 

「……少し様子を見る。何かあったら直ぐに向かう、それで納得するなら」

 

 初めて言った我儘に少しだけ響ちゃんは驚いたようにこちらを見ましたが、溜息を吐くとそう言ってくれました。

 

「ちょっと待ってて。飲み物持ってくるよ」

「スマナイナ、頼ム」

 

 そうこうしていると、提督が走って鎮守府の方へと行ってしまいました。

 そして先ほどまで楽しげに話していた深海棲姫さんは表情を凍てつかせました。

 

「出テコイ。分カッテイルゾ」

「「ーーーーッ!?」」

 

 私達に向けられた声。驚きの余り音を立ててしまい、仕方なく私達は姿を見せました。

 最初に感じたのは『恐怖』でもなければ『死の覚悟』でもありませんでした。

 『戸惑い』と『不安』。何故、わざわざ呼び出したのか。呼び出すまでもなく私達を轟沈させられるのに。

 そんな緊張感がジワジワと私達を覆いました。

 

「駆逐艦、電二響カ。覗クナラモウ少シ上手ク隠レルンダナ」

 

 掛けられた声は少し残念そうなモノ。どちらかというと、呆れられた。そんな声でした。

 実力差は、大きい。

 一目で分かります。

 私達が束になったところで勝てないのは。

 だけど私はーー、

 

「あ、あの! 深海棲姫さん……貴女は提督の友達、なのですか?」

「電!」

 

 勇気を振り絞って。

 私はこちらをつまらなそうに見やる深海棲姫さんに声を掛けてみました。

 震えていて、とてもじゃないけど普通じゃない声。だけど、それは私にとって大きな第一歩でした。

 

「ン? アァ、アノ男カ。……ソレヲ聞イテドウスル?」

 

 睨むような鋭い眼光。

 完全に異空間と化したこの場で、深海棲姫さんは私達を『敵』として見ていました。

 感じる威圧に私は思わず後ずさりしそうになって、踏みとどまりました。

 その理由は逃げたくなかったから。ここで逃げたら深海棲艦さんと和解する。それが不可能だと確定してしまう、そんな気がしたから。

 だから私はーー、

 

「わ……私は、深海棲艦さんと戦いたくないのです! あの、えっと。深海棲姫さん! 良かったら私とお友達になって下さいなのです!」

 

 私の精一杯の勇気でした。

 震える身体を踏み留まらせて、何とか絞り出すように伝えられたこの想い。

 深海棲姫さんは私の言葉が予期せぬ言葉だったからか、目で見て分かるほど狼狽えていました。

 

「ワ……私ト、オ前ガ? 私達ハ艦娘と深海棲艦。敵同士ダゾ?」

「それを言えば提督と貴女だって本来は敵同士なのです! 私は……嫌なのです! これ以上争いあうのは! 皆、皆が平和に暮らせる世界にしたいのです! だから……私は」

 

 最後まで言い切る事は出来ませんでした。

 深海棲姫さんがストップを掛けるように手を出したからです。

 凍てつくような眼光で見ていた彼女は、何とも複雑そうな表情を浮かべていました。

 彼女はポツリと言いました。

 

「……考エテオク」

 

 そして彼女は鎮守府の方を見ると私達にこう声を掛けました。

 

「アノ男ヲシッカリ支エテヤルンダナ」

 

 そして彼女は鎮守府の方で飲み物を持って走ってきた九条提督の方へと向かって行きました。

 私の頭の中には先程の彼女の言葉が再生されていました。

 

 これが……第一歩。

 深海棲艦との和解の第一歩です。

 

 まだまだ先は遠そうですが、電は今日も頑張るのです。

 

 


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