満たされない満たされない
私は何をしても満たされない
人を殺しても満たされない
竜を殺しても満たされない
異貌のものどもを殺しても満たされない
人形を殺しても満たされない
だったら・・・何を殺せば私はみたされるのだ
ザードウィの日記より抜粋
意識が浮上する。
瞬間に俺は、僕は、私は・・・。
僅かな頭痛がさらに意識を浮上させる・・・。
・・・身じろきとともに体全体が陽だまりのヌクヌクを雲のように固めた微睡に浸っているのを感じた。
あと三分温かみを、十分で限界で七分で朝食を食べなければ。
普段の生活リズムを思い出しながらいつも通りのすりガラスを通した朝焼けの霧のようなぼやけた視界を一瞬だけ開き時計を探す。
真っ白。
今日は左向きに寝ているのだろうか。転がった体をイメージして状況を思い出す。
目覚まし時計と電気配線の絡まった灰色と黒が無いということはそういうことだろう。眼を瞑り微睡に浸りつつ寝返りを一つ打って、意識レベルを一段上げて今日の予定を思い出す。
仕事・・・平日だったけ・・・。
目覚まし時計とスマートフォンのアラーム二重奏が未だに聞こえないということは今日は幸運な、二度寝ができる日。
普段であればパソコンの駆動音と冷却ファンの温風が奏でる子守唄に耳が反応し、さらに一段意識が覚醒するが、二度寝のために無理やり眼を閉じるところだ、半年ぶりほどにパソコンの電源を落として眠ったらしい。
本当に。
静寂。
キーン・・・と痛いほどの静かすぎる静寂が耳に届き始めて違和感が頭を囁く。
眼を僅かに開いて手を伸ばす。
真っ白。
あれ?とばかりに手を伸ばしても届くのは柔らかな綿の白だけ。
普段なら腕を伸ばし切る前に畳と電気配線にぶち当たり絡まった手が感と感触だけでスマートフォンを探し当てるが普段から朝は重たい腕がいつもよりさらに重く、苦労して意識しながら動かしても見当たらない。
頭が完全に覚醒。
異常を知らせる冷汗が寒さと共に全身を駆け回り、心臓が跳ねて踊る。
そんな時だ。
「****、**************、********?」
(おはようございます。新たなる主様。お目覚めはいかがですか?)
心臓が止まるかと思った。
唐突な音声に心臓が叩かれ、息が止まる。
ゆっくりと状況を脳内整理、確認する。
ここはどこだ。
普段ならば固い畳の寝床が今はフカフカで、全身の感覚が違和感と共に家ではないとういう証拠を提出する。
いまだに眼鏡が無く視界はあいまいだが、家ではないということは理解する。
そして真っ白な状態。柔らかなシーツとふかふかなかけ布団。
ありえない。
家ではない証拠二が提出された。
いつもなら群青の薄い毛布と蒼い座椅子が枕かわり、固い畳が俺の寝床のはず。
「****、********、**********************?」
(新たる主様、おめざめであると判断できます。体調のほうはいかかでしょうか?)
証拠三。
絶対に、そして確実に、完璧に、ありえない女性の声。
俺の人生の中で目覚めと同時に女性の声を聴くのは幼き日の母の声のみ。
一人暮らしを始めてからは、付けたままのパソコンから時折流れっぱなしの、音声ファイルの電子歌声のみだろう。
明確な意志ある声が俺に向けられることは未だかつて一度も・・・悲しいことに無い。
振り向くこと、寝返りを打つことが怖い。
俺は何をどうした?
脳がスパークするような故障した混乱が駆け巡る中、俺は結論を下す。
俺の眼ざめのそばに女性がいるはずなどない!
意を決する。
寝返りをうつ。
僅かな微風が頬を流れる。
ぼやけた視界が急激に鮮明になる。
・・・!
目の前に美女がいた。
人形のように滑らかな乳白色の肌、夜を溶かしたかのように星が輝くような漆黒の髪、結い上げられキッチリと止められた大きな黒い簪、銀月をそのままはめ込んだ目に透き通った鼻筋と紅をそのまま溶かし込んだ柔らかな唇。
美しかった。
あまりにも美しすぎて魅了された。
動けない。
何をどうすればいい?
あまりにも近すぎる美女の女性の美しい整った顔の白い肌の心臓が止まり息が止まり思考が止まる。
「********、*****」
(健康確認をいたします。失礼)
彼女は一言何かを告げるとさらに近づき・・・。
「うぅん・・・!!」
口づけが交わされた。
唇が割られ彼女の舌が僕の口を犯していく。
縮こまる舌が突かれ舐めあげられる。
甘いと思った。
交換される唾液に一瞬の不快感がすぐに快感へとかわり反応できないまま口全体が甘く犯される。
眼が驚きで自然と開き、彼女の葵色の瞳のような宝玉が輝き、視界全体を埋め尽くした。
「*******、*********、*******」
(失礼いたしました。いたって健康です。おはようございます主様)
離れていく赤い桃のような唇に惜しいと思うのは俺だけではないはず。
「あうあああぁ」
何を?なぜ?埋め尽くす疑問を言葉に発する俺だったが。音の連なりにならなかった。
「*****?」
(主様?)
「ええうあぁああ」
舌が回らない、混乱が拍車し頭が不安で潰れていく。
手を喉に、その一動作すら重たい。
一時期、中二病時代に錘をつけて生活していた時と合わせて腕を枕にした後のようなびりびりとした腫れて感触のない腕を併せたようなぎこちなさ。
分厚い毛布越しのような感触が手のひらを通して伝わり異常と不快感を伝える。
「あああぁぁえええああ!?」
さっきまでの快感が吹き飛ぶ。
恐怖。
自分はどうなったのか。
なにがどうなっているのか。
「あああえええええおおお!?!?」
ばたばたと暴れだす体は自由にならない。
恐怖が恐怖を連結させ重さをもってつらなる。
涙があふれ出す。
もがき苦しみそして
「********。*********。*************」
(このような結果になるとは。お許しください主様。ですがご安心ください)
そばに彼女がいたのを思い出すとともに、カシュンと空気の抜ける圧搾音が響く。
瞬間、さっきまでの不安が波のしきさいのごとく当然のように引いていく。
と、同時に、彼女は体重で七十五キロあるはずの俺の上半身を軽々と抱き上げて腕を廻す。
抱きしめてくれた。
「えあ・・・?」
「*********。************。*************」
(おそばに、未来永劫お傍におります。それゆえにお許しください主様)
何を言っているのかわからない。
ただその言葉からは優しさが、廻された腕と柔らかな乳房以上に万感の優しさが伝わってきた。
子供の頃の、いやそれ以前の悪夢に泣いた幼児のころ、母の腕の中で抱きしめられたそんな頃のような優しさが全身を包む。
ああ、涙が。
今度も涙があふれてくる。
「あああ。ああああああああああ。あああああああああああああああ!!!」
抑えることなんてできなかった。
この体の欲求のままに泣きわめく。
冷静な頭は分析する。恥ずかしいと訴えている。
でも涙と声は抑えきれずに彼女の胸の中で叫んでしまった。
それからどれくらいそうしていたのか。
夕日が赤く朱に染めた部屋で、ずぴずぴとまるで豚のように鼻が鳴る。
「あいあおう」
ありがとう。言葉にならない言葉を感謝として伝える。
彼女にも伝わったのか、柔らかな微笑を奇麗に浮かべた彼女はエプロンのポケットからハンカチを取り出し俺の顔をぬぐっていく。
丁寧な所作だけど、俺の顔を万遍なくぬぐう様はどれだけひどい状態なのかを如実に表していて、結構微妙な心境だった。
「********」
(おわりました)
介護士の所作で背に枕を入れられて起こされた俺はようやく部屋を見回す余裕ができた。
窓から差し込む夕焼けの光が朱に染める部屋。真っ白のフカフカのベッドに乗せられた俺、このベッドですら木目の美しい高級品であると普段安物しかしらない俺ですら理解ができる。
さらに室内を見回す、眼鏡が無い今では何もかもが白くすりガラスのごとくぼやけてにじんだ視界であるが、落ち着いた濃厚な色合いから俺の知る普通の部屋ではなく、映像でしか知ることのない高級な部屋だと想像がついた。
そして眼の前にいるメイド。
いや彼女の服装は和式。着物姿だった。ならば侍女というべきだろう。フリルの付いた真っ白のエプロンをつけ、下には蒼い縁が取られた黒服の和装姿。それは侍女と全身で書かれたような姿だった。
彼女は・・・誰だろうか。
この部屋には彼女の存在は違和感なく合っているのだが・・・今の状況に際して存在していい人ではない。
そして自分自身の手を持ち上げるのも苦労する体は・・・白くツルツルだった。
目のそばまで近づけた手にはムダ毛一つない。病的なほどに白い肌は意識することもなかった幼き頃かのように真っ白だった。
さらに髪の毛。千円カットで「短く」が信条の俺の髪はどこかにいってしまい、いまでは母のような長い髪に母とは全く違う。今まで見た誰の髪よりも、失礼、眼の前の彼女の髪と同じくらい奇麗で光り輝く真っ黒な長い髪だった。
「だああ」
誰だこれ?
「************、************」
(お望みの姿であると判断できます。お美しいですよ主様)
何かを言っている彼女、言葉もわからない。
コテンと首をかしげておく。
「***?」
(主様?)
おそらく疑問符だろうか、分からない俺は再度コテンと首をかしげる。
言葉がわかりません。
ここはどこですか?
あなたはだれですか?
私はだれですか?
まともに動かない舌を動かして言葉を紡ぐが母音しか発音できない。
伝わらないことがわかっていながら合えて問う。
しかし、言ってから、記憶喪失のようなフレーズに思わず笑ってしまう。
何が何やらさっぱりだけど、いや、おそらく考えたくないが・・・状況的に・・・転生?いや憑依だろうか。中二病の脳が囁く。
まさかとは思う・・・でも失笑が浮かぶ、いや笑ってしまう。クククと喉がなる。
「***?」
(主様?)
同様のフレーズ、おそらく俺の名前だろうか。
こういう場合ジェスチャーで矢印を作りながら聞いてみる。
「(あなたはだれ?)」
三度コテンと首を傾げる。
彼女の整った顔が、その美しい目が開かれた。気が付いてくれたようだ。
「******、************、***********」
(まさか、そうなのですか、可能性として0.03ありましたが)
彼女は手袋を外すと優しく俺の頬を両手で挟んだ。
じっと俺の眼を見る。
俺もはっきりと見える彼女の顔を眺めた。本当に美人だ。
僅かな時間、彼女の顔を眺めていると何かの確認が終わったのかあっさりと離れてしまった。
もっと見ていたかったが、残念だ。
「**************」
(間違いは無いと判断できます)
彼女は一言告げると彼女自身を指差した。
「カヅノ」
このジェスチャーで一言これは名前だろうか。
力の入らない役立たず二歩手前の腕を必死にあげて彼女を指す。
「アウオ?」
「Jud. 鹿角***」
(Jud. 鹿角 です)
俺がうまく発音できていないが、彼女は察してくれたようで、そうだとばかりに頷いた。
カヅノさんか、日本的な響きで美人な名前だ。漢字だと葛野または鹿角、名前なら後者だろうか。
彼女の名前がわかったら今度は俺だろう。
自分に指を向けて名前を言う。
「ウウ。ウゥ!ウウ!」
夕、夢野夕と自分の名前を言えないこの悲しさ。
「ウゥウ**・・・・******、******ユウ*****。ユウ?」
(うう様・・・・いえ検索するに、東方名と判断。新しい名前はユウ様でしょうか。ユウ?)
すごい!五十音の中から一発で当てた。
うれしくなって首をぶんぶんと縦に振る。
犬の喜びを尻尾であらわすかのようにぶんぶんと振ってしまう。
無表情だった彼女も微笑みを浮かべる。
「ユウ様」
「アウオ!」
互いに名前を呼びあえるうれしさはなんと素晴らしいことか。
笑みを浮かべあって意志を交換する。ああ、長い道のりだった。
そんななんでもない楽しいやりとりをいつまでも続けていたかったがそうはいかなかった。
グゥー。
二人の声のキャッチボールばかりだった部屋に、緊張感のない、ある種漫画的な音が響き渡る。
どこから出たかは一目瞭然。咄嗟に腹をおさえてしまう。
鹿角さんは笑うことなくジェスチャーをしてくれた。
食べる動作とドアを指しての矢印。
ご飯を持ってきてくれるのだろう。
俺は熱くなった顔を隠すように頷いて答える。
鹿角さんは見本のような無駄のない一礼をして部屋を出て行った。
一人・・・。
火照った顔をため息一つで熱を吐きだし回想する。
記憶の繋がりを探す。
そしてすぐに思い出す、イメージがフラッシュバックし・・・背筋を寒気が走り知らず体を抱きしめる。
そう、俺はあの事故で死んだはず。
わずかな怒りがぐつぐつと煮えたぎって沸き立つがそれ以上に恐怖があった。
だが、今はそれらを抑え込んで押しとどめる。
手をかざす、じっと眺める。
幼い子供の手。ぺたりと触る顔はまだらに生えていた無精髭などなくツルツルもち肌。
そして、寝台を這いずり苦労しながら近づいた窓ガラスに映るのは・・・。
「(美少女?)」
長い髪を垂らした戸惑った表情を浮かべた美少女だった。
「へ?」
鹿角さんを絶世の美女とするならそれに勝るとも劣ることのない美少女だった。
フリーズ。
手がそろそろと探るように下に伸びる・・・。
ついてた。
安堵の溜息が長々と出る。
結論を言うべきだろうか・・・俺はこの美少年に憑依したらしい。
喜ぶべきなのだろう。
こんな美少女、もとい美少年になれたこと、そもそも死なずに?済んだことを。
意識の断絶、記憶の消去は死と同一、そのことを意識している俺としては現状は幸いと言えた。
ひとまずの結論を脳内可決。
つづいての議題は現在の立ち位置。
この体のこと。この体の両親。お約束な剣と魔法のファンタジー世界なのかどうかなどなど考えるべきこと、知るべきことは山のようにある。
ただ少なくともこのまま放り棄てられることは彼女、鹿角さんの様子から伺いしれた。
そんなことを考えていると部屋全体にコンコンと扉をノックする音が鳴り響く。
分かっていたことだが、びっくりと体が跳ねた。
「***************」
(失礼します)
こちらの合図も待たず乱れひとつない完璧な侍女服の鹿角さんが入ってきた。
ワゴンだろうか明かりに照らされた猫のように目を細めてみると銀色のカートと丸い物体を乗せたものを押しながら彼女は入ってきた。
「**************、***********」
(遅くなり申し訳ありません、夕食でございます)
一礼してベッドに備え付けられた机の上に広げられた料理の数々はフランス料理のフルコースを思わせるものだった。
色とりどりの料理とそれらが放つ香りは味覚を刺激してやまずこの小さな体を直撃した。
「**********」
(どうぞお召し上がりください)
ともかく腹が満たされなければどうしようもない。食事をすべきだろう。
寝台に備え付けられたテーブルが引き出され料理が並べられていく。
ホカホカと湯気が上がる料理の数々にどんどんと欲求が高まっていく。
そんなわけで、まともに見えない視界のなかでなんとかフォークとナイフを持とうとするが・・・・。
ポトリ。
持てない。布団の上に落としてしまった。
もう一度つかもうとするが・・・。
ポトリ。
「あう・・・」
項垂れた子犬の鳴き声のような情けない声が出た。
遊んでいるわけではない。本気で持てないのだ。
箸より重たいものを持ったことが無いどころの話ではない。
指が反応しないプルプルと軟体生物のごとく震えるばかりだ。
どうしよう。
彼女を見る。せっかくの料理を食べようとせずフォークを落とすなんて怒らないだろうか?
しかし、彼女は無表情だった、いやわずかに震えている?
やっぱり怒っているのだろうか?と思っていると。
彼女は落ちたフォークとナイフを拾い上げ、片づけると、予備のものを持ち出し料理を切り始めた。
そして、
「**********」
(どうぞ主様)
微笑を浮かべながら何かの切り身をフォークに突き刺して手をかざしながら俺の口元に持ってきた。
え?
「アーン**、****」
(あーんです、主様)
彼女がアーンと口をあけて差し出しくる。
これはあれか、この世界でもあるのか、伝説の幻のアーンが。
どうしようか、答えは最初から出ていたのですこし躊躇いながらも自然と俺の口が開く。
「あーー」
フォークがしっかりとしかし慎重に自分の口に差し込まれパクリと口を閉じる。
抜き出されたそれには何もついてはいなかった。
もくもくと口を動かして咀嚼する、魚のフライだろうか。
うまい。
こくりと飲み込むと自然と顔がほころんだ。
「***************」
(次はミノリ草のスープに御座います)
次はスープだった。
今度は躊躇い少なくあーんとひな鳥のごとく口を開く。
どうやったのか、熱すぎず、かといって冷めていないスープが口を満たす。
これも美味しい。程よいとろみと塩加減のスープは今までの中で最高ランクかもしれない。
もっと欲しい。
知らず知らず口が開いていた。
彼女は嫌な顔せず、むしろ楽しそうに料理を運んでくれた。
ゆっくりと料理名らしきものを口にしながら次々に料理が減っていく。
どれもこれもが美味しく、嫌いなはずの繊維質の野菜料理ですら不思議と口に入れば美味しく感じられた。
満腹。
この小さな体のどこに入るのかというほどに全ての料理は消えてなくなった。
「(御馳走様、ありがとう)」
ぼやけた言葉であり、なおかつ正確に発音できたところで鹿角さんが理解できないであろうが感謝を述べた。
「Jud.*********」
(Jud.お粗末様です)
それでも彼女は察してくれたのか一礼をしてから何かしらの言葉を述べた。
さてここからである。
夕刻も過ぎ黄昏と染まった部屋の中、俺と鹿角さんの二人っきり。
聞くべきことを聞かなくてはならないがどうやって聞くべきか。
簡単な動作であるならばジェスチャーでなんとかなるのだが、両親のこと、この体の事などどうやって問答すればいいのか。
問題として鹿角さんと言語そのものが違うのだ。
英語でもないしニュアンス的にドイツ語でもない、中国語韓国語は絶対に違う。
他の言語の可能性は俺が知らないからさっぱりだ。
さっきのように意志が通じても長々説明されたところで俺が理解できない。
本当に困ってしまった。
そうやってウンウン唸っていると鹿角さんは俺の傍にやってきて、ベッドに腰掛けると俺の頭を優しくその柔らかな掌で抱きしめるように撫でていく。
「***********、************」
(お悩みになる必要はございません。主様はこの屋敷で穏やかにお過ごしいただければよいのです)
カシュンとまたあの音が響く。
と同時にゆったりとした優しい所作に眠気が一気に押し寄せてくる。
鹿角さんに介護されながら寝台に潜り込んでいく。
さっきまで、日の光から計算するに昼前まで寝ていたはずの体は急速に眠りを欲し始めていた。
まぁどうでもいいか。
俺は持ち前の短絡的思考から、そう考えた。
すくなくとも鹿角さんは俺に悪意や、害意はないようだし。
いずれこの体の両親とか現れるだろう。
それまで過ごせばおのずと答えが出るはずだ。
俺は眠気が誘うままに夢に堕ちていった。
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鹿角は戸惑っていた。もっとも可能性の低い結果が引き当てられてしまったからだ。
だが、それは彼女と彼女たち自動人形にとって幸運とも呼べるもだった。
あの主より主が幸いな可能性を引き出してくれることを期待できたからだ。
期待・・・自動人形の身であるまじきそれ。
だが願わずにいられなかった。
それが鹿角の望であったからだ。
ただ、思うことは新たな主の所作だった。
あまりにも、そうあまりにも保護欲、自動人形搭載の疑似母性回路が働くあの姿は
狙ったものか、または所謂素なのか・・・。
もしそうだったなら。
鹿角は微笑みをうかべた。
全ての自動人形に幸あれ。
自動人形は会話する。
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