第六十七話 不死の結晶への道
二度目の金ゴーレム戦、今回手に持つ武器は棘の直剣。
最下層で手に入れたこいつは棘の騎士が所有していた物で、その名の通り刀身に無数の棘が張り付いていて斬れ味が悪い。
元々、出血を目的とした物だから斬れ味は二の次なのだろう、今回はそれを利用する。
この歪な直剣を捩込む事で、ゴーレムの内部に細かい傷を付ける事が出来る。
そこを基点に、脆くなった結晶を大型武器でぶん殴る事でゴーレムを破壊するつもりだ。
棘の直剣にエンチャントを施し、結晶を纏わせる。
のっそりとした動きで此方に振り向くゴーレムの胸目掛けて、突進の一突きを放つ。
居合い斬りの容量で右足を踏み込み、相手の懐に飛び込む。その際、トップスピードに乗った頃合いを見て更にもう一度左足で地面を蹴る。
二段階の加速、鈍重な動きのゴーレムは俺の事を瞬間的に見失い、動きを止める。
加速と結晶の力を加算された直剣は見事ゴーレムの身体に突き刺さり、その全身に大きなヒビを入れる。
そのチャンスを逃しはしない、瞬時に背中の大剣を引き抜き、ヒビの入ったゴーレムの胴体を横殴りに叩きつける。
甲高い音と共に粉砕されたゴーレムの中から人質が解放される。
同じ玉ねぎの鎧を着込んでいたが、どうやらジークマイヤーでは無さそうだ。彼とは、立ち居振る舞いや気配が若干違っていた。
話を聞くと、どうやら目の前の玉ねぎの鎧の中身は彼の娘らしく、ジークリンデと名乗っていた。
彼女はジークマイヤーを探しロードランまで足を運んだと言う。
彼女はあちこち動き回らず、じっとして居て欲しいですと父親に対して愚痴をこぼしながらも俺に礼を言って、祭祀場まで帰っていった。
庭に生えている木々を利用しながら、ゴーレム達の間を縫うように抜けて行き、結晶洞窟に到達する。
結晶で出来た天然の橋の上にいるゴーレムを前回のようにハルバードで爆破する。
そのまま下に降りて行こうとした際に、何時もの不快感に襲われる。
俺の正面に現れた闇霊は美しい大剣を背負ったローガンのような男だった。
彼の服装に身を包んだ彼は左手に杖を構え、結晶の塊を展開し始める。
彼の大剣に気をやる暇もなく、彼は俺に向かってきた。
ーマジックカーニバルです、派手に行きましょうー
彼はそう言いながら、結晶の槍を放ち出した。
結晶魔術の弾幕、更には彼の杖から放たれる閃光、それはシースの吐く吐息と同じだった。
左右に転がりながら避けていたのだが……。
彼の魔術は尽きる事を知らず、次々に結晶の魔術を放ち、弾幕を張ってくる。
いい加減、相手に付き合ってやるのも飽きてきた。
結晶の力を宿した魔術は、その性質をも共に引き継いでいる、つまりだ。
ハルバードを構え、飛来する結晶の魔術を焼き払いながら彼に接近する。
性質を引き継ぐと言うことは、弱点をも引き継ぐと言うことだ。
次々焼き尽くされてゆく弾幕を見ながらも、彼は大剣を構え魔力を込めてゆく。
ーま、まだです。まだ終わりませんよ、私のマジックカーニバルはー
その隙を突き、彼の懐に飛び込む。
彼は臨界まで込められた魔力を刃に載せて横薙ぎに振るう。
大振りの一閃を左手の盾でパリィする。
弾かれた刃の軌跡にそって、魔力が光波となり射出されていった。 あの光波はあの大剣の力による物だろう。
闇霊の肩を掴み、腰の片手剣で心臓を貫く。
完全な固定砲台型だった為か、彼は抵抗も無く消えていった。
先ほどの光波の着弾点には白竜シースの作品、月光蝶が居たのだが、一撃で粉砕されている。
ーとんでも無い代物だな…ー
道なりに結晶の橋を渡って行く、辺りには雪もちらつき始め、魅了されそうなほど神秘的な光景となっている。
順調に進んでいたのだが、月光蝶の残骸付近で道は途切れ、先にすすめなくなってしまった。
向こう岸には今までのゴーレムの三倍はあろうかというサイズのゴーレムが佇んでいる。
しかし、今の俺にはあそこまで至る方法は無く、立ち往生するしか無かった。
引き返すか、そう思い踵を返した時に雪に気が付いた。
先ほどから降っていたが、それのおかげで道を発見できた。目の前に見えるのは透明な橋、その縁に雪が積もり、視認出来るようになっていた。
不可視の橋を渡り向こう岸にたどり着く。
巨大なゴーレム相手に近接戦はあり得ない、やるなら魔術の一撃。
杖を取り出し、周囲に結晶の塊を展開し、結晶の槍をゴーレムに放つ。
放たれた槍は一撃でゴーレムの全身にヒビを入れる。
ゴーレムが動き出したと同時に接近し、結晶の塊を射出する。
結晶の弾丸は、ヒビの入った身体を粉砕し尽くし、その威力をまざまざと見せつける。
杖をしまった俺は、奥から漂ってくる結晶の魔力に向かって足を進めるのだった。
お ま け 不死の英雄外伝 〜 闇の落とし子 〜
第8戦 お い わ い
まったく……、師匠のワガママも困ったもんだ。
何が月光蝶の花の蜜が飲んでみたいだ、自分で行きゃあ良いじゃねぇか。
修行のついでだか何だかしらねぇが、わざわざ俺に行かせやがって。
ーで? テメェは何時まで俺に着いてくるんだよ、いい加減どっか行きやがれー
ー……それはコッチの台詞、貴方が私に着いてきているのー
ー大体、私は貴方のような野蛮な人嫌いだから、早くどっか行ってー
森に入った時に出くわした女、名前はビアトリスだったな、無口で根暗な女だ。
弱いもんイジメみてぇな装備をした闇霊をいたぶってた時に現れたんだが、第一声が野蛮人だと? 人に喧嘩売ってんのかよ。
つか、さっきから此奴は俺に毒しか吐かねぇ、怒りを通り越して疲れてきた。
しかも、一通り毒を吐いたら一気に黙りやがる、無口なのか饒舌なのかどっちかにしろよ、隠れてる樹人もじゃんじゃん起こしやがるしよぉ。
ー…………あっー
ーあん? 如何したんだよー
ー…………後、宜しくー
ーはあ? 何言って……ー
そう言って俺の後ろに隠れたビアトリスは目の前を指差した。
視線を指の先に向け絶句する。
この辺りに石の騎士が居ることは知っていた。
だから、この女がそれを起動させたに違いないと思っていたのだが…………赤い。
赤いのだ、石の騎士が。
何時の間にか、墓王の眷属が俺の世界を盛大にお祝いしてくれやがったようだ。
一体ならどうと言うことはない、一体なら。
数は三、それら全てが起動している。
ー…………よ、宜しくー
ー覚えてろよ、クソアマァ‼︎ー