不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

4 / 134
不死の英雄伝 4

第四話 ロードラン

 

目の前の騎士の話を要約すると、自分は心が折れてしまった。だから変わりに自分の使命を託せる者を探していた。

身勝手な話だがどうか私の代わりに使命を果たしてはくれないだろうか?

 

と言うものである

 

 

正直な話俺は断りたかった。こんな化け物どもが跋扈する世界で使命だなんだと気にしている余裕が無い。

 

 

一刻も早く安全な場所で暮らしたかった。だがそうすると俺はいずれ亡者に成り果てる。

 

 

騎士の話によると俺たちは不死人と呼ばれる者らしい。不死人はやがては考える機能が無くなり亡者に成り果てる定めなのだという。

 

 

そしてここは不死院と呼ばれ不死を隔離する場所らしい。そうする事で亡者になる不死を人の世から切り離すのだとか。

 

しかし、なかにはここから脱出する不死も居てそいつらはやがて”ロードラン”と呼ばれる地に向かい古い王達へ巡礼が許されるのだと。

 

 

始まりの火、最初の死者ニト、魔女イザリスとその娘達、太陽の光の王グウィン、誰も知らぬ小人、ウロコの無い古竜、そしてソウルと呼ばれる力

 

 

様々な話を聞き俺は彼の頼みを聞く事にした。

 

 

ただ生きているだけではいずれ亡者へと成り果ててしまう。そんなのは御免だ。

 

だったら使命でも何でもいい、戦う理由、生きる理由が欲しかった。それが例え他人から与えられたものであってもだ。正気を保っていられる様に。俺が俺で有る為に。

 

 

その旨を彼に伝えると。安心したといい不死の宝だと言うエスト瓶を貰った。

 

 

これは篝火に触れるとエストが溜まりそれを飲むことで傷を癒す物だそうだ。

 

 

俺は彼に一礼し先に進む。後ろで彼が倒れる音がしたが振り向かない、彼の遺言でもあった。

 

亡者となり君を襲いたくは無いと、だから振り向かない。

 

 

嫌々ながらに譲り受けた使命だがこうなるともう後戻り出来ない。彼の命を背負った事になったからだ。

 

 

階段の上の亡者を処理し先に進む。次から次に襲ってくるが奴らの武器は折れてボロボロになった剣だけだ、こっちには盾も剣もあるそうそう遅れは取らない筈だ

 

 

危なげなく亡者達を倒した後に目の前の霧を見る。

 

位置的にここはあのデカ物がいる場所だ。

 

剣と盾は有るが果たして自分は戦えるのだろうか?いや、弱気になってはダメだ。これからはこのデカ物よりもはるかに強いデーモンが待ち構えているのだろう。だったらこいつにビビっていてはいけない。

 

 

一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

 

そうして霧を越えた先はあのデカ物が始めに立っていた場所だった

 

 

眼下にはデカ物がこちらを見上げ吠えていた。そうなるとこいつにビビっていた気持ちは不思議となくなって行き闘争心がふつふつと湧き上がって来た。

 

 

さっきはよくも好き放題やってくれたな。今度は俺がお前を好き放題する番だ。三度目の正直という奴だ。俺が上で貴様が下だ。

 

 

俺は足場から飛び降り奴の頭に剣を突き刺した。頭部への攻撃は流石に効いたようで奴も悲鳴を上げている。

 

 

だが油断してはならない。図体がデカイ所為か致命打には届かなかったようだった。

 

しかし、この剣は奴に対して有効打を与える事が出来ると分かった。後は立ち向かって勝つだけだ。

 

 

脳天の一撃が余程頭に来たのか、奴は力任せに大鎚を振り回し始めた。咄嗟に盾を構えるが盾ごと弾き飛ばされた。

 

 

無謀ではあったが腕が痺れているのと壁で背中を強打した事以外は平気だった、寧ろそのおかげで奴との距離が取れた。

 

落ち着いて見て見ると動きも単調でフェイントなどは全く考えて居ないようだ。

 

 

俺は奴の目の前まで出て行って、かかって来いと手招きして挑発する。予想通り奴は怒りに任せ真っ直ぐに俺に大鎚を振り下ろして来た。

 

 

直線的な攻撃だったので斜め前に転がり奴の股下から斬り上げる。肉を切る感触と血の噴き出す音が生々しく今からでも逃げ出したい感覚に襲われたが、その感情を押し殺しすぐさま奴の後ろに抜ける。

 

奴は股下を大鎚で薙ぎ払っていた。その隙に背後から奴の足を斬りつける。この動きを二度三度と俺は繰り返していた。そうする内に奴が翼を使い宙に浮く、どうやら俺を探しているらしい。

 

 

周りを見渡し俺を見つけた奴はそのまま俺を踏み潰すつもりのようだ。

 

 

だがそんなもの貰ってやるわけにはいかないので奴のそばから離れ落ちて来た瞬間にダッシュしながら思いっきり斬りつけた。

 

 

その後の事はよく覚えていない。

気が付いたら奴は消えていて

俺の中に何かが溜まっていて

目の前には鍵が落ちていた

 

 

奴は何処に行った?あの鍵は本物か?もしかしたら床が抜けるんじゃないか?だってそうだろ、俺が一人であんな奴を倒せる訳が無いだろ?

 

 

緊張感が切れたからか身体に力が入らない。

 

 

フラフラと鍵を手に取って扉を開ける。

 

 

鍵が開いた事からこれは本物の鍵で有るということが分かった。それと同時にようやく実感が湧いた

 

 

俺はあのデカ物を倒したんだ。

 

 

特別な力も、伝説の聖剣も使わずに、自分の力だけで勝ったんだ。

 

 

そう思ったら涙が溢れて来て、恥も外聞もなく大声を上げて泣き崩れた。

 

嬉しかったのだ、何の取り柄も無かった自分がちっぽけな知恵と勇気を振り絞って強敵に勝てた事に、強がっていても内心ではいつもビクビクしていた自分が堂々と戦えていた事が、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

恐らく俺が生まれ変わったのはこの瞬間だったのだろう

 

 

もう逃げないどんな事にでも全力だ。

 

 

例えその所為で力尽きても、今までの自分よりは遙かに成長出来るはずだから。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。