後何話掛かるのかな(白目)
第三十六話 センの古城
彼女は途中で目が覚めたようで、背負われて居る事に気が付き、申し訳無さそうに謝っていた。
-すみません…、もう、大丈夫です-
彼女には短く、そうか。と返して背中から降ろしてやる。
あまり顔色が良くは無かったが、彼女も気丈に振舞おうとして居るのは分かった。
こういう時はその意を汲んでやる事が大切だ、変に慰めたりすると余計に気にしてしまうしな。
本来なら、こっちが明るく振舞ってあげて気を紛らわしてやるべきなんだろうけど、俺は口下手だからどうにもやり辛い。
祭祀場までの帰り道に途切れ途切れになりながらも他愛のない話を重ねて行く。
不死院を出た時の話、黒騎士との初遭遇の時の話、牛頭のデーモンとの戦いの話、今の俺には旅の話をしてやる事しか出来ず、脚色したり冗談を交えながら話をして行った。
話の種が尽きる頃に祭祀場に到着し、彼女と別れる。
-お気遣い、感謝致します-
-有り難う御座いました-
-貴方の旅路に炎の導きのあらんことを-
彼女は祈りの言葉を口にし、深々とお辞儀をして居た。
俺はそのまま彼女に振り返らず、後ろ手で手を振りながら不死教会に向かった。
センの古城に向かう前の寄り道として、俺は太陽の祭壇の前に来ていた。
祭壇に太陽賛美をした後に目的の物に視線を向ける。
黒騎士の大剣
俺が前に黒騎士を倒した際の戦利品だったのだが、刺さったままとなり一ミリも動かす事が出来ず放置していたものだ。
以前は抜く事が出来なかったがアレから俺も成長している。
柄を両手で握り、一度押し込んでから全身の力を使って引っこ抜く。今回は案外すんなりと抜く事ができた為に少しよろけてしまった。
それは両手で握ってようやく振るえる重さだった。
二度三度と刃を振るってみるが何とか実戦で使えそうだった。
コレを引き抜きに来た理由はあの放浪者だ。
クラーグの魔剣の時のように、彼にこれを持って行かれては困るから今回抜きに来た。
パッチは彼に指示された上で聖女達を襲ったと白状していた。
それは、いずれ生身の彼と出会う事を意味しているように思えてならなかった。
クラーグの持っていた魔剣にしても、彼の手に入れた物は俺の世界に居た彼女の物だったのだろうな。
彼にはもう三度も侵入されている事から、俺と彼の世界は非常に近い位置に有るのだろう。
だとすると、いずれソラール達のように生身で出会う事になる筈だ。
彼奴は、どうにも俺の鏡映しにしか思えない。
彼もきっとそう思っているに違いない。だから奴は俺が気に入らないんだろう、そして逆もまた然り。
人は誰とでも分かり合えると言うが、奴とだけは何があっても分かり合えそう無いな。
用事が終わり、古城の前の篝火に触れている。
下の階からは金槌を振るう音が聞こえている。
地下墓地では炎の鍛治師によってハルバードが生まれ変わったため、鍛治師の力を思い知らされたのだが、一つ問題があったのだ。
それはエンチャントが掛けられない事だ、大した事じゃ無いと思われるが、手軽に斬れ味を上げられる代物だ。
刃が通らない相手もすんなり斬れるようになるのだから、それが使えないと言うのは厳しい物になってしまう。
ともかく、一旦下の鍛治師に話を聞いてみるか。
いかにも、と言った風貌の男が剣を叩いている。
彼はアストラのアンドレイと名乗っていた。
彼は武器に別の性質を付ける事の出来る鍛治師では無いようだ。その為の種火があれば別だそうだが。
今回は変質強化を求めている訳では無いため、特に問題は無かった。
ありったけのソウルを使い、装備品を全て可能な限り強化して貰う。これからの旅は何時も以上に厳しくなって行くだろう、何時迄も無強化のままではいられない。
一通り強化して貰った後に今度こそ古城に足を踏み入れる。
センの古城。
王都アノール・ロンドへ向かう為の道、英雄の墓場。数多くの使命者達が王都を目指しながらも力尽きた場所。
本当の意味での不死の使命は今ここから始まったのだ。
ここまでの道中は言わば前座、開幕前の舞台挨拶。
ここから、俺の舞台が始まるのだ。
今まではただ流されるままに鐘を鳴らしていたが、フラムトの言う呪いの浄化が可能ならば、多くの不死を救う事が出来るのならば。
だからこそ、彼の話に乗ったのだ。
今でも、俺にはそんな大役が演じられる程の器があるのか分からない。
だがしかし、不死の勇者と言う役割りが決まってしまった以上やるしか無い。
俺と言う役者に何処まで勇者と言う役目が務まるのかは分からないけどな。
自分に走破出来るのか? などは最早考えない。
俺のやれる事を全て出し尽くし攻略して行くだけだ。
シェークスピアのような悲劇にはさせ無い。
目指すのは喜劇なんだからさ。
さあ開幕だ。
タイトルは不死の英雄伝と言ったところかな?