ですので火炎壺を投げたり、糞団子を投げつけたりしないで下さい。
第二十一話 ソルロンドの聖女
音送り。
魔力と共にソウルを撃ち出し音を立てて敵を誘導する魔法。
若干のソウルを帯びているそれは、亡者達の意識を釘付けにする。
俺は盗賊達が潜む民家の前に音送りを放つ。
笑い声に似た音を立ててソウルの塊が地面に着弾する。
盗賊達は民家の扉を蹴り開けて、こちらを見向きもせず地面に残るソウルの残滓へ向かっていく。
隙だらけの彼らの背中にソウルの矢を放って行き、一人づつ仕留めて行く。
魔力で編まれたソウルの矢は盗賊達の背中に着弾すると同時に炸裂し、その命を奪って行った。
エンチャントの切れてしまった剣を鞘に仕舞いながら、倒した盗賊達の腰に付いているナイフを失敬しつつ、盾の裏に貼り付けていく。
一人五本か、十分だな。
奥に進むと二体の野良犬が視界に映る。
俺が音送りを放つ前に彼等が飛び掛かり、魔術の使用を妨害する。
こちらの喉笛を切り裂こうとする彼等の爪を後ろに転がりこむように避ける。
それと同時に盾の裏からナイフを取り出し彼等の額に目掛けて投擲する。
彼等の着地と共に吸い込まれるように刺さったナイフは野良犬達の命を奪う。
投げたナイフを回収し視線を先へと向かわせる。
先ほどと同じような民家の並びと狭い通路。
犬だけでは終わりそうに無いな。
恐らくまた民家の中に盗賊が居て、こちらの様子を伺っているのだろう。
試しに音送りを使って確認すると、案の定中から盗賊達がぞろぞろと現れる。
盾の裏のナイフを取り出し彼等の頭を目掛けて投擲して行く。
一人だけ外してしまいこちらに気付かれるが、他の二人は問題無く処理出来た。
ある程度距離が離れているからか、向こうもナイフを投擲しこちらに応戦する。
まっすぐと急所を狙って投げられたナイフを盾で防ぐ。
その際に弾かれたナイフを空中で掴み、まっすぐ相手の心臓目掛けて投げ返す。
矢のような速度で放たれたナイフは深々と彼の胸に突き刺さり絶命する。
やはり、ナイフがあるだけでも戦いがだいぶ楽になるな。
魔術には発動までのタメがあり、素早い相手には先手を打つか不意を突くなどしなければ当てるのが難しく、逆にその隙を突かれる事もある。
それをカバーするためにナイフを使うのは中々に都合が良かったのだ。
ナイフを手の内でくるくると弄びながらそんな事を考えていると、この先の突き当たりに霧を発見した。
山羊頭のデーモン。
ここ最近何処からか流れ着いて来たという話で、身の丈程もある大鉈を振り回し動きも機敏だと言う。
腰の剣を抜き、エンチャントを施す。
魔力により斬れ味を高められた剣はその刀身を蒼く光らせる。
魔剣のようにその存在感を示す剣を携え霧を越えて行く。
自分の縄張りに無断で侵入した者に反応したのか、山羊頭のデーモンは両手に持つ大鉈をすぐさま振り下ろしてきた。
それに合わせて彼の両脇から飼い犬であろう犬がこちらに飛び掛かって来る。
迫る凶刃を左に避けて飼い犬達を剣で斬り捨てる。
飼い犬を殺され、怒りの咆哮を上げるデーモン。
両手の大鉈を感情のままに振り回し俺を叩き潰さんとする。
その一撃一撃を丁寧に避けていき反撃の機会を伺う。
中々当たらない事に彼は業を煮やし大振りの一撃を振り下ろす。
直ぐに訪れた反撃の機会を逃さないように振り下ろされた一撃に合わせ、最小の動きで身を逸らし彼の両手首を刎ねる。
魔法の力で強化された剣は強靭なデーモンの肉体をものともせず刃を通していく。
手首を刎ねられた彼は、怒りの感情よりも恐怖に襲われたようで怯えながら後退して行く。
抵抗しなくなった彼に身を低くしながら接近し、今度は両足を刎ねていく。
ずるりと前のめりに倒れ、動く事の出来なくなったデーモンの首を最後に刎ね飛ばす。
無抵抗の敵をいたぶるような戦い方に後味のよく無いものを残すが直ぐに思考を切り替え、彼の落とした鍵を拾う。
最下層。
地の底にある病み村へと通じる場所で下水道のような造りになっているらしい。
中には人を襲う犬ネズミが居て彼らの歯には毒が付いていて、その対策を忘れると悲惨な目にあうとの事。
俺は最下層の扉の前に立って居たが、毒への対策など色々と準備が足りないので一旦祭祀場まで戻る事にした。
その道中の水路で新たな商人と出会った。
彼女はどうやらこの先の旅に必要な解毒剤のようなものを売っているようだった。
丁度良かったので、毒消しの苔と花の咲いた苔を有る程度購入し、ついでに毒の塗られたナイフも10本ほど購入する。
今俺の居る水路は祭祀場から不死街へ渡った際に通った道だ。
あの時は途中に鍵の掛かった柵があり、奥までは進め無かったが、今回は反対側からなので鍵を開けて祭祀場からも下層に来れるようにする。
祭祀場に戻り篝火に触れて疲労を取ろうとした時に何やら見慣れない人達が居るのを発見した。
近くに居た心の折れた戦士に聞くとソルロンドと呼ばれる場所の聖女様とその護衛らしい。
そう言えば、以前ペトルスが人を待ってると言っていたような気がしたので、試しに聞きに行く事にする。
俺は話を聞いてものの数分で後悔した。
聞きたいことは聞けたのだが余談が長すぎる…。
元々ペトルスはあの聖女の教育係だったらしく今回の旅も彼女達の巡礼の旅の下見に来ていたそうだ。
だが、この話の後のペトルスの口は回る回る。
あの娘は昔はお転婆でそれはそれは手のかかる娘だっただの、勝手に屋敷を抜け出して街じゅうあちこちを探し回されただの、好き嫌いが多くそれをあの手この手で克服させただの。
何時もの胡散臭さは鳴りを潜めうちの子自慢に変わってから早三時間。
しかも、元教育係は伊達では無いようで、タチの悪い事に話をしっかり聞いてやらないとまた同じ話がループするのだ。
いい加減最下層に向かわせてくれよ……。
このお話のペトルスは、お転婆だったレア様を若き日の彼が苦労しながら教育して居た所為かこんなんなりました。
どうしよう?