今更か……。
第百三十一話 因縁の終わり
迫る墓王の大剣、その奥に見える放浪者の表情は喜びを隠しきれて居なかった。
先ほどの絶叫にも似た勝利宣言で、彼が俺に抱いていた思いが伝わって来た。
このままでは確かに俺の敗北だろう。
しかし、しかしだ。
彼は一つ忘れている。
誰もが奇妙奇天烈と渾名する俺の十八番を。
今正に首を落とそうするその刃に向かって、左手に隠していた”呪術の火”を向けて黒炎を放つ。
この火は嘗て最下層で大沼のラレンティウスから分け与えられたもの。
その時には魔術を習得していた為、長らくお蔵入りとなっていた代物だったが、そのお陰で彼の不意を突く事が出来た。
勝利を確信していた表情から一転、彼は驚愕を隠せず、思考が停止しているようだ。
彼が驚愕している間に俺を貫いていた幻影の刃は消え去り、身体の自由が復活する。
そこで彼は漸く思考力が回復したようで、左手を俺に突き付けている。
恐らく大発火だろうが、他の呪術の可能性もある為油断は出来ない。
今の俺は徒手空拳、ソウルから武器を取り出すより先に呪術を放つ事が出来る。
などと思っているなら大間違いだ、俺にはもう一つ武器が残っている。
その場で一回転し、首を振る。
腰まで伸びた俺の銀の長髪。
それを鞭のように振るって彼の顔に向かって叩きつけた。
この一撃は完全に彼の意識の外にあったのだろう、碌に回避も出来ずに目を潰される。
彼はそれによって目を瞑る。
そして、俺はその一瞬を狙っていたんだ‼︎
その隙を突いて、髪の中に縛り付けていた暗銀の残滅を引き抜き、彼の心臓に突き立てる。
心臓に突き刺した暗銀の残滅を捻り、彼の心臓を完全に潰す。
ーチェックメイト、だな…ー
ー俺の勝ちだー
ー…………ち〜くしょうー
ー勝ちたかったなぁ……ー
血の塊を吐き出した彼から暗銀の残滅を引き抜き、彼の最期の言葉に耳を傾ける。
ーお、俺は、強く、そう、誰よりも強くあろうとしたんだ……ー
ーそ、その先に、俺の求め、続けていた、答え、が、あると、信じてたんだ……ー
ー漸く、その、答えに、届いたきがするー
ーせん、り品だ、受け、取れー
彼はそう言って、震える手で自分の持っている呪術書を俺に手渡した。
ー良いのか?ー
ーあぁ、た、たしか、に、ちと、複雑、だが、よー
ーいい、ん、だよー
ーみと、めて、やる、お、れ、より、テメェ、のがつ、強いって、よー
彼の瞼が徐々に降りて行き、彼の身体の内側から炎が上がり、その身体を燃やし始めている。
王の器と俺たちの身体は綿密に繋がっているようで、四つの王のソウルの熱は器にそれを捧げた後も尚、俺たちを焼き焦がしている。
彼の身体は、その熱に耐えられ無くなってしまったのだろう。
ーいけ、よー
ーいって、もうろ、く、じじぃ、を、おわ、らせ、て……ー
その言葉を言い切る事は無く、彼は灰となっていった。
瞬間、彼の所持していた王のソウルの全てが俺に流れ込み始める。
今までとは比べ物にならない熱量、例えるなら太陽を丸々自分の中に納めているような、そんな感覚。
エスト瓶を使用し、身体のダメージを癒しながら無理矢理その灼熱に耐える。
あの男は俺を認めて散って行ったのだ、此れに耐えられませんでしたが、許される訳がないだろう‼︎
膝を着きたくて仕方ないが、自分に喝を入れ一歩づつ足を踏み出して行く。
篝火へは向かえない、あの安息感は俺の意識を刈り取るには十分だ。
そうなれば、目を瞑ってしまえば、この熱に耐えられ無くなってしまう。
足を引きずりながら、放浪者によって弾かれた装備を回収しながら先を目指す。
道なりに、道なりに突き進んで行くと、霧を発見した。
その霧の前に立っただけで感じる生命の息吹、心臓を鷲掴みにされたような威圧感。
そして、確信する。
この先に大王グウィンが居る、始まりの火は、此処に有る。
霧を越えようとした際に、急に背後から肩を叩かれた。
背後を向くと、其処にはソラールが立っていた。
ー何とか、間に合ったかー
ー手助け無用だよ、ソラールー
ーコレは俺がやるべき事だからさー
ー分かっているさ、一度折れてしまった俺では足手まといにしかならんー
ーしかし、貴公に渡しておきたいものがあってなー
ー渡したい物?俺に?ー
ーああ、是非受け取って欲しいー
彼が俺に手渡したのは雷の槍と雷の大槍の奇跡。
それと彼の持っていた太陽の直剣だった。
ー貴公には奇跡は無用の産物だろうが、手を貸せぬ俺からの詫びと思ってくれー
ーそして、この直剣は普通の代物だが、貴公なら何時もの奇策で役立てられるだろうー
ーこれが、俺が友として貴公に出来る最大の事だー
太陽の直剣を腰に差し、奇跡の聖書はソウルにしまう。
彼の思いをしっかりと受け取り、霧に手を掛ける。
ーじゃあ、行って、終わらせてくるよ、我が友ー
ーああ、行ってこい、我が友ー
次からグウィン戦だぁぁぁぁあ‼︎