最近の主人公は主人公をしていると言う事態が発生いるんですよ。
人間卒業と同時に主役に返り咲きましたね(白目)
第100話にして人間辞めました、キリがいいね。
第百七話 理の体現者
シフが現在咥えている聖剣は嘗て俺がキアランに譲り渡した一振り、その性能は刃を握る者の力を限界以上に引き出すもの。
更に、彼は背中にも盾を背負っている。
結界の大盾、あらゆる攻撃を防ぎ、その庇護下にある者の身を守る物。
だが、聖剣や聖盾の力はそれだけでは無い。
剣と盾、その二つが互いに共鳴しその性能を跳ね上げている。
俺が知っている彼の速度を遥かに越える動き、その姿は見えず、疾風と共に巻き起こった鎌鼬に斬り裂かれながらも、聖剣の一撃だけは回避する。
月明かりに照らされた刃の銀閃のみが彼の居場所を示す道標となっている。
その事に気が付いたのは良いが、彼の動きに伴われる鎌鼬が非常に厄介だ。
聖剣の魔力に当てられ、質量を得た真空の刃。
鎧を着込んでいても、その上から斬り付けられた事から、ただの風の刃では無い事は一目瞭然。
空を跳び、大地を蹴って神速に達したシフは月明かりに照らされた刃の軌跡を残しながら容赦無く俺に襲いかかる。
迫る銀閃を月明かりの大剣で防ぎ、彼の聖剣に手を掛けようとしたのだが、野生の本能がそれに気付いたのか、その場で一回転し、遠心力を使って俺を刃の腹の上から叩き出す。
吹き飛ばされながらも苦し紛れに光波を放出したが、勿論当たることなく、聖剣による痛烈なカウンターを受け取ってしまう。
身体が宙に浮いた状態だったため、回避行動には移れそうにはない。
即死コースだったその一撃を何とか避ける為にハルバードの切っ先を地面に突き刺し、それと共に起きた爆風に乗って体勢をずらし、首の皮一枚で踏み止まる。
即死はしなかったが、決して浅くは無い傷を胸に刻まれ、傷口からどくどくと血が溢れ出して来ている。
傷口を塞ぐためにハルバードの刃を押し付け強引に患部を焼く。
ハルバードの魔力によって傷口を中心に身体が燃え上がるが、聖剣の爆風を使って無理やり身体の炎を掻き消した。
一歩間違えれば塵になっていたが、お陰でエスト瓶を使わずに済んだ。
アレを使おうと思うと周りの安全確保が必要となる。
特に、シフのように神速へと足を踏み入れた存在相手には隙だらけとなってしまい逆に自分の首を締める結果となってしまう。
複雑な軌跡を描きながら周囲を駆け回っている彼への対策を考える。
あの速度に対応しようと思うのは骨だが、さっきの一撃で、一つ大きな発見をした。
その隙を突く事が出来れば何とかなるのだが、それを突く為の”仕込み”が上手く行くかどうか。
弧を描きながら、再び俺の首を狙った一閃が放たれる。
その下を潜り抜けながら、迷っている暇は無いと判断し、早速”仕込み”にかかる。
背後から俺に強襲を仕掛けるシフを避けながら、聖剣と鎌鼬によって抉られた穴に”仕込み”をして行く。
彼の位置を誘導しながら周囲の仕込みを終え、後は彼が網にかかるのを待つばかり。
俺が今いる場所は、この墓場の中心。
遮蔽物が無いため、360度何処からでも俺に襲撃が可能だ。
聖剣を正眼に構え、彼と対峙する姿勢をみせる。
足を止めた俺を警戒しながらも、シフはそれに乗る。
神速の世界から放たれる聖剣の一閃、それは正面からでは無く、知覚外の背後から俺を目掛けて放たれた。
だが、突如としてその刃の軌道が変わる。
シフの剣を曲げたのは、抉られた地面に仕込まれた火炎壺。
これは、アノール・ロンドにてあの放浪者に俺が一杯食わされた罠の一つ。
シフにはある癖が有ったのだ。
それは自身に向かってくる攻撃を全て回避してしまうと言う癖。
神獣とは言え、彼は元は狼だ。
野生の本能が傷付く事への危機感を煽り、無意識に回避行動を取らせているのだろう。
不死の騎士は知らなかったが、灰色の大狼は嘗ての邪神征伐での戦いを鮮明に覚えているのだ。
己が主人を正面から打ち破った男、深淵の邪神に単身立ち向かって行ける強さを持った者。
彼の”強さ”を重々承知しており、一度でも機会を与えればたちまち逆転されてしまうと言うことを知っていたのだ。
それが彼の本能を更に煽り、完璧を求めさせていたのだ。
予想通り、張り巡らされた火炎壺に身動きを封じられた彼に向かって特攻する。
聖剣の爆風と踏み込みによる加速、自分が仕掛けた火炎壺ごと地面を踏み抜きながら無理やりシフの前まで躍りでる。
彼は逃げ場を全て潰され、王手を掛けられた事を察したのか、俺の振り下ろした聖剣の一撃を甘んじて受け入れたのだった。
首元に致命傷を負ったシフ、彼はよろつきながらも俺の側まで近付き、俺の頬を舐め始めた。
もしや、俺は泣いているのだろうか?
試しに目元を拭ってみたが、成る程、確かに。
俺は泣いていた。
彼の目が弱々しくも俺に向かって語りかける。
頭を、撫でてくれ、と。
彼の身体が消えていく中、俺は涙を流しながら彼の頭を撫で続けていった。
畜生め、私の精神力を削りやがって……、フロムさんムービー悲しすぎまっせ。
さあ、癒し系の次は、皆んなお待たせの嫌死系だよ。
落差ェ……。