第十話 牛頭のデーモン
休憩も終わり、剣を回収した後黒騎士をどうするか考えていた。
彼に殺された際にソウルを失ってしまっている。
大した量では無かったがナイフや矢を買うのには十分な量だ。
それに、ソウルは何も通貨の代わりだけと言う訳では無く、自身の魂を鍛え身体能力を高めるのにも使用できるのだ。
勿論鍛えて行く度に必要とするソウルは増えていく。
今はまだそれ程必要では無いが、いずれ能力的な限界が来てしまう筈だ。
故にこれからの旅路を考えると、どうにかして回収したいのだ。
ソウルは血痕となり最後に死んだ場所に漂っている。
不死院のデーモンとの2度目の戦いで見つけた血だまりがそうだ。
今回は黒騎士を越えた所にあるのでどうにか彼を退かしたい。
壁を背にして黒騎士の居る通路を覗きこむ。
右手にはボウガンを左手には盾を持ちながら対応策を練っていく。
先ず成功条件と失敗条件を考えよう。
それは勿論ソウルの回収と自分の死亡だ。
今の俺の技量では戦いにすらならない。
大人と赤ん坊が殴り合いをするようなものだ。
なので彼とはまともに戦う必要は無くソウルを回収し無事逃走する事が目的になる。
それに俺のスタミナが余り続か無いという事も問題だ。
前世では部屋に篭りっきりで、外に出ることは無かった為に身体の動かしかたやペース配分などの感覚が分からず、今までの戦いでは自分の身体能力でゴリ押しすることで何とかしていたが、目の前の敵には通じそうに無い。
単純な鬼ごっこだと直ぐに捕まってしまうだろう。
唯一の救いはこの周囲は入り組んでいて隠れる場所が有るという事と、高台などがあり逃げ道も豊富な事だ。
そこまで考え一旦民家の前にまで戻る。
今俺が立っている位置は丁度黒騎士が居る場所の真上だ。
彼の居る通路は民家の下にありその隣には不死教区へ向かう階段が有る。
彼をどうにかして彼処から引き離せればどうにか撒けるかも知れないな。
そのために火炎壺を投げる亡者達を制圧する。
彼等の居る高台にある梯子を上り気付かれないようにボウガンを構える。
矢を放ち一番奥の亡者の頭を射抜く。
残りの亡者がそれに反応し此方を振り向く。
近くに居た亡者の頭を盾で殴り転倒させる。
ボウガンを仕舞い、もう一体の亡者に盾の裏のナイフを投げつける。
胸を狙って投げたものの狙いは逸れてしまいナイフは左肩に刺さっていた。
彼は肩の痛みなど知らないと言わんばかりに剣を振り上げこちらに向かってくる。
その凶刃を盾で防ぎ、彼の肩に刺さっているナイフを抜いて喉笛を斬り裂く。
鮮血を噴き出しながら彼は後ろへ倒れていった。
倒れて居た亡者が頭を抑えながらふらふらと立ち上がる。
すかさず足払いをかけて再び転倒させる。
前のめりに倒れ込んだ彼の背に剣を突き立てトドメを刺す。
これで何とか黒騎士を撒けそうだ。
黒騎士の頭部に狙いを定める。
自分の辿るルートを確認しながら引き金に指を掛け、深呼吸をして心を落ち着かせる。
引き金が引かれそこから放たれた矢は真っ直ぐに黒騎士の頭に向かって行く。
矢は彼の頭を撃ち抜く事は無く兜によって弾かれる。
こちらに気付き盾を構えたまま走り出す黒騎士に火炎壺を二つ投げて足止めをする。
爆炎で視界を塞がれた黒騎士は追撃を警戒したのか一度後ろに下がる。
距離を離せたので俺は見張り塔まで走り出す。
そんな俺を逃がすまいと黒騎士が追いかけて来る。
ぐるぐると螺旋階段を上がり頂上へと到達する。
黒騎士は足音から察するに後少しで此方に追いつくだろう。
手すりから身を乗り出し彼が現れるのを待つ。
階段から彼が突きを放とうと剣を構えて居るのを確認すると下に飛び降りる。
黒騎士の剣は空を切り俺に届かない。
落下する最中に盾からナイフをありったけ取り出し彼に投げつける。
勿論傷一つ付かないが相手が追うのを辞める可能性が有るので、ただ逃げ回るだけでは無いと示すためだ。
梯子を上り火炎壺を投げられて居た場所に上る。
ボウガンを取り出し見張り塔の出入り口に照準を合わせ彼が現れた所を狙い撃つ。
それに対して黒騎士は盾で飛んで来た矢を払い落とし、俺が上で投げつけたナイフをこちらに投擲して来た。
放たれたナイフは俺の右手に深々と突き刺さりボウガンを取り落とす。
予想外の出来事に慌てるがボウガンを回収し急いで下に見える建物内に飛び込む。
ここは斧と剣の亡者を相手にした場所だ。
入り口の扉を閉め篝火への通路を向かう。
黒騎士が高台から飛び降りドアを蹴り開けてくる。
俺は通路から飛び降り黒騎士に殺害されたベランダに着地する。
その際に着地点に残りの火炎壺を設置しソウルを回収し急いで不死教区へ向かう。
後ろで火炎壺が割れるような音がしたが振り向く事無く階段を駆け上がる。
地雷のごとくに設置された火炎壺の爆炎による足止めと目潰しで彼は俺を見失ったようだった。
階段の上には例の霧があった。
何時までもモタモタしていると彼に見つかるかも知れないので早速霧を越える。
出た先は城壁の上だった。
恐らくこの場所が各区画へ渡る為の通路なのだろう。
右手に刺さっているナイフを引き抜きエスト瓶で傷を癒す。
通路を渡っていると後ろから矢が二発撃たれた音が聞こえた。
反射的に前へ転がり後ろを見るとボウガン兵が二体こちらを狙っていた。
入り口の隣にはハシゴがありまだまだ上に上れるようだった。
下からでは分が悪いのでそのまま走り抜けようとした瞬間。
大きな揺れと共に目の前に巨大な牛の頭をしたデーモンが立ちふさがっていた。
不死院のモノとは違い、こちらは身体が体毛で包まれていて、手には大鎚では無く巨大な斧が握られていた。
一難去ってまた一難か。
厄介事に愛されてるね本当。