恋ぞ積もりて 淵となりぬる   作:鯛の御頭

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切りが良かったので、ちょっと短めです。短いと言っても8000字はありますが……

もうじき、高校生はセンター試験ですかね。もうひと踏ん張りですね。
風邪には気を付けてくださいね(。・ω・。)


本年もどうかよろしくお願いします。感想、誤字脱字の報告待ってます。誤字脱字はないと良いな(´・ω・`)



古都内乱編2

9月23日(日)

達也の休日というのは、大抵FLTの研究所に出向いているか、独立魔装大隊の訓練等に呼び出されているかの二択が多い。水波が来たことで、深雪をひとり家に取り残しておくことがなくなったため、その頻度は去年より増えている。

 

たが、この日は偶々何もない休日だった。否、これから来客があるので何もないとは言えないが、予定らしい予定が直前まではいっていなかったのは事実だ。

普段であれば深雪と共に買い物に出かけることも珍しいことではないが、当の深雪はとてもそんな気分にはなれなかった。これから来る相手は親しくはあっても休まらない、身内であっても気を緩められない者だと自覚しているからだ。そう思えばまだ関係上は他人である雅の方が、何倍も気を許せる相手であることは確かだ。

 

「文弥、亜夜子、よく来たな」

「文弥君、亜夜子ちゃん、いらっしゃい」

 

いくら深雪にとっては気が進まないとは思っていても、それはあくまで深雪個人の感情であるため、達也が歓迎の姿勢を見せている以上、深雪も歓迎の姿勢を見せた。四葉で徹底的に磨かれた社交辞令の挨拶と共に、水波に案内されてリビングに入ってきた二人に親し気でありながら一分の隙もない完璧な笑みを見せた。

 

「達也さん、深雪お姉さま、お邪魔いたします」

「達也兄さん、深雪さん、お久しぶりです」

 

歓迎的な二人の雰囲気とは対照的に、黒羽姉弟の返答はどこか硬いものだった。この家に二人が足を運んだのは今日が初めてのことではないが、以前と違って今回は二人とも緊張が隠せない様子だった。表面上は上手に取り繕っているが、目敏い達也や人の機微には細やかな深雪にはお見通しだった。

黒羽の一員として四葉家からの仕事を任されている二人が緊張すら隠せない様子とあれば、今回の訪問が余程の事情というのは聞かなくても分かることだった。

 

「遠方から疲れただろう」

「いえ、いい席を用意してもらいましたから」

 

文弥と亜夜子が通う国立魔法大学付属第四高校、通称:四高は静岡県に置かれている。文武両道をモットーにした三高の後に作られたとあって、魔法技術を重視する校風である。

二人の実力であれば三高や二高でも受験可能であったが、司波兄妹との関係性を隠すため、四高に入学するように四葉家当主から言いつけられている。そういった経緯から普段は二人とも静岡暮らしであり、リニア新幹線が開通したとはいえ、遠距離であることに変わりないので、達也の労いも間違いではなかった。

 

「ひとまず、お茶でも飲もうか。二人とも甘いものは苦手だったか」

 

キッチンの奥から水波がケーキと紅茶を乗せたワゴンを持ってきた。

 

「いえ、いただきます」

「ありがとうございます」

 

達也の提案に二人は疑問に感じながらも、素直にうなずいた。お茶だけなら当然理解できるが、菓子まで付けられるとは正直予想していなかった。

文弥と亜夜子は司波兄妹のことは好意的に思っている。二人の父親である貢は達也のことを殊更よく思っていないことは理解しているが、二人は純粋に達也を慕っている。

それと同じく文弥と亜夜子は、兄妹から全面的に好意的な感情を抱かれているわけではないということも理解している。

四葉家内での関係性から言えば、文弥と深雪は次期当主候補であり、その立場を巡って対立する時期が来るかもしれない。当人たちが望もうと望まざろうと、十師族という立場に置かれるということはそういうことだと表面上は納得している。

だから、予想以上に好意的なもてなしに、二人が嬉しさより困惑するのは無理もないことだった。

 

目の前に置かれたのは秋らしく栗のモンブランと、紅茶の組み合わせだった。

メレンゲで作った口当たりの軽い生地の上に和栗の渋皮煮が置かれ、硬めに泡立てられた甘さ控えめの生クリームが乗せられ、その上に少しお酒の香りのきいたマロンクリームで贅沢に覆われている。マロンクリームの濃厚さに対して、生クリームで丁度良い甘さとなっており、渋皮煮の渋みがいいアクセントになっている。

紅茶もそれなりに上質なものを飲みなれている二人にしても、十分良いと呼べるできだった。

 

「美味しいですね。どちらのお店ですか」

 

亜夜子が年相応の少女らしく口元をほころばせながら、深雪に尋ねる。こういったものは達也ではなく、深雪の領分だろうと考えた結果だった。

 

「京都から届いた栗から雅と水波が調理したんだ」

 

達也からもたらされた“京都”の単語に、二人が一瞬表情を硬くする。よもや手作りの一品だと知った驚きなどこの際、二人にとっては二の次だった。

 

「達也兄さんは今日のことはご存じだったのですか」

「いや、何も聞いてはいないよ」

 

息を呑み、慎重に言葉を選ぶ文弥に達也は首を振る。

 

達也はあくまで今日の来訪目的を知らない。事前に京都の九重家から贈り物があった時点で今回の二人の来訪に絡んでいることは推察できるが、詳しい内容までは言葉にはされていない。だから文弥の推測は外れではないが、正解ではない。

探り合いのような二人の雰囲気を変えるため、亜夜子は紅茶を優雅な手つきでテーブルに戻すと、小さく息を吐き出す。

 

「文弥、元より私たちはただの使者。選択肢などないのですから」

「そうだね」

 

雰囲気が和やかさから少し張りつめたものに変わるのに合わせて、水波は空になったケーキの皿を下げ、新たな紅茶を淹れなおす。

紅茶が四人の前に置かれると、観念したように文弥はジャケットの内側から白色の封筒を取り出す。

表書きは空白。

達也は文弥から渡された封筒を受け取り、裏返すとそこにある名前を見て軽く眉を顰めた。深雪も隣に座る兄の手元にある封筒の差出人の名を見ると、無言で口元を押さえた。

 

「ご当主様から直々にお預かりしてきました」

 

そこに書かれていたのは四葉家当主にして、達也たちの叔母である四葉真夜の名前が直筆で添えられていた。

達也が頼むより前に水波は既にペーパーナイフを準備しており、達也はそれを受け取ると、封を開いた。

 

中に入っていたのは便箋一枚程度の簡単なものだった。達也はその内容をじっくり読み、更にエレメンタルサイトで細部まで確認すると、隣で律儀に待っていた深雪に便箋を渡す。

 

「文弥はここに書かれている内容について知っているか」

「知っています」

 

やや躊躇いながらも、文弥は亜夜子に頼ることなく、自分で答えた。

 

「そうか」

 

達也が深雪に視線を向けると、丁度読み終わったのか、達也を見て頷いていた。達也に回答を任せるということでいいのだろう。

 

「ここには周公瑾の捕縛について依頼する、と書かれているが」

「そのように聞いています」

「そうか。言葉通り“依頼”なんだな」

 

頷く文弥と亜夜子に、達也は分かりやすく眉を顰めた。

 

「あの、お兄様。どうして叔母様は私たちに依頼という形をとるのでしょうか」

 

深雪の質問は“命令”ではなく、“依頼”といういつもと異なる形式をとってきたことに対しての疑問だった。

 

「それについては(わたくし)が当主様から伝言を預かってきております。今回の件はお断りしても構わないそうです」

「叔母様がそのように?」

 

深雪は思わず声を上げ、恥ずかし気に「失礼しました」と呟いた。

深雪は四葉家当主である真夜の決定が絶対であるという風に思っているが、達也にとって真夜からの命令の優先度はそれほど高くない。

ミストレスである深雪を最上位に、次いで国防軍の関連だ。これは四葉と国防軍独立魔装大隊の間で、深雪の護衛に支障をきたさない範囲で軍の仕事を優先させるよう取り決められているからだ。そのため、真夜とて達也に命令できるものはそう多くない。

普段は達也の予定をどこからか仕入れてか、軍の仕事がない間に命令を下してきている。達也もそれに素直に従っているが、今は真夜と対立する時期ではないと考えているからだ。

それを普段通りではない方法を取ってきた以上、普通ではない事情があると思っていいのだろう。

 

「文弥、叔母上には『承りました』と伝えてくれ」

「確かに伝えます。…………すみません、達也兄さん」

 

文弥は悔しさと情けなさを隠せずに頭を下げた。

 

「周公瑾の捕縛は僕たち黒羽に与えられていた任務です。それを僕らが不甲斐ないばかりに達也兄さんの手を煩わせることになって……」

 

文弥は膝の上で手を握りしめた。

九校戦後、横浜中華街に潜伏していた周公瑾は黒羽家当主の腕を引きちぎり、更に黒羽の包囲網を逃れた。四楓院家によって手傷は負わされたはずだが、その後の行方は把握できていない。日本屈指とも呼べる黒羽の諜報能力をもってしても捕らえられないことに、歯痒さと文字通り不甲斐なさを感じているのだろう。

 

「文弥、謝る必要はない。自分たちに任せられた仕事を自分たちで達成したいという思いも分かるが、優先されるのは任務の達成であって、誰が達成したかということではない。これが黒羽の仕事だというのならば、尚のこと、お前は私情を殺して俺を頼るべきだ」

「達也兄さん……」

 

声こそ厳しいものの、達也の優しさが滲む言葉だった。それは言われるまでもなく文弥も亜夜子も、そして達也の隣に座っている深雪も感じ取っていた。

達也としては全く打算の意味がないわけではないが、達也の心情はこの場合二の次で構わない。

 

「お前や俺の仕事には失敗が許されないものがある」

「そうですね。ありがとうございます、達也兄さん」

 

今度は謝罪ではなく感謝の意味で、文弥は再度頭を下げた。

 

「では、現在までの状況を教えてくれ」

 

説教じみた話もこれまでにしよう、と達也は実務的な話に移った。

 

「分かりました。初めに、九重から依頼されていた一件の終了に伴い、周の管轄は四葉に移管されることになりました」

 

九校戦で九島家が中心となって画策したパラサイドールの処分については、九重が四葉家経由で達也に依頼したものだ。そのため、九重からの依頼は形式上、終了したことになっている。依頼が終了したとはいえ、それでこの一件が終息したわけではなく、黒幕と言える周公瑾を九校戦後も黒羽家が追っているのは達也も知っていた。大陸の息のかかった方術士が、国内で行われていた魔法師を巻き込むテロ行為の後ろ盾をしていたとあれば、四葉として動く十分な理由になり得る。一連の事件も計画からすべて周の単独犯とも考えにくく、大亜連合のスパイか、テロ組織の一員なのか、そういった意味での捕縛の依頼なのだろう。

 

「どうやら周公瑾の支援者には『伝統派』が絡んでいるようで、九重が全面的に排除に乗り出すと古式魔法師界隈の内乱にもつながりかねないとの見立てです」

「伝統派か」

 

達也が重々しく口を開く。どうやら達也が思っていた以上に状況は複雑なようだった。

 

「達也兄さん、御存じなのですか」

「『九』の各家と対立関係にある古式魔法師の組織ということは文弥たちも知っているだろう。国内のはぐれ古式魔法師を集めているだけではなく、大陸から亡命してきた方術士も傘下に入れて勢力を拡大していると聞いている。そういえば、あの一件で九島にも大陸の方術士が関わっていたそうだが、九島が手を貸している可能性はあるか」

「その心配はありません。その方術士たちは周が横浜から逃亡する際に旧第九研究所を逃げ出し、伝統派と合流したようです。このことは九島に確認し、こちらでも直接確認しています」

 

黒羽が直接確認したとなれば、その事実に間違いはないだろう。

 

「となれば、九の各家が伝統派と裏で手を組んでいる可能性もない。九島の裏切りはないとみていいだろう」

「達也兄さんは九重から何か聞いていることはありませんか」

 

達也が九重に贔屓にされていることは、四葉の内部では公然と知られていることだった。

わざわざ直系の娘をガーディアンの身分の者に嫁がせるとあれば、それ相応の理由が存在していると勘ぐられている。達也が秘密裏に九重から情報を仕入れていると聞いたとしても文弥は驚かなかった。

達也としては何も聞いていないが、京都からの贈り物である程度、何かしら自分たちの周りに起きることは予測していた。栗は『勝ち栗』と呼ばれ、古くから縁起物として使われている。今回の任務に込められた期待も伺えるものだ。

 

「膿掃除も一緒に行うと言っていたな」

 

達也は具体的には何が起こるかも、何を九重がするのかも聞いてはいない。雅から話を聞けばある程度は分かるかもしれないが、現状達也に伝えられている正確な情報はそれだけだった。

 

「それは伝統派を壊滅させるということですか」

「いや、口ぶりからして恐らくは違うな。多少、痛い目に合うことは容認しているだろうが、根絶やしにするつもりはないだろう。もしくは他のテロ組織もまとめて処分することを意味しているのか、それも言葉から読み取れる推測の段階でしかない」

 

良くも悪くも伝統派は古式魔法の一大派閥。大きな組織を潰すとなると、それ相応の反動も反発も起こる。ただでさえ魔法師に対する風当たりは世界的に見ても厳しい状況であるため、このような状況下で下手に大規模な粛清は行われないだろう。古式魔法の伝統と秘術の保存も含め、ある程度灸を据える程度に留めるだろう。

 

「それで、周の足取りは?」

「現在のところ、周の正確な居場所は掴めていません」

 

文弥が苦々しく現状を報告した。黒羽が横浜から太平洋に逃れようとした周公瑾を阻止し、伊勢に上陸し、北上した周を琵琶湖周辺で捕捉したが、またもや取り逃がした。

現在は京都方面に潜伏している可能性が高く、旧滋賀県と隣接した京都の大原周囲の捜索を重点的に行っているそうだ。

達也が知る中で、四葉が敵勢力の所在地を捕捉できなかったケースはなく、何度もその追跡を逃れていることから周の隠遁能力はかなり高いとみていいだろう。

 

「なるほどな」

「達也兄さん、九重は伝統派とは敵対しているとみていいのでしょうか」

 

文弥は声をやや潜めて達也に問いかけた。

 

「もともと伝統派と『九』の因縁に九重は関連していない。対立寄りの中立とみるのが妥当だろう。歴史が古い分、伝統派にも全く血縁がいないわけではないだろうが、管轄がこちらに移された以上、その点は特別考慮する必要はないはずだ」

「そうですか」

 

文弥が胸を撫でおろす。万が一、伝統派の人間が九重の威を借りることがあれば面倒だが、管轄が移った以上、伝統派の処断についても口を出さないということだ。

 

「伝統派については、念のためこちらで九重の意向を確認しておこう」

 

京都の膝元で起こっている事態だ。九重を始めとする四楓院が把握していないはずはない。ある程度、情報提供が得られることも見越しての判断だった。

 

「分かりました。僕らも何かわかり次第、随時報告します」

 

達也は頭の中で情報収集を含めた今後の算段をまとめながら、亜夜子と文弥を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

同日夜。

 

雅は昨日作ったモンブランを片手に、達也の部屋で達也に依頼された件について話を聞いていた。黒羽姉弟が訪ねてきた時間帯、雅は神楽の稽古に出ていた。

関係者である雅が立ち会わないのは不自然かもしれないが、今回の一件はあくまで四葉家当主の依頼を黒羽姉弟が伝えに来たというだけだ。そういう体面上、むしろ雅は部外者であり、立ち会わない方が良いと判断した結果だった。

達也から聞いた話は雅が聞いていた話と一致しており、確認作業に過ぎなかった。

 

「伝統派について、九重は口を出さないとみていいのか」

「京都で行われる戦闘や捜索についても、四葉家なら目を瞑るということよ」

 

関西近辺は観光地であることも含め人の出入りが多く、昔から外国人勢力が活動しやすい土地柄である。だからこそ魔法協会本部は京都に置かれており、十師族で言えば阪神地方の方は兵庫県芦屋に居を構える二木(ふたつぎ)家が監視を行っている。加えて言えば、記録として現存しているだけでもこの国最古とも言われる魔法の歴史を持つ九重神宮を始め、陰陽道として名を世に知られた芦屋家など、古式魔法の大家も揃っている。その九重が許すと言えば、多少の無理は通ってしまう。

 

「それにしても、難しい依頼だと分かっていて受けたの」

「受けると分かっていただろう」

 

達也の返答に雅は複雑そうに口を曲げる。分かっていても、心情としては複雑なのだろう。

紅茶のカップをゆっくりとソーサーに戻し、雅は目を閉じる。

 

「血が流れるわ」

 

それは単に誰かが怪我を負うということではなく、死人が出るということを暗示していた。

長い歴史の中、京都は長く国の中心として機能していた。戦争では大きな被害はなかったとはいえ、この国の中でも流れた血の多さと怨念の深さは随一ともいえる。

雅もまた、その地のために血を流す立場であることは忘れてはいない。

 

「横浜のような表立った戦闘にはならないけれど、相手の口先の上手さは筋金入りよ」

「伝統派も口車に乗せられたか」

 

雅はもう一度ため息をついた。

 

「隆盛を願うのはどこの組織も同じね」

 

伝統派としては自分たちがこの国の魔法を担ってきていたという自負もあり、その発言権の拡大を望んでいる部分がある。周にとっては渡りに船というか、甘言を囁くには格好の獲物なのだろう。

 

「居場所探しはどうするの?」

「九島の手を借りるつもりだ」

「九島の?」

 

雅としては、千里眼の手を借りることも頭にあった。この国で起こることは有形、無形に関わらず、全て見通すことができる千里眼にとっては周の居場所を探し出すことは容易なことだ。特に一度手の者が接触しているだけあって、その居場所はおそらく掴んでいる。泳がせるつもりだとしても、どのタイミングで炙り出すのか、算段しているつもりだろう。

 

「九校戦の貸しがあるからな。貸しにせよ、借りにせよ、長引けば腐れ縁になる。これを機に清算してしまった方がいいだろう」

 

達也としては、九重の手を借りるつもりはなかった。周の一件自体、管轄が移ったということは、つまり九重が依頼元である可能性もある。

自分たちで処理できない相手ではないだろうが、必要だから手を引いたとみて間違いないだろう。

 

「国防軍ではなくて、わざわざ九島家にしたのはどうして?」

「大元の依頼がどこからにせよ、四葉の仕事の関係で国防軍に借りを作るよりは、伝統派として対立している『九』の家の方が得策だと考えている」

「なるほどね。(しがらみ)が十重二十重と絡まる日本魔法界を曲がりなりにも支えてきた重鎮より九重は恐ろしいのかしら」

 

冗談めかして笑う雅に、達也は反対に苦笑いで肩をすくめた。

 

「九島烈はおそらく俺の素性を知っている。四葉家先々代当主と親交があった縁で、四葉深夜と四葉真夜の私的な教師をしていた時期もあるそうだ。そういう意味で、俺自身に興味は抱いているだろうし、協力は得られるはずだ」

 

一般的に言っても雅の婚約者ということで無名の達也が注目を浴びる要素はあるが、それでも四葉家により改竄されたパーソナルデータによって、達也と深雪は四葉家とのつながりは一切出てこないようになっている。それでもなお分かるとすれば、四葉家と親交のあった者の推察ということが一番有力だ。

達也はどちらかと言えば平凡な父に似た顔立ちだが、深雪に深夜の面影がないわけではない。例え有力な証拠がなかったとしても、秘密主義の四葉だということで説明がついてしまう。それを心の内に入れている間ならば、四葉も無理に動く必要は無い。

そして九島烈ほどの人物であるならば、達也のことを伏せておく程度の知性と理性は持ち合わせていると達也は判断したからだ。

 

「直接会うのならよろしく伝えてもらえるかしら」

「雅は直接アポイントを取れるんじゃないか?」

「買いかぶりすぎよ」

 

今度は雅が困ったように笑う。

血はつながっていないが、九島烈の奥方は九重の血筋に当たる。その点もあってか、雅のこともまるで孫のようにかわいがっていると耳にしたことがある。

光宣と雅の仲を持たせようとするくらい、彼にとっては簡単なことだろう。

いずれにせよ、達也にとっても雅にとっても、油断のできない相手には変わりなかった。

 




ふと、雅ちゃんのイメージCV誰なんだろうかと思いました。頭の中にイラストというか、イメージ画はあるが、再現できないこの手が恨めしいです。

神楽とかの時のイメージは、さいとうちほ先生の『とりかえ・ばや』の沙羅双樹の君が舞をしている場面とかに近い雰囲気ですねー。

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