続きです。
真央霊術院に入学するには霊力の制御と多くの知識が必要だと、自分が持つ霊力は強くなれば多くの人を救えるのだと。そう知った日から精一杯勉強して、霊力の制御を覚えた。
その甲斐あってか、霊術院では特進学級へ。鬼道の成績はズバ抜けて良かった。
「現段階で詠唱破棄をした上でここまでの威力を出せるのは君の強みだと私は思います。」
「ただ、鬼道だけが出来るだけでは昇格試験は落ちるでしょうね」
「私は基本暇だから、もし君が鍛えて欲しいのならいつでもここに来なさい」
「はい。」
入隊して七年目。昇任試験の推薦状を貰い、努力の結果平隊士から席官への昇格は果たした。五番隊第十九席に着任した。
周りの同期は私がもたもたとしている間に上位席官になっていた。
流魂街・潤林安に住んでいた頃の幼なじみ二人とも、気付けば雲泥の差だった。
私だけ、という考えが今の自分の足を引っ張っている事を知っていながら、私は進めずにいた。
「雛森さん」
他人行儀だと、彼女は笑った。
「他人、とは、思ってないよ。ただシロウ君が呼ぶような〝桃〟なんてちょっと馴れ馴れしすぎると思うから言わないだけで」
「全然馴れ馴れしくなんかないよそんな事。私は桃って呼んでくれて方が嬉しいな…。」
「そのうち…ね…」
居心地が悪そうに肩を窄めながら前へ体を傾けるのを見て、雛森は手を伸ばした。決して触り心地が良いわけではない、少しゴワついた毛先がチクチクとする藍色の髪の毛。掻き分けて頭を撫でてやった。
最近は現世にある洗髪用品も進化したようで、シャンプーやらリンスやらと髪を整える物が増えてきている。
尸魂界でも似たような物は時たま見かけるようになってきた。
面倒くさいからといって日番谷が使う石鹸でどうせ一緒に髪を洗っているのだろう。勿体無い話だ。こんなに綺麗な藍色の髪をしているのだから少しぐらい手入れをすればいいのに。そんな事を考える。
「そういえばどうしたの突然?世間話するのに、こんな昼間から来たりはしないよね?」
今はまだ午後三時。
自分はまだ半刻ほど昼休みがあるが、若月もそうはいかないだろうと、まだ聞いていない本題を聞こうと話を降った。
「いや、実は…松本副隊長に裸を見られちゃったんだ」
「えっ…?!」
思ってたよりもあっさり答えられた本題と思える内容は、思っていたものとはかなりかけ離れていた。
「あっ、裸って言っても上半身だけな上半分。
いやね、シロウ君があまりにも人の話聞かないもんだからさ、つい掴みかかったら勝てるわけもなく逆に遊ばれて……」
「ちょっと明日でも良いから日番谷君私の部屋に呼んで、一回きっちりお話した方が良いね……」
呆れてそれ以上何も言えたもんじゃない。
自分の事だというのに緊張感となくペラペラと話す若月とは対照的に雛森は嫌な汗を掻くのだ。
姉変わりとして間違った方向へ進むかもしれない弟分を何とかせねばという一種の責任感が働く。
「でもね、実際シロウ君はどうでも良いんだよ。どーせ言ってもアイツが俺の事玩具にして日頃楽しんでるのは長い付き合いが語ってるし」
「いやいやいやいや、どうでも良いわけないからそれは!!」
「問題はね、松本副隊長なんだ」
打って変わって表情を曇らせる。
若月は松本乱菊が苦手だ。嫌いではない、あくまで苦手なだけなのだ。
特別人の選り好みはしない。どんな相手でも分け隔てなく接し、部下からの信頼は厚い。時折サボる癖はあるものの、気の許せる楽な上司としては捉える事も出来る。悩んでいる相手には親身になって付き合い相談に乗ってくれる優しさを持つ、冬に差し込む暖かい日差しの様な存在。自分とは正反対、出来ない事をやってのける松本は若月には眩しすぎるのだ。
「出来る事ならそんな関わりたくないんだよねああいった明るい人種の人は」
「それなのに日番谷君に遊ばれてた所見られちゃって…?」
「関わってくるじゃんあの人ぉお…!!」
言って泣き崩れる様に頭を抱えた若月に、雛森はどうしようもないと伝令神機に手を伸ばした。
【日番谷君へ
お話があります。今夜大丈夫だったら私の部屋に来てください。
追伸 若月ちゃん預かります。】
「だって、ありませんでしたよ胸?」
「自分がデカイからって基準がおかしいんじゃないか?あるぞ、ささやかながらな。」
好奇心は収まらない。
見てしまった衝撃というのもあるが、それよりも先ず知らなくちゃいけないことは若月の性別だ。女の子だと信じていだ分、先ほど目の当たりにした光景は驚かされた。ただ胸がないだけにしては女性特有の丸みのある柔さそうな体つきでもなかった様に見えた。しかし日番谷は若月は女だと言う。
確かに自分の胸明らかに大きいし、外見で判断する人は世の中多いだろう。自分だけではない筈だ。若月の性別をどちらか分かってなかったのは。少なくとも、同じ隊の部下七割ぐらいは知らないだろう。
「それにしても若月が女の子だとしたら………隊長って女の子に責められたい派なんですか?」
「誰がそんなこと言った、誰が!?」
「そんな怒らないでくださいよ!ほらほら若月のいるときみたいに笑って笑って!」
正面のソファーで貰ってきたという饅頭と淹れたての煎茶を湯呑に二つ用意した松本のペースに逆らえず。渋々席を立ち、ソファーへと足を向けた。
娯楽街の大通りから二本奥へ行った道の先に最近開いた小さな饅頭屋は、甘党の間では結構美味しいと噂になっている。
日番谷が一つ摘んだのを見てから松本も一つ頬張る。
嗚呼、これは美味しい。
仕事はそんなに根気詰めてやっていたわけではないが、今後の為に若月の事を一つでも知れたのだから進歩あり。動いた後の体にはやっぱり糖分が必要不可欠なのだ、上手い。
二個、三個とハイペースで松本の口の中へ運ばれる饅頭に、日番谷は二個で充分だと今しがた食べ終えた一個目をお茶で流したあと二個目へと手を伸ばした。
定例隊主会の為、切っていた伝令神機に一通の連絡が来ていることに気付いたのは就業後の事であった。
前置きの話の様なものはこれでおしまいです。
以降、話が飛びます。
感想ございましたらお待ちしています。