「ふんふん」
大翔は電車の中で携帯機器を読んでいた。中身は【CAD特集……現在までのCADの変遷】と銘打たれた物で中々興味深い。
さて、先日の一科生との一件の次の日だが今世紀初頭の物とは電車も変わり今では電車の席は個室となっているため痴漢やスリ……他にも電車でばったり知り合いに出会うなどと言ったものがなくなって久しいがお陰で周りに気兼ねせずに携帯機器に没頭していると目的の駅についた。
駅の名は【第一高校前】だ。
「あれ?達也と深雪だ……」
電車を降りると達也と深雪を大翔は見つけた。
「うーん……」
話しかけるべきか……だが深雪は敬愛するお兄様である達也と楽しそうに会話している。それを邪魔するのは野暮言うものではないだろうか……そんな野暮男は馬に蹴られてしまうかもしれない。
ここはそっとしておくか……と思っていたら、
「ん?大翔じゃないか」
「あら、大翔さん」
「あ、うん。おはよう」
向こうから気づいた……
「いやぁ~降りたときから気づいていたんだけどさぁ~」
「なら声をかけてくれれば良いのですのに」
「だってせっかく二人きりで仲良く登校してたし邪魔したら悪いかなぁって」
「そ、そんな……私とお兄様はそういうものではありませんわ」
(そんな頬を染めながら言うものではないぞ……深雪)
大翔は内心突っ込んでおく。
昨日、今日とまだ交流ができて二日めだと言うのに彼女の性格は1つわかった、愛すべきその欠点はブラコン。
まあこれだけの美少女だとそういった背徳も許されそうな雰囲気があるので全く問題はない。
「そうだぞ大翔……まるでその言いようだと俺と深雪が恋人みたいじゃないか」
「でも血が繋がってなかったら?」
「恋人にしたいと思うだろうな」
「お兄様……」
やっぱり俺邪魔じゃないですかね? などと大翔が考えていると、
「た~つやく~ん!」
猫撫で声で登場したのは昨日も現れた七草 真由美生徒会長……大翔は明後日の方を向いた。
「七草会長?」
達也が首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「ええ、ちょっとね」
真由美は息を整えると、
「達也君、深雪さん、草繋くん。今日のランチご一緒しない?」
『え?』
全員が真由美を見た。
「少し三人に聞きたいことがあるのよ」
もしや昨日の一件か?
「それに深雪さんには生徒会の話もあるしね」
そういえば歴代生徒会は入試の成績のトップが入れられるんだった。
だが大翔は、
「俺はご遠慮させてください」
断った……しかし、
「ダメです。これは強制権がある呼び出しです。一応ランチと言う形ではあるけどその気になったら強制連行も出来るように手続きしたから」
「…………」
そんな手があったのか……と言うか酷くないか?
「つまり誘ってはいますけど絶対来てほしいと言うことですね?」
達也が聞くと真由美はうなずく。
「そう。ちょっと大切なお話なのよ。ごめんね?」
「分かりました。大翔も話くらいなら行ってやれ」
「はぁ……分かりました」
大翔は頷いた。
「じゃあお昼休みに生徒会室までお願いね~。あ、お昼はこっちで用意できるから大丈夫よ~」
そう言って真由美は去っていった。
「お前会長と昔からの知り合いなのか?随分親しげだったけど」
「知らん。お前こそ知り合いじゃないのか?お前が明後日の方を見ているとき会長がジィーっとお前を見ていたぞ」
「シランシラン……」
結局大翔は昼休みに生徒会室に向かうことになった……この学校に来たら生徒会長から逃げて生活しようとしてたのにそれを三日めにして破られた瞬間だった……
「はぁ……」
「そんなに行きたくないんですか?」
時は進み昼休み……重い足取りで大翔は階段を上っていた。その隣には達也と深雪がいる。
「ああ、行きたくないね。逃げて良いと言われたら今すぐ逃げたいくらいだ」
「もしかして会長が苦手なんですか?それとも役員に誰か会いたくない方がいるとか……」
「いや役員知らんし」
「?……入学式に紹介があっただろ?」
達也が言ってくるがその時は結果的にすっぽかしていたので大翔は知る筈がなかった。
「でもそう言えば役員に急用で紹介がなかった方もいらっしゃいましたね」
「そう言えばそうだったな。確か書記の人だったか?」
ほう……まさかサボったのか?そりゃいい。仲間がいたぞ。顔知らんけど……
(そう言えば……)
入学式の日にサボってしまった理由であるCAD談義で花を咲かせてしまった相手……中条 あずさ先輩(通称 あーちゃん先輩)も結果的にサボってしまったわけでこれで三人はサボったわけだ。いやはや一人じゃないと思うと嬉しいね。
「なぜそんなに嬉しそうなんだ?」
達也が眉を寄せて聞いてくる。
「いや、何でもないよ」
そうこうしてる間に生徒会室についてしまった。
「あ~……今から逃げるのってあり?」
「ダメでしょうね」
深雪に却下された。
仕方ない……
『失礼します』
大翔たちは声を揃えて入る。
中には渡辺 摩利先輩と七草 真由美(見ないようにした)無表情で少し愛想がない美女と……視線を横に動かした先には……
『え?』
大翔とその目があった少女は唖然とした……
一見中学生に見えそうな低身長で幼児体型……毛先が少しカールした髪形……間違いない。
「草繋くん!?」
「あーちゃん先輩!?」
大翔とあーちゃん先輩こと中条 あずさは驚愕した。
「って、あーちゃんって呼ばないでください!」
「だってそっちの方がしっくり来るもので……」
すると当たり前だが全員の視線が大翔とあずさの二人に集まっていた。
『あ……』
「なんだ中条。知り合いだったのか?」
摩利が聞いてきた。
「あ、はい。入学式の時に……」
「ああ、生徒会の癖にすっぽかしたんだったな」
「あぅ……」
大翔はコメカミを抑えた。あずさは何と先程話した急用で紹介がなかった生徒会メンバーだったのだ。だが生徒会のメンバーと言う事は成績は良いのだろう。一応大翔も座学の方は結構得意だが……
「成程。逢い引きの相手だったのですね」
「い、市原先輩違いますよ!」
あずさが必死に弁明している間、へぇ~市原と言うのか……等と大翔は考えていた……
「さ、入学式でも説明したけど分からない子もいるでしょうし説明するわね」
それが自分に向けられて言われているのは大翔は分かっていた。
「まず摩利は昨日ので大丈夫でしょうけど……私も大丈夫で、ならこの子は会計の
「そう呼ぶのは会長だけです」
「次に入学式をすっぽかした中条 あずさ。通称・あーちゃん」
「あーちゃんって呼ぶのはやめてください!最近クラスでも呼ばれるようになったんですよ!?」
「あら良いじゃない。後輩にもあーちゃん先輩って呼ばれてるみたいだし」
「ふぇええええ……」
あずさが必死の抗議をするがあしらわれている。哀れだ。
さて、こちらも挨拶するべきだろう。
「1-A組の司波 深雪です」
「1-Eの司波 達也です」
「1-Eの草繋 大翔です」
三人で頭を下げた。
「それで……何故自分達は呼ばれたのでしょうか?深雪は生徒会のメンバーについてなのは分かっていますが俺や大翔が呼ばれた理由がわかりません」
「そう焦るな」
すると生徒会室の
「さ、ご飯を食べながらお話ししましょう」
サーバーか出てきたのは6つ……摩利は弁当があるようなので全員分ある。それぞれ席に座って食事を口にする。味気ないが不味いわけではない。そんな味だ。
「では少しお話ししましょうか。生徒会では毎年成績トップの人に入ってもらってるのだけど」
「はい」
それは知っていたので三人は頷く。
「そこで深雪さんには生徒会に入ってもらいたいのです」
「………その件は嬉しいのですが……」
深雪は表情を曇らせる。
「会長はお兄様の入試成績をご存じでしょうか?」
「ええ、今回どころか歴代最高得点でしたね」
『っ!』
次の瞬間大翔と達也は驚いて口に入れていた食事を吹きそうになった。
片や最高得点を取ったと言う事実に……もう一人はいきなり自分が引き合いに出されたことに……
「す、すげえなお前……」
あれ結構難しかったぞ?と言う目で達也を大翔は見ると肩を竦められた。
「ですが生徒会には一科生しか入れないのです。それに……」
真由美は摩利を見た。
「ああ、すまないが司波くんにはもう入ってもらう場所が決まっている」
『え?』
三人は摩利を見た。
「正確には草繋くんもだ」
そう言って摩利は大翔と達也に書類を渡してきた。
「ここにサインしてくれ」
「……すいません渡辺先輩」
「なんだね?」
達也は少し困惑しながら……
「この紙には風紀委員への入会届けに見えるのですが……」
「ああ、そうだが?」
摩利はシレッと答えた。
「何故ですか?」
「決まっているだろう?昨日の一件で君は起動式を読めていたし草繋君は上手くサイオン弾で相手の起動式を破壊していた。二人なら十分やれるだろう?」
『いやいやいや』
大翔と達也は勘弁してくれと首を振る。
「安心したまえ、風紀委員は2科生でも入れる」
『そこじゃないです』
「む?ああ、安心しろ。いざというときは私が前に出て君たちを守ろうではないか」
滅茶苦茶かっこいいが……それはそれでどうだろうか……
「話が急すぎて理解できません」
「だが君たちのスキルは貴重だ。達也くんの起動式を読みとる能力は相手を捕縛したさいに相手がどのような魔法を使ったかでも処罰の度合いが変わるのだが私達では魔法が発動するまで分からないのを発動させずとも読み取って処罰を決められる。草繋くんの技術も真由美のと比べれば百歩ほど劣るが充分実戦に対応できる。確かに急すぎたかもしれないが前年度卒業で抜けた風紀委員の穴を埋めるのには良い人材だったし善は急げだ」
一気に言い切られた。これは完全にここに来るまえから反証を許さないために準備をしていた感じだ。ようは今朝真由美に会って食事に誘われた時点で大翔と達也は拒否権を持っていなかったのだ。
それをあずさと鈴音は哀れむような目で見ていた。
「すいません。少し事情が急すぎるので少し時間をください」
「ふむ……確かにそれもそうだな。放課後まで待つからまたここに来てくれ。いま丁度居ない副会長も紹介しよう」
『はい……』
それってもう入るの前提ですよね?とは大翔と達也は言えなかった……