「何故ここに二科生が……」
「あの二人は特別だろう」
「だが所詮は二科生だ。しかも一年だぞ」
『…………………………』
大翔と達也は2、3年の論議をボーッと見ていた。
現在達也と大翔は九校戦のエンジニア選出に来ていた。そして当たり前のことながら目立った。悪目立ちとも言う。いやはややはり場違いだ。今すぐ帰りたい。
だが意外なのは比較的好意的な意見も多いことだ。達也の方が活躍してると思うのだが……吊るんでるせいかこちらも規格外扱いだ。
「ならば試してみれば良い」
「十文字会頭……」
ざわついていた場が一気に静かになった。流石と言うべきだろう。
「二人の技術が心配と言うことならここでやって見せれば良い。実験台には俺がなろう」
「そんな!危険です!」
CADの調整は大雑把に言えば自分の内面をさらすと言うことだ。失敗すれば魔法師危険にさらす。つまり信用がなければしないしさせない。そう言う意味では十文字の提案はすさまじい勇気だと言える。
だがそれを許す雰囲気ではなかった。すると、
「なら俺がやります」
そう言って立ったのは一ヶ月前の事件以来顔を見合わせれば話すようになった男……桐原だ。
「一人では足りませんから……俺も実験台になります」
次に立ったのははんぞー先輩だった。それに関しては真由美を少し驚いてる。
「それで司波、草繋……出来るな?」
『……はい』
達也と大翔は十文字に問われて肯定の返事しか出せなかった……
「テスト内容は普段二人が使っているCADから大会専用にコピーして即時使用可能にしてください。まずは達也くんから」
使う機材は本番で使うものを使うらしく達也は座る。
「スペックの違うものをあまりフルコピーはお勧めできないんですが……」
「え?」
達也の呟きに真由美は首をかしげた。
「仕方ありません。安全第一でいきましょう」
そう言って達也がキーボードを叩く。
「おいおい、今時マニュアルかよ」
そう言って鼻で笑うやつもいたが大翔はそれどころじゃなかった。達也の調整は桐原の機材に流したサイオンから画面に流れる膨大な情報をすべて読み取り手作業で調整を行うのだ。確かに意味がわからなければ今時マニュアルであるキーボードを使う無駄が多いようにも見えるがその実凄まじい知識と技量を要する高等技術をはっきり言ってスペックが特別高いとは言えない大会専用に施しているのだ。
(すっげぇ……)
大翔も一応出来ないわけではないし調整は大翔もキーボード派だ。だが達也のは見てるだけで勉強になる。
「出来ました」
達也が終了したと言う胸を伝える。桐原立ち上がると起動した……
「問題ありません。いつも通りです」
「だが速度が並だなぁ……」
誰かが言うと他にも頷くやつが出てくる。これの凄さが分からんとは確かに姉がエンジニア不足に嘆くわけだと思う。
と言うかこのすごさに気づいたのは大翔とあずさと……
「僕は司波くんの代表いりに賛成だね」
そう言ったのは五十里 啓と言う二年生だった。
中性的な顔立ちの彼は気づいた数少ない人物である。
「確かに速さは並みだけどあれだけの安全マージンを取りながらするのは僕でも難しい。別に調整の速さが勝負に出る訳じゃないんだから良いと思うよ?」
『……』
魔法理論においては学年でもトップクラスの啓に言われて反論はでない。
「では次に草繋くん」
「はい」
調整対象者ははんぞー先輩……じゃなかった。服部先輩だが若干緊張している。
「はんぞー先輩。別にとって食う訳じゃないんで安心してくださいよ。ちゃんと成功させますって」
「いや別に心配してる訳じゃ……って!なにさらっとお前まではんぞーと呼んでるんだ!俺は服部 刑部だ!」
「そんな怒ると禿げますよ?」
「主にお前のせいだお前の!」
プシュー!っと頭から湯気が出そうな勢いで怒る服部だがうまくガス抜きにはなったようだ。
「さぁてと……」
「こいつもキーボードかよ……」
そんな声も集中していくと入らない。入ってくる情報と魔法式を合わせて擦り合わせていく。
個人的に大翔は調整をパズルのようだと思う。起動式を小さく圧縮して(CADの中に起動式を取り込む際には小さくすることができる。その分サイオンの消費が大きくなるが発動が速くなる)フィードバックを合わせていく……そして、
「出来ましたよ」
「……」
服部は起動式を読み込み魔法式を構築し……
「ん?」
首をかしげた……そりゃ発動しなければそうなるだろう。
「失敗か?」
誰かがいったが服部はもう一度やる……失敗した感じではない。読み込んでから瞬きの一瞬……その瞬間でドライアイスが生成できていた。
「これは……えらくじゃじゃ馬です」
「じゃじゃ馬?」
十文字の問いに服部は答える。
「はい、起動式がかなりコンパクトに入れられています。無駄が殆どないと言うか使用者の使いやすさを無視した早さです」
魔法を起動する際にはドライアイスをつくる際にも《作る場所を指定》して《その場所の空間の分子間力》を指定……《そして減速》と言う手順を自分の意思で起こしていく。だがその現象が起きたかは結局使用者の認識速度がそれに気づけるかによる。つまりあまり速く起動していっても振り回される結果になりやすい。
一回目の失敗はそれで服部はタイミングをずらされたものによるのだ。
「しかもサイオンの消費が若干激しい……」
「なんだダメダメじゃないか」
するとそれに対してあずさが反論した。
「ち、違います!あれはサイオンの消費を犠牲にした速さの追求系です!大翔くんの調整技術は学校で学ぶものとは方向性が違うから可笑しく見えるだけで……」
「中条の言う通りだ……これは使いこなせれば早さと言う点において大きなアドバンテージ得れる……司波の使用者に違いを感じさせない上に安全且つ高いバランス能力の調整……使用者に重圧はあるもののその分期待に応えられる草繋の調整……どっちも充分に代表だ……」
服部の熱弁にポカーンと皆は見た。あれだけの二科生嫌いのこいつがどうしたんだろうか……
「……あ、いや……と、とにかく今はエンジニア不足していますし……使えるものは使うべきです」
服部は慌てて言い直すとその言葉に十文字は頷く。
「服部の言う通りだ。優秀なものは誰であろうと登用する。これは学校の威信をかけた戦いなのだからな」
それに対して反論を示せる程の度胸があるやつは居なかった…… 序でに今更辞退したいとも言える雰囲気でもなかった……