「
「がはっ……」
大翔は体をくの時に曲げる。
先程から鋼鉄並の光球が亜音速に匹敵する速度で大翔の体を叩くのだ。常人であれば内臓破裂で死んでいる。
「ちっ!」
大翔は転がって柱に隠れる。
「はぁ……ふぅ……」
「隠れても無駄ですよ」
(くそ……さっきの
クロヒョウを弄びながら大翔は【名も無き道化師】を見る。
(どうする……アレを使うか……?)
「
「っ!」
柱に
「甘い甘い!」
「この!」
大翔は回避に専念して【名も無き道化師】と距離を縮める。
「むっ!」
「ラァ!」
ドゴ!っと言う音をたてながら大翔の拳が【名も無き道化師】の腹にめり込む。
「これは……」
「ふふ……」
大翔は殴ったときに違和感感じて首をかしげる。
「お前体がどうなっているんだ?」
殴ったとき……明らかに肉を殴った感触ではなかった……まるで金属のような……
「そうなんですよ……私のこの体は本当の体じゃないんですよ」
「は?」
「私の二つ目の魔法【
「ようは自分は戦場に出ないで影に隠れながら戦う卑怯もんじゃねえか」
どおりで最大出力の
「まあそういわれても仕方ないですねぇ。ですが一応痛覚はそのまま通すようにしてるんですよ?ずるいのは自覚してるんで責めて痛みくらいは味わっておかないとね」
「けっ」
大翔は首を回す。
「ちなみにその人形は特別製か?」
「いえ、ただこの形をした人形を用意するのには金がかかってますけどね」
「大体いくら?」
「まあこの大きさと服とか化粧とか諸々ですからね……大体500万位ですね」
「金もってんだなぁ……」
大翔は半ば呆れた。
だが内心は焦ってもいた。このままでは戦闘不能は確実だ……下手すれば死ぬ……死ぬ?
(死ぬかも……かぁ……)
大翔は苦笑いした。多分死んだら……真由美が泣くだろう……憎まれ口を叩いたり叩かれたりしているが互いに大切な姉弟である……だから泣かれたら……
「嫌だなぁ……」
「ん?」
そう言って大翔は【名も無き道化師】の反応を無視して上に来ていた服を脱ぎ捨てた。
「それは……」
【名も無き道化師】は少し驚いた顔をする。それはそうだろう。
筋肉質でひどく引き締まった大翔の体……だが胸には直径凡そ一センチ程であるが貫通痕が一つあった……
「昔庭で見たり聞いたりした魔法を再演するって言う遊びに嵌まっててな……」
大翔は語り出す。
「だけどそんなときにいきなり俺の体に穴があいたんだよ……」
最初何が起きたのかわからなかった……突然体に穴が開いたのだ……しかもそのときに穴を開けられたのは自分の身だけじゃなくCADも……ひいては起動途中の起動式もやられたらしく同時に魔法式がそれによって暴走を起こした。
その結果脳に損傷を受けて今みたいな劣等生に堕ちてしまった訳だが……それはどうでも良いことだ。
「だが何故脱ぐ必要があるんだい?」
「汚れるからだ……着くと取れなくなるんだよ」
そう大翔がいった次の瞬間大翔左腕にサイオンが集まるとジュウジュウ音が出る。
「なっ……」
ボトリ……と音をたてて大翔の左腕の皮膚が剥がれる……その下から出てきたのはクロヒョウとは相反するように真っ白な色をした義手であった。
「義手型CAD【シロヒョウ】……起動」
大翔の瞳に宿る気配が変わる。
大翔が草繋 大翔ではなく七草 大翔だった頃……大翔を知るものはこう言ったらしい……
曰く、天才や神童と言う言葉では足りないと……
曰く、兄たちが受け継ぐはずだった才能を纏めて一人に収束させたようだと……
曰く、七草史上最高傑作になり得る人間だと……
曰く…………彼は【万能】ではない……そう、例えるならば【全能】である。
だがそんな彼は魔法を失う。更に起動式が壊されたとき魔法が腕から逆流し左腕も失った。
下手人は分からず仕舞い……いや、弘一は誰がやったか勘づいてしまいそのために調査を止めたと言うのはうっすら気づいている。
しかし弘一はそのままにはしなかった。魔法力を失った自分の息子に腕のよいCAD技士に大翔の腕を作らせた。
古代のオーパーツや様々な貴金属を一定の割合で溶かして混ぜ合わせ魔法による刺激を与えることで作られる世間には公表しない七草の……しかもその中でもごく一部でしか知り得ない特殊金属【ダマスカス鋼】で作られた義手型CAD シロヒョウ……普段は脳からの電流を受けることで普通の腕を遜色ない動きをするがいざというときはサイオンを流し込み完全に起動させることで大翔の本気を出させるアルフレッド・パンサーこと草繋 黒奈が作りし唯一無二の大翔専用のCADだ。
「ウォオオ!」
大翔は疾走すると消えた……
「自己加速式……?」
【名も無き道化師】は大翔の行き先を予測して
「うっら!」
だが何と大翔は
「へ?」
「残念だったなぁ!」
シロヒョウの能力の一つ……普段はただの義手だがサイオンを流すことでそれを高密度にしてそれを止めておく性質がありあらゆる起動式や魔法式を殴って消すことができる。
無論CAD自体も非常に強固であり【ウルツァイト窒化ホウ素】と呼ばれる世界一固い物質に匹敵する高度を誇っている。
恐らく物理的にも魔法であってもこの義手の破壊は不可能であろう。
「こんの!」
ドゴッと大翔の義手の拳が【名も無き道化師】の腹にめり込む。
「ごっ!」
「ウォオオオ!!!」
「っ!」
【名も無き道化師】はバックステップで躱すが大翔は義手を向ける。
すると起動式が展開され《加速》の反対の力で二酸化炭素を《減速》させて《移動》と《加速》で発射する。
「これは……!」
二酸化炭素を凝結、加速、収束、昇華させることで作り出すドライアイスの弾丸【ドライミーティア】……姉である真由美が得意として対人戦での切り札の魔法だ。それにより【名も無き道化師】は吹っ飛ぶ。
「がぁ……」
吹っ飛ばされつつも体制を戻すが、
「次は……これだ!」
続いて次々と起動式を起動させ発動させた魔法……まず瞬時に一体の空気中の水分を《収束》させ《減速》する……
「ドライ・ブリザード!」
氷の礫が一斉に【名も無き道化師】に殺到する。
「ぐぉ……」
咄嗟に
「随分面白いCADですね!てっきりあなたは放出系しか使わないんだと思ってましたよ!」
「残念だったな!」
大翔は咆哮する。
前にも言ったと思うが大翔は現在放出系しか魔法を使えない。だがこのシロヒョウを起動させている間は別の話だ。
義手型と言う形状は生身の肉体と繋げる必要がある。その結果同時に脳とリンクさせているのだ。
そうすることでサイオンを流し込んでいる間だけ事故で閉じた脳の演算領域をこじ開けることの成功したのである。そして同時に腕一本ほどまでCADをでかくしたことで補助機能も飛躍的に高まり放出系しか使えないと言う制約もこの瞬間だけはなくなるのだ。
これがシロヒョウ第2の力……このシロヒョウを起動している間だけ大翔は【草繋 大翔】から【七草 大翔】に戻る。
「
それでも咄嗟に魔法を使って大翔に対抗したのだから【名も無き道化師】はたいした魔法師であった。
だが大翔は自己加速式を起動させ躱す。
今の大翔は干渉力も事象変化速度もあらゆる魔法能力が桁外れだ。大翔が意識した瞬間には魔法が発動する……つまり【名も無き道化師】の後ろで止まった大翔は義手を向けつつ……
「ニブルヘルム」
振動減速系広域高等魔法・ニブルヘルム……高校生であればまず使うこともないし一般社会に出ても中々お目にかかれない高等魔法だ。もし使うものが居たとしたらとんでもない人間なのは間違いないだろう。
だが大翔はそれを平然と使った。
大翔は生まれつき魔法の相能が並外れていて一度みた魔法や聞いた魔法を幾らCADに起動式を埋め込んでるとは言えあっさりとその魔法を使ってしまうような子供だった。
今は残念ながらそんな芸当はできないがシロヒョウを使えば話は別である。
「そんな魔法まで……」
手加減して足だけ凍らせて動けなくしてやった。さてと……
「そろそろ決めようぜ」
「く……」
だが【名も無き道化師】は内心不思議でならなかった。余りにも魔法に脈絡がない。最初は放出使ったりしてきたかと思えば自己加速式も当たり前のように使って魔法の連打……気持ち減速系に偏りがあるが加速も移動も収束も流れるように……人間の反応速度凌駕しかねないような速度で魔法を起動していた。
とは言え実はこのシロヒョウには16種の起動式しか入っていない。そう、16種だけ……その意味が分かるであろうか?
本来CADは起動式を決まった順番で発動するように入れる。そうして魔法色に組み上げ魔法を発動するが実はその組み上げた起動式は専用の機械でなければ変えられない。
だがシロヒョウは16種しか入らないのではなく入れないことにしている。
脳の演算領域と直結させることで16種の起動式を大翔の許容力と魔法力が許す限りでその都度自由に組み上げていくことができる。無論そんなことをすれば魔法を発動するまでに時間がかかるが速度が桁外れに速い大翔の魔法力に掛かれば全く支障がない上にシロヒョウはサイオン消費が激しい代わりに速度が速いことで知られる黒奈の作品の一つである。
つまり……大翔は一度みたり聞いた魔法を自分の魔法として使うことができる。
とは言えナンバーズや各家のみに伝わりその家々にのみ伝承される感覚を用いた秘伝魔法は当たり前だが使えない。よしんぼ使えても実戦じゃ全く役に立たない程度でしかない。
さて、CADの説明もここまでにして…
「これで終わりだ」
大翔が最後に構えたのはクロヒョウ……そして銃口が本来ならある位置に電磁場が生まれる。
「行くぜ!」
だが生まれた電磁場は一つじゃない。何と三つも電磁場は生まれていた。そしてその三つの電磁場其々に辺りの金属が集まっていく。
普段なら無理でも今なら五つくらい同時に電磁場を産み出せる。そして放つ魔法は大翔のオリジナルにして殺生度Aの魔法、
「
音速を越えた金属の塊が三つとも【名も無き道化師】の体を撃ち抜いた……
「……ふぅ……」
敵が完全に動かなくなったのを見届けた大翔はシロヒョウの起動を止める……すると次の瞬間、
「が……」
大翔を襲う激しい目眩と頭痛……それと共に全身を極度のダルさと吐き気……更に節々の痛みが起こり一時的にだが視覚も不鮮明になっていく。発熱もしているようだ。
先程シロヒョウをあれだけ褒め称えたが本来ならもう二度と使われるはずのない演算領域をこじ開けているのだ。なんの代償もないわけがなかった。つまりこれが代償だ……
どの症状も一時的にではあるが大翔にかかった負担が一度に襲いかかってくる上に同時に大翔の魔法師としての寿命を削っている。ほいほい安易に使えば大翔は残り少ない魔法師としての力を確実に失うだろう。
そしてその直後に起きるのは一時的な意識の喪失……現に大翔は何とか意識を保ってるといった感じで少しでも気を抜けば意識を闇の世界に落としてしまうだろう。
故に急いで人工皮膚を義手に着けて制服を着る……後は壁を背にして……
(くそ……こりゃきついな……)
大翔は荒い息のまま少し考える。
(まあこれで姉さんに泣かれずに済むかな……って俺はシスコンかっちゅうの!)
まあ達也よかマシか……と大翔の内心の呟きを最後にそのまま意識を喪失した……
「あ~あ~これ高いのに……」
大翔が意識を失った直後現れたのは全身黒ずくめで顔も黒い布で隠した黒子衣装の声的に男だ。
「まさか高校生にやられるとはねぇ~……本当に世界は広くて最近の子供って怖いですね~」
そんな呟きをしながら黒子は寝ている大翔に近づく。
「まあ、また何れお会いしましょう」
恭しく礼をすると壊れた人形を氷から取り出して去っていった……
大翔のシロヒョウについては色々言われると思いますがまああまり深く考えないで大丈夫です。
とは言え完全に万能な訳ではなくナンバーズの秘伝魔法とか達也の【分解】と【再生】とかエリカの剣術とかの技で専用デバイスが必要な魔法は無論使えません。