魔法科高校の劣等生 欠陥品の魔法師   作:ユウジン

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突入

襲撃から一時間後……事件は学校側の鎮圧によって意外とあっさり終息した。

まあ仮にも魔法師の卵が大勢いる魔法科高校である。高々素人に毛が生えた程度のテロリスト達に後れを取るような奴は居ない。

 

さて、今回の事件はブランシュがやはり裏で糸を引いていたようでその目的は学校が保有する機密魔法奪うこと……まあそっちの方は達也と深雪とエリカが既に制圧済みだ。

しかし先程風紀委員の先輩方に捕まった剣道部主将の司 甲と言う男と渦中のと言うか最近達也の話題に上がった壬生は実行犯として捕まった。とはいえ壬生の方は怪我人と言うことを考慮した上で一度保健室にいるが取り調べを受けている。

 

 

 

 

 

「剣術小町……何て言われて増長してたんだと思います」

 

取り調べにたいして壬生はそう切り出した。

 

「この学校に入学したとき……渡辺先輩の剣を見ました。凄く強くて……美しかった。華がある剣でした」

 

壬生の言葉を誰も口を挟まず聞いた。

 

そして一つ息を吐いてから壬生は話を進めた。

 

「だから私勝負を挑んだんです。まあ私とでは実力が釣り合わないから見合った相手と戦えって言われて断られましたけどね……」

 

それを聞いた摩利が眉を寄せた。

 

「待て壬生……確かに私は勝負を断った……だがこう言ったんだぞ?」

 

一度区切って摩利は言う。

 

「私とお前ではお前の方が強いから釣り合わない。お前の腕の見合う相手と戦え……とな」

 

それを聞いた瞬間壬生は呆然と摩利を見た。

 

「魔法を使えば分からないが純粋に剣を極めたお前では剣道での戦いは難しいだろう」

「そんな……それじゃ私バカみたい……」

 

壬生は自分の服の裾を握る。

 

「ずっと勘違いして逆恨みしてたってこと?この一年ずっと……無駄にしてきたの?」

「それは違います」

 

達也がそれを否定した。

その声を聞いて壬生だけではなく大翔やエリカたちも見る。

 

「エリカから聞きました。中学の時代より貴女の剣は強くなっていたと……確かに怨みは無駄だったかもしれません。ですがそんな思いの上でもあなたは自分を鍛えて自らの剣を高めた……その努力は否定するべきではないかと思われます」

 

達也がそう言うと壬生は今度は達也の裾を引っ張った。

 

「ごめん……少し貸して……」

 

壬生は達也に顔を寄せると嗚咽を漏らす。

深雪も今回ばかりは嫉妬心は滲ませず傍観に徹した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするの?」

 

真由美が聞くと壬生が落ち着いたのを確認した達也が言う。

 

「ブランシュの居場所を突き止めます」

『っ!』

 

それを聞いた全員が目を見開いた。

 

「まさか一戦交える気?」

「それで終わらせる気はありません。完全に叩き潰しますよ」

 

真由美に達也が言うが、摩利がそれにはストップをかけた。

 

「待つんだ。明らかに学生の領分を越えている!警察に任せるべきだ」

「そして強盗未遂の現行犯で壬生先輩を家裁送りですか?」

 

達也にそう言われ逆に摩利が止まる羽目になる。

 

「確かに警察の介入は好ましくない……だが当校の生徒に命を懸けろとは言えんぞ」

 

十文字が今度は口を開いた。

 

「構いません。もとより部活連や委員会の力を借りる気はありません」

「まさか一人でやる気か?」

 

半ば驚いたような顔を十文字はした。すると、

 

「お供します。お兄様」

 

当たり前のように深雪がそう言った。達也あるところに深雪ありだ。

 

「あたしもいくよ」

「俺もいくぜ」

 

エリカとレオも参加を表明する。大翔は……

 

(ん?)

 

真由美からのアイコンタクトだ。

 

(何々……行ってこい?マジかよ……弟使いが荒い姉だぜ……)

 

そう内心で悪態を吐いたが元より着いていくつもりだった大翔も、

 

「俺も混ぜろ」

 

そう言って参加する。だが、

 

「良いのよ司波くん。私は罰を受けるまでのことをしたんだから……」

 

壬生が達也に向かっていった。

 

「壬生先輩のためではありません」

 

しかし達也はハッキリと否定した。

 

「自分の生活空間がテロの標的になったんです……もう俺は当事者ですよ」

 

そして……と達也はさらに続けた。

 

「俺は俺と深雪の日常を損なうものを全て排除します。それは俺の最優先事項です」

 

どこか人間離れしたような達也のオーラのような物のためか部屋に冷たい空気が走る。

それを壊したのは皮肉にも普段魔法の暴走で部屋を冷たくする深雪だった。

 

「それでアジトをどうやって……」

「知ってる人間に聞けば良い」

 

そう言って達也は扉に向かう。

 

「え?」

 

一気にガラッと開けるとそこには……

 

『小野先生?』

『遥ちゃん?』

 

そこには担任の教師である小野 遥がいた。

 

「遥ちゃん?」

「知らないのか達也。クラスの生徒は皆遥ちゃんって呼ぶんだぜ」

「そう呼ぶのは男子だけでしょ」

 

レオの言葉にエリカが訂正をいれた。

 

遥はナイスバディのお姉さんなのだがその童顔と何処か人懐っこい性格のためか一部の男子生徒からは羨望の的である。

 

「さすがに九重先生の秘蔵の弟子からいつまでも隠れとくのは無理か」

「ここまで来て惚けたりしませんよね?」

 

達也が詰問すると遥が端末を出す。

 

「今からデータを送るわ」

達也も端末を出してそれを通信で受けとるとそれを見たエリカが驚愕する。

 

「なにこれ……学校の目の前じゃない」

「確かここはバイオ工場の跡でしたっけ?」

「ええ、でも薬品などは既に撤去済みよ」

 

達也は端末を閉じると、

 

「逃げられる前にいくぞ」

「ならば俺が車を用意しよう」

 

十文字が手をあげた。

 

「十文字くん!?」

「後輩が体を張ると言うのだ。十師族としてもこの学園の三年としても見過ごせん」

 

とても十八の人間とは思えない荘厳さで十文字はいった。

 

「ならちゃちゃっと終わらせにいきますか」

 

大翔が言うと全員が頷いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大翔達が十文字の用意した車に乗り込もうとするとある人物が来た。

 

「ん?確か……狩原先輩?」

 

大翔はよく名前を覚えてなかったため確かこんな感じの名前……と言う曖昧な記憶で呼んだ。

 

「桐原だ!」

 

まあ間違えていたが……

 

だがこの間の乱闘の一件で達也に組伏せられて鎖骨まで折られてしまった桐原が模造刀を手にやって来たのだ。

 

「どうしたんだ桐原」

 

十文字が聞くと、

 

「会頭……俺もつれてってください!」

「なぜだ?」

「そ、それは……一高生として見逃せないと言いますか……」

「そんな言い繕った理由では連れていけんな。もう一度聞く。何故だ?」

「……俺は中学の頃に見た壬生の剣が好きでした……真っ直ぐで綺麗だった……なのに突然人を斬る剣に変わった……俺はそいつが許せないんです!お願いします!」

「……」

 

十文字は桐原を見る。そして、

 

「良いだろう。男を懸けるには十分な理由だ」

 

頼もしい笑みと共にそう言った。

 

因みに……

 

「成程ね。俺の憧れの女を傷物にしたのは許さんって奴ですね八ツ原先輩」

「カッコいい~」

「ち、違う!て言うか俺の名前は桐原だ!」

 

車の中で大翔とエリカに桐原が弄り倒されたのは別の話だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

装甲(パンツァー)!!!!!!」

 

レオは手甲型のCADを着けた腕で硬化魔法を発動させると車が元バイオ工場の門に突っ込み破壊する。

 

「お疲れさまだなレオ」

「ゼィ……ゼィ……なんのこれしき……」

 

強がっているが高速走行する車に魔法をかけるなど凄まじい集中力を要する。

 

「今のリーダーはお前だ司波……どうするかお前が決めろ」

「では桐原先輩と十文字会頭は裏から……レオとエリカは退路の確保、俺と深雪と大翔は正面から行く」

「まあ、待ち伏せはあるよな?」

 

大翔が少し苦笑いした。

 

「どちらにせよ魔法師を相手取る準備をしているだろうからな。裏も表も相当数がいるだろう」

 

こんな場なのにいつもと変わらない達也の返事に大翔は頷くと、

 

「よし、行くぞ」

 

達也の号令と共に行動を開始した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まて……」

 

正面のドアから入って進むと達也がストップをかけた。

 

「この次のドアのところに誰かいるな……」

 

そう言うと達也が目を瞑る……

 

「数は一人だな……」

「お前は透視能力でもあるのか?」

 

大翔は今更達也の驚き能力に逐一真面目に反応していたら身が持たないのはわかっているので適当に反応してドアを一気に開け放った。

 

「ご機嫌麗しゅう……」

「てめぇはさっきの……」

 

廊下になっている中に居たのは先程【名も無き道化師】と名乗った男だった……

 

「いやはやこんな早く貴方達に再開するとは……ん?」

 

【名も無き道化師】は達也を見ると眉を寄せた。

 

「貴方は確か……」

「知り合いか?」

「いや……記憶にないな……見たら忘れないと思うが……」

 

確かにあんな化粧の男を忘れろと言う方が無理である。

 

「いえいえ、こちらが一方的に知ってるだけでしてね。南の地では我ら劇団がお世話になりました」

「おい、結構恨まれてる感じだぞ」

「……逆恨みだ」

 

少し怪訝な目をした達也を横目に大翔は前に出る。

 

「まあいいさ……取り合えず一度言ってみたかったんだがな。達也、深雪……ここは俺に任せて先に行きな。ここでグズグズやっていたら犯人が逃げちまうぜ?」

 

そう言うと大翔は腰からクロヒョウを抜く。

 

「分かった……いくぞ深雪!」

「はい!」

 

二人は走り出す。

 

「そう簡単に通す訳にもいかないんですよねぇ……お手玉(ジャグリング)!!!」

 

次の瞬間光球が【名も無き道化師】の周りに多数現れ達也と深雪を狙い……

 

「おっらぁ!」

「おぶ!!!」

 

をつける前に大翔のドロップキックが【名も無き道化師】に決まり吹っ飛ばした。

 

「言っただろう?お前の相手は俺だ!!!」

 

これも一度言ってみたかったんだよなぁ……とか思いながら【名も無き道化師】にクロヒョウを向ける。

 

その間にあっという間に達也と深雪は奥に行ってしまった。

達也の動きが良いのは知っていたが深雪も中々運動神経が良いようだ。魔法だけではないらしい。

 

「い、いきなり人の顔にドロップキックはどうかと思うのですがね……」

「化粧なしでも面白い顔に変えてやるよ!!!」

 

そう言って大翔は間合いを詰めるとクロヒョウを起動……

一体の静電気を《収束》《加速》と行程を踏み……全て《放出》……これは元々大翔オリジナルの電磁石銃(レールガン)の未完成版として作られた魔法……名付けて、

 

電磁銃(スタンガン)!!!!!!」

 

コイン等の金属を使わずに行うことで非殺傷性を持たせることができるがその代わり近距離でなければ当たらないオリジナル魔法を当てる。

 

「くぉ!」

 

相手は少し後ずさる……だが、

 

お手玉(ジャグリング)

 

次々と幾つもの光球が大翔に向かって飛んで迫る。。

 

「ちぃ!」

 

貯めた電圧が低かったのかと舌打ちをひとつして大翔は再度CADを起動して電気の充電を開始する。

魔法の力の大半を失う前であったら瞬時に高圧電流もびっくりな電圧を作れただろう……だが今の魔法力ではとにかく時間がかかる。

 

集中を切らせば魔法が発動しなくなり充電が無駄になる。そうならぬように【名も無き道化師】のお手玉(ジャグリング)を次々と躱していく。

 

「ふむ……これだけでは当たりませんね……凄まじい反射神経と言ったところですね。ならば……」

 

お手玉(ジャグリング)に火が灯る。

 

燃えるお手玉(フレイムジャグリング)

「っ!」

 

火球が大翔に襲いかかってきた。

 

「あぢぢぢぢぢ!!!!!!!」

それを転がりながら炎を払って避けた先に、

 

氷のお手玉(アイスジャグリング)

 

氷の礫……と言うかドライアイスの弾丸が大翔に襲いかかる。

 

「がぐ!……つめてぇ!!!」

 

大翔は悲鳴をあげながら相手にクロヒョウを向ける。

 

「これで……」

「やばっ!」

「どうだ!電磁銃(スタンガン)!!!!!!」

 

現在の魔法力で最大出力での電磁銃(スタンガン)……

普通の人間であれば意識を軽く吹っ飛ばす量の電流が【名も無き道化師】の体を駆け巡った。

 

「ぐぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

【名も無き道化師】は目に見えて髪が逆立ち目をひんむき泡を吹く……そしてそのまま後ろに倒れた。

 

「…………なんだ大したこと……」

 

無いじゃないかと大翔が安心した……が、

 

「いやぁ~驚きましたよ。意外とやりますね」

「……へ?」

 

大翔は間の抜けた声を出した……確実に電磁銃(スタンガン)は決まっていた……なのにむっくりと当たり前のように相手は起き上がってきたのだ……

 

「お前……まさか不死身か?」

「不死身なわけではないですが……それに近いかもですね……」

 

そう言って【名も無き道化師】は再度魔法を起動してお手玉(ジャグリング)を作り出す。

 

「さて……第2ラウンドと行きましょうか……」

「もしかしなくても俺ってカッコつけてとんでもない相手を安請け合いしちまったかなぁ……」

 

大翔は苦笑いしながら気を引き締めた……


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