放送室ジャックから早くも二日……放課後に講堂で弁論が行われると言うことで大翔と何故かあずさが講堂の入り口で人の出入りをチェックしつつ混雑しないように整理していた。
「結構来ますね」
「市原先輩がカリキュラム見直した方がいいんじゃないかって言ってましたよ」
大翔が言うとあずさが苦笑いしながら答えた。
それは勘弁願いたいなぁと思いつつ大翔が先頭に立って整理(あずさが先頭では人混みに巻き込まれて何処かへ消えてしまうからだ)していく。
「さてこんな感じですかね」
「はい」
そう言って入り口近くのベンチに二人で座った。
本当は中に入って聞いた方が良いのだろうが残念ながら大翔には入り口で待機と摩利から言われておりあずさは真由美が大翔一人では退屈だろうからと置いていったのだ。
「それにしても結構皆気にしてるんですね」
「はい。やっぱり【
あずさが腕を組んでウンウン頷く。
妙に大人ぶった姿に大翔は笑いを堪えた。
「でも姉さんに聞いたんですけど学校の施設とか授業内容だって一科生とニ科生に差はないんですよね?」
「はい。そこは同じです。無論進む速度は同じ足並みとはいきませんけど……」
「差なんて先生が着くか否かくらいみたいですしね……やっぱ一番は意識なんでしょうね……」
「……」
差別なんて無い方がいい……それは思っているが大翔は一番はやはり意識のし過ぎと言うのもあると思う。平等平等と叫びすぎるあまり差別されていると思い込みすぎて本当の部分が見えなくなっている。そうして過剰に反応してしまう事になるのだ。
あずさにはそんな何処か達観したような事を呟く大翔の横顔に真由美が重なった。
(やっぱり姉弟なんだな……)
真由美も同じことを言っていたことを思いだしあずさはクスリと笑った。
「?」
「会長と同じことを言うんですね」
あずさの言葉に大翔は苦虫を100匹ほど噛んだような顔になった。
「でも……」
この際だからあずさは前から気になっていた事を聞くことにした。
「大翔くんは気にならないんですか?」
「え?」
「いや、大翔くん本来なら……会長の弟なんですから七草の一員だったはずですよね?」
あずさは周りに誰もいないのを何度も確認してから大翔に囁くように言った。
「そうですね」
「でも今は普通の家の……普通の魔法高校の生徒になってやっぱり悔しいとか思ったりしませんか?」
あずさが言いたいことは何となくわかった。大翔の立ち位置なら寧ろ平等を謳った同盟の方の場所の居ても変ではなかっただろう。
なぜそう割りきれるのか……流石に真面目に答える部分だろうと大翔は気を引き締める。
「俺はですね」
大翔が見せた真面目な表情にあずさも背筋を伸ばす。
「結構事故に遭うまでは才能があったんです。寧ろ天才って呼ばれるレベルくらいにはね……」
「…………」
端から見たら自画自賛に聞こえるかもしれないがあずさには大翔のふざけが一切無い声音を聞いて真剣に聞いた。
「でも事故に遭って魔法殆ど失って……家も出て……一時期そりゃあ何て俺の人生不幸だって思いましたよ?」
「………」
「でも恨んだって何にも変わらないって養母と養父に言われたんです。出来ることやってそれでもダメだったらその時自分を恨めって……まだ自分を恨むには速いって……そん時からですね、まず低い魔法力補うためにCADを勉強しはじめたの……お陰で今はデバイスが好きになっちゃって」
「そうだったんですか……」
「今は全然何とも思ってないですよ。俺は魔法を失ったお陰で達也達に会えましたしね」
そう言って大翔は「あ、それに……」と続けた。
「こうやってあーちゃん先輩と話したり出来ますからね」
「っ!」
大翔は特に意識せずにそう言って優しい笑みを浮かべた。
真由美なら相手をからかったりだとか裏で意図があるかもしれないが大翔はそんなに計算高くないのである意味自然に見せた笑みだ。
だが大翔は非常に整った容姿をしている。長く後ろに束ねた髪が風に舞わせながら見せる笑みは絵になる光景だった。
「ん?」
大翔にしてみればなぜあずさが突然顔を逸らしたのかが全くわからない。ついでに耳まで赤い。
(なにか変なこと言ったっけ?)
大翔が首をかしげた次の瞬間爆発音が辺り一体に響いた。
「っ!」
「きゃあ!」
元々荒事になれていないのだろう。あずさはビックリ仰天し咄嗟に大翔に抱き付く。
更にちょうど大翔も咄嗟にあずさを庇おうとあずさの体を自分の体で庇うように覆い被さるように抱き寄せた。
結果としてあずさを大翔は抱き締めてる状態なのだが今度はあずさはそっちにビックリ仰天して顔を真っ赤にした。
しかし大翔は爆発が起きた方に意識が向いていてあずさの変化に気づいていない。
「あの方向は実技棟ですかね?」
「ひゃ、ひゃい……」
ここに来てやっとあずさが何か可笑しいことに気づいた大翔は見ようとしたが今度は講堂の中が騒がしい。
「今度は何が……」
大翔が立ち上がろうとするとバタバタと何人かが来る。
「あ?」
大翔が見るとガスマスクをつけた男達が三人ほどやって来た。
「次から次へと面倒だな……」
大翔は舌打ちしながらあずさを庇うように構える。
「は、大翔くん」
「大したことはありません。大丈夫ですよ」
ポンポンとあずさの頭を軽く撫でていると相手の方から来た。
「っ!」
大翔は相手の突き出した拳を片手で付かんで捻り上げるとそのまま力で投げ飛ばす。
更に続いた男の一撃を体を回転させて躱すと肘をコメカミに叩き込んで沈める。
「この!」
「大翔くん!」
「っ!」
あずさの悲鳴に近い声と共にナイフが大翔の腹部に刺さった……ように見えた。
「え?」
男がナイフを落とす。
「悪いな」
ゴッ!と言う音と共に大翔の拳の打ち落としが止めを指す。
「いってぇ……」
「は、大翔くんななななナイフが……あれ?」
大翔の服には穴が開いていたし少し血が滲んでいた……だが明らかにナイフが刺さったあとの傷にしては傷が浅すぎる。と言うか皮膚が少し切れているだけだ。
「昔言ったでしょ?事故で脳が傷ついたって……お陰で魔法の才能は失ったんですけどその代わり身体能力とか頑丈さが羽上がりましてね」
人間は自分が持てる力を3割程しか使えない。大翔は脳が損傷を負った際にその際のリミッターが壊れたと推測している。
「大変でしたよ?慣れるまでは気づかないうちに力がこもると間違ってドアノブひしゃげたりさせちゃうしちょっと走ると筋肉がブチブチ切れるしでね……でも体もそれに対抗するように頑丈になっていって気づけば腹にナイフ刺さっても皮膚に少し傷がつくくらいの腹筋とかになっちゃって……今はトラックに撥ね飛ばされても打ち身になるくらいです」
「……もう魔法師じゃなくて格闘家になったほうが良いんじゃないですかね?」
普通に人間離れしてるなぁとあずさは関心半分あきれ半分といった感じだ。
「でもこの人達は……」
「恐らく同盟側の実働部隊……と言ったところですかね。もしくは……」
この同盟の影に隠れて裏で動いてるなにか……と大翔が言うとあずさは息を飲む。
「ん?」
すると達也と深雪が実技棟の方に走っていくのは少し遠くに見えた。別の入り口から出たのだろう。大翔に気づかずいってしまう。まあ向こうの騒ぎはあの兄妹に任せておけば問題あるまい。
「こいつら中に運びましょう」
「そ、そうですね……」
妙にこんな騒ぎの中で落ち着いている大翔にあずさは首をかしげたがとりあえず後回しにする。
「委員長!」
大翔とあずさが入ると既に中に潜入した賊は捕まっていた。
だが何故か真由美と摩利と鈴音しか中にいない。
「おお、そっちの方にも行っていたのか」
「まあ、こいつらはどうやって講堂に?」
「ふん。君たちとは別の入り口を見張っていた風紀委員は寝こけていたよ」
「魔法で?」
「それだったら格好もつくが完全な居眠りだ」
役たたねーと大翔は顔をしかめそうになったが我慢する。
「む?その腹はどうした?」
「少し刺さっただけです。たいした怪我じゃありません」
「そうか」
まさか腹筋が固すぎて刺さんなかったとは誰も思わないだろうな……とあずさは少し表情がひきつったが問題はそれどころじゃない。
「それで他の先輩達は?」
「今ごろは生徒達の避難や戦えるものは遊撃に向かっているわ」
真由美が言う。だが大翔は首をかしげた。
「ならば委員長は先陣切っていきそうですが?」
「真由美が一応残れと五月蝿くてな……」
「仮にも風紀委員の長が所在地不明じゃ格好がつかないでしょ」
「じゃあ十文字はどうなんだ」
「彼は連絡すれば電話に出るもの。あなたは戦って夢中になると電話に気づかないでしょ」
摩利はグゥの音も出なかった。
「他に辰巳と鋼太郎にはこの事件を先導したやつを捕獲しにいってもらった」
「見つけたんですか?」
あずさが驚くと真由美が肩を竦めた。
「ええ、摩利があの手この手の拷問で……」
「おい!大翔くんと中条が若干引いてるだろ!」
摩利が二人を見る。
「私は香水とかを組み合わせた気流操作で自白剤擬きを作れるだけだ。無論犯罪性はない」
「立件できないだけでしょ」
「真由美!!!!!」
摩利がついにキレて真由美を追いかけ出す。
「仲が良いですね」
「ええ。凄くよろしいですよ」
大翔が言うと鈴音がうなずいた。
「そう言えばはんぞー先輩は?」
「会長に良いところを見せるべく学校を西へ東へ駆け回り賊を潰し回っています」
「それは凄いですね」
愛の力と言うやつかと大翔が内心呟いた……だがそこに……
「いやはや素晴らしい対応だ……」
『っ!』
全員が発せられた声の方を見る。
そして壇上にいた……シルクハットに派手な服……靴の先が少し尖っていて顔が白粉やらなんやらで素顔がわからない……例えるならと言うかこう形容するしかない……
「ピエロ?」
あずさが呟くとピエロの格好をした男は拍手した。
「どうもはじめまして」
そのまま立ち上がると優雅に一礼……あまりの鮮やかさにこっちは唖然としてしまう。
「私は【名も無き道化師】でございます」
『?』
一瞬全員はふざけてるのかと思った……だが【名も無き道化師】と名乗った男は続ける。
「私は【劇団】と呼ばれる組織に属するものでしてね。今回はこの騒動の台本を書かせてもらいました」
「っ!……劇団ですって……」
「知ってるのですか?」
鈴音の問いに真由美は頷く。
「構成人数……組織の長……目的……一切不明の傭兵集団として活動する」
「いやはやお恥ずかしい。ですが我らは傭兵ではございません。我らはあくまで舞台役者。時には脚本家を、時には脇役を、またある時は主役をやるだけでございます」
「それで今回はこの事件の手引きか?」
「はい。ですがまさかここまで手が早いとは……やはり私は脚本家の才能がない。今回の演目は失敗といったところですね」
そう言って【名も無き道化師】はくるりと回る。
「では私はここまででございます」
「逃がすと思っているのか?」
摩利がCADを動かせるようにする。
大翔や真由美に鈴音やあずさも逃がさないようにしている。
「いやはやこれは中々ですね……流石にこの人数を相手にはしたくありませんからね。逃げさしていただきます」
そう言って【名も無き道化師】は真由美と同じ腕輪型のCADを起動させると……
「【
『っ!』
【名も無き道化師】の周りを急に丸い物体回り出す。
「私のオリジナル魔法【
突然球体が火の玉のなる……
「《減速》を使えば……氷球に」
次は氷の球になる……
「《発散》を加えれば……手榴弾に」
ボンっと爆発した。
成程応用性が高いようだ……だが、
「それがなんだよ」
「そう焦らない方がいいですよボウヤ。男はのんびりどっしりと……拙速を尊ぶのは美しい女性を見つけてエスコートするとき。喧嘩するまでの早さや女性との床の上で早いのは嫌われますよ?」
「なんだと!」
「は、大翔くん落ち着いて……」
大翔はキレそうになったがあずさに止められた。
「さぁさぁお立ち会い……この美しき【
グングン球体が風船のように大きく膨らんでいく。
『なっ!』
「さぁこれだけの質量だ!爆発させたらどれだけの破壊力に……なるでしょうか?」
そう言って【名も無き道化師】の手に針の形にした【
「くっ!」
摩利が魔法を起動させようとしたが……
「おっと私に危害を加えたら爆発するよ」
「っ!」
そう言われれば摩利も魔法を止めるしかない。
「スリー」
「ま、待てよ!おまえも死ぬぞ!」
「自分の芸で死ぬような三流と一緒にしないでほしいな。ツー」
「や、やめなさい!」
「ここまで来たらやるよ。ワン!」
『うわぁあああああ!!!!!!!!!!』
全員で後ろの方に待避した。
「ゼロ……」
見眺めを閉じた次の瞬間……パン……と間の抜けた音が響いた。
『へ?』
ヒラヒラと紙吹雪が舞う……既に【名も無き道化師】は居なくなっており壇上には大きな垂れ幕がありこう書かれていた。
【アホが驚く豚のケツ(笑)】
「あのくそピエロ!!!!!!!!!!」
「あの性悪変人男!!!!!!!!!!」
大翔と真由美が同時に怒り浸透し床に足を踏み鳴らすのを腰を抜かしたの頃の三人が見ていた……
次回こそは戦闘シーンを……