俺はその日、夢を見た。普通なら人間というものは夢を見たとしてもその殆どは情報の片隅に置かれ次第に削れていき現実という物よりも素早く消えさる物なのだがその見た夢は普段見るようなものとは少し、毛色が違った。
「‥‥‥‥?」
気がつけば俺という存在はとある研究所の一室に立っていた。だがその視界はまぁるく縮まっており他は少し歪んでいる。まるで出来損ないの回想シーンだ、そう漏らすとここが夢であることを自覚した。
所謂明晰夢、昔見たのはいつごろだと考えていると何もない目の前の空間に急に扉が現れた。それを見ていると少しだけ笑いが出た。
「開けろってか、俺の深層心理とやらは何を思った?」
そうして俺は迷うことなくその扉を開けた。
見えたのは、この真っ白な研究室の空間とは違う漆黒の空間。
そこに足を踏み入れるとズブリ、と足が沈んだ。そして何者かが俺の足を掴む感覚を覚えた。
「ッ?!」
慌てて足を抜けば今度はもう片方が沈む、そうこうしている内に俺の足を掴んでいたのであろう人物がスーッと沼から音を立てずに現れた。人数は二人、どちらも見知った顔だ。
それを見て俺は口を開く。
「‥‥‥‥地獄の底からってのがに合いそうな登場の仕方だなおい」
「お久しぶり拓斗君!」
「相変わらずの減らず口だな、拓斗」
どちらもこの世界に来る前に死んだはずの人間でこの場に現れても可笑しいとしか感情が出てこない。
「死んだ人間が今更ノコノコ出てくんなよ」
「ひどいな、折角出てきたんだがな」
「包夢さんも、弔っといてあげますから人の夢に現れないでください」
「いやー、けどそういうわけにはいかないの」
そういうと二人は俺の前と後ろで挟むように立った。気がつけば真っ白な空間へとの扉も消えている。明晰夢の割には思った通りにいかないものだ。そんな風に気楽に考えていると更に沼から人間が出てくる。
最初に銃で撃ち殺した人間や俺をかばい死んだ人間、俺をさらおうとしたがため殺されたグループ、そんな人間ばかりであるが殆ど覚えていない。ざっと数えて50人以上はいる。そんな奴等がどこか懐かしいような言葉を浴びせてくる。
「地獄に落ちろ」「どうしてそんな事」「なんでお前が」「これが現実」「お前の咎」「俺だってまだ」「私の方が」「なぜ見捨てた」「いい気になりやがって」「痛かったんだぞ」「人の痛みを知れ」「助けてくれよ」「俺にも
誰かが仕掛けておいた精神攻撃だろうか、それとも俺が気にしていないと思っていたはずなのに抱えていた闇なのか、聞き覚えのない言葉もなんども聞き取れた。聖徳太子のような耳は持ち合わせていないが不思議とそれを感じ取れた。
「お前らには悪いがな、死んだ人間に心があると思うほどオカルティックな考えは持ち合わせていない」
「まぁそういうな、ここがお前の場所なんだ、誰の助けも借りずにゆっくりと堕ちてこい」
そう奴が言うと全員がまるで獣のように襲い掛かってくる。一撃いれれば霧散しまた形を成して襲ってくる。拳銃を使い応対するもまるで追いつかない。
じりじりと迫ってくる敵に拳銃を放っては再び次に備えることも繰り返し。いくら夢から覚めようとしてもまったく世界が崩れない。どうしたものか、そう焦っている時
「――貴方に仕える者、灰理優木はこの身をかけましても貴方の翼となり盾となりましょう!!」
漆黒の空間に光射すようにして聞きなれたアホのような声が聞こえた。それに少し表情が緩んだような気がしたが気にせずそのまま手を空へと伸ばし、何を掴む。すると次第に自分の体は宙へと浮いていき沼から抜け出す。
そうしてだんだんと視界が崩れ――
◆
俺が目を覚ますと、目の前にはほっぺたを掴まれて痛がっているアホが見えた。どうやら夢は覚めたらしい、俺はその手を離すとゆっくりと身を起こし洗面台へと向かう。いつのまにか寝ている場所が変わっていたが迷うことなく洗面台を見つけ顔をあらいうがいをする。
そして眠気が完全に覚めるたのでタブレットの電源をいれるとすぐに音が鳴る。病院内で問題を起こすような低機能ではなくそのまま電話に出て会話を少しして閉じる。そのまま外へ出ようとすると灰理が声をかけてきた。
「イテテ...おや?どうしたんですか」
何を決まったことを聞いているんだか、やはりこいつはアホだ。もう少しだけアホ鳥と呼んでやろう。
「いくぞアホ鳥、仕事だ」
-完-
はい、と少しおかしな終わり方になってしまったかもしれませんがここまでで一旦終わりとなります。一応完結とさせていただきますが次からは少し文章まとめて一話完結タイプをたまに投稿させていただきます。ここまで支えてくださった皆さんがた、活動報告で募集したルートはそこで書かせていただきます。
以上、ここまで『とある天然の
※活動報告を少し追加しました。タイトルは「ちょっとした補足」です。