とある魔術のグループが彼女を襲い、殺したんだ。
奴は溢れんばかりの怒りを顔に表しながら語った。本堂は初めて見る奴の怒りの表情に少しばかり驚く。そして次第に本堂は自分が得た情報を整理し始めた。
人口生命体...これは先ほどの言葉からもわかるとおり本堂拓斗のことだろう。
魔術...これについては理解ができないが手法が違う
少しばかり整理すると本堂は素朴な疑問を抱き、奴に途切れ途切れながらも質問をした。
「何故…もう一度、別の個体……を作らなかった?」
いい質問だ、と奴は顔を元に戻しながら説明した。
「もう一度作れたといっても、所詮は偶然だった。不思議なことにその後同じことをしても君は作れなかったんだ」
だがしかし、と奴は話を続ける。どうやら一度話し始めるとなかなか終わらないタイプのようである。
「面白いことが起きたんだよ、前彼女が研究していた切替スイッチが
「私は探したんだ、その異常なまでの回避を極めた
だから、歳が2桁になる頃には記憶操作を施して野にはなした。お前は自立したのではない、捨てられたのだと。
本堂は段々と奴の言っている"彼女"の正体に気がつき始め、震えだす。
「捨てるのに彼女は猛反対した、少しばかり不審に思ったがこの時口に出していればよかったよ」
「やめろ...」
「彼女はとある魔術グループの一員が化けていて、お前という生命体が完成したところで奪取するのが目的だったらしい」
「それ以上言うな...」
「思えば人工生命体のご機嫌取りと称してやけに懐かせていたのはそうい事だったんだろう」
「やめてくれ...」
「彼女の名は」
「やめろ!!」
本堂が力を振り絞り声を張り上げるが奴は気にせず、彼女を指す記号を発した。
「本堂包夢、お前の名付け親であり先ほど黒焦げになった奴さ」
あ、と本堂は一文字だけ漏らしてあとは何も言わなくなった。いや、何も言えなかったのだろう。何年も信じて生き続けたはずの彼女は、自分を利用するために送られてきた人間で、さっきの死体が彼女だったなんて。
本堂は何が何なのか、もう何も信じられなくなった。自分が教わった言葉さえも、その首にかけてある十字架の首飾りも、今まで貫いてきた自分の生き方も、全て。
本堂は、生きている理由を失った。元々、
「生きている理由なんてなくなったんだ、付いてこない理由もないだろう?」
それも、そうかもしれないと本堂は揺らいだ。どうせ自殺もできないしただ理由のない生活を送るだけならいっそこのままどん底まで落ちてしまえば何も考えずに済むかもしれない。ただ、流されるだけの生活もまた、と本堂の思考は沈んでいく。
そして、視界がだんだんと黒く染まっていき、意識は落ちた。
◆
『なにやってんだお前』
誰だよ、怪我してんだからあんまり騒ぐな。
『いやよ、余りにも無様すぎてな』
………うるせぇな、無理だろあんなの。
それに、
『それに?』
ここから生還できたとしても、やることがない、生きる支えがない、もう……俺は包夢さんも、絶対を誇った
『ん~だがよ、どんなにどん底でも信じられるものがお前には2つ、あんだろ』
なんだそりゃ、できれば教えていただきたいね。
『一つぐらいはわかれよ、ほら今も呼んでんぞ』
………待て、お前は誰だ。信じられるものとは何なんだよ!
『分からない訳ないだろ?俺は………』
「本堂さん!!」
次の瞬間、強くも、芯を通った声が、闇に沈んだ本堂を呼んだ。