とある天然の絶対回避《イヴェレイション》   作:駄文書き

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第44話

 とある魔術のグループが彼女を襲い、殺したんだ。

奴は溢れんばかりの怒りを顔に表しながら語った。本堂は初めて見る奴の怒りの表情に少しばかり驚く。そして次第に本堂は自分が得た情報を整理し始めた。

 

人口生命体...これは先ほどの言葉からもわかるとおり本堂拓斗のことだろう。

 

魔術...これについては理解ができないが手法が違う能力(チカラ)のことを指すと考えておく。

 

女神の過保護(ゴッデスプロテクション)...これもその魔術とやらなのだろうか、どうやら所持者は一定期間が経つと消え、その時に生まれた者にまたその加護がかかる。

 

少しばかり整理すると本堂は素朴な疑問を抱き、奴に途切れ途切れながらも質問をした。

 

「何故…もう一度、別の個体……を作らなかった?」

 

いい質問だ、と奴は顔を元に戻しながら説明した。

 

「もう一度作れたといっても、所詮は偶然だった。不思議なことにその後同じことをしても君は作れなかったんだ」

 

だがしかし、と奴は話を続ける。どうやら一度話し始めるとなかなか終わらないタイプのようである。

 

「面白いことが起きたんだよ、前彼女が研究していた切替スイッチが女神の過保護(ゴッデスプロテクション)を封じ込めんたんだ………別の能力(チカラ)を発現させてね。それが...

 

絶対回避(イヴェレイション)、態々君を野放しにした理由の一つだ」

 

能力(チカラ)を弱めた女神の過保護(ゴッデスプロテクション)と残り香のように体内にあった科学の部品や女神の過保護(ゴッデスプロテクション)が発揮される前の実験で持った自分だけの現実(パーソナルリアリティ)によってまた新しい能力(チカラ)が本堂に発現された、奴はそういった。

 

「私は探したんだ、その異常なまでの回避を極めた能力(チカラ)を無視してお前に科学の能力(チカラ)を身につけさせる手を。それまでの時間お前を匿っておくのには無理があった」

 

だから、歳が2桁になる頃には記憶操作を施して野にはなした。お前は自立したのではない、捨てられたのだと。

本堂は段々と奴の言っている"彼女"の正体に気がつき始め、震えだす。

 

「捨てるのに彼女は猛反対した、少しばかり不審に思ったがこの時口に出していればよかったよ」

 

「やめろ...」

 

「彼女はとある魔術グループの一員が化けていて、お前という生命体が完成したところで奪取するのが目的だったらしい」

 

「それ以上言うな...」

 

「思えば人工生命体のご機嫌取りと称してやけに懐かせていたのはそうい事だったんだろう」

 

「やめてくれ...」

 

「彼女の名は」

 

「やめろ!!」

 

本堂が力を振り絞り声を張り上げるが奴は気にせず、彼女を指す記号を発した。

 

「本堂包夢、お前の名付け親であり先ほど黒焦げになった奴さ」

 

あ、と本堂は一文字だけ漏らしてあとは何も言わなくなった。いや、何も言えなかったのだろう。何年も信じて生き続けたはずの彼女は、自分を利用するために送られてきた人間で、さっきの死体が彼女だったなんて。

本堂は何が何なのか、もう何も信じられなくなった。自分が教わった言葉さえも、その首にかけてある十字架の首飾りも、今まで貫いてきた自分の生き方も、全て。

 

本堂は、生きている理由を失った。元々、絶対回避(イヴェレイション)のおかげでたいした刺激も無く送られてきた人生では本堂包夢という人物は欠かせなかった。敵を蹴り飛ばしたりする時に発生する嗜虐心も大して追い詰められたりしていないのだから発生しない、退屈な人生だった。

 

「生きている理由なんてなくなったんだ、付いてこない理由もないだろう?」

 

それも、そうかもしれないと本堂は揺らいだ。どうせ自殺もできないしただ理由のない生活を送るだけならいっそこのままどん底まで落ちてしまえば何も考えずに済むかもしれない。ただ、流されるだけの生活もまた、と本堂の思考は沈んでいく。

そして、視界がだんだんと黒く染まっていき、意識は落ちた。

 

 

『なにやってんだお前』

 

誰だよ、怪我してんだからあんまり騒ぐな。

 

『いやよ、余りにも無様すぎてな』

 

………うるせぇな、無理だろあんなの。絶対回避(イヴェレイション)でも駄目、女神の過保護(ゴッデスプロテクション)発動したらどうなるかわからん。手詰まりだ。

それに、

 

『それに?』

 

ここから生還できたとしても、やることがない、生きる支えがない、もう……俺は包夢さんも、絶対を誇った能力(チカラ)さえも信じられない。生きていて楽しくないのは容易に想像できんだよ。

 

『ん~だがよ、どんなにどん底でも信じられるものがお前には2つ、あんだろ』

 

なんだそりゃ、できれば教えていただきたいね。

 

『一つぐらいはわかれよ、ほら今も呼んでんぞ』

 

………待て、お前は誰だ。信じられるものとは何なんだよ!

 

『分からない訳ないだろ?俺は………』

 

「本堂さん!!」

 

次の瞬間、強くも、芯を通った声が、闇に沈んだ本堂を呼んだ。


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