とある天然の絶対回避《イヴェレイション》   作:駄文書き

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第42話

 本堂は気がつくと薄暗い部屋に閉じ込められていた。薄暗い、といっても近くにあったスイッチを押したところしっかりと明るくなった。目の前に見えた両開きの扉は手をかけともビクともしないため、拳銃と破壊しようともしたのだがどうにもそれで開けることのできるタイプではないと判断してその拳銃をしまう。

 

「ったく...ん?」

 

少々警戒が足りなかったかとため息をついたあと、この部屋には大量の本棚とそこに大量のケースがしまってあるのに気がついた。その内の一つを取り出して開くとそこにあったのは『重要』と記載された書類ばかり。何故こんなものがあるのかと気にはしたがそれは書類の内容によって消し飛んだ。

 

「『魔術と科学の共同実験、初期報告』?んだこりゃ」

 

【・魔術と科学の共同実験、初期報告

経過は順調と言える、実験に協力してくれた者にも不足はないしこのままいけば当初の目的通り魔術と科学の能力(チカラ)、両方を使うことができるようになるだろう。ただ、今恐ることはこの情報が漏れることだ。

 

※追記

今朝しがた、どこから入手してきたのか協力させ欲しいという魔術派の女と科学派の男が現れた。無論、断ろうとしたがその手持ちはとても素晴らしいものであり、上にも相談した結果協力することとなったことを記載しておく。】

 

「………怪しすぎんだろ、確かに漏らされてもたまんないがよ」

 

本堂はそんな声を漏らしながらも書類を読み進める。

 

【・人工生命体について、考察

件の科学派の人間が用意していた人口生命体、これはこの実験をかなり優しいものにしてくれるであろう。量産可能であり体の構成もほぼ普通といっても差し支えなく今回の危険な実験にはもってこいである。ただ、問題としてはたまに誤作動を起こし普段とは別のものを作ってしまうことであるが危険性はないとみられる。】

 

「クローン体、とはまた違うみたいだな、こんなのあったらもっと大騒ぎになってそうなんだが」

 

【・切替スイッチについて、考察

件の魔術派の女が研究していたもののようで特定の魔術を封じ込めるもののようだ。ただ特定の魔術はごく少なく、科学派の人間と一緒であったからこそこの実験に参加できたと言っても過言ではないだろう。】

 

【・人口生命・変異体について、考察

珍しく変異体が人間の体で生まれたため試しに科学の能力(チカラ)を発現させてみた所、なんと希少な能力(チカラ)(なお能力(チカラ)については別紙記載)を発言させた。研究所はこの個体に名を付け実験場に送りしばらく観察を続けてみようと思う。】

 

「ん、こいつで終わりか?別紙とやらが見当たらんが」

 

少々気になり始めたところでファイルに挟んでいる書類は終わってしまった。少し残念、と気持ちを落とすがこんなことをしている場合ではなかったと思い出して顔を上げると目に思いがけないものが飛びこんで来た。

 

「手を挙げろ、拓斗」

 

「何してやがんだお前」

 

いつのまにか再び銃を持った集団に囲まれていた本堂はそのリーダー格ともいえる人間を見て驚いたのだ。

 

「久しぶりだな、●●」

 

「だからそっちで呼ぶなっての」

 

奴、簡単に言えば本堂がいた研究所のリーダーであった男だ。その顔は前よりも少し老けているが相変わらずLevel5を前にしているというのに動じない人物である。

しかし、それよりももっと気になることがあった。

一つは、この部屋は20人程がはいれるほど広かったか?

一つは、いくら書類に夢中になっていたとしても本堂が気づかないだろうか。

一つは、背中に背負っていたはずのロケットランチャーが何処かへ消えてしまったこと。

あまりにも気を取られていたで済ますにはおかしい出来事ばかりであった。だが、ここで慌てていては敵の思う壺でありこの状況にあっても本堂は簡単に脱出できると自体を軽く見ていた。それほどにまで絶対回避(イヴェレイション)への信頼が大きかったとも言える。

 

「目的は?連れ戻しにでも来たのかよ」

 

「そり通りだ、こっちに戻って来い。拓斗、さもなくば」

 

その言葉と共に周りの人間が一斉に引き金に手をかけた。

 

「誰が応じると思うかよ、とっとと――」

 

 

 

 その言葉を言い得る前に、乾いた音が部屋に響いた。そして感じたこともないモノが本堂を襲う。それが理解できずに、本堂は自分腹部に手を当て、それを確かめた。

"自分に流れるはずもないものが手に付着している"紅く、ドロリとした、散々自分が、他人から流れさせていたソレが。自分の腹部より染み出していた。

 

「な、なんだ………なんだよこれ」

 

本堂はそのことを理解できず、ただ痛みで立てずにその場に、膝から崩れ落ちた。膝にも痛みが走るが、絶対回避(イヴェレイション)は作動しない。今、自分はただの無能力者だと気がつくのには時間がかかった。

 

「さぁ、戻って来い。拓斗」

 

その光景にも奴は動じず、ただ声をかけていた。

 

 


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