とりあえずこの話がすべてを解き明かすための鍵です。
俺こと、
給料だって普通だし、学歴、これまであったハプニングも含めて総じて普通の人間であると断言する。だからこそ、自分がこんなことに巻き込まれるなんて思っちゃいなかったんだ。そう悔やみながら、俺は血だまりに沈む。
―――ある日の事、それは至って普通の日に起きた。朝食も可もなく不可もなくの味だったし靴紐(研究所内で履くための靴)が切れるなんて縁起のないことも起きなかった。そもそも、そんな事で予知出来たら俺たちはこんな所にこもっていないだろう。研究員の中でも上位の存在の"二人"に挨拶を済ませ実験協力者にもしっかりとした挨拶を入れる。こんな風にどんなところにだって上下関係はあるのだとつくづく実感する。そう重いため息をついた時、実験協力者の彼女が話しかけてきた。
「運が逃げるので―――どっかに消えてろ」
うん、泣きそうだ。彼女(少女と言いたいところだが身の危険を感じるためやめておこう)の名はシェリー、 シェリー=クロムウェルと言う。無論外国人、俺が知るのはこのくらいだけだ。本格的な実験には未だ立ち入らせてもらっていないが先輩方は「歴史に名を残す」とこの研究に意欲を持っているためきっと凄いしょ...彼女なのだろう、俺は命令に従いその場を離れる。
しばらくすると俺の横を通り過ぎようとした先輩がバスケットボール選手もびっくりな程のターンを決めて俺を引き止めた、地味に肩が痛い。
「おう、悪い悪い。ちょっと知らせておく事があったから伝えておこうと思ってよ」
「いえ、気にしていませんが………一体?」
「それがよ、
そう言って先輩は脇に抱えていたファイルから一枚の紙を取り出して俺に見せてきたので、俺はとりあえず黙読した。そしてその後に出てくる違和感を感じ取らずにはいられなかった。
実験体名:拓斗
性別:男
生年月日:
………なんなんだこれは、プロフイールにしても短過ぎるしそもそも生年月日の欄空白ってなんだよ、とそんな俺の気持ちを読み取ったのか先輩も「俺にもわからん」といったジェスチャーをしてその場を去っていった。怪しすぎると俺も考えたのだがここでもし異議を所長に雑用係のような研究員が唱えてみればどうなるか、そんなのはいとも容易く想像できたので心の奥底にしまっておく。だがここで唱えていれば何か変わっただろうかと、俺は後悔したのだ。
次の日、体調を崩した俺は部屋で寝ていた。幸いにもある程度は真面目に働いていたので休みは簡単らもらえたのでそれに甘えて布団に潜り込んでいた。壁と壁は防音とうたっていたがなにやら叫び声が聞こえて目が覚めた。いや、叫び声というよりは怒号だろうか?何か実験に失敗したのだろうか、金切り声のようなものも聞こえた。………金切り声に叫び声、そして怒号だと?そんな要素から想像出来るのは危機的状況のみなのだが...どうしたらよいのだろうか。
とりあえずテーブルに置いてあったコップ一杯の水を飲み干すと少しめまいを覚えながらも立ち上がり周りを確認した。ここは大体2.3人で眠る研究員に渡される部屋なのである。とりあえず部屋の状況は同じ、しかしながら相変わらず声は聞こえる。………心なしか今爆発音も聞こえた気がする。やはり不味そうだ、とりあえずここにいても駄目そうだから逃げよう、そう思い扉に手をかけようとした瞬間
扉が吹き飛び俺ごと壁に激突したのだ。
「ッ?!?!」
何が起きた、肺から空気が抜けるような気持ち悪さの後は体全身を痛みが襲った。意識が朦朧としながらも俺の目にはその一連の動作の原因が見えた。
「(外、国人………?)」
だが次の瞬間にはもう俺の意識は途切れることとなった。
◇
次に目が覚めた時、俺は生きていた。幸いにもあの男は俺を死んだものと思い退散してくれたようだ、まぁそもそも認識されていたかどうかもわからなかったのだが。
ともかくこの俺の人生の中でもトップクラスのハプニングはどうやら切りぬ抜けたようで扉のがれきにうもれながらもホッと一息をつこうとしたのだ。
だが駄目だった、よく見たら付近に血が付着していた。それが見えた時俺は喉の奥から這い上がってきたものを吐いた、また血だった。どうやら勝手に死ぬから見過ごされたようである。体を動かそうにも力が入らず血が抜けていくのがよくわかる。体を倦怠感が襲う。俺はそのまま、意識を失い二度と目が覚めることはなかった。