とある天然の絶対回避《イヴェレイション》   作:駄文書き

35 / 52
第32話

本堂はその瞬間、理解ができなかった。

長年付き合ってきたはずの己の能力(チカラ)が想像とは全く違う成果を発揮した。それが本堂には理解できなかった。

不意の背中からの衝撃にえずく御坂の前で呆然と立ち尽くす本堂はとりあえず後を追わないとと思い背を向け歩き出す。それに何とか演算をした御坂の電撃が迫るがこれも避けるのではなく体を貫くようにして通り過ぎていく。

実体がなくなっているかと思い体に触れるがそこにはしっかりと己の腕がある。理解不能だ、そんな時あのシスターの言葉を思い出した。

 

『力ってのは俺の絶対回避(イヴェレイション)のことでいいんだよなぁ?』

 

『ふーんそうやって呼んでいるんだ、こっちは女神の過保護(ゴッデスプロテクション)って呼んでるよ』

 

女神の過保護(ゴッデスプロテクション)、確かにあの女性はそう呼んでいた。そうして十字架が壊れた時にこの能力(チカラ)は発動した、つまり十字架に何かあったと考えられる。そしてあのシスターは何もない、ただのお守りだと時間をおいて話した。それは本当のことなんだろうか、事実を伝えたくなくて嘘を言った可能性が高い。あの時渡された資料の中には家の場所などは書かれていなかったし本堂が事実を知ることはできない。そうして考えていたところにあの言葉も思い出された。

 

女神の過保護(ゴッデスプロテクション)の持ち主の消失

 

そう考えれば体をすり抜けるというのはいずれ消えてしまうということなのだろうか?本堂は恐れた、そうして無我夢中で割れた十字架を拾って念じる、消えろと。そうした瞬間、本堂の頭にノイズが走った。

 

「グッ!?」

 

昔のことを思い出そうとすると走るこのノイズ、理由はわからないが邪魔だ、そう考えたら消えた。能力(チカラ)が消したのかどうかは不明である。そして気がついた。手に握り締めたはずの十字架がいつの間にか治っている。いやそもそも掴もうとした瞬間十字架は既に治っていた、不思議である、それともあれは幻覚だったのか?そうした瞬間体が"回避の体制"を取った。電撃が通り抜けていく、その事実に先ほどの現象がなくなったことに気づいた。

 

「・・・・・・・・・なんだったんだ?」

 

その言葉は誰にも聞こえず消えていった。

 

 

 

 

『っう訳だ、そっちはどうだ』

 

「はいこちらもビルに入っていくとこ見つけましたー身を隠しているようなのです」

 

『ok、俺も近くいるから見張ってろ』

 

本堂は通話を切るとある一件のビルをじっと見た、あそこに人をこけにした女が隠れているらしい。空間系の癖に隠れるとは根性が足りぬなどと第八位は言うだろうし第七位の本堂もこの場はそう言う。

とりあえず機会を伺おうとスコープを使いどこにいるかを確認し始める。そして女、灰理の記憶が言うには座標転移(ムーブポイント)の奴について考察をはじめる。

座標を利用した転移、黒子とはだいぶ毛色が違うようだ。ただかなり繊細な演算が必要らしく自分を転移するのを怖がるだとか、故に懐中電灯を使って座標の場所をわかりやすくしているだとか。まぁ本堂たちの場合は繊細というわけでもなくただ壁に埋め込めばよかったらしい。つまりこういうタイプを倒すには遠くからの狙撃や意表を付く攻撃が一番効くのだ。

と、その時騒ぎが起きたらしくビルから人がどんどん出てきた。

幸運なのか不運なのか、おそらくその人ごみの中にはいないと判断して出てきた奴を適当に選びの胸ぐらをつかみ話を聞く。

 

「おい」

 

「ヒィッ?!な、なんですか!」

 

かなり恐れられているようで非常にききやすい。

 

「何があったあの中で」

 

「そ、それが飯食ってたらいきなりガラスとか色々割れて」

 

「(戦闘か?)」

 

「赤い髪の女がいきなり服貼り付けられて」

 

「ありがとよ!」

 

その言葉を聞き終わるやいなや本堂は電話で灰理に指示を出し、指示を受けた灰理は屋上にいたらしく空から落ちてきて本堂を掴み上空へと飛ぶ。そうして上空に待機する体制が安定したら灰理に話しかける。

 

「隙を見つけたら突入する、皮膚硬化してろ」

 

「はい、仰せのままに!」

 

恐らく貼り付けとは黒子のことだろう。ならば勝手に潰し合いをしてくれと思う。そうして手薄になったところを突入して本堂はキャリーケースを奪取することに決めた。そうしてスコープで騒ぎが起きたとみられるレストランのフロアを見る。

やはり見えたのは黒子と座標転移(ムーヴポイント)であり少し口角を上げる。

 

「なんか言い争ってますねー」

 

「みたいだな、キャリーケースは風紀委員が持ってるから」

 

それからしばらくはその戦いを観戦していた二人だったが座標転移(ムーヴポイント)の様子が少々おかしくなってきた。見る限り手当たり次第転移させまくっていてとても制御できているとは思えない。

 

「っち!暴走しやがった、とっとと奪い取る...消えた」

 

「マジですか?!」

 

「いいから早く上がれ!空から見つける!さもないと...」

 

「今日の本堂さん怖いですよ!?」

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァくっ!どうすれば...」

 

Level4の座標転移(ムーヴポイント)、結標淡希は困り果てていた。能力の暴走でなんとか逃げきれて自分を否定した風紀委員も始末した、だがこれからどうしたらいいのだろうか?この荷物を受け取り目標目指して頑張ろうと言った外部組織は先ほどの会話中に警備委員(アンチスキル)に捕まった。恐らく学園都市に潜伏している方も全滅、どうしたらいいのか?こんな荷物を色んな化物からなんとか死守したというのに行くあてがどこにもないなんて酷すぎる。

 

・・・・・・・・・いや、まだ出来る事はある。キャリーケースの中身は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸、通称残骸(レムナント)はどこの組織も喉から手が出るほどほしがる。それを使えばいくらでも交渉は可能だ、たとえ相手が学園都市だとしても。何だまだまだ道はあるじゃないか、これなら大丈夫と結標淡希は思う。実際にはまずどうやって学園都市が出るかという問題が消えていないのだがそれを塗りつぶしてでも結標淡希は"未来"を考えた。

 

その時、杖の音がした。

 

その音に反応してすぐに結標淡希は構えた...が、その構えは相手を見て一瞬で崩れた。

 

病的にまで白い肌、

 

ベクトル操作、

 

狂気に滲んだ紅い眼、

 

学園都市最強・第一位の一方通行(アクセラレータ)が今まで考えていた道を全て封鎖するように立っていた。

 

「何だァ?この捨てられた子犬みてぇにぶるぶる震えてやがる三下はよぉ」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。