とある天然の絶対回避《イヴェレイション》   作:駄文書き

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第16話

 本堂が絶叫をあげかけた日から数日が過ぎた。

時間こそ過ぎたものの本堂の日常は灰理という異物がはいったこと以外別段異常はなかった。ちなみにその間に御使堕し(エンゼルフォール)という世界を揺るがす大事件が起きていたのだが本堂はなんのその、影響自体受けていなかったため気づいていなかった。そのため一時どこぞの誰かが本堂を犯人と疑ったらしいがすぐに別の人物が出て来て埋もれて行ったらしいが本堂の知ったことではない。

 

「平和ですねぇ~」

 

「とっとと行くぞ」

 

ソファに完全体を預けて眠りかけている灰理を横目に本堂はもはやなれたように声をかけながら出かける準備をしている。ここ数日で本堂は耐性をつけたのである。

 

「今日はどこへ?」

 

「工事中現場だ、いいからついて来い」

 

灰理は大きな翼を器用に動かし本堂の後ろについていった。

ちなみにそのソファの前にあるテーブルに「選手宣誓用文章」と書いてある封筒が置いてあり開封済みになっていることについては触れないでおく。

 

 

 

「人が少ないですねぇ...相変わらずこの日は」

 

「関係ないどころか好都合」

 

学園都市とは文字通りたくさんの学園が存在する都市、故に学園都市に住む人間の5分の4は学生(小学生から大学生まで)である。今日の日付は8月31日、本堂や灰理には関係ないが常識的に言えばこの日はほとんどの学園の夏季休業最終日、学生達は明日の準備に追われ自宅や静かで涼しい場所にと集まっているのであろう。そのため本堂達を含む裏の人間は動きやすい日と言っても良い。

そんな日であるからこそ本堂は今日の仕事もまた代わり映えのない日になると考えていた。考えていはずであったのだ、それは楽観的考えではなく常識的に考えて、プロの視点から考えて、当たり前の考えであったはずなのだ、まさか、まさか

 

「………」

 

「いやはやこれは派手に事故りましたねぇ」

 

これほど派手な事故が起きるとは思ってもいなかった本堂は呆然とした表情で野次馬が集まっている物の受け渡し場所であった工事現場前で立っていた。灰理はもっとよく見ようと羽を羽ばたかせ二、三人分ほどの高さまであがっている。

学園都市とは世界の科学の最先端のその先を簡単に超えていく科学力をもつ都市である、そのため結果なども演算されまずこのような状況にはならない。ましてやただ鉄骨の一本が落ちたのではなく組み立てていた物全てが崩れ落ちるなどありえない。そんな科学的に考えて"ありえない事象"がそこでは起こっていた。

その時どうするかと電源を入れていたタブレットが音を上げた。

本堂は相変わらず呆然としていながらもタブレットを取り、周りに聞こえないように位置を移動して耳に当てる、

 

「...こちら運び屋」

 

『まいったことになったな、運び屋』

 

「ああ、あんたか」

 

その声は今回の依頼人の声であった。どうやら捕まってはいなかったようだ。

 

「この事故、何かあったのか?」

 

『分からんな、少年二人が工事現場に入っていったかと思えばいつの間にか全て崩れていて慌ててその場から逃げ出させてもらったよ』

 

「少年二人、かまあいい。依頼はどうする?続行かい?」

 

『ああ、と言いたいところだがもう無理だ。逃げ出す時に少し動かしすぎた。研究者失格だよ、物が無くなったから依頼は無理だ、キャンセルさせてくれ』

 

あいよ、と呟きながらタブレットの電源をきり漸く現実感をつかみ始めた本堂は本堂を探し回っている灰理に声をかけこちらを向いたところで人差し指二本でバツをつくり合図をすると灰理はすぐさま本堂のところへ飛んできて綺麗に着地した。

 

「災難でしたね、どうします本堂さん、また受けますか?」

 

「...いや、今日はもういい何か疲れた」

 

「それでしたら私の翼で」

 

「いい」

 

ですよねー、とでもいいだけな表情を浮かべながら自宅の方向へと歩みを始めた本堂に置いてかれまいと灰理は横を歩く。日は既に真上を過ぎていた。

 

 

 

「いいか、今日こそ入ってくるなよ!」

 

「はいはい」

 

本堂の個室には何重にもかけられた南京錠があり外側からは絶対にあけられぬようとした扉ver.3があり何度も確認しながら本堂は鍵を閉めて個室にこもった。

灰理はこの数日何度言っても入ってきていて業を煮やした本堂が帰り際に工務店にと寄りできたのがこれである。流石の灰理(変態)でもこれに侵入することはできないらしくつまらないなーと、言わんばかりにソファにまた寝っ転がっている。

灰理は改造人間である、こんな文調は学園都市に住むほとんどの学生に当てはまるが灰理程改造している人間は少ないであろう。

実は灰理の背中に生えている翼、これはとある時から願っていたもので中学の頃に漸く都合のいい所で腕をつけることができてその腕を能力で翼へと変質させたものである。その翼を優しく撫でながら灰理はベランダから空を見ていた。


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