遊戯王GX イレギュラー・シンクロン   作:埜中 歌音

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アカデミアでの日々
主人公は窮地でこそ光り輝く


デュエルアカデミア本校。日本のデュエリスト養成校の最高峰は、太平洋に浮かぶ孤島にある。

()()()()()()が学校の敷地だ。本業である玩具やゲームの開発、販売の傍で、片手間にこの学校を建て、運営している海馬コーポレーションの規模の大きさを思い知らされる。

何度も言うが孤島である。当然車や電車で行き来できるわけがなく、本校に通う生徒たちは寮で寝泊まりすることになるのだ。

世間から閉鎖された空間で本格的なデュエルを学ぶ。この環境が、デュエルアカデミア本校の人気と実績を保つ要因の一つでもある。

そして、晴れてデュエルアカデミアに合格した遊奈は、黄色の制服を身に纏って、その孤島へ向かうヘリに乗っていた。

新生活への期待、青春の予感、明るい未来への高揚感……そんな雰囲気に満ちたヘリの中で、遊奈はただ1人……

 

「うっぷ…………」

 

酔っていた。

実はこの男、乗り物が凄まじく苦手なのである。

電車までがギリギリのセーフライン、車やバスは完全にアウト。飛行機には乗ったことがないが、どうやらヘリは車やバス以上に厳しいらしい。

元々色の薄めだった肌が、生死を疑うほど青い。メイクなしにホラー映画に出演しても十分に役が務まりそうな勢いだ。

まともに立っていられない遊奈は、今までの30分間をずっと隅の座席で過ごしてきた。酔ったときは遠くを見ろという謎の言葉があるが、頭を上げることすら今の彼には難しい。

そうして座りながら俯いている遊奈に、話しかけてくる声があった。

「どこか具合悪いのか? さっきからずっと座ってるけど」

頭上からの声に顔を上げる遊奈。そこには、赤い制服を着た男子生徒が立っていた。後頭部の髪がピンピンと跳ねているその姿はどこかクラゲを彷彿とさせる。

「うわ、すげー顔色じゃん。大丈夫か?」

「ああ……酔ってるだけ……島に着けば5分で……うぐっ……」

「無理して喋るなって! 吐いた方が楽なんじゃないか?」

「酔いになんて負けはしない……リバースなんてしてたまるか畜生……」

「お、おう。頑張れ」

男子生徒は遊奈の隣に座る。

「俺は遊城十代。お前は?」

「……東雲、遊奈…………」

「『ゆうな』?女みたいだな」

コンプレックスをピンポイントで抉られ、さらに青くなる遊奈。

男子生徒ーー十代はアゴをつまむと、1人でぶつぶつ呟き始めた。

「東雲遊奈、しののめゆうな……どっかで聞いたことが……」

「入学試験のときだよ、アニキ。ちょうどアニキが来たくらいのときに、シンクロ召喚をしてた人」

すると、横から身長の低い男子生徒が割り込んできた。制服は十代と同じ赤色で、丸メガネと水色の髪が特徴的だ。

「ああ、思い出した! あのワンキルの奴か! ありがとな翔!」

翔と呼ばれた男子生徒は「えへへ」と微笑む。

「……君たちは、兄弟なのか?」

翔の十代に対する「アニキ」呼ばわりが気になった遊奈が訊くと、

「いいや、翔とは入学試験のときに知り合ったんだ。たまたまヘリも同じだったから、俺から話しかけたら、『アニキって呼んでいいかな?』ってさ」

十代が答えた。続いて、翔が笑顔で言う。

「十代くんは本当のアニキじゃなくて……なんていうか、心のアニキなんだ。入試デュエルのとき、すごく強い先生を倒してたんだよ。……アニキは、すごく強いんだ」

そう言う翔の瞳に、遊奈はどこか自己嫌悪のようなものを感じ取った。

翔は十代を純粋に慕っているようだが、他にも何かがありそうだ。

「……遊城、か……噂は俺も聞いてるよ。期待の1年生で融合使い、実力は入学生の中じゃトップクラスって……」

「ああ、俺は誰よりも強いデュエルキングになるんだ! まずはデュエルアカデミアの同期で一番になる! 」

「……おう、頑張れ……だけど、俺はそう簡単に倒されるつもりは……うげっ……!」

格好良く決めようとして、危うく朝食をぶちまけるところだった。なんとか踏みとどまり、喉元までせり上がってきた生温かいモノをもう一度飲み込む。

格好をつけるもなにも単純に格好悪かった。

「大丈夫か?遊奈」

「遊奈くん、大丈夫?」

十代と翔が、心配そうな目で遊奈に声をかける。

「ああ……大丈夫。心配かけて悪いな……遊城と、あと……」

「あ、僕は……丸藤、翔だよ」

「ありがとう、丸藤」

また、翔は少しだけ言葉に間を作った。それが、遊奈の感覚に引っかかる。

苗字を名乗るのに少し抵抗があるようだ。あまり触れないでおこう、と遊奈は心で呟いた。

そのとき、窓際の生徒たちから歓声が湧き出る。「何かあったのか?」と窓を見に行った十代は、10秒ほどで戻ってきた。

「遊奈、島が見えたぞ! もう少しの辛抱だ!」

「……ああ、すまん……ありがとう」

「気にすんなって! お互い助け合うのは常識だろ?」

十代の爽やかな笑顔には一片の曇りもない。この優しさと明るさは天性のものだろう。誰からも好かれるタイプだ。

(……『お互い助け合うのは常識』、か………)

遊奈の心に、複雑な気持ちが生まれる。

(……いや、こんなこと考えるのはやめよう)

わずかに生まれた心の陰りを振り払うために、遊奈はぶんぶんと首を横に振った。

…………結果、三半規管にさらなるダメージを負い、遊奈は舌の付け根のほうまでせり上がってきた酸っぱい何かを無理矢理飲み込む羽目になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あー、着いた着いた! ここがデュエルアカデミアかぁ!」

ヘリから降り、デュエルアカデミアの地面を踏んだ十代はその感動を口にする。その肩を借りて、遊奈もアカデミアの土を踏んだ。口にこそ出さないが、(酔いも醒めてきたこともあって)遊奈のテンションも平常時の2歩先をダッシュしている。

「今は……1時45分か。入学式は2時半からだから、少し時間があるな……」

腕時計で時間を確認する遊奈。その声を聞いた十代が、「待ってました」とばかりに遊奈の肩を叩いた。

「なあ遊奈、デュエルしようぜ!」

突然の申し出に、少し戸惑う遊奈。

「いきなりだな」

「だってお前シンクロ召喚ってのを使うんだろ!?その力をじかに味わってみたいのさ!」

「……わかった」

遊奈はデュエルディスクを構えると、デッキをセットして言う。

「俺も、実技最高責任者を倒したお前の力を見たかったんだ。入試デュエルは見逃したけど、ここでちゃっかり見せてもらおうじゃないか」

「そうこなくっちゃな!」

十代も、勢いよくデュエルディスクを構えてデッキをセットする。

そんな2人の周りに、ざわざわと野次馬が集まってきた。

 

『おっ、早速か?』

『って、あいつクロノス教諭を倒した遊城十代じゃねえか!』

『しかも相手はシンクロ召喚の東雲遊奈だわ!』

『これは見ものだ!』

 

「はは、すでに有名人かよ。困ったな」

「俺はあんまり悪い気はしないけどな。なんか嬉しいじゃん、有名人って」

頭を掻いて照れる遊奈と、拳を掌に打ち付けながら喜ぶ十代。

「そんじゃま、いっちょブチかましてやりますか!」

「くぅーーっ、ワクワクしきてきたぜ!」

デュエルアカデミア、新学期初日。

『遊』の字をもつ2人が、激突した。

 

「「デュエル!!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おっ、早速やってる。胸キュンだねぇ。………………………わかってるよ、ししょー。『偵察、観察を怠らず、常に相手を分析して対策を立てるべし』……ししょーから教わった、デュエルの心得だからね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先攻はもらったぜ、遊奈! 俺のターン、手札を5枚ドロー!」

高らかにドロー宣言をする十代。遊奈はその言い方に違和感を感じた。

「……普通、手札って始まる前にドローするもんじゃないのか?」

「細かいことは気にすんなって!手札から、《E・HEROエアーマン》を召喚! さらに効果発動! 《エアーマン》の召喚に成功したとき、デッキから《エアーマン》以外の《HERO》を手札に加える! 俺は《E・HEROフェザーマン》を選択、手札に加えるぜ!」

ジャイロ付きの翼パーツをもつ、アメリカのコミックに出てきそうなヒーローが颯爽と飛来する。着地するやいなや、《エアーマン》は指で挟んだカードを十代に投げつけた。

「へへ、ありがとな」

そのカードを見事にキャッチする十代。

「さらに、速攻魔法《手札断殺》!お互いのプレイヤーは手札を2枚捨て、その後デッキからカードを2枚ドローする。俺は《E・HEROクレイマン》と《E・HEROシャドー・ミスト》を捨てて2枚ドロー! さらに《シャドー・ミスト》が墓地に送られたことで、デッキから《シャドー・ミスト》以外の《HERO》を手札に加える! 《E・HEROバーストレディ》を選択、手札に加えるぜ!」

デッキから勢いよくカードが飛び出し、十代はそれをキャッチする。

「……俺も、カードを2枚捨て、2枚ドロー」

遊奈は落ち着いた動きで処理を終えた。

「先攻は1ターン目に攻撃できないからな……カードを1枚セットして、ターンエンド」

 

十代 LP4000 手札4

E・HEROエアーマン Atk1800

セットカード1

 

(それにしても、)

心の中で呟く遊奈。

(遊城十代、か……たしか主人公だったよな……アニメ見とけばよかったなあ……)

遊奈の十代に関する知識は、『《HERO》デッキを使う』ことくらいだ。

(…………俺が知ってる主人公っていったらメンタルカウンセラーUMA(ユーマ)くんくらいだしなあ……)

ただ、遊奈は感じ取っていた。

“主人公”の風格、後に世界を揺れ動かす“可能性”を。

(……アイツの前に立ってるだけで、デュエルをしてるってだけで、なんか高揚感があるな……こんなに胸アツになったのはいつ振りだっけ……)

ひしひしと伝わってくる“強者”のオーラ。天性の運命力……制限カードのエアーマンを初手で引き当てたことに、遊奈は心で賞賛を送る。

(こういうの、遊戯王の世界じゃ『デッキとの絆』っていうんだっけな……アイツはデッキに愛されてるみたいだが、俺はどうだ……?)

「俺のターン、ドロー」

引いたカードと手札を見る。決して悪い手札ではないが、パーツが足りない。

「ま、動けるだけ動いてみるか。手札から魔法カード、《光の援軍》発動。デッキの上からカードを3枚墓地へ送り、デッキから《ライトロード》モンスターを1体手札に加える。1枚目、《シンクロン・エクスプローラー》。2枚目、《増殖するG》。3枚目、《クイック・シンクロン》。デッキから手札に加えるカードは《ライトロード・マジシャン・ライラ》だ。そのまま召喚」

光り輝く衣の魔術師が、ローブを揺らして現れた。

「《ライトロード》?」

十代は不思議そうな顔をする。

「遊奈、お前のデッキは《シンクロン》じゃないのか?」

「《シンクロン》デッキだよ。《クイック・シンクロン》が落ちたろ?《ライトロード》は《シンクロン》と相性がいいんだ。《ライトロード・マジシャン・ライラ》の効果発動。このカードを守備表示にし、相手フィールドの魔法、罠を1枚、破壊する」

杖を片手に《ライラ》が呪文を唱える。

すると、杖が光を放って伸びた。槍のようになったその穂先は十代のフィールドの罠カード、《攻撃の無力化》を貫いて破壊する。

「くそっ、《攻撃の無力化》が!」

「さらに、墓地の《ADチェンジャー》の効果を発動。このカードを除外し、守備表示の《ライラ》を攻撃表示にする」

 

『墓地からモンスター効果!?』

「おおぅ、珍しいか?」

 

ギャラリーの声に驚く遊奈。

「そんなモンスター、いつ落としたんだ……っ、まさか《手札断殺》か!?」

十代は「しまった」という顔をした。まさか《手札断殺》の捨てる効果を利用されるとは思っていなかったのだろう。

「だけど、攻撃表示にしても《ライラ》の攻撃力は1700、《エアーマン》の1800には届かねえぜ!」

自信のこもった声で言う十代に、遊奈は不敵に笑いながら宣言する。

「バトルフェイズ。《ライトロード・マジシャン・ライラ》で《E・HEROエアーマン》を攻撃」

 

『攻撃力の低いモンスターで攻撃!?』

 

「おおう……君ら、欲しいところで驚いてくれるな……」

遊戯王にとって、こういうギャラリーはお約束である。

「……何のつもりかわからないけど、迎え撃て、《エアーマン》! “エアー・スラッシュ”!」

《ライラ》の杖から放たれた光と、《エアーマン》の拳から出た竜巻がぶつかり合う。わずかだが、竜巻が押しているようだ。《ライラ》が苦しそうな表情を浮かべる。

その様子を見て、遊奈が高らかに宣言した。

「この瞬間、墓地の罠カード、《スキル・サクセサー》の効果を発動!」

 

『墓地から罠カード!?』

 

3回目ともなると、さすがの遊奈も慣れる。ギャラリーを風景の一部として捉えることができたようだ。

「墓地のこのカードを除外し、自分のモンスターの攻撃力を800ポイントアップさせる!」

《ライラ》に力が満ち、杖からの光が勢いを増した。

「いけ、《ライラ》! “ソーラー・スペル”!」

《スキル・サクセサー》の力を受けた《ライラ》は《エアーマン》を破壊し、さらに十代に戦闘ダメージを与える。

 

十代LP4000→3300

「すげえコンボだな、遊奈!まさか墓地からあんなに効果が発動するなんて思ってなかったぜ!」

「ちなみに、《スキル・サクセサー》も《手札断殺》で落としたカードだ。そんでもって《光の援軍》は《手札断殺》のドローカード……嫌な言い方になるけど、君のおかげだよ。メインフェイズ2、カードを2枚セットして、エンドフェイズに《ライラ》の効果でデッキの上から3枚のカードを墓地に送る。1枚目、《ゾンビキャリア》。2枚目、《リビングデッドの呼び声》。3枚目、《スキル・プリズナー》か……うん、ターンエンド。この瞬間、《スキル・サクセサー》効果は切れる」

 

十代 LP3300 手札4

 

遊奈 LP4000 手札3

ライトロード・マジシャン・ライラ Atk1700

セットカード2

 

「俺のターン、ドロー!」

ターンが一周し、十代のターンとなる。手札は5枚、ワンショットキルさえあり得る枚数だ。

ドローしかカードを見た十代はニヤリと笑う。

「まずは《サイクロン》で右の伏せカードを破壊だ!」

「……《くず鉄のかかし》が破壊される」

十代の放った竜巻が、遊奈のフィールドに眠るかかしを無残に蹴散らす。相手の攻撃を無効にし、しかも再利用可能なカードを破壊されて遊奈の顔が少し歪んだ。

「さらに《召喚僧サモンプリースト》を召喚!」

「うげっ……」

遊奈の顔が引きつる。《サモンプリースト》……十代のフィールドに鎮座する、法衣を纏った白髪の老人はそれだけ強力なモンスターだということだ。

「《サモンプリースト》は召喚に成功したとき、守備表示になる。さらに1ターンに1度、手札の魔法カード1枚をコストにデッキからモンスターを呼び出す効果を持ってるんだ!」

「…….なら、俺は手札の《増殖するG》の効果を発動!」

 

『相手ターンに手札から発動するモンスターカード!?』

 

君らがびっくりしないことを教えてほしい……と遊奈は心のなかで呆れた。

「……《増殖するG》は手札から捨てて効果を発動できるカードだ。このターンの終了時まで、相手が特殊召喚を行う度に俺はデッキから1枚ドローできる」

「くっそー、強いなー……だけど、怖がってちゃ何も始まらないんだ! 《サモンプリースト》の効果発動! 手札の《ヒーローアライブ》を捨てて、デッキから《E・HEROブレイズマン》を特殊召喚! さらに《ブレイズマン》の効果! 召喚、特殊召喚に成功したとき、デッキから《融合》魔法カードを手札に加える!」

「なら、俺は《増殖するG》の効果でデッキからカードを1枚ドローする」

赤々と燃え盛るタテガミをもったヒーローが十代のフィールドに現れ、十代にカードを投げつける。「サンキューな」と十代はそれを受け取った。

同時に、黒い()()が遊奈のデッキをつつき、1番上のカードを遊奈の腕まで運んだ。「ご苦労さん」と遊奈もそのカードを受け取る。

役目を終えた黒い()()は遊奈の肩にちょこんと乗った。その様子を見て、十代が少し顔をしかめた。

「……なんか、効果は強いけど使いたくないカードだな。それ……」

「そうか?可愛いと思うけど」

遊奈は首を傾げる。その発言にギャラリーが全員、思わず一歩退いた。

「……とにかく! 俺は手札から《融合》、発動! 手札の《E・HEROフェザーマン》と《E・HEROバーストレディ》を融合し、《E・HEROフレイムウイングマン》を召喚する! 来い、マイフェイバリットヒーロー!」

十代のフィールドに、炎に包まれたヒーローのシルエットが浮かび上がる。

龍の右腕と龍の尾、そして大きな翼をもったヒーローだ。

その炎を突き破り、飛び出した《フレイムウイングマン》が「ハァ!」と決めポーズをとる。

 

『あ、あれはクロノス教諭を破ったモンスター!』

 

ギャラリーが湧く中で、遊奈は冷静に自分のプレイングを続ける。

「《増殖するG》の効果で、俺はもう1枚ドローする」

2匹目の黒い()()が遊奈の手にカードを運ぶ。

「……俺は今ドローした効果モンスター、《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動。このターンの間、《フレイムウイングマン》の効果を無効にする」

「だが、攻撃力はこっちの方が上だ!バトルフェイズ! 行け、《フレイムウイングマン》!《ライトロード・マジシャン・ライラ》に攻撃! “フレイム・シュート”!」

《フレイムウイングマン》の右腕から炎が迸った。真紅に燃えるその炎は《ライラ》を焼き滅ぼす。

「くっ……すまん、《ライラ》…………」

 

遊奈LP4000→3600

 

「へへっ、ターンエンドだ」

「この瞬間、《増殖するG》、《エフェクト・ヴェーラー》の効果は切れる」

 

十代 LP3300 手札0

E・HEROフレイムウイングマン Atk2100

E・HEROブレイズマン Def1800

召喚僧サモンプリースト Def1600

 

遊奈 LP3600 手札4

 

「俺のターン、ドロー」

遊奈のフィールドはガラ空きで、十代のフィールドには守りのモンスターが2体に上級モンスター《フレイムウイングマン》がいる。一見すれば十代のほうが有利に見えるが、遊奈のライフは3600、なおかつ、十代は手札を使い切っていた。遊奈の手札はドローを入れて5枚、ここまで揃えば十分に動ける。

「スタンバイ、メイン。相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、《アンノウン・シンクロン》は特殊召喚できる!」

ポン、と球体の機械が飛び出した。

「チューナー来たぁ!」

十代は目を輝かせている。ギャラリーの中からも、『あのワンキルはあのカードから始まったんだよな』とか『お、そろそろ動くか?』といった声が聞こえる。

「ご期待通り、やってやるぜ! 《シンクロン・キャリアー》を召喚!」

ミニサイズのクレーンが、変形して人型となる。

「このカードが存在する限り、俺は通常召喚に加えてもう一度だけ、《シンクロン》を召喚できる!」

《シンクロン・キャリアー》はその背中に背負ったクレーンのアームを遊奈の手元に伸ばすと、手札からカードを1枚引き抜いた。

「《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

クレーンが掴んだカードが、三頭身で寸胴の戦士になる。その戦士はとてとてと遊奈の足元のゴミ箱に走っていくと、その中を漁りはじめた。

「《ジャンク・シンクロン》は召喚に成功したとき、墓地のレベル2以下のモンスター1体を特殊召喚できる! 蘇れ、《増殖するG》!」

ゴミ箱の中から大量に湧いた黒を見て、ギャラリーがさらに一歩退く。さすがの《ジャンク・シンクロン》もこれは苦手なのか、スタコラサッサと逃げてしまった。

「さらに、手札の《ラッシュ・ウォリアー》を墓地に捨てることで《THE()・トリッキー》を特殊召喚!」

コミカルな服装に身を包み、頭と胸に『?』の字を浮かべるピエロが遊奈のフィールドに降り立った。

これでモンスターは5体。

「いくぞ、十代!」

「ああ、来い遊奈! お前の力を見せてくれ!」

「まずはレベル2、《増殖するG》にレベル3、《ジャンク・シンクロン》をチューニング!

《ジャンク・シンクロン》が緑の輪となり、その中に《増殖するG》だった光球が入る。数の合計は、5。

「集いし思いの結晶が、未来の叡智を呼び起こす! 光差す道となれ! Go、シンクロ召喚! 全知の賢者、《TG-ハイパー・ライブラリアン》!」

眼鏡をかけた図書館司書は、入試デュエルでも見た顔だ。

十代の表情が険しくなる。

「く、シンクロ召喚をする度にドローするモンスターか!」

「そうさ。ハンドアドバンテージは大事だぜ。続いて、レベル5の《THE・トリッキー》とレベル2の《シンクロン・キャリアー》にレベル1、《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

レベルの合計は、8。最上級モンスターのシンクロ召喚に、ギャラリーのボルテージも上昇した。

『レベル8!?」

『どんなモンスターが……』

「集いし力が、全てを滅する劫火を放つ!天地鳴動の力を見るがいい!」

遊奈のフィールドを、炎の柱が貫いた。あまりにも凄まじい熱気と衝撃に、十代が思わず顔を手で隠す。

「シンクロ召喚!レベル8、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

地響きとともに、炎に包まれた紅蓮の龍が現れる。その龍に内包された力を感じ取ってか、十代の表情がさらに険しくなった。

 

『攻撃力、3000!?』

『すげえ!あの《青眼の白龍》に並んだ!』

 

ギャラリーからも歓声があがる。攻撃力3000、いわゆる“青眼ライン”に達するモンスターはそれだけでも強力なのだ。

「《ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドローする。そのままバトルフェイズ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《召喚僧サモンプリースト》に攻撃だ! “アブソリュート・パワー・フォース”!」

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の手が赤々と燃え上がる。眩しいまでの炎をあげる爪が、《サモンプリースト》を貫いた。

「く……っ、《サモンプリースト》!」

「まだだ、遊城! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》には守備表示モンスターを攻撃したあと、相手の守備表示モンスターを全て破壊する効果がある!」

「何っ!?」

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が体を反らせ、大気を吸い込むモーションに入る。

「“デモン・メテオ”!」

ゴォ! と火球が吐き出された。煌めく紅蓮が十代のフィールドに着弾し爆発、《ブレイズマン》を焼き滅ぼす。

「さらに《ハイパー・ライブラリアン》で《フレイムウイングマン》に攻撃! “ウィズダム・ブレイク》!」

《ハイパー・ライブラリアン》が目を光らせる。右手の本を高らかに上げると、《フレイムウイングマン》へ向けて振り下ろした。

知性のかけらもない、どこか関西のツッコミに似た動きにギャラリーの中の数人が、心の中で『コレジャナイ』と呟く。

 

十代LP3300→3000

 

「メイン2……特にやることもないしな……ターンエンド」

遊奈は十代にターンを渡す。そこには自信の色はなく、むしろ警戒に満ちた色が伺えた。

 

十代 LP3000 手札0

 

遊奈 LP3600 手札1

TG-ハイパー・ライブラリアン Atk2400

レッド・デーモンズ・ドラゴン

Atk3000

 

ギャラリーの大半は、遊奈の勝利を確信していた。

フィールドに上級モンスターを2体展開し、ライフポイントも開始から全く減っていない遊奈に対して十代はフィールドがガラ空き、手札も0枚だ。たとえ守備モンスターを引いたとしても、《ハイパー・ライブラリアン》に殴り殺され《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃を受けて十代のライフポイントは尽きてしまう。この状況から巻き返すことのできる決闘者は中々……否、滅多にいないだろう。

だが、

(……どうした、遊城。ここで終わるような奴じゃないだろ。アニメは見てないけど、お前主人公らしいじゃないか)

遊奈だけは、十代の可能性を信じていた。

遊奈は知っている。《E・HERO》が、一撃での逆転を得意とするカテゴリだということを。

だが、肝心の十代が俯いたまま顔を上げない。

「……どうした?遊城、君のターンだぞ?」

遊奈が声をかけると、十代の肩が震えだした。

「えちょっ……なにも泣くことは……」

「……うくくく……あははははは!」

大爆笑だった。遊奈は呆れ顔でため息をつく。

「遊奈、お前やっぱり強いな。1ターンでそんな強力モンスターを並べるなんてさ」

「……超攻撃型のデッキで、返しのターンに弱いのが弱点だけどな……」

「このターン、俺がビシッと一発逆転決めたらカッコいいよな!」

「……君に言われると、なんだか本当に逆転されそうで怖いぜ……」

両手を広げながら遊奈は笑った。

「……まあ、やってみろよ。遊城」

「ああ、覚悟しろ遊奈!俺のターン、ドロー!」

十代は勢いよくカードをドローする。

そのカードを目にした十代は、ニヤリと不敵に笑った。

「魔法カード、《ホープオブフィフス》! このカードは墓地の《E・HERO》を5枚デッキに戻して2枚ドローするカードだ! だけど、自分の手札、フィールドにこのカード以外のカードが無いときは3枚ドローできるんだぜ!」

「うわ、ピンポイントでそれ引く……?」

墓地アドバンテージを5枚分失うものの、それを補って余りある3枚のドロー、つまりは実質2枚のハンドアドバンテージ。遊戯王では中々見ないドロー枚数だ。

「俺は墓地の《エアーマン》、《シャドー・ミスト》、《ブレイズマン》、《クレイマン》、《フレイムウイングマン》をデッキに戻し、カードを3枚ドロー!」

「《フレイムウイングマン》をエクストラデッキに戻したか……」

融合モンスターであり、メインデッキに存在することができない《フレイムウイングマン》はエクストラデッキに戻る。つまり十代は、もう一度《フレイムウイングマン》を融合召喚できるわけだ。

ドローカードを見た十代が、今度はガッツポーズをとった。

「来た来た来た来たーーーーーっっ!!俺は魔法カード、《融合回収(フュージョン・リカバリー)》発動! 融合に使ったモンスターと《融合》魔法カードを1枚ずつ手札に戻すぜ!《バーストレディ》と《融合》を手札に!」

これも1:2交換。実質は1枚のハンドアドバンテージ。十代の手札は現在、4枚まで回復した。

「さらに魔法カード、《E-エマージェンシー・コール》! デッキから《フェザーマン》を手札に加える!」

「……これで、君の手札には《フェザーマン》、《バーストレディ》、《融合》のセットが揃ったな。《フレイムウイングマン》を呼ぶ気か?」

「ああ、そうだ! 魔法カード、《融合》! 手札の《フェザーマン》と《バーストレディ》を融合する! もう一回頼むぜ、マイフェイバリットヒーロー! 《E・HEROフレイムウイングマン》、召喚!」

再び、龍の右腕と緑の翼をもったヒーローが登場する。

「そのままバトルフェイズだ!《E・HEROフレイムウイングマン》で《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を攻撃!」

 

『攻撃力の低いモンスターで攻撃!?』

 

もはや約束となったギャラリーの声。その声を受けて、しかし《フレイムウイングマン》は十代と頷き合うと《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に向かって跳躍する。

「ヒーローは必ず勝つ!速攻魔法、《決闘融合ーバトル・フュージョンー》発動! 強大な敵に立ち向かう時こそ、ヒーローは真の力を発揮するんだ!」

《フレイムウイングマン》の龍の腕かは吐き出された炎が、鋭い直線形を保ってその場に留まる。まるで、強固な金属を切断するための炎のブレードのように。

もしくは、悪を切り伏せ平和をもたらす正義の光剣(ライトセイバー)のように。

「このカードは、自分の融合モンスターがバトルする相手のモンスターの攻撃力だけ、自分の融合モンスターの攻撃力をアップさせる!」

その攻撃力は、実に5100。

「いけ! “フレイムブレード・スラッシュ”!!」

《フレイムウイングマン》は跳躍の勢いに翼の躍動を加え、一瞬で《レッド・デーモンズ・ドラゴン》との距離を詰める。

「ハァッ!」

凛とした、《フレイムウイングマン》の気合の一言が響いた。

 

交錯、そして一閃ーーーー

 

《フレイムウイングマン》は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の背後に着地し、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は力なく崩れ落ちる。

 

遊奈LP4000→1900

 

『うおおおおーーーーーー!!!』

 

攻撃力3000の強力モンスターを破ったことに、ギャラリーの歓声もこれまでで最高の音量だ。

「……効いたぜ、遊城。それに、これで終わりじゃないんだろ?」

「ああ、そうだ!」

そう言う十代の顔は、勝利を確信した笑みがあった。

「《フレイムウイングマン》は戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! 行け!」

《フレイムウイングマン》が右腕を遊奈に向ける。その先端、龍の頭が口を開くと、中からは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を思わせる紅蓮の炎が迸った。

 

遊奈LP1900→0

winner 遊城十代

 

『あ、あれはクロノス教諭を破ったコンボ!』

『かっこいいぞ、遊城!』

『……“マジック・コンボ”だ!遊城十代の“マジック・コンボ”だ!』

『東雲も凄かったぜ!』

『あんな速さで上級モンスターを展開するなんて!』

 

ギャラリーの歓声の中で、遊奈と十代が互いに歩み寄る。

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

「GG、胸アツなデュエルだった」

握手を交わし、笑い合う2人。

負けたとは思えないほどの清々しい気持ちが、遊奈の胸を満たしていた。

「なあ、遊城」

「何だ?遊奈」

微笑みとともに、遊奈は言う。

「俺は東雲遊奈だ。友達になってくれ」

少し驚いた顔をする十代。その表情が、笑いの表情へと変わる。

「何言ってんだよ」

十代は遊奈に向けて、拳を突き出した。

「俺たち、もう友達だろ?」

遊奈は照れくさそうに、その拳に自分の拳を合わせる。

はは、と十代は笑った。

「俺は遊城十代。よろしくな」

 

東雲遊奈、遊城十代。

“遊”の字を背負う2人の運命が、交わった。




1話の週1宣言はどこへやら。どうも埜中です。多分次回あたりから落ち着くと思います。
今回はVS十代、VS《HERO》ですね。やっぱりカテゴリ統一されてるデッキは書きやすいなあ……
十代のデッキは、メインデッキはガチの融合HERO、エクストラデッキはアニメで出たものだけにしようと思います。属性HEROとマスクHEROはおいおい追加ということで……あ、別のネオスくんは入ってません。ついでにワイアームも入ってません。結構重宝するんだけどなあワイアーム…………
次回は万城目回ですね。さて、あいつのデッキ何にしようかな……
では最後に、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。

2015年1月某日 埜中 歌音


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