190センチはあろうかという長身、年齢相応の鍛え抜かれた筋肉、シャープなイメージを与える鼻筋、冷たくも凛々しい目元。
(劣等感抱くのも無理はないな……)
遊奈は翔に同情の眼差しを送った。文句のつけようのない容姿の上に、デュエルアカデミアでトップを取る頭脳と実力だ。
突然の『帝王』の登場に、誰もが言葉を失っていた。亮自身も、『言うべきことは全て言った』という表情で黙っている。
その中で、
「おい」
上着を直した十代が、最初に言葉を放った。
「誰だか知らないけど、翔のことをバカにするな。こいつは俺の友達だ」
「…………………」
十代は刃のような視線で亮を睨み、亮は氷のような視線で十代を見る。
「…………………自己紹介が遅れた」
その目を伏せ、もう一度見開いて、亮は改めて名を名乗る。
「オベリスクブルー3年、丸藤亮。翔の兄だ」
「オシリスレッド1年、遊城十代。翔のアニキだ」
「……君が遊城十代か。噂は聞いている」
「アンタが『
「「………………………」」
危険な空気が2人の間に流れる。
先に動いたのは、亮のほうだった。
左腕を持ち上げ、デュエルディスクを展開する。
「…………『デュエルしろ』ってことか?」
「そうだ」
十代もディスクを展開し、デッキをセットする。命が宿ったように、ディスクのランプが点灯した。
「デュエリストに言葉は必要ない。相手を知りたければ……デュエルで戦略を、戦術を、信念を、力を……心をぶつけ合う。それこそが真のデュエリストだ」
「なるほどな。俺の心、しっかり見せつけてやるぜカイザー!」
深夜の崖下で、
『最強』と『異端』が激突する。
「「デュエル!!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「遊奈。このデュエル、どう見る」
「五分五分、かな」
小声の三沢に、遊奈は同じく小声で答える。
「丸藤先輩の《サイバー》は決まればゲームエンドの超火力が売り。妨害カードをあまり入れていない遊城のデッキだと、けっこう厳しいかなって感じはする。だけど遊城の《E・HERO》も地力はあるデッキだし、何よりプレイヤーは遊城だ。あいつが負ける姿なんて、想像できない」
「俺のターン!」
先攻は十代だ。
「《E・HEROエアーマン》を召喚! 」
相変わらずの初手《エアーマン》、背中にジャイロを背負ったヒーローが十代にカードを投げた。十代はそれをキャッチする。
「《エアーマン》が召喚に成功したとき、デッキから他の《E・HERO》を手札に加えるぜ! 俺が選んだのは《E・HEROブレイズマン》! さらに《E-エマージェンシー・コール》でデッキから《E・HEROプリズマー》を手札に加える! カードを1枚セットしてターンエンドだ」
遊城十代 LP4000 手札4
E・HERO エアーマン Atk1800
セットカード1
「俺のターン、ドロー」
亮は全く表情を変えない。そのポーカーフェースから手札の良し悪しを読み取るのは困難だ。
「スタンバイフェイズ、メインフェイズ。《サイバー・ドラゴン・コア》を通常召喚する」
バリバリ、とスパークが閃いた。亮のフィールドに、細長い機械の龍が現れる。
「《サイバー・ドラゴン・コア》は召喚に成功したとき、デッキから《サイバー》もしくは《サイバネティック》と名のついた魔法、罠カードを手札に加える効果を持っているが……何かあるか?」
「ないぜ」
「では、《サイバー・リペア・プラント》を手札に加える。手札から魔法カード、《封印の黄金櫃》。デッキから《パワー・ボンド》を除外し、2度目の自分スタンバイフェイズに《パワー・ボンド》を手札に加える」
「……いきなり来たか、《パワー・ボンド》……」
十代はギリ、と歯を噛み締めた。ギャラリーの面々も、《パワー・ボンド》の登場で少しざわつく。
「……カードを3枚セット、ターンエンドだ」
遊城十代 LP4000 手札4
E・HERO エアーマン Atk1800
セットカード1
丸藤亮 LP4000 手札2
サイバー・ドラゴン・コア Atk400
セットカード3
「俺のターン、ドロー!」
2ターン後に確約された《パワー・ボンド》。その存在が重圧として十代にのしかかる。
(攻めるなら今、だな)
遊奈は構想でだが、《サイバー》のデッキを組んでいた。
(バック3枚は気になるが、攻撃表示の《コア》は狙い目だ。ここでできるだけダメージを稼がないと……)
「手札の《沼地の魔神王》を捨てて効果発動! デッキから《融合》を手札に加える!」
十代も決める気だ。
「《融合》発動! 手札の《E・HEROエッジマン》と《E・HEROスパークマン》で融合! 《E・HEROプラズマヴァイスマン》を融合召喚!」
金色アームをもつ巨体のヒーローが、天に手をかざした。その手に雷が落ちる。
同時に、《サイバー・ドラゴン・コア》が爆散した。
「罠発動、《ジェネレーション・チェンジ》。《サイバー・ドラゴン・コア》のカード名はフィールド、墓地に存在する限り《サイバー・ドラゴン》として扱う。よって、《サイバー・ドラゴン・コア》を破壊し、同名カードである《サイバー・ドラゴン》を手札に加える」
「だが、アンタのフィールドはがら空きだぜ! バトルフェイズ! 《E・HEROプラズマヴァイスマン》でダイレクトアタック!」
「全ての攻撃が通れば十代の勝ちか……しかし……」
「問題は、丸藤先輩のあのバックカードってワケか」
三沢と遊奈は同じところを見ていた。
亮はポーカーフェースを全く崩さずに、
「リバースカードオープン。通常罠、《ドレインシールド》。《プラズマヴァイスマン》の攻撃力分、ライフを回復させてもらう」
亮LP4000→6600
「げっ!」
一方の十代は、ポーカーフェースが苦手らしい。あんぐりと口を開けて肩を落とした。
「じゃあ、《エアーマン》で攻撃!」
「それは受けよう」
亮LP6600→4800
2体のモンスターの攻撃を受けて、しかし亮のライフポイントは安全圏どころか増えていた。簡単に倒せる相手ではないと、十代の視線が鋭さを増す。
「メイン2……んー、何もできねえ……ターンエンド」
遊城十代 LP4000 手札2
E・HERO エアーマン Atk1800
E・HEROプラズマヴァイスマン Atk2600
セットカード1
丸藤亮 LP4800 手札3
セットカード1
「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、《封印の黄金櫃》1ターン目だ」
《パワー・ボンド》へのカウントダウンが進む。次のターンで手札に加わる《パワー・ボンド》を、そしてその効果で召喚されるモンスターをどう攻略するか、それが勝負を分ける鍵となっていた。
「メインフェイズ。俺の墓地には《サイバー・ドラゴン》扱いの《サイバー・ドラゴン・コア》が存在する。よって、《サイバー・リペア・プラント》の効果を発動。『デッキから機械族、光属性モンスター1体を手札に加える』効果を選択し、《サイバー・ドラゴン》を手札に加える」
着実に攻め手を固めていく亮。少しの間手札を眺めていた彼は、顔を上げて十代を見た。
「今、お前のフィールドにモンスターが存在し、俺のフィールドにはモンスターが存在しない。……この意味はわかるな?」
「……っ……ああ。来い、カイザー!」
言わずと知れた、『サイドラ条件』というものだ。
「この条件を満たしている場合に、墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外して発動できる。デッキから《サイバー・ドラゴン》モンスターである《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を特殊召喚する。」
細身の機械龍が次元の裂け目に呑み込まれ、それよりもたくましい機械龍が現れる。
「《サイバー・ヴァリー》を召喚。魔法カード、《機械複製術》発動。対象は、攻撃力0の《サイバー・ヴァリー》だ」
「オッケー、何もないぜ」
「ならば、デッキからさらに2体、《サイバー・ヴァリー》を特殊召喚させてもらう」
(うわ)
遊奈は亮の策略を悟り、十代のほうに目をやる。十代も本能で何かを察したのだろう、亮の手元を注意深く観察していた。
「《サイバー・ヴァリー》は自身と他の自分モンスター1体を除外することで、デッキからカードを2枚ドローする。《サイバー・ヴァリー》と《サイバー・ヴァリー》を除外して2枚ドロー。さらに《サイバー・ヴァリー》と《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を除外して2枚ドロー」
手札は6枚にまで増えていた。実質、手札消費2枚で4枚ものカードをドローしたことになるのだから恐ろしい。
「《融合》発動。手札の《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚」
屹立する、二頭の機械龍。ボディが半ばから2つに分かれ、4つの目からは鋭い光が差していた。
「バトルフェイズだーー《サイバー・ツイン・ドラゴン》で、《プラズマヴァイスマン》を攻撃」
二頭をもつ機械龍が、そのうちの片方から雷の玉を吐き出す。《プラズマヴァイスマン》が破壊され、その雷は十代の頬をかすめた。
十代LP4000→3800
「《サイバー・ツイン・ドラゴン》は1度のバトルフェイズに2回の攻撃が可能だ。《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《エアーマン》を攻撃。『エヴォリューション・ツイン・バースト』」
双頭の機械龍の追撃が、《エアーマン》をも焼き払った。
「 リバースカード、オープン!」
しかしその爆炎は、不可視の障壁に阻まれて十代には届かない。
「《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にして、デッキからカードを1枚ドローするぜ!」
「……やはり、簡単に倒されてくれる相手ではないな」
亮は鋭い目で十代を射抜く。
少しの間があって、その目が自分の手札に向けられる。
「…………メインフェイズ2、カードを2枚セットしてターンエンドだ」
遊城十代 LP3800 手札4
丸藤亮 LP4800 手札1
サイバー・ツイン・ドラゴン Atk2800
セットカード3
「俺のターン、ドロー!」
ピンチだーー十代の後ろに立つ者は全員、この状況をそう分析していた。
手札が4枚あるとはいえ、《サイバー・ツイン・ドラゴン》と伏せカード3枚をかいくぐり、相手のライフポイントを0にしなければならない。
しかしーー
(……、笑ってる?)
ちらりと十代の表情を見た遊奈は、その笑顔の意味を、少し遅れて理解する。
状況が厳しければ厳しいほど、十代は強くなる。遊城十代とは、そういう男なのだ。
「《強欲な壺》、発動! デッキからカードを2枚ドローする! 《E・HEROプリズマー》を召喚、効果発動! デッキから《E・HEROフェザーマン》を墓地へ送って、このカードのカード名を《フェザーマン》にする! さらに《増援》!デッキからレベル4以下の戦士族モンスター、《E・HEROバブルマン》を手札に加える! まだまだいくぜ!魔法カード、《融合回収》! 墓地の《スパークマン》と《融合》を手札に加える!」
《プリズマー》はそのボディに《フェザーマン》を映し出す。それだけではない、着々とパーツが揃いつつあった。
俗に言う、《
(はは、すご)
遊奈は笑みをこぼす。
(属性HEROを使わずに、この回りか……属性HEROとマスクチェンジを手に入れたらどうなるってんだよ、ったく……)
「《融合》発動! フィールドの《フェザーマン》扱いの《プリズマー》と、手札の《スパークマン》、《バブルマン》を融合して……《E・HEROテンペスター》を融合召喚!」
頭上に黒雲がたちこめ、竜巻が降る。その竜巻を突き破って登場したヒーローは、バイザーに隠された目で双頭の機械龍を睨んだ。
「魔法カード、《ホープオブフィフス》、発動! 墓地の《フェザーマン》、《プラズマヴァイスマン》、《バブルマン》、《エアーマン》、《プリズマー》をデッキに戻して2枚ドロー! ……いくぜ、カイザー、これが俺の全力だ! 魔法カード、《ミラクル・フュージョン》発動!」
十代の背後、その景色が歪む。
「このカードは、《E・HERO》融合モンスターによって決められたモンスターをフィールド、墓地から除外して融合召喚を行う! 墓地の《E・HEROスパークマン》と《沼地の魔神王》を融合し、《E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン》を融合召喚ッッ!!」
黒雲の間から、一筋の光がフィールドを照らす。
スポットライトのような光の下には、光を司るヒーローが
「カードを1枚セットして、《テンペスター》の効果発動! セットしたカードを墓地へ送ることで、《テンペスター》は戦闘では破壊されない! さらに《シャイニング・フレア・ウィングマン》の攻撃力は、墓地の《E・HERO》の数×300ポイントアップする! 俺の墓地には《エッジマン》がいる! 攻撃力は……2800だ! バトルフェイズ!」
カッ! と《シャイニング・フレア・ウィングマン》の拳が光を放った。《テンペスター》は右手の銃に手をかける。
「《テンペスター》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》に攻撃! 『カオス・テンペスト』!」
「リバースカード、オープン」
《サイバー・ツイン・ドラゴン》の姿が歪む。
「通常罠、《亜空間物質転送装置》。《サイバー・ツイン・ドラゴン》をターン終了時までゲームから除外する」
亜空間が口を開き、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を呑み込んだ。
「…………えっ…………」
「……どうした、遊城十代。巻き戻しが発生し、《テンペスター》は攻撃するかしないかを選択し直せるぞ」
亮の真意を測りかねているのか、十代は20秒ほど停止した。
そして、
「…………《テンペスター》でプレイヤーにダイレクトアタック! 『カオス・テンペスト』!!」
「リバースカード、オープン」
またしても、カードの発動宣言が割り込む。
「通常罠、《レインボー・ライフ》。手札1枚をコストとし、このターン、俺が受ける全てのダメージを回復に変換する」
「えっ………!!」
《テンペスター》のパンチをモロに受けた亮。しかしそれは虹色の輝きとなって、亮のライフポイントを回復させる。
亮LP4800→7600
「く…………」
このターンの攻撃でダメージを与えることはできないーーつまり、十代がこのターンに勝利することはほぼ不可能になったわけだ。十代のフィールドには強力なモンスター、《テンペスター》と《シャイニング・フレア・ウィングマン》が存在するものの、ピンチを脱したとは言いがたい。
だが、
十代の顔からは笑顔が消えていなかった。
「カイザー……アンタすげーよ。強いモンスター呼びながら、ライフは倍にしちまうんだからな……本当に、強いんだな……」
「賞賛の言葉なら、ありがたく受け取ろう……だが、まだデュエルは終わっていないぞ、遊城十代。それとも、勝負を諦めたか?」
「まさか。俺は最後の最後まで勝つ気満々だぜ。メインフェイズ2、カードを2枚セット。さらに《テンペスター》の効果発動。セットカードを1枚墓地へ送ることで、《テンペスター》は戦闘では破壊されない。これでターンエンドだ」
「ターン終了時、《サイバー・ツイン・ドラゴン》がフィールドに戻る」
遊城十代 LP3800 手札1
E・HEROテンペスター Atk2800
E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン Atk2800
セットカード1
丸藤亮 LP7600 手札0
サイバー・ツイン・ドラゴン Atk2800
セットカード1
「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、《封印の黄金櫃》の効果により、《パワー・ボンド》が手札に加わる」
ついに《パワー・ボンド》が亮の手に渡った。
「…………なるほどな」
少しの間、手札を見ていた亮は、手札に加えた《パワー・ボンド》をフィールドにセットした。
「カードを1枚セットし……魔法カード、《天よりの宝札》、発動。お互いに手札が6枚になるよう、デッキからカードをドローする」
『!!!!』
十代だけでなく、ギャラリーの一同にも衝撃が走る。
通常魔法カードである《パワー・ボンド》はセットしたターンにも発動できる。そして、新たに補充される手札は6枚。十代も6枚の手札を得るとはいえ、亮はこのターンで勝負を決めにくるだろう。
「遊城十代…………いや、十代。さっきお前は、俺に『強い』と言ったな」
亮はまっすぐ十代を見据えて、言った。
「ああ、言ったぜ」
「俺は、自分はまだ未熟だと思っている。……少なくとも、俺が最終目的とする強さには、今の俺は遠く及ばない……だが十代、君とのデュエルで、俺はまた一歩、俺が理想とする強さに近づいた気がした。……礼を言おう。そして、君をリスペクトして、俺も全力で君を……倒そうッ! リバースカード、オープン!!」
表になったカードは《パワー・ボンド》の隣ーー《融合解除》。
「速攻魔法、《融合解除》! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》をエクストラデッキに戻し、墓地から《サイバー・ドラゴン》2体を特殊召喚する!」
双頭の機械龍は分離し、2体の機械龍となる。
「通常召喚、《サイバー・ドラゴン・ドライ》! このカードはフィールド、墓地に存在する限り、《サイバー・ドラゴン》として扱う! いくぞ、十代!」
いつしか亮も、端正な顔に楽しそうな笑みを浮かべていた。
その笑顔に、十代も笑顔を返す。
「こい、カイザー!」
「魔法カード、《パワー・ボンド》! このカードの効果により自分フィールドの《サイバー・ドラゴン》3体を融合し……《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚する!」
ドドドド……と、地面が揺れる。
3体の機械龍が混ざり合ったそこには、3つの頭をもつ機械龍がそびえ立っていた。そのあまりのエネルギーに、海の波が荒立ちはじめる。
「《パワー・ボンド》で融合召喚したモンスターの攻撃力は倍となる……《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000! バトルだ!」
3つ首の機械龍が、その3つの顎を全て開いた。エネルギーが充填され、鋼の牙の奥からスパークが漏れる。
「《サイバー・エンド・ドラゴン》で、《シャイニング・フレア・ウィングマン》を攻撃! 『エターナル・エヴォリューション・バースト』!」
「この攻撃が通れば、十代は負ける……ッ」
《サイバー・エンド・ドラゴン》を見上げた三沢が呟く。三条の雷光は、今にも《シャイニング・フレア・ウィングマン》を
「ーーリバースカード、オープン!」
十代の声とともに、《シャイニング・フレア・ウィングマン》は両手を前に差し出した。
その手から、眩いビームが発射された。ビームは三条の雷光とぶつかり合い、雷光を押し戻しはじめる。
「速攻魔法、《決闘融合ーバトル・フュージョンー》! 自分の融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、その攻撃力に相手モンスターの攻撃力を加える! 《シャイニング・フレア・ウィングマン》の攻撃力は、10800!」
誰もが、
十代の勝利を確信した。
《シャイニング・フレア・ウィングマン》には『戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える』という効果がある。《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000、そのダメージだけで亮のライフポイントは尽きるのだ。
「ーー十代……君は、強いな」
ビームと雷光がせめぎ合う、凄まじい音の中でも、亮の声は不思議な存在感を放っていた。
「……アンタほどじゃないぜ、カイザー。……だけど、今回の勝負はもらった」
ガッチャ、と続けようとする十代。だが、その動きは亮の言葉に遮られる。
「……まだ、デュエルは終わっていない。俺も、決着がつくそのときまで負けるつもりはないぞ……ダメージステップ!」
亮に、そして十代に残された最後のタイミング。
「手札から、速攻魔法《リミッター解除》! 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力を倍にする!!」
雷光がさらに勢いを増し、ビームを押し返す。
《シャイニング・フレア・ウィングマン》は地面を削りながら後退し、最後には雷光の直撃を受けた。
十代の『全力』は、亮の『全力』に、あと一歩だけ足りなかった。
十代LP3800→0
Winner 丸藤 亮
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………………参った、カイザー。完敗だ……」
「いや、俺も危ないところはあった。最後はとくに、《リミッター解除》を引いていなければ負けていたのは俺だ」
「……負けたのは悔しいけど、楽しいデュエルだったぜ!」
「……ああ、俺も楽しかった」
亮は体の向きを変え、翔のほうを見る。
亮と目が合った翔は、慌てて目を逸らす。
「……翔」
亮が呼びかけても、目を逸らして黙りこくったままだ。
「…………いい友達を持ったな」
「…………………………………」
翔は俯き、頑なに答えようとしない。
「…………制裁デュエルでの、お前達の勝利を信じている」
そう言い残し、亮は去った。
少しの間、波の音だけが空間を支配していた。
そこに、十代の声が割り込む。
「……翔。頼むから、いなくならないでくれ……」
俯いた翔の肩に手を置き、十代はさらに続けた。
「俺も、さすがに退学はしたくないしさ……俺一人の力じゃ、制裁デュエルには勝てないと思うんだ。……お前の力が必要なんだ、翔」
頼む。
十代の言葉に、翔は顔を上げた。
「必要……僕が……?」
「ああ、お前の力が必要だ」
「でも……」
「頼む」
3度目のその言葉に、翔の目から涙が溢れる。
「……翔。俺とお前で、制裁デュエルの相手をボッコボコにしてやろうぜ!」
「…………ありがとう、アニキ……」
泣きじゃくる翔の頭を撫でて、十代はその場に残っている4人に言った。
「さ、帰ろうぜ。明日からまた授業だ」
「……珍しいじゃないか、君が授業のことを気にするなんて」
三沢の言葉に皆が笑顔を取り戻してから、ふと明日香が呟く。
「……あれ、東雲くんと、遊海は?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
亮は一人で、ブルー寮への帰路を歩いていた。
その途中……森の中で少し開けた場所に立ち止まる。
ため息と同時に、声を漏らした。
「……………ここまで来れば、彼らに見つかりはしないだろう。いい加減出てきたらどうだ?」
その声に答えてか、人影が2人、木陰から出てきた。
人影はお互いに目を見合わせる。
「ここで何してるのかな、遊奈?」
「その質問は愚問というか、目的は同じだろう? 笹嶋さん」
「……一応訊いておこう。二人とも俺にデュエルを申し込もうと思って来たのか?」
「「勿論」です」
異口同音の答えに、亮は2つめのため息を漏らす。
「悪いが、今日は断らせてくれないか……その代わりに、一ヶ月以内に俺からデュエルを申し込む。約束しよう」
「……だってさ、遊奈」
「なんで俺に振るの?」
「私は異論ないもん」
「いや…………そうだね、さすがに迷惑か……失礼しました、丸藤先輩。いずれまた、よろしく」
遊奈は一礼し、遊海は手を振って帰路についた。
今度こそ1人となった亮は、ついさっきまでそこにいた2人のことを思い返す。
(……東雲、遊奈。笹嶋、遊海)
右手で軽くデッキに触れ、彼は静かに微笑んだ。
(さらなる高みへ到達するためには、あの2人ともデュエルする必要があるな……お前も、そう思うか?)
亮の右手のひらに乗った細長い機械龍は、「キュイ」と一声、鳴いた。
お久しぶりです、埜中です。前回の投稿からだいたい1週間、まあまあいいペースだと思います。
もし私がGX世界にいたとしたら絶対サイバー流の人間なんですよねぇ……相手の全力を、自分の全力で叩き潰す! これぞ遊戯王じゃないですか! ロックなんて外道だ!(でも汎用除去はたぶん使います)
本編では十代VSカイザー亮、HEROVSサイバーですね。やっぱ超超火力の一撃が最強ですよ! マジックシリンダー?知らない名前だな……
サイバーはエクシーズしなくても充分強いと思います。私のサイバーはあまりエクシーズせずに、パワボリミカサイエンの一撃ゲームエンドを狙う構築ですし。下ごしらえに5ターンくらいかかりますが……
そして、この頃遊奈くんが全くジャンド回さないっていう不具合が。でも、次2,3話くらいは制裁デュエルその他で使っちゃうしなあ……せっかく精霊になったジャンクロンたちが不憫でなりません。彼らにも活躍の場をあげないと……
次回、これまで影が薄かった隼人くんにスポットを当ててみようかと思います。果たして彼のオーストラリアデッキが、遊奈と遊海の手によってどう変化するのか……乞うご期待!(なのか?)
では、最後になりましたが、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。
2015年6月某日 埜中 歌音
質問、アドバイス、デュエルミス等あれば是非是非コメントへお願いします。キャラやデッキのリクエストも受け付けております。